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会場:ベルサール神田
新氏は、ご存じのように2月20日のNHKの「クローズアップ現代」で、RMTの専門家としてゲスト出演し、深刻な現状を報告した。ブラックマーケット化するRMTを完全悪とするNHK側に対し、新氏はユーザーの権利保護、そして新しいビジネスチャンスの可能性という観点から部分的容認論を展開したため、放送終了後、ネット上では多くの否定的な意見が見られた。 その新氏が改めてRMTを真っ向から取り上げるとあって、会場には多くの参加者が詰めかけた。結論を先に書いておくと、肯定でも否定でもなく、「あいまいなままにしたほうがいいのではないか」というやや腰砕けの内容だったが、その反面、法を整備するためには、あまりにも多くの分野が未整備のまま残されているという課題も浮き彫りとなった。
■ 「仮想資産」をどう定義づけるか、RMT先進国の北米と韓国の事例を紹介
その上で新氏は、「ゲームの付加価値の鍵はセーブデータにある」としたAOGC2005のスクウェア・エニックス和田洋一社長の発言を引き合いに出しながら、色々調べてみた結果、「RMT問題は結局インターネット上の権利の問題に行き着いた」と報告。「ロムカセットのセーブデータはユーザーのモノなのに、サーバー上のキャラクタデータが誰のモノなのか世界的に未決着である」と、RMT問題の行き着く先に、デジタルデータの所有権の問題があることを強調した。 新氏は、その結論に行き着くまでの思考プロセスを、マインドマップ作成ツール「FreeMind」を縦横に広げて解説した。新氏は、2000年前後のEコマースの発展により、RMTが一躍カジュアルな存在になったという比較的新しい話題から話を切り出し、RMTの起こりから紹介していった。 サーバー上のデジタルデータに付加価値を見いだしたユーザーが、Eコマースサイトにアイテムを出品したことで爆発的に普及したRMTは、RMT業者の登場、収益率を上げるためのBOTの開発、エリアブロックをすり抜け特定を難しくするためのIPの偽装といった具合に、急速にアングラ化していく。 新氏によれば、こういった状況の進行は、メーカーを初めとした業界側の対応より遙かにすすみが早く、またRMTの定義そのものも曖昧模糊としていることから、「現時点での法整備は意味がない」と断言。つまり、サーバー上にあるデジタルデータの知的所有権や著作権、財産権が明確に定義されていない以上、その上に乗っかるRMT問題を法で縛ろうとすること自体が無意味だというわけだ。 続いて新氏は、北米や韓国における、デジタルデータに対する法規制や課税の取り組みを紹介していったが、おもしろいことにいずれのケースの場合も知的所有権や著作権、財産権といった肝心の部分には踏み込んでおらず、有罪判決は存在するものの、結局デジタルデータの所有権は曖昧なまま残されているというのだ。 そこで新氏は、米国と韓国の識者によるバーチャルプロパティ(仮想資産)に対する法律論を取り上げた。仮想資産とは、日本ではまだまだ聞き慣れない言葉だが、ゲームを開発したメーカーが持つ著作権や、著述されたプログラムコードのような知的資産とは区別し、ユーザーが苦労の末に手に入れたアイテムや長期間掛けて蓄積したゲーム内通貨といったゲーム世界内での資産を特に「仮想資産」と定義づけているようだ。 しかし、多くのオンラインゲームの場合、規約上はメーカー側が文字通り全権を握っている。アカウントの停止やサービスを終了するのも思いのままであり、法的にもメーカーの著作物として全面的に保護の対象になる。ここに仮想資産議論の難しさがある。 ここではインディアナ大学法学部助教授のJoshua Fairfield氏と、韓国スウォン地方裁判所判事のUngGi Yoon氏のふたりの見解が紹介された。UngGi Yoon氏は、著作権はメーカーだが、対象のアイテムの価値は、ユーザーに発見されたことで初めて認められ、その時点でユーザー側で新たな価値の形成が行なわれていると指摘している。つまり、メーカーの権利の中に、ユーザーの権利が内在しているという考え方だ。
■ 「Second Life」の光と闇、ユーザー不在のRMT論の危険性
こう書くといかにも「Second Life」が仮想資産の法的処理のモデルケースのようにも見えるが、実際にはユーザーにオブジェクトの生成という強大な権限を与えたことで、運営側が制御不能な新たな問題も生み出している。具体的にはRMTの生産工場であるゴールドファーマーが正規のビジネスとして正当化され、アダルトコンテンツの生成、所得に対する課税の問題、ギャンブル行為、果ては「ゲームデザインそのものが壮大なネズミ講ではないか」という見解まである。すなわち、「Second Life」はRMTを容認した結果、RMTに付随する形で、より多くの課題が生み出されているわけだ。 続いて新氏はタイムリーな話題として、2月8日にSony Online Entertainmentが発表した「EverQuest II」のRMT公認システム「Station Exchange」の調査レポート「Virtual Trade Statistics」を取り上げた。新氏は、「Station Exchange」を導入した結果、クレームが40%から30%に減少し、RMTサーバーと通常サーバーでプレイスタイルに相違がなかった、つまりゲーム内経済の崩壊は起きなかったと説明。「これは予想された結果とまったく違っており、RMTを適切な形で取り込むことは企業にとってビジネスチャンスではないか」と期待を寄せた。 新氏はまとめとして、さまざまな要素が曖昧なまま、RMT方面のイノベーションばかりが続く現状をふまえ、同人誌市場のケースを例に、冒頭で紹介した結論「あいまいなままにしたほうがいいのではないか」という結論を導き出した。また今後について、ハードを通じてユーザーを特定できるコンシューマ機では、メーカー主導のRMTサービスの可能性について期待を寄せた。 新氏のこの結論については、現状に立脚した上でもっとも妥当な意見という点では大きく評価したいが、「Station Exchange」に関しては、残念ながら十分な精査をせずに、飛びついてしまった観が強く、ほとんど同意できない。「Station Exchange」のレポート結果は、「だからRMTをビジネス化して良い」という話ではまったくないし、むしろアングラRMT市場に対して一定の抑止効果があったことを評価するにとどめるべきだったのではないかと思う。 ひるがえって日本のゲーム市場で重要なのは、現実世界の“暴力的な力学”がゲーム世界に作用することの是非という視点である。その無粋さ、生臭さを、日本のオンラインゲームファンは何よりも毛嫌いしているという現状こそ正視すべきであり、新氏を含む、国内外のRMT論者はこの視点が欠けていることは非常に残念だ。
日本の優秀なゲームコンテンツによって育まれたゲームファンの「ゲームを純粋に娯楽として楽しみたい」という願い。それはゲームがオンライン化したからといって変わらないはずである。その願いに、オンラインゲーム業界はどう答えていくのか。今後のRMT論議の進展を注意深く見守っていきたいところだ。 (2006年2月23日) [Reported by 中村聖司]
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