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ガンホー堀氏、開発基幹システム「Rondo-Framework」を正式発表
アニメGM橘紀菜から始まった4年越しのプロジェクトの歴史と展望

2月22日、23日開催

会場:ベルサール神田

 ガンホー取締役開発本部長の堀誠一氏は、AOGCに3年連続で講師を務める常連スピーカーのひとりだ。2005年はシステム運用面から見たゲーム開発、2006年はソフトウェアプラットフォーム構想と、一貫してオンラインゲーム開発の未来像を提示し続けてきた。AOGCの枠内で、ゲーム開発にこだわり続けてきたのは堀氏だけだ。

 完全自社開発タイトルの投入を控えた2007年のAOGCでは、満を持して開発基幹システム「Rondo-Framework」の概要と共に、「Rondo-Framework」に含まれる自社開発エンジンの一部を公開した。「まだ形になっていないので夢物語に終わるかもしれないが」と謙遜しつつも、一定の達成感を感じさせる講演だった。

 「Rondo-Framework」の基本的な内容については、2月20日に掲載したインタビューで詳しく取り上げているので、ここではあえて繰り返していない。未読の方はまずはインタビューから読み進めてみていただきたい。


■ 伝説の「アニメGM橘紀菜」から始まったプロジェクト「Rondo」

「Rondo-Framework」を発表したガンホー取締役開発本部長堀誠一氏
「Rondo-Framework」の出発点は2003年の東京ゲームショウまで遡る
ガンホーブースでの出展模様。「アニメGM橘紀菜」は単にアニメーションするだけでなく、来場者に向けて喋ってくれた。来場者にも人気だった
 堀氏は、冒頭で「パブリッシャーのガンホー」から、「デベロッパーのガンホー」への質的転換を宣言し、ゲーム開発ではなくコミュニティ論から入った。

 堀氏は、オンラインゲームにおけるユーザーのスーパーエゴの必然的発生というユーザーコミュニティのゆがみの観点から、コントローラブルなサービスプラットフォームの技術的研鑽が不可欠であるという結論を導き出した。この3年間繰り返してきた持論であり、このブレのなさは驚嘆に値する。

 堀氏の「コントローラブルなサービスプラットフォームの技術的研鑽」の出発点は、実に4年前の2003年からスタートしている。つまり、AOGC2005の時には、すでに「Rondo-Framework」プロジェクトはスタートしていたことになる。

 具体的には、2003年の東京ゲームショウのガンホーブースにおいて、「アニメGM橘紀菜」として参考出展していたものがそれだ。ガンホー本社と東京ゲームショウの会場をADSL回線で繋ぎ、本社に対しては会場のカメラの映像を送り、会場に対しては音声データを送る。堀氏によれば、初日はうまくいかなかったということだが、その後は、データ転送時のラグやレーテンシー問題の把握ができたという。

 「アニメGM橘紀菜」は、当時からレーテンシーに関する実証実験と発表していたが、その後インターネット番組やアニメーションでも一部活用されたことから、実証実験結果はそれらプロダクトに昇華されたと考えられていた。しかし、堀氏によれば、これらプロダクトも学習の一環であり、アニメ制作においてもゲーム開発と親和性のある工程はないものかと模索し続けたという。「アニメGM橘紀菜」にしても、インターネット番組にしても、アニメーションにしても、オンラインゲームビジネスのメインストリームから外れた事業に見えたが、実はすべて繋がっていたわけである。

 堀氏は、乗り越えるべきオンラインゲーム開発の壁として、「ゲームモデルとUIの乖離」、「不特定発生事象の考慮不足」、「アップデートの脅威」の3点を挙げた。これは堀氏が弊誌インタビューで述べていたことの繰り返しになるが、中でもアップデートを「脅威」とする見方はおもしろい。

 堀氏によれば、運営側はアップデートが強制されており、必然性が不十分な中で開発が継続されてしまう。安直な回答としてマップやアイテムといったデータ系の拡充を図るが、それをあらかじめ考慮に入れておかないと、初期投資と同等のコストが永続的に発生し、アップデートそのものが苦痛になってしまう。大事なのは「開発上のスケーラビリティを想定しているのかどうか」だとした。そのガンホー側の答えが「Rondo-Framework」というわけである。

今回は、F・テンニースの学説からコミュニティ論を展開した。堀氏のコミュニティ論はあくまでメーカー側のスタンスで、スーパーエゴ論はユーザーからすると違和感がある。コミュニティのゆがみは、コンテンツの消費スピードに対応できない、あるいは対応する気がないメーカー側にも問題がある。「Rondo-Framework」は、その無言の回答という側面もある

各種実験とプロダクトの制作運営経験から多くの壁に気付き、Rondoの骨格が組み上がっていった過程が示されている。ターゲットモデルをもっとも技術的ハードルの高いFPSとした点にも注目される


■ 圧倒的なポテンシャルを持つ各エンジンたち。グラフィックスエンジン「Sphere & N2」はアニメクオリティを実現

「フレームワークは当然のことであり、新しい試みではない」というが、他タイトル、ジャンルに転用可能なオンラインゲーム向けのフレームワークは初の試みだろう
「Rondo-Framework」の構造。オンラインゲーム向けらしく、実装環境がサーバーとクライアントにわかれ、それぞれモジュールやライブラリが付属している。肝心のデータベースまわりはサラッと流されているが、ここにも工夫があると見ていいだろう
 「Rondo-Framework」は、サーバー/クライアントシステムモデル、開発ツール、ライブラリ、モジュールといった開発環境と実装環境を組み合わせた開発基幹システムであり、開発の継続と運営面での効率性、継承性、再利用性などを考慮に入れたスケーラビリティの高い、いわば“オンラインゲーム開発システム2.0”とでも言えるような懐の深いシステムになっている。

 「Rondo-Framework」を採用することによる隠されたメリットとして堀氏はふたつ挙げ、ひとつは開発工程の効率化が図られることでゲーム意匠(ゲームデザイン)そのものに注力できること、そしてもうひとつは開発パートナーとの協業において自社の開発スタンスを明確にできるため、プロジェクトスタート後に生じる開発文化のズレを未然に防げる。結果として開発パイプラインを追加しやすいことだという。

 ただ、堀氏は、任天堂の宮本茂氏に代表されるゲーム意匠ありきで進めるゲーム開発とはまったく逆の「ゲーム意匠はあとからついてくる」というシステム偏重型の思想の持ち主であり、「Rondo-Framework」によって「おもしろいものができるはずだ」という結論を導き出すにはまだ説得力がない。

 続いて堀氏は「Rondo-Framework」を構成する4つの主要エンジンの概要を紹介した。以下、概要を紹介していこう。

・トラフィック制御エンジン“Red-Stone”

 トラフィック制御エンジンは、MMORPGのような大人数同時参加型のオンラインゲームでは何より重要な存在となる。“Red-Stone”は、MMORPGからFPSまでさまざまなゲームジャンルに対応可能で、カジュアルゲームに対しても小規模のサブセットライブラリを構築することで対応できるとしている。

 その特徴はなんといっても同時に管理できるセッション数の多さだ。現状で、FPSの場合で1エリア当たり600人、RPGでは1,800人を実現しているという。目標値はそれぞれ1,000人、3,000人としている。現状FPSの同時対戦が64人程度、MMORPGで数百人程度なのを考えると圧倒的なポテンシャルを備えていることがわかる。

 MMORPGの場合、複数エリアで世界が構築されるため、仮に10エリアだとすると単純計算して30,000人が同時接続可能になる。“Red-Stone”が目指している方向性は、単一サーバーで数万人が同時プレイ可能な超MMORPGの世界なのだろうか。

・インスタントデータトランスエンジン“Trench”

 Trenchはわかりやすく表現するとチャットエンジン。現状では1サーバー当たり1,000セッションを同時処理可能で、目標としては100万ユーザーの同時データ転送としている。現状と目標の単位が異なるのは、セッション当たりの対象人数が増えることを想定しているからだろう。

 その特徴は、プロダクトに依存せず、ゲームの垣根を越えたチャットが可能なところだ。考えられるシナリオとしては、ゲーム内から、ゲームポータル「ガンホーゲームズ」にいるユーザーとのコミュニケーション。あるいは「グランディアオンライン」ユーザーと、「Rondo-Framework」で開発された新規タイトルのユーザーとのチャッティング。“Trench”の採用は、ガンホーコンテンツ内のコミュニティの相互接続を意味する。非常に強力な機能だ。

・ハイブリッドデータトランスエンジン“Wolf-gang”

 こちらはクライアントやパッチ、プロモーションムービーといった大容量データを配信するためのシステム。現状ではマスターノードからの集中配信を想定しているが、ユーザー間でのP2Pのアプローチも視野に入れているという。

 大きな特徴は、パッチの自動化である。パッチの自動化とは、単に内部処理の効率化を示しているのか、プレイ中のアップデートを可能にするのかは不明だが、後者だとすれば極めてチャレンジングな要素で、これが可能になれば、単一エリア内の状況の変化、たとえば驟雨が向こうからやってくる、晴れ間が広がる、海から大津波が襲ってくるといったサーバー側で動的な仕掛けを施すことが可能になる。イベントドリブンからの脱却が、オンラインゲームにおける課題のひとつだが、それがRondoで可能になるのかどうか、期待したいところだ。

・描画エンジン“Sphere & N2”

 そして今回もっとも大きな驚きだったのが、「Rondo-Framework」におけるいわゆるグラフィックスエンジンであるSphereとN2だ。いずれもイラストレーションのような柔らかい3Dグラフィックス表現を実現することを目的に開発された描画エンジンで、ゲームモデルに応じて2種類のアプローチを用意している。

 リアリティの高い高品位のトゥーンレンダリングを実現しているのがSphereで、頭身の低い可愛らしいキャラクタを実現しているのがN2。今回公開されたスクリーンショットは1年前のもので、いずれもボツネタだという。今回は、技術的アプローチを他社に真似されないようにあえて古いものを出したということで、現在はもっと進化しているという。

 この静止画だけではわからないが、「ラグナロクオンライン」でのグラフィックスの追加が作業効率的にあまりに割が合わないものだったという経験をふまえ、効率性も考慮に入れているという。堀氏が狙っているのは、日本が誇るアニメーションをオンラインゲームで実現させるというもの。おそらく「グランディアオンライン」では「Sphere」が採用されそうだが、同作の新しいグラフィックスが公開される日が非常に待ち遠しい限りだ。


 最後に堀氏は、「『Rondo-Framework』には実はまだオブジェクトエディターがなく、おもしろいものが登場するのを待っている」と発言。プロジェクトの思想に賛同して貰えるような開発パートナーを募集する意向を明らかにした。

 「Rondo-Framework」は、すでに「グランディアオンライン」に一部実装されることが明らかにされているが、リリース時期は早くとも2007年第3四半期以降となりそうで、「Rondo-Framework」の実力、あるいは堀氏の開発思想がゲームに反映されるのはまだ先のことになる。同作はゲームデザインやシステムなど、見えない部分は多い。グラフィックス共々、全容が公開される日が非常に楽しみだ。

□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bba.or.jp/
□「AOGC 2007」のページ
http://www.bba.or.jp/AOGC2007/
□関連情報
【2006年2月10日】ガンホー堀氏、次世代のゲームマネジメント構想を紹介
ソフトウェアプラットフォーム構想とそれに向けた取り組みとは?
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060210/aogc_04.htm
【2月22日】BBA、アジアオンラインゲームカンファレンス2007を開催
コミュニティ、RMT、不正行為など、様々な運営リスクに正面から向き合う年に
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070222/aogc_01.htm

(2006年2月23日)

[Reported by 中村聖司]


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