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ソニー・コンピュータエンタテインメント
平井一夫社長兼グループCEOインタビュー
価格付けは重要だが、楽しんで貰えるプラットフォームにすることが先決



2006年12月1日付の人事発表でSCEの社長に就任した平井一夫氏。この6月には久夛良木健氏の名誉会長就任に伴い代表取締役社長兼グループCEOに就任した
 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント (SCE) のプレイステーション 3が発売され9カ月強が経つ。当初は全世界同時発売を予定していたが、結果的に欧州では3月に発売となり、発売されてからまだ半年も経過していない。まだ走り始めたばかりと言える。しかし、プレイステーション、プレイステーション 2で爆発的なヒットを飛ばしてきたSCEに対して、プレイステーション 3について懐疑的な目を向けるユーザーは多い。

 その圧倒的な能力はもちろんのこと、何よりアップデートによってどんどんと進化していくプレイステーション 3。ユーザーの思った以上の機能を実現していくことが、この半年間のバージョンアップによって次々と実証されている。

 しかし逆に、なんでもできる万能選手であるが故に、「プレイステーション 3とはなんなのか?」という揺らぎが生じているともいえる。6万円という価格付けが常に論争の的となるのは、ゲームユーザーにとって「6万円でどれだけゲームを楽しめるのか?」という点についてユーザーがまだまだ答えを出し切れていないと言うことだろう。

 この問いに対して、ソニー・コンピュータエンタテインメントの代表取締役社長兼グループCEO、平井一夫氏にお話を伺った。収録が8月なかばであったため、8月22日に欧州で発表された案件について伺うことができなかったのが残念だが、ゲームユーザーにとって「プレイステーション 3は遊べるハードなのか?」を中心に伺ってみた。


■「プレイステーション 3は“ゲーム機”」。それ以外にないんですよ!

とにかく多忙な平井氏に忙しい合間を縫ってお話を伺った。非常に濃密な1時間だった
―― まずはゲームユーザーに向けて、プレイステーション 3を中心とした“大きなくくりの話”をさせていただきたいと思います。個人的な話なのですが、初代プレイステーションが登場したとき「リッジレーサー」に衝撃を受けました。プレイステーション 2のときは「DVD」という新フォーマットのブレイクが目に付きました。その点、プレイステーション 3は、ブレイクに至っていないというか、「リッジレーサー」のようなゲームタイトルやDVDに相当する“指標になるもの”が見えにくい部分があるように思えます。平井社長は、その点をどう捉えられているのでしょうか?

平井一夫氏 (以下、平井氏) よく聞かれる質問なのですが、ここでハッキリ申し上げたいのは「PS3は“ゲーム機”です」と。それ以外にないんですよね。「それをいってしまうと寂しいじゃない」という話になると思いますが、PSやPS2、そしてPSPもそうであったように“ひとつの軸”というものが必要だと思うんです。その軸っていうのは、PS、PS2、PSP、PS3、いずれもまったく変わらず“ゲーム機”なんです。

 そのうえで色々な付加機能がついていて、それを楽しんでいただきたいのですが、「これは何なのですか」と聞かれたら、ハイ・デフィニション (HD) かつネットワーク環境で楽しめるゲーム機という軸があって、その周りに他の機能の様々な楽しみ方がついてくると私は思っています。

―― 「東京ゲームショウ2006」での久夛良木氏 (前グループCEO) の基調講演で、開発中のゲーム映像とともに次世代のコンピュータエンタテインメントの世界が紹介され、また最後には値下げの発表もあったのですが、「従来のゲーム機に比べると高い」と判断した人が多く、ゆえに「PS3はゲーム機ではないのではないか」といったイメージもあったかと思います。

 今回、平井さんがゲーム機だと仰ったのは当然だと思います。先日の「PLAYSTATION PREMIERE 2007」で平井さんが挨拶されたとき、ゲームメーカーさんを前に「ゲームコンテンツが命だから」と仰った。原点に帰ることを、凄く頼もしく感じました。そこで「今、原点に帰る」という意味合いは、どういうところにあるんでしょうか?

平井氏 まさしくお話させていただいたとおりです。たとえば、「東京ゲームショウ2006」の基調講演で久夛良木が次世代のコンピュータエンタテインメントが可能にする世界について興味深い話をしたと思うのですが、それには大前提があります。それは、まず「ゲーム機としてエスタブリッシュ (確立)」されてから、他の機能を楽しんでいただくということ。たぶん、久夛良木もそういう意味合いを含めてお話をさせていただいたと思います。

 “原点に戻る”というのは、ソニー・コンピュータエンタテインメントという会社、プレイステーションというプラットフォームが“何がドライブしているんだろう?”っていうことを考えますと、それはやっぱりコンピュータ・エンタテインメント、インタラクティブ、もっと簡単に言いますとゲームというように、それらを楽しんでいただくためのプラットフォームを提供して、ユーザーのみなさんがその上で走っているゲームを楽しんでいただいて「こんな面白いことができるんだ!」、「こんな楽しいエンタテインメントがあるんだ!」と“感動”していただくことが、本当の原点なんです。

 当社の社内においては、まずそれが原点だということを全員で確認したうえで、ソフトの開発をファーストパーティやサードパーティの皆様と行なっていき、どんどんユーザーのみなさんに提供させていただくことが大切と考えています。そしてゲーム機として楽しんでいただいて、そのうえで、ブルーレイの映像コンテンツや、インターネットへのアクセス、写真を楽しむといった様々な機能がはじめて生きてくると考えてます。

 原点に戻るというのは、社内も含めて「私たちは何をする会社なんですか?」それはとりもなおさず、社名にも書いてありますが「コンピュータ・エンタテインメントを全世界の皆様にご提供させていただくプラットフォームとソフトを作っていく会社なんですよ」ということだと思うんです。

―― ここで原点に返るという話が出たということは、そのアピールが足りなかったということですか?

平井氏 実際問題 (その頃) 私はアメリカにいたので (笑)。結果としてアピールが足りなかったのかどうかわからないのですが、やはり「PS3って何なんですか?」というご質問を良く受けます。結果論として、メッセージが伝わりきっていない……もしくは伝えようとしたが、それがちゃんと伝わっていない可能性があります。それはどこかでメッセージがリンクしていないなと思ったので、私たちはもう一回、原点は何かということを確認しましょうと考えました。つまりそこから「リスタートしましょう」という気持ちです。このことは社内やサードパーティの皆様にもお話をさせていただきました。

―― ゲームユーザーにとって重要なのは「どれだけ遊べるか」というところです。「リッジレーサー」が出たときの驚きや、「闘神伝」や「麻雀ステーション MAJIN -麻神-」など、初代PSが出たときは“ゲームが変わる予感”があったと思うんです。PS3においては、なにが該当するとお考えですか?

平井氏 それはユーザーの皆様それぞれ嗜好が違うと思うのですが、大事になってくるのは“ライブラリの数”だと考えてます。まさしく今「遊べないといけない」と仰りましたが、“遊べるというのは何か”っていうと、面白いタイトルが数多く出てきている、というのが大事なのです。そのなかから皆さんが「これ面白い」、「いや、私はこっちのほうが楽しい」といった状況がポジティブ・スパイラルになってくれれば、素晴らしいゲームの世界を築き上げることができると思います。

―― 平井さんが個人的に注目されているタイトルはありますか?

平井氏 本当に個人的ですけど、私は昔から車が凄く好きなので、ドライビング系は常に期待しています。あくまでも個人的な趣味に基づいてですけれど (笑)。

―― 同じような驚きのひとつとして、先日発表された「リトルビッグプラネット」や「エコクローム」は凄く面白いと思います。こういったタイトルが“引き金”になって欲しいというところはありますか?

平井氏 常に新しいエンタテインメントを体験していただきたい、というのはあります。そういった意味では「エコクローム」や「リトルビッグプラネット」は、今までにちょっと無かった、新しい楽しみ方ということで凄く話題にもなっていますし、期待されているタイトルです。もちろんこの時代ですから映像が凄くキレイというのは大事です。そう考えると「エコクローム」はグラフィック的にそこまで凄いものではないかもしれません。しかしあれだけシンプルな世界でも共感していただけたということは、「見え方も大事だけど“ゲームとしてどこまで面白いか”というゲームの原点が如何に大切かということです。「E3」の会場でご紹介させていただいたときのリアクションで、あらためて原点を確認したと感じました。

―― ある意味、嬉しい反応でもある?

平井氏 嬉しい反応ですし、この時代になっても大事なのは、やはり“第一義としてエンタテインメント性があるかどうか”それをもう一回確認したということです。

―― そういったソフトが生み出されやすい環境を作るという“メーカー側へのアピール”もしなければならないと思いますが?

平井氏 初代「プレイステーション」のプラットフォームは、10年間ビジネスをさせていただきました。「プレイステーション 3」もそういった長いロードマップのなかで、サードパーティの皆様と情報を共有していきたいと考えています。たとえば、今アメリカで台数がどうなっているのか、日本はどうなのか、今後はどういったサービスをネットワーク上で展開していくのか、など様々な情報を共有させていただくことで、「SCEがいつ頃に何をするならば、こういうソフトを出すことで相乗効果が上がる」という“対話”になると考えています。そういったものを、今までにも増してやっていきたいし、情報共有と対話を密にするというのは、凄く大事だと考えています。

―― サードパーティの強力なタイトルが欲しいところだと思うんですが、一方で“Xbox 360でも出す”というマルチプラットフォームの流れがあります。こういった全体の潮流があるなかで、プラットフォームホルダーとしては、どうすればいいと思われますか?

平井氏 まずひとつ、ファーストパーティのタイトルは、とりもなおさずエクスクルーシブ (排他的の意。この場合はプラットフォーム固有) です。PS2、PSPの両方で同一タイトルを作ることはありますけど、それはプレイステーションファミリーという意味のエクスクルーシブであって、これについては引き続き強化してまいります。

 サードパーティ様に関しては、現行世代プラットフォームの開発費を考えますと、マルチプラットフォーム展開を戦略の一部としてお考えになるというのは、一般論として自然の流れだと思います。そこでどうするかというと、マルチプラットフォーム展開している同じタイトルのなかでPS3らしさ、PS3ならではの機能の採用をご健闘いただければと考えています。たとえば、SIXAXISワイヤレスコントローラーの6軸検出機能をフルに活用したゲームプレイができるとか、ブルーレイディスクは片面一層で25GB入りますから、ゲームのレベルをPS3バージョン用に足していただくとか、HDコンテンツでクリエイターのインタビューやメイキングを入れる、映画と連動するタイトルなら映画のトレイラーをフルHDで同じディスクに入れるとか、PS3ならではのプラスアルファができると思います。

 こうしたことをサードパーティの皆様と色々お話をさせていただいて、「PS3らしさ」を引き出すことにご協力いただくというのが大事だと思います。


■ 価格付けは重要。だが、楽しんで貰えるプラットフォームにすることが先決

平井氏は熱い人で、身を乗り出し身振り手振りで説明するときもあった
―― 先日「みんなのGOLF 5」が発売されましたが、調子はいかがでしょうか? 私もプレイさせていただいていて、日曜日の夜中にネットワークに接続しても、たくさんの人がいる。凄く盛況だと感じたのですが。

平井氏 調子は凄くいいです (笑)。

―― 先ほども少し話が出ましたが、本体価格が約6万円。「みんGOL5で始めよう~ PS3ビギナーズパック」が実質5万円台になるかと思いますが……プレーヤーとして考えるなら「6万円出して、6万円ぶん遊べるのか?」という点が重要かと思います。プレイステーション 3は、今は爆発と呼ぶには至っていない印象があるんですが、それはプレーヤーにとっての満足のレベルに達していないからだと思われます。では、価格を下げればいいかというと、そう簡単なものではない。たくさん買ってもらわないと価格は下げられないし、色々問題があるかと思います。どちらが先にあるべきと考えますか?

平井氏 価格というのは凄く大事です。どんな商品であっても、楽しい商品であればお求めやすい価格のほうがいいのは当然です。ただしそれと同じかもっと大事なのは、「どれだけゲームを楽しんでいただけるか」なのです。「E3」や「PLAYSTATION PREMIERE 2007」でもお話させていただきましたが、“今後のラインナップ”をいかにアピールできて「このプラットフォームは楽しいよね」とユーザーの皆様に思っていただけるかが、まず大事です。

 もちろんやらないですけど、と前置きしておきますが (笑)、仮にPS3を9,800円にしました。でもゲームは出てきません。出てきたゲームは面白くないものばかりです。という状況でしたら9,800円でも何の意味もないものになります。価格は凄く大事なのですが、そのうえで楽しめるソフトがいかに出てくれるかがもっと大事だと思っていますので、どちらが先かといわれれば、まずはライブラリの充実。楽しんでもらえるソフトが一杯あることがまず大事で、それで次に非常に大事な価格がついてくると思っております。

―― まずはラインナップ、ゲームが遊べますよということをアピールして、本体価格はその次についてくるものだと。

平井氏 ご存じのとおり、それはPS3に限らず“永遠のテーマ”というか、ベーシックなルールと考えています。これはゲームソフトを売るビジネスですから。それがまずあって、すべてのほかの物がついてくると思っています。

―― みんなが不安なのは、PS、PS2のときは、それが早期にドカン! とブレイクして価格も下がり、そういった状況がうまくまわった状況がありました。PS3は、まだ発売から1年経ってませんが……

平井氏 ヨーロッパに至っては、まだ半年も経ってません! (笑)

―― 「そんなことはないよ」と言われればそのとおりなのですが、ユーザーはそこが不安なんだと思います。

平井氏 まさしく、そうしたご指摘がありましたので、「E3」、「PLAYSTATION PREMIERE 2007」と色々なイベントで立て続けに (ソフトのラインナップを中心に) 発表させていただきました。本当はユーザーの皆様ひとりひとりにアピールできればいいのですが、なかなかそうはできませんからそうしたイベントを通して、まずメディアの皆様に「これだけのゲームが出てきます!」とお話をさせていただいて、一番大事なユーザーの皆様に伝わっていくのが凄く重要と思っています。ドイツのゲームショウ「Games Convention」や「東京ゲームショウ2007」といった様々なイベントでも「これだけのゲームが出る」ということをアピールしていかなければならないと思いますし、ユーザーの皆様にちゃんと情報としてお伝えしなければいけないと思います。

―― 日本のユーザーとしては「日本のゲームが遊びたい」というところが結構あると思うのですが、PS3になって、海外ゲームが目立つ……先に出てきたというのがあります。日本のゲームを充実させていく、という点についてはいかがでしょう?

平井氏 大好評いただいております「みんなのGOLF 5」、これは日本のタイトルです。当社のソフト制作を担当する「ワールドワイドスタジオ」では日本、アメリカ、ヨーロッパと3つの主要な軸があり、その日本にはジャパンスタジオがありますので、そこを通してソフト開発は行なっております。PS3になったら急に海外のソフトしか出てこない、ということはありません。

―― PS3で最初に出たのが「レジスタンス」であるとか……これが悪いとかそういうことではなく、凄く出来がいいソフトなのですが、日本のユーザーは「日本のゲーム至上主義」的なところがあると思います。

平井氏 当社の戦略として海外のゲーム、いわゆる“洋ゲー”と呼ばれているジャンルに (開発リソースを) 全部わりふって、日本のスタジオからは商品が出てきません、ということはないです。そのいい例が「みんなのGOLF」シリーズですし、ジャパンスタジオがある限り、日本発の楽しいタイトルは今後とも出していくつもりです。これはなかなか面白いご指摘で、PS3はアメリカのタイトルがたまたまローンチで出てきましたが、逆だったとすると、米国のほうで「日本発のタイトルしかなくて、アメリカはやらないんですか」と聞かれただろうな、と思います (笑)。

 PS2のときは……最初はどうだったですかね? 「ファンタビジョン」等がありましたね。これも後になってみると面白いのですが、実はファーストパーティのタイトルはほとんどなかったんです。みんなサードパーティ様にお願いしました (笑)。

―― 初代PSのときも、やはりサードパーティの強力なタイトルが並んでいたようなイメージがありました。

平井氏 ナムコ様(現バンダイナムコゲームス)と一緒にやらせていただいた「リッジレーサー」が強かったと記憶しています。

―― 「リッジレーサー」は、毎回ローンチに間に合わせるよう頑張っていらっしゃいますから。

平井氏 そうですね。大変有難いことです。

―― アメリカで長く仕事をされていたことからおうかがいしたいのですが、いわゆる“洋ゲー”と“日本のゲーム”というのは、日本では厳然とわけられています。以前「パラッパラッパー」の松浦雅也さんにインタビューさせていただいたとき「ゲームはエンタテインメントなんだから、どこにいっても楽しめるものじゃないか」と仰ってて、それは凄く正しいと思うのですが、それでも“市場に適(あ)ったソフト”はあるように感じられます。そのあたりは、どのように考えていますか?

平井氏 これは映像コンテンツ、音楽もそうですが、国や地域ごとに文化的なバックグラウンドが違いますから、それはあると思うんです。ゲームのようにインタラクティブ性が高いものですと、まさしく文化的、嗜好の違いが出てくるというのは「ある」と思います。だからといって、ワールドワイドでアピールしないかといえば、まったくそんなことはなく、例えば「レジスタンス」は全世界で100万本を突破していますし、「モーターストーム」も100万本を突破しています。

 一方で、スポーツゲームに目を向けると、野球は日本人選手が活躍しているから違うかもしれませんが、アメリカン・フットボールあたりになってくると、アメリカは凄いですよね? 単純にスポーツとして好まれているから、ゲームの市場もあります。でも日本の場合は、アメリカほどの市場はないわけです。そのあたりはゲームが良い悪いではなく、文化的にフットボールは好きですか? というところになってきてしまいます。他にも「こういうジャンルがいい」とか、嗜好は違ってくると思います。

―― 一方で、サードパーティさんなどソフトメーカーさんにとっての不安要素として、たとえば米国は日本に比べて市場が巨大であることを考えると、ゲーム内容を米国市場にあわせざるを得なくなってしまう部分もあるのではないかと。日本のゲームの空洞化があるんじゃないか。そんな不安感もあるのではないでしょうか?

平井氏 当社のファーストパーティも含め、みなさん海外展開を考えると思うのですが、やはり日本発のソフトというのは、だいたい日本人が作っているものですから、日本人のセンスがベースにあって、海外でもアピールできているように思います。それが急に無くなってしまうことはないと思います。ポイントになってくるのは、PS3みたいなハイデフィニション環境になると、例えばキャラクタの表情や動きといった微妙なところまで表現力が凄く上がることです。

 外国人が「あぁ、これカッコイイよね」というのを日本人が見ると「ちょっとコレ違うよね」というケースが少なくないですし、その逆もあります。目や鼻の大小など……そういった嗜好まで微妙に表現できてしまうので、その違いを認識して「外国人はこういう表現はいいんだけど、日本人はちょっと違うから、味付けを直さなきゃいけないよね」という微妙なところのチューニングは、ゲームによって必要になってくると思います。ワンサイズ・フィッツ・オールということでは、だんだん無くなってきていると感じています。

好調だという「みんGOL5で始めよう~ PS3ビギナーズパック」。ネットワークにも対応し、非常にプレイステーション 3らしいタイトルと言える 車関連のタイトルと言えば、この「グランツーリスモ 5 プロローグ」だろう。期待度の高い作品として、その発売が待たれる ワールドワイドで100万本を突破した「RESISTANCE (レジスタンス) ~人類没落の日~」。細かいところまで作り込まれており、出来の良い1本



■ プレイステーション 3とPSPを連動させるアイディアは練っている最中

とにかく車が好きということで、撮影の合間に「グランツーリスモ」の魅力について熱く語っていただいた
―― 新型PSPですが、発表されて以来の反響はいかがでしょうか?

平井氏 まだ市場には出ておりませんが、メディアの方々を通して、ユーザーのみなさまからの色々なご意見を伺いましたが、かなり好評だと感じています。メディアの方々はご存知なんですが、見ただけではどこが変わっているかわからない (笑)。でも、持っていただいた瞬間「あ、これは変わったね!」といっていただけるので、凄く嬉しいです。

―― 反射的に「軽っ!」という声が出てしまいますね。

平井氏 薄いのもさることながら、やはり軽いほうが印象が強いようですね。発表会のステージで持っていても「古いPSPを持って何してるんだよ」と思われそうなんですが (笑)。でも実は非常に軽くなっています。あとは、ワンセグチューナーをつけられるようにさせていただきましたし。非常にいい感じで、今のところは手ごたえがあります。

―― 近年の市場動向として、日本では携帯機が凄く好調で、据置機と逆転状況にあります。そういった時代において、PS3をどうアピールしていきますか? 任天堂さんは「リビングにゲーム機を置くのは難しい時代だ」と仰っていました。それは一理あるかなと思います。忙しくてみんなゲームをやらなくなって、でも自分で持てる携帯機だと合間にチョコチョコ楽しめる。日本は特殊な市場なのかもしれませんが、そういう時代において、PS3を家庭に置かせる“動機付け”のポイントは、どういったところにあるとお考えですか?

平井氏 「またか!」と思われるかもしれませんが、「楽しんでもらえるのか?」に尽きると思います。ある意味、それしかないと言ってもいいと思っています。これはPS3で、ハイデフィニション環境で、場合によってはネットワークにつながっていて「こんな凄いことができるんだ!」と“感動”していただけるソフトをご提供できるかということに尽きると思います。それがあれば、皆様が「ちょっと今日は忙しいけど、30分でもいいからやろうか」といった状況に初めてなると考えています。

 もうひとつは、PS3とPSPは色々な意味で連動できるようになっています。例えば、無線LANを使って外出先からインターネット経由で自宅のPS3にアクセスし、その中の一部のコンテンツや写真を友だちに見せてあげるといったことができます。ワールドワイドスタジオのスタッフにもお願いしているのですが、PS3のゲーム体験の一部をPSPで取り出して、外で遊んでそれを戻すとか“連携してPSPのなかでもPS3が遊べる、それをPS3に戻せる”といった展開ができたら面白いと思っています。

―― 連携機能の具体例はこれまでなかなか出てきませんでしたが、今現在は開発に要望を出しているまっ最中という段階ですか?

平井氏 今現在というか、以前から言っていて、私がもっとクリエイティブな人間だったら、自分でアイデアを出すところですが (笑)。色々なアイデアが出てきていますが「これ面白いよね」っていうのがない限りは不採用となりますし。「機能でコレはできるけど、面白いのか?」という話になったら、なんにもならない。だから「コレでPS3とPSPの連携が活きてく!」というものができるまでは、何がなんでも出すような考え方はありません。色々とアイデアを出して試作して「これ!」というものが出てくればやりたいと考えています。

―― 最後にひとつ。抽象的な質問で恐縮ですが、平井社長にとって“ゲーム”とは何ですか?

平井氏 ある意味では“人生”なんです。'95年からSCEAで12~13年間仕事をしてきましたし、東京に戻ってきて、こんどはワールドワイドでビジネスを見ることになりました。もう、24時間、ゲームのことを考えています。ひとくちにゲームといってもコンテンツだけじゃなくて、ビジネスとしてどうするか? プラットフォームとしてどうするか? 米国の今後の成長は? 市場はどうなっていくのだろう? 日本はどうだろう? 欧州は? と色々なことを考え出すと、もう止まらなくなります。そういう意味では、もう“人生そのもの”って感じがしています。

 もう一段、違うレベルでいえば「これぞエンタテインメントの王道!」と思うのです。これは当たり前ですが、音楽、映画にはそれぞれの良さがあって、私も音楽を聴きますし映画も観ますが、一方通行ですよね。対してゲームはインタラクティブだから、自分が何かをしなければリアクションがないですよね。前述の娯楽3つのうち、インタラクティビティがあるのは、唯一ゲームだけです。

 あとは、ビジネスとして考えたとしますと、音楽は……それこそ昔のアナログ盤でも下は50Hzから上は20,000Hzくらい出ていたのでしょうが、パチパチとノイズの音がしていました。これが、CDになってからダイナミックレンジが少し広がりましたが、別に人間が急に40,000Hzまで聴こえるようになるわけじゃないので“音が良いよね”といっても限界があります。アナログ盤から今にいたるまで、そんなに変わっていないのです。映画も、最初はモノクロで音がなく、次は音が入り、カラーになり、デジタルになったのですが、基本的には平面を一方的に観てるというのは変わらないですよね。

 ところが、ゲーム業界は、ハードの世代が変わるごとに飛躍的に表現能力がアップします。5年ごと、10年ごと……。その飛躍的に表現能力がアップしたうえで、クリエイターの方々がその技術を使ってさらに面白いものが出せるという“唯一”のエンタテインメント業界。そういった意味でも、エンタテインメントの王道ですよね。この話をすると熱くなっちゃうのですが (笑)。

 これは別問題ですが、グラフィックなどのゲームの進化は凄いと思うのですが、その一方で、エンタテインメントの根幹とは何なのだろう。そこでの進化というのは、あまり起こっていないのではないかというふうにも感じます。その次に何があるのか。ネットワークでは“みんなで遊べるのが新しい”といわれた時期がありましたが、「次は何なの?」というところで、みんな少し悩んでいるのかなとも感じています。

―― 先日、ディズニー映画「レミーのおいしいレストラン」のプロデューサーがインタビューで同じ事を仰っていて「クリアしていくゲームばかりでしょう?」と。息子がゲームをやっているのを見て「いつまでそんなことをやっているんだ」と。

平井氏 クリアできないゲーム……永遠に家でやってる、みたいな? (笑)

―― ミッションを与えられて、それをクリアしていくというスタイルのゲームを指しているんだと思うのですが「クリエイティブなもっと新しいことがあるんじゃないの?」と仰ってました。映画業界の方なので「そのアイデアをボクは持ち合わせていないんだけど、そうは感じるね」と仰ってました。ある意味、ゲーム業界にそうした“悩み”のようなものがあるのかなというふうに感じているのですが。

平井氏 例えば、ドライビングゲームでいえば、映像のクオリティは高いですし、競争相手の車もそれぞれAIを持っていて、こっちがどれだけアグレッシブな運転をするかによってAIがどう攻めてくるかも変わってくるという意味では、PSの頃に比べれば飛躍的に違いますけど……とはいいつつ、画面を見て「結構リアルだよね」って、それだけで終わってる部分はまだあります。

 本当の意味では、例えば「俺、今からニューヨークのブロードウェイで車を運転したいんだよ」といったとき「あ、ホントに俺ニューヨークにいるんだ」と思えるだけのものがあるかというと、今はまだありませんね。リアリズムというか、リアルタイムに本当にそこにいる“時間と空間を飛び越えたような体験”というのは、まだ実現できてないと感じています。

 リアリズムだけを追求するのがいいのかと是非を問う点もあると思うのですが、今の一例としては、そういった方向性にいく余地はまだまだかなりあると思います。「世界中のどこでも、インターネット上のマップで示したところで運転したいんだけど?」といったとき、サッとリアルタイムにその街で運転できるといったことは、まだまだ先の話ですよね。先ほども言ったように、良いか悪いかは別としてドライビングでも実現すべき事はかなりあると思ってますし、別の方向でドライビングゲームは進むべきって部分もあると思うのです。

 そういったことをいつ実現できるのか、どの世代になるかはわからないのですが、「みんなでコレできたら楽しいよね」と思えることをどんどん実現できるのは、ゲーム業界というか“インタラクティブ・エンタテインメント業界”なんですよね。なぜかといえば、テクノロジーがどんどんそれを可能にしていくからで、他のエンタテインメント業界ではなかなかそれは難しいと思うのです。だからインタラクティブ・エンタテインメント業界は面白いと思いますし、まだまだ可能性はいっぱいあると思います。

―― 本日はありがとうございました。

□プレイステーションのホームページ
http://www.jp.playstation.com/
□関連情報
【7月17日】SCEJ、「PLAYSTATION PREMIERE 2007」開催
平井氏、新型PSPをポケットから取り出しアピール。各メーカーの新作PS3ソフトがズラリ
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070717/pp1.htm
【7月12日】SCEA E3プレスカンファレンスレポート
薄型PSPを初披露。PS3「GT5 Prologue」など新作も発表
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070712/e3sce.htm

(2007年9月3日)

[Reported by 船津稔 / Photo by 豊臣和孝]



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