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会場:Moscone Convention Center
魏氏は、韓国のオンラインゲーム業界を韓国側の視点に立って日本に紹介している数少ない人物である。今回のGDCでも中国を含めたアジアのオンラインゲーム市場を紹介するというセッションは少ない。韓国、日本、中国そして北米と広い範囲を調査し、独自の視点での情報を提供し続ける魏氏は非常に貴重な人物である。「虎の尾をとらえる」という過激なタイトルも、魏氏ならではの独特のセンスといえるだろう。
■ 欧米ユーザーと大きく違う中国ユーザーのプレイ目的と嗜好
最初に提示したグラフは、「PKをした経験があるか」。PKはお互いの合意のもとで行なうPvPではなく、相手方のユーザーの了承なく一方的に他のユーザーを攻撃する行為である。中国、北米それぞれ5,000人以上を対象にしたアンケートで、PK行為の経験に対して中国では91.3%が、北米では34.7%のユーザーが「ある」と答えた。中国ではPKをしたことがないユーザーは10%に満たなかった。 次は、「ゲームのどこに魅力を感じるか?」という質問の回答。北米ユーザーはグラフィックス、クエストという答えが多かったのに対し、中国ユーザーはキャラクタとアイテムと答えた。魏氏は北米や日本ではクエストを重視する傾向があり、ゲーム中の物語を楽しむが、それは中国や韓国では受けない。強いアイテムを手に入れ、より強い存在になることを好む、と語った。 「中国や韓国のユーザーは“過程”より“結果”を好む傾向がある」と魏氏はユーザーを分析する。それを示すのが、ユーザーのコミュニティへ求めるものに端的に表われている。中国のユーザーがコミュニティに求めるものは「レベルアップ、強い敵を倒し経験値を多く入手するための手段」と答えているのに対し、北米ユーザーは「新しい仲間との出会いと体験を共有すること」と答えている。魏氏は中国と北米のユーザーがコミュニティに求めるものは両極端で、日本は北米のユーザーより、韓国は中国のユーザーよりのユーザーが多いと分析する。 その上で、北米のゲームはコミュニティのサポートシステムに欠けているものがある。中国のコミュニティ機能はレベルアップ、キャラクタの強化のためにコミュニティ機能を特化させていくのも多い、と語った。魏氏はここを詳しくは語られなかったが、部下を集めることでより大きな恩恵が得られる、ギルド内の階級システムなどを指していると考えられる。 過程より結果、という中国ユーザーの好みを象徴しているのが自動プログラムによるレベルアップ、いわゆるBOTプログラム使用に対する肯定的な意見だ。多くのユーザーがそれを禁止しなくても良いとアンケートに答え、「普通に使っている」、「積極的に使っている」というユーザーも多い。他のプレーヤーにレベルアップしたキャラクタを譲渡するようなことも行なわれているという。 なぜBOTを使ってまでレベルアップするのか、レベルアップした先に何があるのか、それはゲーム内での圧倒的な強さを発揮するためだ。韓国や中国などアジア地域でゲームをパブリッシングしたいというメーカーは、こうした不正プログラムそのものや、それを使うことを好むユーザーに対してどういったスタンスで取り組んでいるかは必ず考えなくてはいけない問題だ。
次に紹介したのは、韓国のタイトルの成功例だ。韓国ではレベルアップによる強さの獲得という要素を、FPS「スペシャルフォース」やスポーツゲーム「フリースタイル」に取り入れて、成功を収めた。欧米や日本では平等だから面白い、という部分にあえてプレイ時間という概念を追加した。この他にも、「リネージュ」や「リネージュII」での大規模戦闘や、攻城戦などはゲームの歴史に大きな影響を与えていると魏氏は指摘する。
■ 「WoW」の成功はアジアユーザーも視野に入れたアプローチによるもの
中国や韓国、台湾のオンラインゲームに対して、魏氏は「経路依存性理論」という言葉で表現する。中国や韓国、台湾のゲームは1つの方法論が確立され始めており、欧米や日本とは違ったゲームの“セオリー”ができはじめている。 ここで魏氏は日本のアニメーションに触れる。日本のアニメーションは北米式のセルを潤沢に使い動きを強調する手法を人材的な理由などで使うことができなかった。そこでセルの数を減らしたり、動きを制限した表現方法が生まれ、その後独自のアプローチを次々としていった結果、北米とはまったく違う進化を遂げ、結果として新しい手法を確立した上に、世界的に認知された。このように韓国や中国式のMMORPGの新しいセオリーが世界的な流行につながる可能性はある、と魏氏は語る。 魏氏の「新しいセオリー」を具体的に説明するためにマイクを握ったのが韓国mgame Maketing & Publisihing Division Director Dyon Shin氏。Shin氏は自社の作品である「熱血江湖オンライン」を例として、韓国、中国で好まれるオンラインゲームの要素を紹介した。かわいらしいキャラクタのグラフィックス、派手なスキルの効果、そしてキャラクタの顔がコミックスのように変化するエモーションシステム。そして、「武侠もの」という伝統的なテーマを扱うことで、多くのユーザーに受けいれられたと説明した。 今回魏氏が提示した「アジアで受け入れられるための新しい作品の方法論」という視点は興味深い。実利のみのクエストシステムや、レベルアップのみに目的を集中させる目標の提示など、日本のゲームをプレイしている筆者から見ると、韓国産MMORPGの多くは「まだまだだな」と感じさせられるものが現在でも多い。しかし、レベルアップへのユーザーの誘導が洗練されていたり、アイテム課金へのアプローチや、複数のキャラクタを同時に使いソロ要素を重要視するなど、様々なポイントで確実に進化している。 昨今ではゲーム内の税率や国の方針さえユーザーコミュニティのトップが決定する、「仮想空間」そのものをゲームクリエイターがユーザーに開放するタイトルも現われ始めた。クエストやストーリー要素、戦闘時のレスポンスなど「まだまだだな」と思っていた部分とはまったく違う、筆者が考えもしなかった方向に韓国のMMORPGは進化しつつある。この進化は、韓国ユーザーとクリエイターが出していくアプローチがはっきりした形になっていく上で、改めてそれは他の国に受け入れられていくのか、という問題が生じていく予感もある。 筆者は台湾や韓国のゲームショウのブースで「あなたの国のユーザーは『WoW』のどこが好きか?」という質問をぶつけている。ユーザーをアシストしている若いスタッフは強く「ゲームの歴史と世界観です」と答える人が多かった。各国の価値観に合わせたコンテンツ制作、というテーマはクリエイターとユーザーが問い続けるテーマであり、確実な正解はないだろう、しかし「WoW」はそのヒットにより1つの答えを提示したと言えるだろう。 欧米、韓国、台湾、中国のコンテンツが入ってきて、かつ世界の1、2位を争う独自のゲームの歴史とプレイ経験を持つ日本こそ、「世界へのゲーム」、「日本の価値観によって生み出されるゲーム」という議論を、ユーザー、製作者、パブリッシャーが真剣に行なっているかもしれない。
魏氏の講演は、受講者に様々な疑問を投げかけてくる。魏氏のアプローチは「自分の考え方と違う」という想いが生まれてくる。しかし、魏氏の独特な「韓国側から見た世界への視点」こそが、“受講者自身の解答”を導き出すためのとても貴重なきっかけになると思う。現在こういった価値観を問うような講演をオンラインゲーム業界で行なう韓国の識者は極めて少ない。魏氏のようなグローバルな活躍を独自の視点の元で行なう研究者は応援していきたい。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2007年3月9日) [Reported by 勝田哲也]
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