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会場:Moscone Convention Center
■ 凄まじい規模で成長を続けるGDC2007、今年は3会場を使用
会場は一昨年と同じMoscone Convention Centerだが、Moscone Westのみならず、Moscone North、Moscone Southも使用するなど、一昨年に比べて倍以上の規模になっている。セッション数こそ昨年並みの400ほどだが、1セッションあたりのキャパシティをたっぷりと取り、開発者に対するホスピタリティは格段に向上したといえる。 また今年は、5月のE3が中止されたことも規模の拡大に一役買っていると言われている。GDCの会期中に併催されるゲーム開発者向けのショウスペースGDC EXPOや、独立系のデベロッパーとパブリッシャーとのマッチングの場を提供するGame Connectionなども規模を大幅に拡大。一部の大手メーカーはプライベートショウ的なイベントも企画するなど、はやくもE3のポジションを奪いつつある印象だ。 GDCのハイライトであるキーノートスピーチは、GDC史上初の講演となる任天堂の宮本茂氏と、Sony Computer World Wide Studiosのフィル・ハリソン氏の2本が予定されている。共に昨年後半に次世代機を出した後ということもあり、講演を通じてどのようなビジョンが語られるのか大いに注目されるところだ。 ちなみに任天堂とSCEの両プラットフォーム陣営がキーノートに顔を揃えるのは2年連続で、残るMicrosoftは2005年のJ.Allard氏以来2年連続講演していない。それでは、MicrosoftがGDCで求心力が落ちているかというと実際はそうではなく、むしろGDCでのプレゼンスはMicrosoftが他を圧倒しているといっても過言ではない。 Microsoftは、ゲーム開発者向けのカンファレンスとしてGDCを全面的にスポンサードし、メインロビーやロビーバー、スポンサーセッションなど、至る所にMicrosoftのロゴを輝かせている。Microsoftは、Xbox 360とPC、Mobileと3つのプラットフォームに展開し、また、現状、次世代機の中でもっとも開発環境が整備されていることもあり、一般セッションでもMicrosoft関連のものが目に付く。今回もっとも大きなテーマとして掲げているのは、エンドユーザー向けの開発環境である「XNA Game Studio Express」であり、Serious Game Summitにゲーム開発者養成ツールとしてたびたび紹介されたほか、複数の一般セッションでも取り扱われる。
日本人スピーカーも任天堂専務取締役情報開発本部長の宮本氏を筆頭に13名と、こちらも過去最大となった。注目されるセッションは、任天堂情報開発本部制作部の青沼英二氏の「ゼルダを振り返る(Reflections of Zelda)」、任天堂サウンド統括グループ マネージャー近藤 浩治氏「インタラクティブな音風景を描き出す(Painting an Interactive Musical Landscape)」、スクウェア・エニックス技術部部長村田 琢氏「ファイナルファンタジーXII」事後分析(Final Fantasy XII Postmortem)など、日本人としてもぜひ聴講したいセッションが目白押しだ。
■ 日本人トップバッターはスクウェア・エニックス乙部一郎氏、同社のシリアスゲーム戦略を披露
中でも特異な位置づけに当たるのがモバイルゲームをテーマにしたGDC Mobileと、シリアスゲームをテーマにしたSerious Game Summitである。この2つのチュートリアルは人気の上昇と市場規模の拡大に伴い、2日間かけて4コマ同時並行で開催される。この2つだけで80セッションを超え、日本のCEDECと同等規模といえばその大きさがわかるだろうか。 この2つに限っては、各日の冒頭にキーノートスピーチが行なわれる。Serious Game Summitのキーノートスピーチ「スクウェアのシリアスゲーム(Serious Games Squared)」の講演を務めたのがスクウェア・エニックスの乙部一郎氏だ。乙部氏は、チーフストラテジストとして、スクウェア・エニックスが2006年3月に学研と共同で設立したSGラボでの試みを紹介した。乙部氏は、北米子会社のSquare Enix Incの前代表取締役社長を務め、UI Evolutionの買収等を手がけた実績を持つ和田代表取締役社長の懐刀である。 乙部氏は、冒頭のお約束としてスクウェア・エニックスが「ファイナルファンタジー」と「ドラゴンクエスト」を制作した会社であることを紹介したあと、ゲーム産業の市場規模が3兆円にまで成長していることをデータで示し、「しかし、社会的な認知度はまだまだ低い」ことを報告した。乙部氏によれば、これはゲームが新しいメディアで提供されていることによるジレンマだという。 ゲームが“新しいメディア”とはいまひとつピンと来ないが、乙部氏が学研の「ひみつシリーズ」(累計2,000万部)と日本経済新聞社の「マンガ日本経済入門」(累計800万部)といった“学習漫画”を引き合いに出したことでようやく理解できた。シリアスゲームを、漫画界における「ひみつシリーズ」に見立て、ゲームが市場としてメインストリーム化しつつある現在、このチャレンジは有効だというわけだ。非常におもしろい視点である。 乙部氏は、これらが大ヒットした要因としてメインストリームメディアである漫画を利用したことを挙げた。続いて乙部氏は、日本の2006年の販売記録データから、ベスト20タイトル中の実に5タイトル(「脳トレ」、「もっと脳トレ」、「英語漬け」、「大人の常識力トレーニング」、「クッキングナビ」)がシリアスゲームであることを示し、シリアスゲームの分野が新たなビジネスチャンスになりつつある状況を報告した。 続いて乙部氏は、スクウェア・エニックスの取り組みとして2つのプロジェクトを紹介した。ひとつはSG Lab(Serious Game Laboratory)であり、もうひとつがスクウェア・エニックスが独自に進めているニンテンドーDS向けシリアスゲーム「Project GB」である。 SG Labは、その名前からも推察できるように、シリアスゲームの研究を行なうことを目的とした少数精鋭の研究機関であり、短期的なアウトプット、つまり定期的なシリアスゲームの販売を目的とした会社ではない。事業内容としては、スクウェア・エニックスが開発を担当し、学研が教材販売のノウハウ、ネットワークを提供して、主にBtoBのビジネスを展開していく。 主な取引先としては学校を第一に挙げ、次いで企業の新人研修、最後にエンドユーザー(BtoC)となる。SG Labとしては、各教育機関と企画やプロトタイプを交えて商談を繰り返し、受注ベースで開発、販売を行なっていく。乙部氏は、SG Labは教育機関向けのビジネスを前提としていることから、ビジネスの文化が異なるため、簡単にビジネス化できるとは考えていないという。オンラインゲームのように比較的長いスパンで回収するビジネスになりそうだ。 一方、「Project GB」は、SG Labとは無関係のスクウェア・エニックス独自のシリアスゲームプロジェクトで、開発期間わずか1カ月のプロトタイプが公開された。GBとはGame Brain、いわゆる“ゲーム脳”を意味し、ゲーム=悪の代名詞となったこの言葉を、同作で良い意味に覆したいという願いから名付けられた開発コードである。 ゲームコンセプトは、ゲーム開発の基礎をタッチパネルで学べるというもので、発売プラットフォームはニンテンドーDS、提供エリアは日本に絞る。その代わり、一種の開発サポートとして、コミュニティスペースを提供し、ワイヤレス通信機能を使って、制作中のゲームを送って試してもらうといった遊びも提供するという。要注意なのは「発売するかどうかはわからない」ところで、場合によってはこれが最初で最後の公開になる可能性がある。 デモの内容は、「スペースインベーダー」ライクなゲームをサンプルに、自機の色を塗り替えたり、難易度をスライドで調整するというもので、スクウェア・エニックス ソフトウェアアーキテクトの對馬正氏により、遊び感覚でゲーム開発の基礎が学べるプロセスが披露された。上部画面はゲームウィンドウ、下部画面に9つのアイコンが並んでおり、アイコンをクリックすることでプログラム、サウンド、グラフィックスといった各項目の調整が行なえる。単に調整するだけでなく、各項目に沿った形で課題が出され、これをクリアすることでさらに上のレベルにチャレンジすることができる。細かいタスクとリワードを設定することで、ゲーム的要素を加味しているわけである。
最後に乙部氏は、「ゲームは糖衣のようなものではなく、コミュニケーションを介することでゲームの楽しさ、学ぶことの楽しさを周囲に広げていきたい」とまとめた。SG Labの具体的な動きが見えなかったのは残念だが、スクウェア・エニックスのシリアスゲームの取り組みに今後も注目していきたいところだ。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2006年3月6日) [Reported by 中村聖司]
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