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会場:Moscone Convention Center
このサミットで取り上げられる「カジュアルゲーム」とは、多くがwebからダウンロードを行ない、PCで遊ぶことができる作品をさす。登壇者の多くもFlashやJava、自社ツールでカジュアルゲームを制作するメーカーである。モバイルゲームや、携帯ゲームコンテンツを含まない、「狭義のカジュアルゲーム」ともいえる定義がされている。 しかし、昨今はXbox 360やプレイステーション 3、そしてWiiといったコンシューマ機でも「カジュアルゲーム」がプレイできるようになっている。各メーカーは様々なアプローチで新しいカジュアルゲームを模索しているという印象を持った。
■ Xbox 360とPS3担当者が提示するコンソールで求められるカジュアルゲーム
つまり、Xbox 360の「Xbox Live ARCADE」と、PS3の「PLAYSTATION Network」の担当者が席を並べ、カジュアルゲームとの未来を語る形となった。MicrosoftのEarly氏は細かくスライドを用意し、家族向けを意識することや、難易度設定を設けることなど具体的な規格を提示し、参加者を募った。反対にSOEの Needlam氏は「現在はファーストパーティーに限られるが、今後は小さなスタジオからもソフトを供給できるようにしていきたいし、様々なジャンルのゲームを提供していきたい」という形で、今後の展望を語った。 このセッションでは具体的なプランなどは語られることがなく、会場から質問者を募る時間を多く取る形で進行した。多くの質問者が登壇し、「オンラインならでは要素はどうしていくか」、「マウスではなくコントローラでカジュアルゲームの操作性が再現できるか」といった質問が出た。特にオンラインのマルチプレイに関して、Early氏は強い意欲を見せたが、「サプライズ」的な発表はされなかった。 「ダウンロードで遊べるとなると、子供にふさわしくないコンテンツを手に入れてしまうことが可能ではないか」という質問には Needlam氏は大きく両手を広げ、「コンソールゲームは家族の真ん中にあるから大丈夫だ」といって会場の笑いを誘うなど、全体的に議論は深いところまで掘り下げられなかった印象を持った。 何より残念なことは任天堂の関係者が登壇しなかったことだ。積極的にダウンロードによってゲームを提供するWiiの「Virtual Console」はカジュアルゲームメーカーとどのように関係していくのか、独特のコントローラを使った家族向けをより意識したカジュアルゲームの展開なども議論されたのではないだろうか。
PS3はダウンロードできるカジュアルゲームは北米でも10本足らずで、日本では更に少ない。発売と同時にスタートした「Xbox Live ARCADE」ではプレイできるカジュアルゲームは50本を超えるが、今回のチュートリアルでは、専門のセッションは設けられなかった。来年はどのようになっていくか、注目していきたいところだ。
■ メジャーなキャラクタも重厚なストーリーもいらない! 一般ユーザーに向けたカジュアルゲームのノウハウ
Fortugno氏は、カジュアルゲーマーの定義として、彼らはいわゆる「伝統的なゲーマー」ではないことを指摘する。彼らはこれまで作られてきたゲームの歴史や文化などに詳しくない。そしてFPSでおなじみのWで前進、Aで右へ、Dで左に動くという操作方法に慣れていない。より直感的にできるマウスの操作を好む。 彼らは「ゲーマー」ではなく、今までユーザーとメーカーが作り上げてきた「お約束」に慣れていない。大事なのは「Look and Feel」であり、写実的な3Dグラフィックスによるリアルなゲームは必ずしも求めていない。直感的な、わかりやすいゲームを好む。 また、「テーマも違う」といってFortugno氏が提示したのが、「スター・ウォーズ」のダースベイダーと、「指輪物語」のドワーフのギムリ、「トゥームレイダー」のララ・クロフト。彼らはそれぞれ、「本格的なSF」、「重厚なファンタジー」、「アダルトでセクシーな雰囲気」という、本格的なゲーマーが好むものを象徴する。 カジュアルユーザーは、SFといってもパズルゲームの星空、ファンタジーはこちらもパズルゲームの背景としての妖精、そして女性は軽くてさわやかなキャラクタに。そこにはゲーマーの求める「親しみやすいもの」は必ずしも必要ない。彼らが誰であるかは、カジュアルゲーマーに重要ではなく、親しみやすいキャラクタを用いることで間口を広げることになる。 さらにFortugno氏は、カジュアルゲーマーを分析する。カジュアルゲーマーは長時間ゲームをプレイすることを好まないが、しかし、いつでも手軽にゲームをやめられて、迅速に継続プレイが行なえるようにすることで、実はコアゲーマーと同じくらいの時間ゲームをプレイしている。 ハードコアゲームはパズルのようなマップや、勝利条件がわからなかったり、学習しないと進めないようなフラストレーションを強くしていくデザインがされている。一方、優れたカジュアルゲームはもっとずっとスムーズに難易度が上がる。多くのプレーヤーは「Zuma」や「Diner Dash」といったカジュアルゲームをクリアまでプレイはしないが、これらのゲームに対して「難しい」とはいわない。 そして、ユーザーにカジュアルゲームを購入させるためには「最初の一時間」が大事だと、Fortugno氏は語る。PCのブラウザ上で楽しむカジュアルゲームはダウンロードしてインストールすることで1時間無料でプレイでき、以降ソフト代を支払えばプレイが続けられるという販売方法をとっているゲームが多い。だからこそその試遊時間がゲームを購入してもらうための重要な時間となる。 「忘れられないゲーム」にするための条件としてFortugno氏は、ゲームのルールをきちんと紹介し、簡単なチュートリアルを体験させた後、視覚的な大きな変化、そしてより高度なステージへの挑戦の意欲を促す必要がある。1時間の間にこれだけの体験をプレーヤーにさせれば、プレーヤーの購入意欲は大きく膨らむ。 Fortugno氏は最後にまとめとして、カジュアルゲームは、「流行のゲームに染まらず」、「ハードコアジャンルに興味を持たず」、「短いセッションで終わらせることを望み」、「チャレンジをし、フラストレーションを与えず」、「1時間のデモで、ゲームを買ってもらう」ということが求められている。と語った。 Fortugno氏の講演で、特に気になったのは「ハードコア」の定義である。キャラクタゲームすら「カジュアルではない」とされかねない、キャラクタの知識がゲームの間口を狭めるという意見は面白く感じた。
また、「最初の一時間でユーザーの心をつかむ」というのは、アーケードゲームに近いアプローチのようにも感じる。アーケードゲームはしばらくプレイをさせると急激に難易度が上がり、次のプレイを誘うような仕組みがあるが、カジュアルゲームは本編を買ってもらうのが目的であり、ここに大きな違いがある。カジュアルゲームにこだわるクリエーターも多い。Fortugno氏の講演からは、彼ら独自の方法論がより突き詰められているのを感じた。
■ 続編の作り方、新しいカジュアルゲームのコミュニティ……多角的にカジュアルゲームを分析
「Diner Dash」とその続編である「Diner Dash2」の制作テクニックを語ったのは、Play First Vice President of Marketingを務めるHeidi Perry氏だ。「Diner Dash」は、レストランで客の注文通りに食べ物を届ける女の子が活躍するアクションゲームだ。 Play Firstでは続編を作る場合に、「ストーリー要素」を入れた。似たようなアイデアのゲームの場合、プレーヤーにはっきりとしたイメージを与えるのはストーリーだ。「2」では主人公の女の子は店を乗っ取ろうとする悪徳業者に対抗するため働くことになる。ストーリーモードによって、ひたすら客の注文に応えるだけでなく、物語が展開するようになったのだ。 世界への展開を視野に入れ、アジア向けにキャラクタデザインをかわいらしいものに変更するといった工夫をした。コミュニティに働きかけ、主人公の女の子になりきったイメージを募集したりするなど、よりキャラクタ性をアピールした。このため、「Diner Dash」、「Diner Dash2」ともにヒットを記録することができた。 販売本数を見てみると、「Diner Dash2」が発売された後も前作が売れ続けていることがわかる。Perry氏はこの成功を分析して、まずかわいらしいキャラクタがレストランで活躍するというコンセプトが良かったこと、続編でもストーリーラインは変えなかったことで、新しいファンはもちろん、前作のファンからも歓迎された、と語る。「2」から前作をプレイするユーザーも多いという。 Perry氏はフランチャイズのためのアイデアとして「他のコンテンツとどう違うのか?」、「パートナーについて考える」、「リスクを快く受け入れる」、「お客が読みたいストーリーを描く」といったポイントを挙げた。 Kongregate Founder and CEOのJim Greer氏が紹介したのは、ユーザー自身がゲームを制作、アップロードすることで他のユーザーに遊ばせ、タイトルを基点にコミュニティが広がっていく。「Kongregate」だ。“ゲーム版YouTube”を目指すユニークなオンラインコミュニティサービスである。 アップロードできるゲームはJavaかFlashで制作し、ブラウザ上でプレイできる。2006年の6月からサービスを開始しており、現在は235を超えるゲームが登場している。このサイトのセールスポイントは制作者とユーザーの極めて近い位置にある。 制作者とユーザーだけでなく、ユーザー同士で会話することも、メッセンジャー機能などで友人登録することも、ライブチャットをすることも可能だ。プレーヤーと制作者の生の交流が可能になり、よりよいゲームへの具体的でつっこんだ会話ができるようになる。制作者同士の交流や、競争も盛んだ。 ゲームをアップロードする個人サイトやポータルサイトは以前にもあるが、コミュニティシステムと深く連動させ、ユーザーとゲーム制作者の距離を近くしたという部分が新しい。優秀なゲームはランキングに反映し、ユーザーの誘導を計ったり、賞金を行なうなど制作者のモチベーションを上げる努力を行なっている。将来的には広告料をゲーム制作者にある程度還元することも視野に入れている。 Greer氏はこのサイトをきっかけに、世の中に埋もれた優秀なゲーム制作者が発見されるきっかけになればいいと語る。ユーザーの生の声を聞くことができるのはゲーム制作者として大きなプラスになる。特にライブチャットの効果は高いという。 反面、口汚いユーザーが飛び込んでくることもあるし、コンテンツが粗製濫造されてしまう傾向もあり、優良なコンテンツを見つけられなくなる、といった問題が今後の課題だ。 Twofish Founder and CEOを務めるLee Crawford氏は、カジュアルゲームを作る上で、ベンチャーキャピタル(VC:ベンチャー企業に対して資金提供を行なう投資会社)と手を組み、事業を展開する可能性を提示した。インターネットによる新しいコミュニティ空間への注目や、入り口として手軽なカジュアルゲームは投資会社にも注目されやすい。 「しかし、注目されたときではなく、拒絶されたときが本当のチャンスだ」とCrawford氏は語る。なぜなのか、そこで初めて理由がはっきりする。その理由を解消するために努力することが可能となる。VCと関係を作るためにも質の良い少数のチームでアピールしていくことが大事だ。速いペースでコンテンツを作り、わかりやすく収益を上げていくコンテンツ作りを心がけるべきである。 筆者は昨年もCasual Games Summitに参加したが、携帯ゲームやモバイルゲームなどには触れず、PCのダウンロードコンテンツのみを扱う、会場での「カジュアルゲーム」という言葉の範囲の狭さに不満を持った。今年もまたコンソール向けのコンテンツの作り方や、モバイル展開での変更点など、もっと議論すべきではないかと感じた。日本では特にニンテンドーDSの普及によって知育を視野に入れられたカジュアルゲームも多く登場している。また、韓国でも「カジュアルゲーム」とは何なのかその定義を問うコンテンツが出始めている。
特にPS3、Xbox 360、Wiiのオンラインコンテンツとしてカジュアルゲームが大きな役割を担っているところも注目したい。北米のカジュアルゲームも本来はPCというハードには依存しないゲームのはずである。独特のセンスに彩られたユニークなゲーム達がどんな展開をしていくか注目したい。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2007年3月7日) [Reported by 勝田哲也]
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