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Game Developers Conference 2007現地レポート

米ゲーム界の巨匠Warren Spector氏が語るゲームストーリー論
「The Future of Storytelling In Next- Generation Game Development」

3月5~9日開催

会場:Moscone Center

 今年のGDCの見所は、任天堂・宮本茂氏のキーノートを筆頭にいろいろ挙げられるが、俗に“Game God's”と呼ばれる北米ゲーム界の著名なゲームクリエイターの講演も欠かせない見所のひとつだ。中でも今年は、Will Wright、Sid Meier、Richard Garriottらと並んで北米ゲーム界を代表する重鎮のひとりであるWarren Spector氏が4年ぶりの単独講演を開催。開場と同時に満場の人を集め、人気の健在ぶりを見せつけてくれた。

 講演タイトルは「The Future of Storytelling In Next- Generation Game Development」。 ゲーム開発におけるストーリーテリングの重要性を語った4年前の講演「Game Narrative: What would Aristotle do?」と同じテーマとなる。Spector氏は、'89年にOrigin入社後に、「Ultima VI」をゲームデザインを皮切りに、「Ultima Underworld」、「Wing Commander」 、「System Shock」、「Deus EX」、「Thief: Deadly Shadows」など、バッグラウンドを含めて極めてストーリー性の高い作品を手がけ、ゲームをメディアとした当代一流のストーリーテラーとして認知されている。技術偏重、アイデア偏重の現在のゲームシーンで、ストーリーありきでゲーム論を語る数少ない論客ひとりであり、欧米には熱狂的な支持者も多い。

 そのSpector氏は、「Thief: Deadly Shadows」の完成後の2004年に自ら立ち上げたION Stormを離れ、現在は小規模のゲーム開発会社を立ち上げ、水面下で次世代機向けに新しいゲームの研究開発を行なっていると言われている。この4年間の間に、Spector氏は何を考え、どのような結論に至りつつあるのか。本公演は彼の4年間の思索のアウトプットの場となった。


■ Spector氏の現状評価はB+~C-。Will Wrightの「SPORE」に期待

GDCでは4年ぶりの単独講演となったWarren Spector氏。Will Wright氏以上に、多数の文献からキーワードを引用するスタイルは、ゲームクリエイターというより思想家に近い
Will Wright氏を、ストーリーテリングの一形態とするぐらい高く評価。Spector氏によれば、Wright氏はプレーヤーに自分のストーリーをうまく提案できるクリエイターだという
Spector氏が期待するプロシージャルストーリージェネレーション。コンセプトとしては「SPORE」のプロシージャルコンテンツに近く、ストーリーが自動生成される仕組みのことを指している
 Spector氏は、まず始めに4年前の講演で使用したスライドを見せながら「ゲームにおけるストーリーは守るべき存在であり、ゲームクリエイターはプレーヤーに対してストーリーを語る義務がある」といきなり強烈な持論を披露。

 Spector氏は、2004年の講演で、ゲームの“語り”の手法を4つに分類している。本講演でも再度語られたので、ここにまとめておく。

・Linear 一本道のストーリーをなぞっていくタイプ。類例には「Prince of Persia」、「Half-Life」、「Lord of The Rings」、「ゼルダの伝説」など。

・Retold 同じストーリーを何度も繰り返していくこと。類例はMMORPG。テトリスのようなゲームも広義のRetold型になる。

・Player Generate プレーヤーがストーリーを生み出していくタイプ。類例には「The Sims」、「Neverwinter Nights」など。

・Shared Authorship クリエイターがエレメントを提供し、プレーヤーは自由にその中で物語を紡いでいくタイプ。類例には「Grand Theft Auto」、「Deus EX」、「Morrowind」など。

 Spector氏は、Shared Authorshipタイプこそがメインストリームになるべきであり、単にストーリーを語るだけでなく、プレーヤーにどうストーリーを紡がせるかが重要であると説く。Spector氏にかかれば、ストーリーRPGの代名詞的存在である「ゼルダの伝説」シリーズすら否定の対象になる。Spector氏によれば、「ゼルダの伝説」のストーリーの紡がせ方は直線的であり、ローラーコースターのようにプレーヤーをクリエイター側が完全にコントロールしており、Spector氏が「永久になくならないタイプだが、本音を言えばなくなってほしい」というLinear型に当てはまる。

 Spector氏は、こうした2004年の講演を「2004年の時点ではまだ完璧ではなかった。もっと良い物理、バーチャルアクターが必要だった。本当はもっと短くて深遠でストーリーエレメントのある世界が作りたかった」と振り返った。

 その上でSpector氏は、この4年間の間に「いくつかの進化が見られた」とし、自身の最新の考えをもとに、この4年間の動きを、ゲームの語りに必要不可欠な要素となる「ゲームの構造」、「キャラクタグラフィックス」、「キャラクタインタラクション」の3項目について採点を行なった。

 まずゲームの構造については、評価するための要素として、Spector氏の言うところのLinear型となる「ローラーコースター」、Will Wrightのゲームに代表される「The “Will Wright” School」、GTAに代表される「Shared Authorship」、そしてストーリーを自動生成する次世代型の「Procedural Story Generation」の4つに分類した。この中でSpector氏がもっとも注目しているのは、Will Wright氏が「SPORE」で実現したオブジェクトの自動生成化のストーリー版となる「Procedural Story Generation」だ。結論として「あまりにも高い自由度は危険だが、ストーリーの“自動生成”という良い目標も見えてきた。しかし、まだAには至らない」と一定の評価を下し、B-を付けた。

 続いてキャラクタグラフィックスについては、「Half-Life 2」や「MASS EFFECT」、「ファイナルファンタジー XII」などのキャラクタをスライドで見せながら、「Valveはもの凄いことをしている。まだ触っていないが『MASS EFFECT』も良い。スクウェア・エニックスは常に満点だ。最近は男性のいいキャラも生まれてきた」と評価。しかし、その見返りとして膨大な時間とお金が必要とされることを懸念し、さらにフォトリアルの方向性についても「正しいかどうかは別問題だが、進化していることは良いこと」として評価した中では最高のB+を付けた。

 3つめのキャラクタインタラクションについては、Spector氏がストーリーテリングの手法においてもっとも重要視するNPCとの会話シーンの自由度、深さを評価基準としているようで、単に選択肢を用意するだけでなく、「リアルタイムの意志決定プロセスの圧迫感を与えなければならない」と説く。

 Spector氏は、キャラクタインタラクションは、見るべきタイトルがいくつか生まれてきているが全体としてはまだまだという厳しい見方を示し、「Will Wrightにプレッシャーを与えるつもりではないが、『SPORE』の自動生成キャラクタたちとのインタラクションに期待している」と述べた。スコアは最低のC-。

キャラクタのグラフィックスについてはB+としたが、肝心のインタラクションについてはC-と落第寸前の評価を下した。ちなみに「FF XII」についてはフランをネコミミの女と言い、主人公も女だと口を滑らせ、「私は本当のオタクかも知れない」と自省し、来場者の笑いを誘った


■ よりよいストーリーが新たなゲーム市場を拓き、新しいゲーム層へのリーチに繋がる

次世代機に対しては相当警戒心を持っていることが伺える。Spector氏は、プレーヤーがコップを倒してNPCのズボンに水がかかり、それを恥ずかしがるという具体的なシーンを挙げて、これを表現するのが難しいとコメント
アクターについてはフォトリアルよりアイコニックなキャラクタの有望性を強調。キャラクタのインタラクションに対する未熟さを痛感していることが伺える
講演が終わっても終わらない「The“Warren Spector”School」。彼の次回作が見られるのはいつになるのか。非常に待ち遠しいばかりだ
 今後の展望については、「私の仕事の一部になっている」という次世代機から語り始めた。Spector氏は、次世代機の特徴として、本物に見えるキャラクタ、堅牢なグラフィックス、高度なシミュレーション性能などを挙げつつ、「しかし、これらの特徴はストーリーに対するソリューションにはならない」とし、むしろもっと大きな障害になるのではないかという懸念を示した。

 「これについては2時間ぐらい語りたいことがある」と発言して会場を笑わせたあと、グラフィックスは5年前、20年前に比べて格段に進化しているが、NPCによるストーリーのナビゲーションの手法はほとんど進化していないという独自の見方を示した。その一方で、次世代機はグラフィックスに追いつくだけで大変だが、今更プレイステーション向けに開発するわけにはいかない。「前進しなければならない。ではどうすればいいか?」と、話を導いた。

 Spector氏は、ストーリーテリングの進化のカギを握る要素として、カンバセーション(NPCとの会話)、良いアクターの存在、ゲーム構造の改良、リアルな世界の世界、バーチャルダンジョンマスターを挙げた。もともと早口のSpector氏だが、ここがもっとも語りたかった要素だったようで、怒濤のようにアイデアが出てきた。

 中でもユニークな主張をいくつか挙げておくと、映画でもキャラクタインタラクションは無声映画のほうが優れていた。なぜなら俳優が体全体や顔で表現していたから。フォトリアルな3Dキャラクタより、アイコン(ミッキーマウスのようなシンプルなアニメキャラクタ)のほうが、表現の面で非常にパワフルで優れており、優秀なアクターになりうる。セットではなくリアルな世界を作るための工夫は、クリエイターがその世界を本物だと信じること。どんなにクリエイティブで格好良くてもストーリーでプレーヤーを引きつけ、探索させなければ意味がない、技術ではなくデザインが問題、などなど。まさにストーリー至上主義者である。

 その反面、「その研究開発には、5年から10年の努力が必要だが、メーカーは定期的に新作を出し続けなければならない。時間とコストが大きな制約だ」とコメント。参加者が誰しも考えていた疑問に自ら突っ込みを入れる形となったが、時間とコスト抜きでのゲームデザイン論は空論に過ぎない。彼が具体的な解決策を自ら見いださず、以前のようにジョン・ロメロのようなスポンサーをただひたすら待っているだけだとすれば、彼の新作は二度と出ないかもしれない。個人的に「惜しいな」と感じた部分である。

 Spector氏は締めくくりとして、シナリオライターをナレーティブなストーリーテラーにするために「ローラーコースターに載せて、クリエイターがモラルエージェントになって一方的に遊びを提供するのではなく、ユーザーが自ら行なっていくスタイルを確立すべき。パブリッシャーもそれに同意すべきだ」と大胆な提言を行なった。

 その上で「ゲームはバランスが大事であり、これを誤ると(ゲームは)クレイジーな存在になる。プレーヤーに自由な経験、豊富な選択肢を与えることで、力を感じ、情感を突き動かさせるようなゲームを作るべきだ」と開発者たちに発破を掛けた。「2010年にまた戻ってくる」とコメントして講演を締めくくった。

 その後に行なわれた質疑応答では、質問が殺到したため、Spector氏がまとめとして「ユーザーは10時間×60ドルのゲームを希望していない。50時間の経験など誰もほしくない。ユーザーが期待するキャラクタを提供し、30分から1時間のゲームプレイをもっと安価に提供すること」と理想のゲーム像を語った。このコメントに、Warren Spectorの次回作のヒントが隠されていそうだ。

講演の後半は時間不足で駆け足になってしまったのが残念だが、Spector氏が提示した結論には開発者にとって重要なアイデアが含まれている。これらをすべて実現するとなると、途方もない開発工程が必要になるが、これを解決するアイデアもあるはず。素晴らしいストーリーゲームが生まれることを期待したい

□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□関連情報
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【2006年3月】Game Developers Conference 2006 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060324/gdclink.htm

(2007年3月8日)

[Reported by 中村聖司]



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