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会場:ベルサール神田
■ メインテーマは「コミュニティ」。日本市場はこれにどう向き合っていくのか?
今年のトピックとしては、「コミュニティ」という明確なテーマを設け、基調講演に、Xbox 360を擁するマイクロソフトの泉水敬氏という、プラットフォーマーが選ばれたことだ。また、初日の22日は「コミュニティ・マネジメントDAY」、2日目の23日は「ビジネス&デベロップメントDAY」と日程ごとに明確にカテゴリ分けされ、参加者にとっても例年より目的に合わせて参加しやすくなっている。 オンラインゲームにおけるコミュニティサービスは、テーブルトーク文化が土壌にある欧米ではオン・オフ分け隔てなく非常に活発に行なわれているが、日本ではここ数年非常に重要視されつつも、クリアな形での定義、あるいは方法論がいまだに確立されていない。オンラインコミュニティサービスを絡めた、いわゆるゲームポータル事業もいまだスタンダード不在の状況だ。それだけに、あえてそこに踏み込んだことは大きく評価できるポイントだろう。 日本には、オンラインゲームコミュニティにおいて、アジア圏にあるようなネットカフェでのコミュニティや、プロゲーマーを頂点としたコアコミュニティ、あるいは欧米にあるようなオピニオンリーダーが牽引する形での大規模コミュニティや、師弟関係の連鎖によるピラミッド型コミュニティのような、コミュニティの“軸”が存在しない。あるのは、シャボン玉のように点在する無数の身内コミュニティと、ファンコミュニティだけだ。 そもそも曖昧な概念であるオンラインゲームコミュニティを日本のオンラインゲーム業界はどのように捉え、どういうアプローチでユーザーを導いていくべきなのか。そろそろ業界としてひとつの指針を持つべき時期に来ているのではないか。
その方向性の一端が示されたのが開幕式だ。毎年、AOGC基調講演の前座的位置づけで重要な提言を行なってきたBBAオンラインゲーム専門部会長の新清士氏は挨拶の中で「オンラインゲームを『ゲーム』と呼び続けて良いのか、『Second Life』をゲームではなく、バーチャルライフと定義づける人もいる。AOGCのコミュニティ関連のセッションから、オンラインゲームの新しい可能性を感じながら、新しい定義となるような言葉を考えてみてほしい」と要望を出した。この2日間で十分に消化できるとは思えないが、オンラインゲーム業界が新しいフェイズに入ったことを実感させる一言だった。
■ さまざまなコミュニティ論が展開された初日。MSのコミュニティー戦略は有料を原則
泉水氏は、「新さんの質問の答えを私が示しましょう。それは“Liveサービス”です」と切り出し、Windowsとの連携、具体的にはXbox Liveサービスを軸に、Xbox 360が展開するコミュニティサービスの全容を披露した。 Xboxのコミュニティ哲学は非常に明快で、1ID、1回の登録で、シームレスなオンライン対戦を含むコミュニティサービスをセキュアな形で提供する。LiveサービスはあくまでXboxユーザーを対象にしたクローズドなサービスだが、エンドユーザーにとってきわめて負担の少ない形で、高度な利便性と安全性を提供している。 すでに発表されているように将来的には、エンドユーザーレベルの開発環境「XNA Game Studio Express」のメンバーが利用するXNAクリエイターズクラブとの融合も計り、体験の共有、感動の共有を目指していく。ビジネスモデルは、Xbox 360本体のゴールドメンバーシップ、そして必要に応じてXNA クリエイターズクラブのメンバーシップフィーを支払うという有料サービスを原則としている。 有料である代わりに、コミュニティサポートに対して、日々のメンテナンスはもちろんのこと、定期的な機能拡充に対しても責任を持つという考え方だ。実際、ゲーマーカードのブログへの埋め込みやメッセンジャーとの連携、視覚的にコミュニティパートナーを検索できるXbox Friendsなど、コミュニティ活動を支援するための機能は、群を抜いている。このスタイルが成功するかどうかは別として、コミュニティに対して明快な答えを出した好例といえる。 一方、過激な発言で知られるAOGC名物講師である魏氏は、今年も「なぜ欧米のオンラインゲームはアジアで沈没したのか」という不必要なまでに過激なタイトルで、欧米とアジア圏のオンラインコミュニティの文化の違いを比較して見せてくれた。 今回、魏氏は、コミュニティ形成について、ゲームのプロセスを重視する欧米は、コミュニティそのものを目的とする一方で、韓国を含むアジア圏は、何より結果を重視するため、コミュニティは手段に過ぎないという見解を披露。その上で「日本はどちらかというと欧米型に近いのではないか」と、物理的な距離感とは裏腹に、日本とアジアの間にはゲーム観に対する深い溝があることを活写して見せた。そのとおりだと思う。 本題である欧米タイトルのアジアの不振の理由について、大前提として開発者がアジアを意識しておらず、さらにゲームの属性、パターン、要素の違い、インフラの制約といった理由を挙げた。唯一の例外事例である「World of Warcraft」の成功要因として、「Starcraft」や「Warcraft」といった過去のBlizzardタイトルの展開経験により、アジア圏の好みを把握したためとしたが、こちらはあまり説得力を感じなかった。 韓国のランキングは、「Lineage」シリーズを除いてカジュアルゲームで埋め尽くされており、大手各社がリリースしているメインストリーム系のMMORPGは思ったような成績を上げられていない。「World of Warcraft」は、「Lineage」シリーズの上位、つまりMMORPGランキングの最上位にいる。このことを魏氏はどう捉えているのか。やはり真の意味でフルスケールフルスクラッチのMMORPGのおもしろさを韓国のゲーマーが支持したと考えるのが一番しっくり来るように思う。
とはいえ、魏氏の韓国人の視点から見た北米ゲーム市場の考察は、非常に新鮮で楽しかった。たとえば、「World of Warcraft」がPCゲーム市場の拡大に貢献し、ライトユーザーのPCオンラインゲームへの認知が進んだとか、ビジネスモデルは月額制が主流で、ゲーム内広告事業も比較的シームレスな形で普及しつつある。アイテム課金制タイトルは、全人種の中でヒスパニック系の女性が多い。「Tabula Rasa」の迷走は、無理矢理グラフィックスを欧米とアジア向けに合わせようとしたため、などなど。魏氏は3月5日よりスタートするGDCでも講演を予定している。そこでは「World of Warcraft」の成功理由なども語られるようだ。
2日目の23日は「ビジネス&デベロップメントDAY」と称して、不正行為や犯罪行為、リアルマネートレード関連の講演、そして待望の自社開発事例などの講演が予定されている。いずれも非常にクリティカルなテーマであり、どのような話題が提供されるのか興味は尽きない。 最後に今年のAOGCで残念だったのは、最大の持ち味であった“アジア色”が大幅に減退していたことだ。昨年までは、「日本とアジアを結ぶアジア規模のカンファレンス」という個性を全面に押し出し、中国や韓国からスピーカーを集め「中国セッション」、「韓国セッション」というカテゴリを設けていたのだが、今年はそれが完全になくなり、日本語一色のカンファレンスになってしまっていた。
もちろん、日本人講師によるアジア各地域との協業事例やアジア展開などを視野に入れたセッションはあるのだが、現地の生の声を聞けなかったのは残念で、これではアジア規模のカンファレンスとは言い難い。アジア各地の講師から、日本の良い面悪い面もどんどん出てくるような、そういう場を期待していたのだが、AOGCの将来像がちょっと見えにくくなってきた印象である。
□ブロードバンド推進協議会のホームページ (2006年2月22日) [Reported by 中村聖司]
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