|
会場:Moscone Convention Center
■ そもそも“Mobile Game”とは何か。定義が肥大化する急成長市場
一般的にモバイルゲームとは、携帯電話向けゲーム、Microsoftが提唱するポケットPC向けゲームのことを指す。しかし、ここ数年で、PC/ゲームコンソール向けのカジュアルゲーム(ダウンロード型を含む)や携帯型ゲーム機までを含めるようになり、最新の定義としては「フルプライスのメインストリーム系ゲームコンテンツ以外は全部」というような状況になっている。 この背景には、任天堂とSCEIを除く、あらゆるゲームプラットフォームに開発用ミドルウェアを提供するMicrosoftの影響もあるが、いずれにしてもGDC Mobileは、MicrosoftやNOKIAといったプラットフォーマーがスポンサーセッションを行ない、ある程度実績のあるモバイルゲームパブリッシャーや新進気鋭の独立系パブリッシャーが一般セッションを担当するといった具合で、業界素人が参加してもひととおりビジネスの仕組みがわかるようになっている。これは、ビジネスが多様化しすぎた結果、木を見て森を見ずの印象も強いGDC本体とは明らかに性質を異にする。 こうしたことからセッション内容も非常に幅広く、携帯電話のメモリ管理といった序論から、ユーザークリエイトコンテンツの模索、そしてWiiリモコンのようなジェスチャーを新たなユーザーインターフェイスとして取り入れるアイディアまで、あらゆる可能性が提案されている。その底辺には「1つのアイディアでミリオネア」的な夢も感じられ、講演者、参加者共々活気が感じられるチュートリアルだ。 GDC Mobileに対する個人的な興味としては、日本市場に対する興味、あるいはレポートだった。昨年はスクウェア・エニックスの米国子会社Square Enix Inc代表取締役社長の岡田大士郎氏が、スクウェア・エニックスのモバイルゲーム事業を通じて、日本のモバイルゲーム市場を紹介したが、今年はまったく紹介されなかったのが残念だった。そればかりか今年は、もはや日本を通り越して、中国、インドなどのアジア圏がターゲットになってしまっており、二重の意味で残念だった。 よく知られているように、日本ではキャリアがプラットフォーマーとして機能し、ハードウェア、ソフトウェアの両面で圧倒的な強制力を有している。これにより、ゲーム機のような形で半ば強制的にハードウェアとソフトウェアの代替えが促進され、結果として世界で突出して水準の高い“携帯ゲーム機”が消費者に提供されている。しかし、これは逆にいうと、キャリア側のレギュレーションに従わないとビジネスができないということであり、海外ベンダーの大きな参入障壁にもなっている。
だから、「GDCでセッションがないのだ」と決めつけるのは早計かもしれないが、アジアを視野に入れたセッションがありながら、日本が語られないのは事実だ。日本の非常に高い水準にあるモバイルコンテンツが世界に紹介されないのは、どこかに歪みがあるからではないのか。日本の携帯ゲーム業界全体として、市場を拡大していくために今後どうしていくべきなのか、真剣に考える時期が来ているのではないだろうか。
■ ハードの制限はアイディアでカバー。北米らしい新しい動きも
このためレクチャー系のセッションの内容も、次世代機のセッションでCellやマルチコアの活用事例が語られるように、AMDやARMの最新モバイルプロセッサをいかに活用するかというレベルの話は語られず、遅いCPU、性能の低いGPU、帯域が狭くて許容量が少ないメモリ領域といった課題をいかに克服し、クオリティの高いモバイルゲームを提供するかという現状の課題の克服に重きが置かれている。 実際、Microsoftのスポンサードセッション「Windows Mobile Game Development」の中で、Windows Mobileゲームのサンプルとして公開されたWindows Mobile版「Project Gotham Racing」のあまりのクオリティの低さにびっくりした。日本で2003年にリリースされたナムコの「リッジレーサー」の水準にすら達していない。開発環境、開発力共に持ち合わせていることはXbox版で証明済みのMicrosoftにして厳しい状況なのだから、海外の3Dモバイルゲームの幕開けはまだまだ遠いという印象を持った。 正確には、もともと携帯端末用のプロセッサは北米で開発されていることもあり、日本の携帯端末に勝るとも劣らない性能の端末が店頭で並んでいるのは事実だが、そうした最新ハードウェアをテーマにしたセッションが少なく、その一方で「Mobile 3D Hardware: They're not little PC」、「Super J2ME games - Size and Performance」など、低スペックハードウェアに向けたゲームプログラミングをテーマにしたセッションが超満員だったのを見る限りでは、店頭とエンドユーザーの風景にはかなりのギャップがあることが伺える。 ただ、今年のGDC Mobileではいくつか収穫もあった。まず、Microsoftがモバイルゲーム向けに提供している「Windows Mobile 6」に代表されるゲーム開発環境が整ってきていること。次に、女性やゲームビギナーなど、これまで獲得が難しいと言われていた層に対してすでに世界規模でリーチできており、きわめて高い潜在需要を持つこと。そして日本でも最近話題になってきたアドバゲーミング(ゲーム内広告)が、新たなビジネスモデルとして成立していることが報告されたことなどである。 そして最後に挙げられるものとしてはやはり“アイディア”である。初日の最後のセッション「Mobile Game Innovation Hunt」では、独立系デベロッパーが制限時間5分の枠内で次々にデモを行ない、それを参加者が入場時に配られたNVIDIAロゴ入りの手形カスタネットを打ち鳴らして、その音のやかましさで採点し、最終的にGDC Mobileの講演者たちが採点するという公開品評会が開催された。ここでは多くのゲームがデモされ、その中には光るアイディアを備えたタイトルがいくつも見られた。最終的にはアイディアで勝負する。オリジナリティを何より好む北米らしい回答と言える。
2日目に聴講できた最後のセッションとなった「Evolution of Casual Game」の中で、Realのカジュアルゲーム事業を担当するHarold Zeitz氏は、モバイルゲームが目指す最終的なゴールとして「Anywhere Anytime(どこでも、いつでも)」を挙げた。Zeitz氏は、モバイルゲーム=カジュアルゲームであり、カジュアル(モバイル)ゲームの存在が、ゲームを普遍的なエンターテインメントに成長させたとする拡大解釈論の急先鋒だが、この非常にわかりやすいゴールは、すとんと胸に落ちた。縛りがあるなかでのゲーム制作は時として素晴らしいゲームを生み出すことは、日本のゲーム史が証明している。今後、日本の外で素晴らしいモバイルゲームが生まれることを期待したい。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2006年3月7日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|