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Gamefest Japan 2007レポート

カプコン秋山氏ら、「ロストプラネット」のGFW承認の内幕を公開
「Games for Windows≒Windows Vista」対応が示す意味とは何か

9月6日、7日開催

会場:グランドプリンスホテル赤坂



 マイクロソフトのプライベートカンファレンス「Gamefest Japan 2007」、2日目の9月7日は、XNA Game Studio、LIVE(オンラインサービス)、オーディオ、QA & サーティフィケーション、ツール & ミドルウェアの5つのカテゴリで、計20セッションが開催された。本稿では、ゲームファンにとっては比較的縁遠い存在であるQA & サーティフィケーションのセッションから「Games for Windows承認までの道程(ロストプラネット)」を取り上げたい。本セッションでは、マイクロソフトがPCをベースに推進するゲームプラットフォーム「Games for Windows」に対応することの本質的な意味が明らかにされ、後進のメーカーにとって多くの有益な情報が公開された。


■ 「ロストプラネット」PC版の開発ロードマップとGames for Windows対応経緯

「ロストプラネット エクストリームコンディション」。カプコンオリジナルの開発基盤MTフレームワークのマイルストーンとしてXbox 360版は国内外で大きな反響を集めたが、PC版ではDirectX 10およびシェーダーモデル4.0に対応して、さらに進化を遂げた
講演を行なうカプコン第1制作部ソフトウェア制作室プログラマーの秋山幸平氏。Xbox 360版とPC版の両方の制作に携わっている
ショーケース対応について説明を行なうカプコン第二制作部ソフトウェア制作室室長伊集院勝氏。「ロストプラネット」の開発基盤であるMTフレームワークのプロダクトマネジメントを担当
 「Gamefest Japan 2007」は、マイクロソフト主催のプライベートカンファレンスであるため、講師のほとんどは日米のマイクロソフトのスタッフが務めているが、「Games for Windows承認までの道程(ロストプラネット)」は、開発を担当したカプコンのスタッフが講師を務めた。講師のひとり、秋山幸平氏は'90年にカプコンに入社した熟練のプログラマで、近作は「ロストプラネット エクストリームコンディション(以下、ロストプラネット)」のXbox 360版とPC版の開発を担当。もうひとり伊集院勝氏は'93年入社で、カプコン独自の開発プラットフォーム「MTフレームワーク」のプロダクトマネジメントを務めている。

 セッションの内容は、2007年7月にカプコンより発売されたPC版「ロストプラネット」のGames for Windows承認の内幕を披露するというもの。先述したようにGames for Windowsは、マイクロソフトが推進するPCゲームのゲームプラットフォーム化戦略であり、Xbox 360やプレイステーション 3といったゲーム専用機と同様のサーティフィケーション(メーカーによるクオリティチェック)のプロセスを設けており、それを発売前にクリアしなければ、Games for Windowsのロゴを付けて販売することができない。

 ところが、単一のメーカーがPCゲームを一個のゲームプラットフォームとして展開するという試みは、20年以上ものPCゲームの歴史においてまったく前例がないため、どのゲームメーカーもノウハウがない。そこで今回、いち早く参入を果たしたカプコンが自社の経験を披露することもあって、会場には多くのゲームメーカー関係者が詰めかけた。ディテクター、プロデューサー、あるいは経営者クラスのスタッフの姿も見受けられ、Games for Windowsに対する興味の高さを伺わせた。

 秋山氏は、まずPC版プロジェクトのキックオフから完成までのロードマップを紹介。PC版のキックオフは、Xbox 360版完成直後の2006年11月。Games for Windowsが実稼働を始めたばかりであり、サードパーティー用にドキュメントの和訳が同時並行して進められている状況だったという。

 開発が本格スタートしたのは、開発チームが休暇を終えた2007年1月頃。まずはPCへの移植に際して必要な作業を洗い出したところ、もともと「ロストプラネット」は、開発基盤であるMTフレームワーク自体がマルチプラットフォーム対応しているため、大がかりな仕様変更は必要なかったという。「ロストプラネット」がPCへの移植に際し、必要となった項目は以下の通りとなる。

・オンラインサービスをXbox LIVEからSteamへ変更
・キーボード、マウスへの対応
・可変フレームレートの採用(Xbox 360版は30fps固定)
・インストーラの作成

 上記の作業よりむしろ、Games for Windows対応のノウハウを修得するための調査に時間が掛かったということで、マイクロソフトにプレ提出をしたのが2007年の4月。サーティフィケーションのプロセスを経て、5月にマスター版を提出、5月末にGames for Windows承認という流れになる。

 また、PC版において、カプコン側の大きなチャレンジとして発表と同時に大きな話題となったのがDirectX 10対応である。マイクロソフトが提供するゲーム向けAPIの最新バージョンであるDirectX 10は、Windows Vistaのみに提供されており、DirectX 10対応はWindows Vista対応を意味することになる。DirectX 10は、まだ実装事例が限られているため、開発工程を短縮化させるもっとも有効なソリューションはGames for Windowsの承認を受けるということになる。三段論法的な結論として、Games for Windowsに対応した理由は、DirectX 10採用のためというのが実態のようだ。

 ちなみにGames for Windowsでは、Windows Vistaへの対応やCEROレーティングの取得といった必須項目に加えて、ショウケースとしていくつかの機能の実装を“推奨”している。具体的には、DirectX 10対応、マルチコア対応、64bit対応の3項目で、「ロストプラネット」PC版では、DirectX 10とマルチコアに対応している。

 64bitネイティブ対応については、コストに見合うだけの性能の向上が見込めないことと、32bitモードとのデータ互換性の問題、そして64bit版Windows Vistaの最大のメリットであるTB(テラバイト)クラスの膨大な量のメモリ領域を、そもそも「ロストプラネット」が必要としていないことなどから採用を見送ったという。

 DirectX 10対応の内容については、レビュー等でたびたび触れてきているのでここでは割愛するが、伊集院氏は、「ロストプラネット」PC版の発売当初、DirectX 10対応ビデオカードのドライバが熟成されていなかったため、DirectX 9よりDirectX 10のほうがパフォーマンスが低下していたが、最新ドライバでは20%程度のパフォーマンスの向上を実現したことを報告し、パフォーマンス向上のために「DirectX 10に対応するメリットはあるのではないか」と結論づけた。

 マルチコア対応については、もともとXbox 360がマルチコアマシンであり、また開発基盤であるMTフレームワークそのものもマルチコアに対応しているため、PC版のマルチコア対応にあたって特別な処理は必要なかったという。伊集院氏は、開発者へのアドバイスとして、移植に際し、後付でマルチスレッドを想定して開発しても、運用上の不具合が避けられないため、あらかじめマルチコアを想定した設計にすることが望ましいとコメント。また、使用するコア数についても、5コア以降は2チップになり、パフォーマンスの向上も緩やかになるため、「4コアあたりがもっとも性能とコストの効率が良いと思う」と述べた。

【ショウケースの対応】
「ロストプラネット」では、DirectX 10とマルチコアに対応し、64bit対応は見送っている。現状のところ64bit対応は非常に恩恵を受けづらい機能であり、この3つの項目をすべてカバーしたPCゲームがサードパーティーからリリースされる可能性はかなり低そうだ

【DirectX 10対応】
DirectX 10対応では、ジオメトリシェーダーを活用してモーションブラー、被写界深度表現、ファーシェーダーの3つの試みを取り入れている。その差は一目瞭然で、DirectX 10対応PCのユーザーはぜひ試したいところだ


■ やはりWindows Vista対応に落とし穴が。カプコンは新たな試練にどう対応したのか

Games for Windows承認までの流れ。開発期間も含めて約半年。秋山氏はマイクロソフトに「かなり無理を聞いていただいた」とのことだが、かなりコンパクトなプロジェクトとなっている
Windows Vistaでは、ショートカットをデスクトップに作成するのはNG。WindowsXPでは何の問題もないことが、Windows Vistaでは“バグ”認定されてしまう
秋山氏は、ゲームエクスプローラのスコア機能に物言いを付けた。実際は快適に動作するにもかかわらず、動作しないと判定されるのはメーカーにとっては大きな問題だ
 さて、気になるGames for Windowsの承認プロセスについては、ふたたび秋山氏が解説を行なった。サーティフィケーションの一環であるベリフィケーションのプロセスの紹介では、ひとつひとつ具体的な問題報告と解決策を披露され、明日は我が身とばかりに会場の各所でメモを取る姿が見られたのが印象的だった。

 一部を紹介すると、「インストール中に、デスクトップにショートカットアイコンを作成してしまう(Windows Vistaではショートカットをデスクトップにおいてはならない。ゲームエクスプローラに一元化)」、「Windows XP上でゲームを起動できない(デバイスドライバの不備への対応不足)」、「ファイルがサインされていない(実行ファイルはデジタル署名が必須)」、「ファイルに適切なサマリーが含まれていない(製品名、社名等の埋め込み情報の未記入)」、「インストールプロセス中、権限の移行が二度発生してしまう(ユーザーアカウントコントロールに対する配慮不足)」などが紹介された。これらの多くは、Windows Vistaで新たに盛り込まれたセキュリティ機能に抵触したことに起因したトラブルであり、Windows Vistaに対応することのハードルの高さを伺わせる。

 ちなみに、同作のオンラインサービスは、Games for Windows -LIVEではなく、Steamが採用されている。Steam絡みの問題の報告については契約絡みで公開されなかったが、秋山氏によれば、実際にはSteam絡みで多数の指摘を受けたという。Games for Windowsは、オンライン機能としてGames for Windows - LIVEの対応を必須とはしていないが、自社、あるいはサードパーティー製のサービスを利用する場合は、多少の指摘は覚悟しなければならないようだ。

 なお、カプコンが「ロストプラネット」PC版にあたって、あえてSteamを採用した理由については、カプコンの販売スケジュールによる判断の一環ということで、Games for Windows - LIVEが機能的に見合わなかったというわけでなく、単純にGames for Windows - LIVEのライブラリの提供が間に合わなかったということのようだ。

 秋山氏は最後に「小ネタ集」と称して、Games for Windowsが提供するサービスについていくつかのノウハウを披露した。まず、ゲームエクスプローラの基本スコアについては、最低点が基本スコアとして提示される実状を報告し、「ゲームのボトルネックを見て決めるべきでは」と意見を述べ、PCのゲームのパフォーマンスの指標としてはあまり参考にならないことを報告。

 また、パッチについては、別途ベリフィケーションは必要にならないという実態も報告された。これは、メーカーにとってはプロセスが省けてありがたい反面、パッケージ発売前の承認が形骸化する危険性を孕んでいる。CEROのレーティング等でも同様の問題点が指摘されており、オンラインアップデートによるコンテンツの追加が常態化している昨今、ゲームコンテンツの適切な提供という点で今後業界全体で解決していくべき課題といえそうだ。

【ベリフィケーションで実際にあった報告】
デジタル署名やサマリーの不備、権限確認のプロセスはWindows Vista固有の事象。メーカーにとっては手間が増えることになるが、こうした決まり事によりGames for Windowsのクオリティが保たれるというわけだ

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(C)CAPCOM CO., LTD. 2006, 2007 ALL RIGHTS RESERVED.

□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□「Gamefest Japan 2007」のホームページ
http://www.microsoft.com/japan/msdn/xna/gamefest2007j.aspx
□「ロストプラネット エクストリームコンディション」PC版のホームページ
http://www.capcom.co.jp/pc/lostplanet/
□関連情報
【9月6日】マイクロソフト、「Gamefest Japan 2007」を開催
XNA Studio 2.0を正式発表。GFW - LIVEの開発ロードマップも公開
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070906/gamefest.htm
【7月18日】PCゲームレビュー「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070718/lp.htm
【8月10日】 カプコン、WIN「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」
DX10に特化したパッチを8月17日に公開
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070810/lp.htm

(2007年9月7日)

[Reported by 中村聖司]



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