【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

西川善司の3DゲームファンのためのE3ゲームグラフィックス講座



 昨年とは全く違う開催様式、1/10とも1/100ともいわれる開催規模の縮小、分散してしまった展示スペース、時間のかかる展示スペース間の移動……、常にパンク状態で満員の各ゲームスタジオのプレスカンファレンス。やや混沌の中でE3は閉幕した。

 このE3会期中に公開された3Dゲームグラフィックスの数々はどうかといえば、各プラットフォームとも洗練された感じで、全体的な底上げがなされた実感はある。これは、開発キット(SDK)やミドルウェアの進化が最大の要因だとは思うが、それともう1つ、各ゲームスタジオが、それぞれのプラットフォームに対する研究が進み、できることとできないことがある程度的確に把握されはじめたことも大きいと思われる。

 今回の3Dゲームファンのための講座では、E3会期中に触れた各タイトルにおいて、見るなり目を奪われた3Dゲームグラフィクス達を、その技術のカテゴリ別に分類し、筆者の独断と偏見に基づいて紹介していくことにしたい。


■ リアルタイムで人の顔の表現はここまで来た ~不気味の谷を越えられるか?

 3Dゲームでも主要なキャラクタは人間となることが多い。それだけに人間のキャラクタは注目されることが多いし、それをプレイする人間は人間の表現に対しては敏感で、違和感を的確に感じ取ってしまう。

 逃げ口としては、全く非人間的にしてしまい、ディテールを見る者の想像力で補完してもらう手法だ。目の大きいデフォルメしたいわゆる“アニメチックな顔”にしてしまう手法が典型的で、'90年代ではこれが主流だったと言っても過言ではなかったと思う。

 もう1つはアジア圏で人気の高い、超美形にしてしまうという手法。多少不自然でも現実にいなさそうな人間描写だからうける違和感が少ない。

 リアル指向の強い欧米では、なるべくゲームキャラクタもリアルにしていこうという動きが活発で、“実際にいそうな”人間のキャラクタを出したり、あるいはハリウッド俳優などの肖像をそのまま用いてゲームキャラクタに登場させたりする。そうなると、図らずも人間の目は、とたんにキャラクタ達をシビアに見るようになり、不自然さが多いと途端に“非リアル”を感じはじめ、「気持ち悪い」とまで思うようになる。この人間描写に対しての、人間が感じる「リアル」と「非リアル」の境目の基準は、非常に興味深い特性があり、この“境界”をとくに「不気味の谷」と呼ぶことがある。

 本来、「不気味の谷」の概念は人型ロボットに対しての研究と議論において出てきたものだが、ゲームにおけるキャラクタ表現にも重要なテーマであるとして業界では注目されるようになってきている。オリジナルの論文は「Subjective Ratings of Robot Video Clips for Human Likeness,Familiarity, and Eeriness: An Exploration of the Uncanny Valley」(PDF形式) にあるので興味がある人は参照してみるとよいだろう。

 Windows Vista世代のPC、PS3やXbox 360といった今世代のゲーム機(≒ゲームプラットフォーム)では、この「不気味の谷」を超えるだけのポテンシャルがあるのか無いのか、微妙な立ち位置にいる。だからこそ、各ゲームスタジオは新技術を持ってこの「不気味の谷」を超えようとしているわけだ。

 顔の質感表現面においてトップクラスだといえるのが、CRYTEK開発の「CRYSIS」(Electronic Artsより2007年内発売予定)だ。ゲーム中では早すぎてよくわからなかったが、イン・ゲーム・カットシーンでは、肌の輝きにかなりのリアリティがある。

 人間の肌は簡単に言えばかなりにごった半透明材質で入射光の数%しか反射せず、その他はみんな浸透して吸収されたり、あるいは肌の下に入り込んで複雑に散乱してまた出てきたりする「表面下散乱」をする。CRYSISのゲームエンジン「CRY ENGINE2.0」の資料によれば、「表面下散乱のシミュレーションを実装している」とあるので、擬似的な実装を行なっているものと推察される。

 おそらくは、ATIがRubbyデモで、NVIDIAがADRIANNEデモで実装した、ライティングを終えた表皮をテクスチャ座標系でブラー(ぼかす)テクニックを実装していると思われる。この処理を、複数パターンのブラー・バリエーションでブラーさせて合成すると、ハイライトがぼやけ、しっとりとした感じになり、表面下散乱した味わいに近くなる。スペキュラ(光沢)の出し方と、表皮の肌の“肌理”のディテール(法線マップ)のバランスなどもかなりうまい。

「CRYSIS」、開発ツール上の画面
実際のリアルタイム・イン・ゲーム・カットシーンでの画面

 “気持ち悪く見えないリアルな人間表現”のもう1つの要素として重要なのは、表情や感情表現のリアリティだ。この点については、VALVE SOFTWAREの「Half-Life2」シリーズが先行していた。E3では、最新作「Half-Life2: EPISODE TWO」(EAより2007年10月発売予定) が公開されたが、その表情表現はやや大げさだが、モーションキャプチャなしの算術合成された表情と言うことを考えれば、「うまい」と言う表現以外が見つからない。

 肌のシェーダは、VALVEの開発した簡易疑似ラジオシティライティングである「ハーフ・ランバート照明」(Half-Lambert Lighting) と、さらにフォン鏡面反射率やフレネル反射率の分布テクスチャをアーティストが調整して作り上げられている。

 ハーフ・ランバート照明とは、3Dグラフィックスでもっとも基本的な拡散反射モデルであるランバート照明計算にちょっとした細工をして陰影がなだらかに出るように工夫したフェイク技法。全然ラジオシティではないのだが、結果がそれっぽくなるという疑似技法だ。人間の顔面は、皮膚の厚さや肉付きの厚みの変化、汗腺密度などの要因によって、光が当たったときに光沢の出方が違う。これは実際の顔面を測定するとわかる情報で、こうしたパラメータ分布をテクスチャ情報として持っておいて、実際のライティング時に反映させてやるのだ。

 こうした工夫により、「Half-Life2: EPISODE TWO」では、CRYSISのようにマルチレイヤー・ブラーによる疑似表面下散乱はやっていないが、それでも、かなりリアルな顔のライティングになっているのがわかる。

ハーフ・ランバート照明の概念図 「Half-Life2: EPISODE TWO」より。表情は算術合成されたもの。表皮の質感も疑似技法の組み合わせのわりにはかなりリアルだ

 ゲームオブザイヤーを受賞した「Star Wars: Knights of the Old Republic」の開発元として知られるBIOWAREの新作RPG「Mass Effect」(米Microsoftより2007年11月発売予定) も、人肌と顔面表現にこだわった作品だ。こちらはCRYSISと同種の疑似表面下散乱テクニックを実装したものと思われ、非常にリアルに見えていた。また、人間だけでなく、宇宙人の肌の翡翠(ひすい)のような半透明な質感もおもしろい。

肌の質感だけでいえばCRYSISに引けをとらない「Mass Effect」の顔表現

 日本のゲームスタジオ作品も、顔面の表現は今世代では革新的に進化している。このあたり、最も優れていると感じたのはKONAMIの「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」だ。

 顔面の陰影処理自体はディテールの法線マップとスペキュラが調整されているのと、光源位置が逆光気味で3Dモデルのエッジをかすめるような位置関係の輪郭付近を光減色でブレンドする「光の掠め溢れ出し」表現をやっている程度のように見える。しかし、顔面の演技はかなりリアルだ。おそらくはモーションキャプチャベースだとは思うが、頂点量が増え、制御点も多いため、リアルタイム3Dグラフィックスの顔面表現はここまで来たのかと感心させられる。

世界観の影響なのか、陰影処理自体はややアニメっぽい風情だが、顔面の演技はかなりリアル

「バイオハザード5」のショットより。無精ヒゲはおそらくシェル(積層型)のファーシェーダ
 この他では、カプコンの「バイオハザード5」もよかった。画面ショットにもあるが、男性の無精ひげが、シェルベースのファーシェーダで描かれているのがおもしろい。肌の質感は鏡面反射と拡散反射のバランス取りだけのようにも見えるが、顔のポリゴン数(頂点数)は非常に多いという手応えはある。


■ 天候表現のトレンドは「雨」?

 これまでリアルタイム3Dゲームグラフィックスで難しかったのは天気などの自然現象の表現だ。

 雨粒が線状に落下するテクスチャアニメーションをパーティクルで適当にばらまいておけば、まぁ、見るものに「ああ、雨なんだな」という情報は伝えられるのだが、画面内に本当に雨が降っているような“リアル”を作り上げようとするムーブメントが盛んになって来たのは最近のことだ。

ボディに付着する雨粒。実は雨粒の付着した車のボディは美しく見える。あの感覚が3Dゲームグラフィックスでリアルに再現されている様は感動的
 今年のE3で、この雨のシーンについてやたら強力なアピールをしていたのがBizarre Creationsが開発し、マイクロソフトから発売される「Project Gotham Racing 4」だ。動的生成の法線マップを徹底活用し、路面に薄く張った水たまりや、ボディに付着した水滴の質感をリアルに表現している。まだ開発中とのことで、デモは撮影禁止なうえに、天候に関連した提供スクリーンショットも限定的(この1枚のみ)なので、読者にはわかりづらくて恐縮なのだが、見た目だけでなく、車両が水浸しの路面を走破する際の水しぶきや霧の出方などもかなりリアルに再現されている。水しぶきはソフトパーティクル(後述)の応用、霧はボリュメトリックフォグの実装のように見えたが、「こだわっている」というだけあってデキはかなりいい感じだ。「Forza Motorsport 2」や「グランツーリスモ5」などに対する差別化要素として強くアピールされてくることだろう。

「COD4」は2007年秋発売予定。シリーズ初の現代戦がテーマ。今作もグラフィックスに気合いが入っている
 同じく雨の表現ですばらしかったのは「CALL OF DUTY4: MODERN WARFARE (COD4)」(Infinity Ward開発、Activision発売) だ。画面ショットは、嵐の海上を進むテロリストに占拠された輸送船にステルス潜入するシーンのリアルタイム画面。雨が甲板に打ち付ける無数の波紋のアニメーションや、時折側面に打ち付ける大きな波とそこから発生する波しぶきのパーティクル表現がすばらしい。プレーヤーと行動をともにする特殊工作部隊の戦闘服にも水が流れ落ちていく様がそれっぽく描かれており、リアルタイムの“夜の嵐”シーンとしてはかなり説得力がある。


■ 3Dゲーム鬼門の屋外シーンのリアリティがここまで

 昔から、3Dゲームグラフィックスでリアルに表現するのが難しかったものに、屋外のフィールド表現がある。特に面倒なのが、草原、森といった植物が無数に生えたフィールドの表現だ。

 この分野を専門に研究しているミドルウェアメーカーにIDVがあり、同社の草木生成専門のミドルウェア「SpeedTree」は業界内でもトップクラスの採用例がある。なお、「SpeedTree」採用の最近作と言えば「World in Conflict」(Massive Entertainment開発、Vivendi Universal Games発売)、「THE LAST REMNANT」(邦題「ラストレムナント」、スクウェア・エニックス開発/発売)といったものがある。

 「SpeedTree」もそうだが、植物の密度や種類、生え方などを設定すると、植物モデル自体を動的に生成し(これらはオフライン生成だが)、リアルタイム時にはゲームステージ上にそれらしく配置してくれるプロシージャルな草木生成が最近のトレンドとなっている。

 屋外の草原や森といったシーンでは、無数の草木を生やす必要があり、これをデザイナーが植物の形状を研究して、草木を1本1本モデリングして植えていては時間もかかるしコストもかかりすぎる。かといって手を抜いて反復使用すると、草木の生え方に規則性が見えてしまいよろしくない。だからこそ、こうしたパラメトリックに草木生成が行なえる技術やミドルウェアが注目を集め始めているのだ。

Xbox 360「ライオットアクト」、PS3「レジスタンス」など、最近の有名作にも採用例が多い植物生成専門ミドルウェアの「SpeedTree」

 こうしたプロシージャル植物生成を自前で実装しているのが、CRYTEK開発の「CRYSIS」だ。彼らのCRY ENGINE2.0には、自然の法則に沿い、地形形状やその地形の地質に適合した植物をパラメトリックに生やす草木エンジンが内蔵されている。

 すごいのは、これらの多くの草木の衝突判定がゲーム側の衝突判定エンジンにちゃんと統合されているという点。歩兵が鬱そうと生えた植物の中を突き進むと、歩兵の体に衝突した植物はちゃんと曲がってかき分けられ、歩兵が通り過ぎるとある程度のバネ法則を持ってちゃんと元の生え方に戻る。植物の葉と葉同士の衝突判定もあり、掻き分けられた植物の枝が別の植物に衝突すると、その植物もちゃんと曲がる。

 さらに銃撃で枝を打つと、着弾地点から枝が折れて落ち、その落ちた枝を地面に生えた植物たちがちゃんと衝突を持ってふわりと受け止める。

 ライティングも、非常にこっている。葉っぱは「厚みのある半透明のあるもの」として取り扱うことができ、CRY ENGINE2.0の仕様書によれば、肌のところで用いるような疑似表面下散乱を用いて、光がにじみ出てくるような表現にも対応できるとある。

 また背の高い植物は枝、葉に至るまでセルフシャドウ生成が行なわれる。なお、背の低い雑草レベルには動的影生成は行なわれていなかった。仕様書によれば、草木のライティング時には、地面からの反射光にまで配慮してライティングが行なわれているとあるが、これは本連載の「ヴァルキリープロファイル2」の時にも紹介した「半球ライティング」(Hemisphere Lighting) 的な技術を活用していると思われる。簡単に言えば、これは、地面の平均色を地面から天空に向かう環境光として植物たちに適当な割合でライティングしてやるだけの処理のようだが、全体としてみると「その地面にちゃんと植わっている感」か演出されるので、効果はそれなりに高い。

「CRYSIS」より。CRYTEKは前作「FarCry」の時から植物好き。新作「CRYSIS」では、さらに植物表現に気合いが入ってきた

 「植物のある屋外シーン」といえば、「Halo 3」(BUNGIE開発、マイクロソフト販売) のジャングルシーンも完成度が高い。

 「Halo 3」の草木生成メソッドの詳細は明らかになっていないが、かなり精密にモデリングされた草木が植え込まれているのがわかる。「Halo 3」はフィールドをフリーに歩き回れるゲームではなく、進路が限定される屋外シーンなので、もしかすると植物たちは算術生成されたものではなく、デザイナーによってモデリングされ、植え込まれたものかもしれないが、いずれにせよリアリティは随分と高い。

 木々の上部の枝や葉が空からの陽光を遮り、わずかな隙間から漏れてくる光がブルームを起こしているという、ハイダイナミックレンジ(HDR)レンダリングを効果的に生かしたシーン作りもいい雰囲気だ。木漏れ日による日向、そして枝葉によって陽光が遮られていることで作り出される広範囲の影はリアルタイムではなく、おそらくはHDRベースのライトマップだろうが、この明暗のコントラスト感はすばらしい。さらにワンポイントとして、木漏れ日からボリュメトリックな光筋を作り出して、合成している点も心憎い。

「Halo 3」より。E3ではこのステージのリアルタイム・プレイのデモンストレーションが公開された


■ 今世代の3Dゲームグラフィックスのキーポイントは描画境界無しの「パノラマビュー」

 3Dゲームグラフィックスの醍醐味の1つにパノラマ視点というか、エピックスケール感というか、広大なゲーム世界を一望できる楽しみというものがある。これがもっとも確実に楽しめるのは「フライトシミュレータ」系になるわけだが、こうしたフライト系ゲームは、パノラマ視点でゲーム世界をただ見て楽しむには不満はない。しかし、エピックスケールで描かれる広大なゲーム世界そのものへの直接のインタラクト感を味わえるものは少ない。

 2007年は、この組み合わせづらかった「エピックスケール感」+「フルインタラクト感」を実現したゲームが登場しそうだ。それが「Assassin's Creed」だ。

 もともとは「白昼堂々のステルスゲーム」として注目されたが、今年のE3では、リアルスケールに近い形で作り込まれた広大な町を縦横無尽に登ったり、飛んだり、降りたり、走ったり……というふうにインタラクトできる様がアピールされた。

広大な12世紀のエルサレムの町を縦横無尽に走り回れる
 画面に描かれている高台からの町の光景は描き割りの一枚絵ではなく、実際にモデリングされた3Dの建物で、走れそうに見える場所であれは、どんなに細くても走れるし、行き先が途切れていれば自動的にジャンプして適当なところに捕まって飛び移ってくれる。プレーヤーが操るのは、空は飛べない地に足の着いたスーパーヒーローだが、12世紀のエルサレムの町を縦に横に立体的に走り回れるのだ。

 描画境界の存在しない(わかりにくい?)広大な町並みのLOD描画システムはたいしたもので、見ている限りではLODレベル切り替わり付近で起こりがちなポッピング(LODが切り替わるポイントで3Dグラフィックスの形状が切り替わる瞬間が露呈してしまう問題)がわからない。

 こうした“ジャングルジム系”のステージを作り込むと、どうしても全体的に「箱っぽく」なってしまうものだが、この作品ではそのあたりをうまく調整してわかりづらくしている。

 全方位ほぼ無限遠までが見渡せて、しかも全てにインタラクトできるシステムは、今世代の3Dゲームの新基準になりそうな気がする。

実際のプレイ画面。グラフィックスのクオリティはここで示しているショットとほぼ同等
時々高台に立って町の全体的な構図を頭に入れて自分の位置を確認。そして実際には自分の目線で町を走り抜けるというプレイ感覚はかなり楽しい。実際に3Dゲームグラフィックスをさわって楽しんでいる感覚が味わえる
町並みをワイヤーフレームで可視化 隠線処理しての可視化
インタラクトを取るための衝突形状モデル 町並みの実際のゲーム中のレンダリング結果


■ パーティクルが凄くなってエフェクトが凄くなった今世代の3Dゲーム

 リアルタイム3Dグラフィックスでは細かい粒子表現を行なう際、その粒子を、あるまとまった単位でテクスチャとして描くなどして、これを板ポリゴンに貼り付けて動かす「パーティクルシステム」を実装するのが一般的だ。

 先代と比較してPS3やXbox 360といった今世代のゲーム機はジオメトリ性能とフィルレート性能が向上しているのでパーティクルシステムに負荷予算を大きくとれるようになってきている。

 その甲斐あって、プリレンダームービーに肉薄した大量のパーティクル表現ができるようになり、非常にリアルな煙、霧などを表現できるようになってきている。

 このパーティクル表現の先進性で頭角を現わしていたのが「CALL OF DUTY (COD)」シリーズだ。「COD2」では、その発売時点では珍しかった「ソフトパーティクル」表現を実装していた。

 パーティクルはそのシーンの他の3Dモデルと重なるような局面で、重なった3Dモデルに切り取られるようにして表示されてしまう。こうなるとパーティクルが1枚の板ポリゴンでできていることが露呈してしまいかっこ悪いし不自然に見える。そこで、このパーティクルの「切り取られエッジ」を目立たなくする特別なシェーダを実装したパーティクルシステムが「ソフトパーティクル」だ。

 最新作「COD4」では、このパーティクルシステムにさらに磨きがかかり、かなり立体感のある表現となっている。

 ソフトパーティクルの手法にはいくつかの技法が考案されている。最近、活用されているのが本連載の「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」でも紹介した、パーティクルに仮想的な厚み情報を持たせる方法。パーティクルの各ピクセルを描き込む時、その仮想的な厚み情報と、シーンの深度情報を比較して、そのパーティクル・ピクセルが他の3Dオブジェクトと近いと判断できる場合は色を薄め(透明度を上げ)ていく。こうすることでパーティクルの切り取られ境界を目立たなくできると同時に、仮想的な厚みをモコモコとした感じにしておくことで陰影や不透明具合に抑揚が生まれてリアルに見える。

DirectX SDKのサンプル「Depth Sprite Soft」より その動作概念図

 より発展的な方法として、いくつかのタイトルで採用されつつあるのが、パーティクルに対して簡易的なボリュームレンダリングを行なう方法だ。

 この方法では、パーティクルを内包するような仮想的な球を想定し、視線をこの仮想球の中を突き進ませ、一定距離進むごとにボリュームテクスチャをサンプルする。この局所的なボリュームレンダリングを視線が仮想球を飛び出すまで行なう。

パーティクルの実態である板ポリゴンを内包する仮想球を考える 適当なステップでボリュームテクスチャを参照。このとき、ライティングも行なえば、動的光源からの説得力の高い陰影が得られて、より立体的に見える
シーンの他の3Dモデルとの交差についても、厚みに配慮したレンダリングが行なわれるので、理論上、交差線は出ない DirectX SDKのサンプル「Volume Soft」より。この技法はパーティクル表現がより立体的に、奥行き感を持って表現できる

 「COD4」ではどの技法を活用しているという明言はないが、爆煙は非常に立体的に見え、霧や煙は正しくライティングがなされつつ広範囲に広がったときにも立体感がある。これはなかなか見所がある。

「CALL OF DUTY4: MODERN WARFARE」はパーティクル表現が見所

 この他、自ら、「レーシングゲームで一番煙がすごい。煙の表現に注目して欲しい」とまで言い切ってプレゼンテーションを行なっていたのがEAの「Need For Speed: Pro Street」で、これもパーティクル表現がすごかった。

 かなりボリューム感の感じられるソフトパーティクルシステムであることはもちろんのこと、煙の挙動が非常にリアルなのだ。

 こうした車がまき散らす排気ガスやタイヤダストのような煙は、適当に拡大縮小して動かしたあと、透明度を上げて「だんだん消していく」というニュアンスで処理するものがほとんどだ。

 ところが、「Need For Speed: Pro Street」では、煙が散乱して、排圧でまき散らされるような流体物理ライクな挙動を行ないつつ、それでいて板ポリゴン感を感じさせない、立体的かつ陰影的にも動的光源からの影響をちゃんと受けているような陰影が出ているのだ。

 流体物理をやっているとは思えないが、何かユニークなテクニックを実装していると思われる。地味だが、「Need For Speed: Pro Street」の煙にはかなり見応えがある。要チェックだ。

「Need For Speed: Pro Street」より。北米では2007年10月発売予定。リアル指向に転じた新生「Need For Speed」は車両の破壊表現などもすごい


■ ハーフ・ランバート×セル・シェーダ+HDRレンダリング=TEAM FORTRESS2 NPR

 「Half-Life2」のVALVEが送るユニークなスポーツ系チーム対戦型FPSの「Team Fortress 2」(TF2)は、ありそうでなかったユニークなビジュアル表現で注目を集めている。

 明か暗かだけの二値的なライティングのトゥーンシェーダー(セル・シェーダー)と、人肌表現のところで触れた「ハーフランバート照明」で柔らかい陰影をブレンドし、まるでPIXARアニメのようなラジオシティ風味のCGに仕立て上げられているのが「TF2」のグラフィックスの特徴。

 ライティングはHDRに対応し、ハイライトからはブルームを起こさせており、VALVEは「NPR+HDRの新ビジュアル」と訴求している(NPRとはNon Photo Realstic……すなわち非写実的→絵画的な……という意味)。

 NPRビジュアルでありながらも、キャラクタアクションや表情アニメーションはリアル系を実装しており、動いている映像を見ても一種独特の表現として見え、かなりユニークな味わいが醸し出されている。3Dゲームグラフィクスファンとしては要チェック作品だ。

「Team Fortress 2」はEAから発売される「The Orange Box」というVALVE作品の5本パック商品に収録される
HDRレンダリングは「Half-Life2: EPISODE ONE」と同世代のものが実装され、ちゃんと動的な露出のシミュレーションまでを実装したリアルHDRレンダリングになる


■ DX9対DX10~ゆっくりと進むDX10スタンダード化

 日本国内ではカプコンの「ロスト プラネット」のPC版が、世界に先駆けてそのグラフィックスエンジンをDirectX 10(D3D10)へ対応させたことで話題を呼んだが、世界でも、このグラフィックスエンジンのD3D10化の流れは起こりつつある。

 今回のE3で、特に「D3D10対応」を強烈にアピールしてきた印象があるのはTHQが2007年秋に発売予定をしているRTS「Company of Heroes: Opposing Fronts」(開発はRelic Entertainment)だ。

 資料として「Company of Heroes: Opposing Fronts」の画面ショットが提供されているので、これに着目してD3D9版とD3D10版のどこがどう違うのかを簡単に説明していくことにしよう。

 まず、最初はこちら。影生成を示すショット。D3D10では、該当として設定された動的な点光源が影を生成している。これは「全方位のシャドウマップ」(Omni-Directional Shadow Maps)を生成して作成しているもので、具体的にはシャドウマップをキューブマップとして生成することで実現している。D3D10ではキューブマップ生成がシングルパスで行なえるのでこのメリットを効果的に活用した格好だ。

D3D9版 D3D10版

 次は火や煙の表現に関する比較ショット。ここからわかるのは、D3D10版では火はそれぞれ動的光源として設定され周囲を照らし、さらにそこから前述の全方位シャドウマップによる影生成が行なわれていること、そして煙に対してソフトパーティクル処理が行なわれていることだ。

D3D9版 D3D10版
D3D9版 D3D10版

 フィールド上の草木の有無の比較ショット。これはおそらくジオメトリシェーダを活用して動的に草木を生成しているものと思われる。

D3D9版 D3D10版

 最後は、D3D10版で法線マップによるディテール表現が向上していることを示しているショット(あまりD3D10と関係ないようにも思えるが)。

D3D9版 D3D10版
D3D9版 D3D10版

 こうして見てくると、この作品のD3D10対応は、D3D9版のグラフィックスと比較して表現がガラリと変わるというよりは、D3D10版になると細かな点でより表現がリッチになる……あるいは、D3D10版の方が同じ表現でも高速になる……といったような方向性で作り込んであるということがわかってくる。D3D9とD3D10が混在する今年から来年にかけてはこうした対応の方向性が多くなることだろう。


■ 今世代の影生成は完全にシャドウマップ系が主流

 影生成は、改良技法の登場が著しいデプスシャドウ技法(シャドウマップ技法)が主流を占め始めている。「DOOM III」全盛時代の2004年前後には「ステンシルシャドウボリューム技法」の採用タイトルも多かったが、今では、ほとんど見られなくなっている。

「Assassin's Creed」のリアルタイム影生成もシャドウマップ系技法を採用

 シャドウマップ技法のバリエーションとしては、「Unreal Engine3 (UE3)」でも採用された「バリアンスシャドウマップ技法」が最近では特に採用が目立っているようだ。

 これは、適当なシャドウマップ技法を実装した上で、影か否かを判定する部分の計算を「影か否か」の0か1かの判定をするところを、バリアンスシャドウマップ技法では、ここで「チェビシェフの不等式」を用いて「光が当たっている最大確率」を算出するのだ。

 この技法のユニークなのは3Dグラフィックスに確率論の方程式を持ってくるところだ。この影か否か判定の結果が最大確率は0~1で表わされるため、この値をそのまま影の色(≒影の濃さ)として利用できる。

 通常のデプスシャドウ技法において影領域の輪郭にジャギーがでやすいのは、この箇所の「影か否か判定」が難しいのに「影(0)か、光が当たっている(1)か」の2択にしてしまっていたからだ。ここを確率……すなわち実数で表わせることになるので滑らかにできる。つまり、影の本体に近ければ近いほど影の確率は高くなって影は濃くなり、遠ければ遠くなるほど影の確率は低くなり薄くなる……というような感じだ。

左が「UE3」ベース「John Woo Presents Stranglehold」より。右は「UE3」ベース「Army Of Two」より。「UE3」ベースタイトルで採用されることの多いバリアンスシャドウマップ技法

「KILLZONE 2」のリアルタイムシャドウについて示したスライド
 もう1つの主流は、「ロスト プラネット」などで採用された、ライトスペースシャドウマップをカスケード実装したものも多く採用される傾向にある(この技法の詳細はこちらの記事を参照して欲しい)。

 E3で、そのリアルタイム映像のクオリティの高さが話題を呼んだSCEヨーロッパのPS3専用タイトル「KILLZONE 2」でも、この技法が採用されていることが明らかにされている。

「KILLZONE 2」の影生成技法もシャドウマップ技法をカスケード拡張実装したもの


■ 「Unreal Engine3」ライセンシー・タイトルが出始める

日米同時発売(発売時期未定)、Xbox 360/PS3版両リリースを謳っている「ラストレムナント」。「UE3」採用を公言
 PS3、Xbox 360、Windows Vista(PC)という次世代ゲームプラットフォームの登場を想定して開発されたEPIC GAMESの「Unreal Engine3.0 (UE3)」。日本でもセンセーションを呼んだが、残念ながら未だ成功した日本発のプロジェクトがないという状況。一説には言語の壁や時差の壁、サポート速度の問題などがあげられているが、本当のところは不明だ。

 現在、オフィシャルに「UE3」を活用していることが公言されている日本発の進行プロジェクトとしてはマイクロソフト「ロストオデッセイ」、スクウェアエニックス「ラストレムナント」あたりだろうか。日本の開発現場と「UE3」との相性というものについての結論は、これら2タイトルの行く末を見てから判断したいと思うが、一方で欧米のゲームスタジオからは、年内にいくつかのタイトルの発売決定がアナウンスされており、ファンの間で期待が高まっている。いくら「UE3」が欧米での評判が高いとはいえ、そろそろEPIC GAMESとしては、自分たち以外の“できのよい”UE3社外タイトルが欲しいところだろう。

 EAが2007年冬に発売予定としているのが「Army of Two」だ。開発はEAモントリオール・スタジオ。ディテール表現の法線マップと、鈍く黒光りした金属質な光沢感の表現はいかにも「UE3」ベースという感じで、全体的にEPIC GAMESの「Gears of War」に似通ってはいるが、舞台は「昼間の屋外」がメインということで、全体的な画作りについては独自性が出せているように思える。ハイダイナミックレンジ(HDR)レンダリングのブルームの出方や、トーンマップのさせ方には特徴があり、乾燥した屋外感がよく出ている。影生成は「UE3」で提供されるバリアンス・シャドウマップ(Variance Shadow Maps)技法を活用していると思われ、セルフシャドウまでがソフトシャドウとして出ている。ただし、パラシュートで地上に降下するシーンなど、影の投射距離が長くなるようなシーンでは影の輪郭付近での明滅を強く感じる。

 総じていえば、「Army of Two」では「UE3」グラフィックスの模範的な出来映えが実現できているといえると思う。

「Army of Two」。PS3/Xbox 360用に2007年冬発売予定
資料によれば、水面の波動制御に簡易的な流体物理シミュレーションを実装しているとのことだが、今回のデモではそれを確認することはできなかった

 外連味のない、渋いタイトルをリリースすることでコアなゲーマー層に人気の高いMIDWAYは、「UE3」ベースのゲームを3本、年内にリリースする予定だ。

 1つは、映画監督のジョン・ウー氏が監修し、カンフースターと呼ばれるチョウ・ユンファ氏が主演した「John Woo Presents Stranglehold」だ。グラフィックスは「UE3」ベースとしては標準的なクオリティといったところだが、最新版HAVOK製物理エンジンをベースに開発された、物理シミュレーション駆動のイベントでゲームが進行する「MassiveD」システムがホットトピックとなっている。バレットタイム・アクションによるアクロバティックなシューティングアクションが取りざたされがちな本作だが、やたらめったらゲームステージが壊れていく破壊表現には大きな次世代感を感じる。

筆者個人としては2007年度「UE3」ベースゲームとしてはもっとも注目している「John Woo Presents Stranglehold」。2007年8月にPC、PS3、Xbox 360で発売予定

 そして、近未来を舞台に、合衆国の最高機密施設「AREA51」から流出したエイリアン達との死闘を描いた「BLACK SITE: AREA51」も「UE3」ベースだ。「Gears of War」と比較して、グラフィックス的には取り立てて見るべきところはないが、ゲームそのものは堅実な作りであり、逆を言えば「UE3のFPSゲームエンジンとしての堅牢性」を証明しているタイトルだといえなくもない。

「BLACK SITE: AREA51」はPS3、Xbox 360、PC版が2007年9月に発売予定

 そして、EPIC GAMESが送る「Unreal Tournament III」ももちろん「UE3」ベースだ。「Gears of War」とは異なり、比較的遠くの遠景までが見通せるオープンフィールドのゲームステージを実装しているのが特徴。「足が地に着いたゲームしか開発できないのでは?」という陰口も聞かれる「UE3」だが、飛行艇のようなものにのっての空中戦も楽しめるようになっている。「UE3」の本家本元らしく、法線マップによるディテール表現を活用した情報量の多い画面作りはさすがにうまい。PS3版とPC版が発売され、PC版にはユーザー自身によって自在なゲーム拡張が行なえる「Unreal Engine3ツールセット」が同梱される予定。このツールで作成したMODプログラムはPCとPS3の両方で利用が可能とのことで、MODコミュニティからも注目されているようだ。

「UE3」の本家本元が放つ「UE3」を採用したPS3、Xbox 360、PC版「Unreal Tournament III」。米国では11月発売予定


■ まとめ

 PS3発売直後は、グラフィックス的にはXbox 360と比較するとやや見劣りするものが多かったが、2007年後半に来て、その差はだいぶ埋まってきた感じがする。

 ただし、PS3、Xbox 360共に、グラフィックスチップの世代が同一であり、大ざっぱな性能指標も近いため、マルチプラットフォーム展開されたタイトルについては区別するのが難しいほどよく似ている。全体的な底上げというと聞こえはいいが、各プラットフォーム特有のビジュアルというものは希薄になった感もある。

PS3用「KILLZONE 2」ではSPEをスキニング、パーティクル処理、イメージベースドライティングの素材生成などに活用していることが明らかにされている
 今世代機では、やはり、大きな違いがあるとすればCPU部分。PS3、Xbox 360、それぞれのハードウェア特性を生かしたゲームプレイ八ビジュアルを実現するためには、この部分を効果的に活用する必要があるだろう。

 CPUを使った特徴的なロジックといえば、具体的にはやはりAI、物理シミュレーションなどメインテーマになるだろうか。

 しかし、PS3の場合、CELLプロセッサのアプリケーションで使える6基のSPE(Synergistic Processor Element)のうちのいくつかを、3Dグラフィックスのプリプロセスやポストプロセスに使えることがわかり始めており、Xbox 360に対し、グラフィックス的な違いを出そうというアプローチも出始めている。

 まだまだ、今世代の3Dゲームグラフィックスは進化する余地を残しているようだ。

□E3 Media and Business Summit(英語)のホームページ
http://www.e3expo.com/
□関連情報
「3Dゲームファンのためのグラフィックス講座」のバックナンバー
http://game.watch.impress.co.jp/docs/backno/rensai/3dg.htm
「E3 Media and Business Summit」記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070712/e3link.htm

(2007年8月1日)

[Reported by トライゼット西川善司]



Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

Copyright (c)2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.