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会場:トスラブ山王
■ オンラインゲームで飛躍を狙うアドバゲーミング市場
このアドバゲーミングに日本国内でもっとも積極的に動いているのがガンホーで、2005年にドミノピザや明治製菓とのコラボレーションを行なったり、2005年12月より正式サービスを開始した「エミル・クロニクル・オンライン」では、ゲーム内広告やEコマースを行なうような機能を最初から備えている。そして、今年8月3日より正式サービスを開始したゲームポータル「ガンホーゲームズ」によって、ガンホーグループをゲームメディアグループとして位置づけ直し、アドバゲーミングを新たな収益源にすることを宣言した。 こうした流れの中、ガンホーゲームズのサービス開始とタイミングを合わせるように8月31日に設立されたのが株式会社アドバゲーミングで、両社は、直接的な資本関係にはないものの、MOVIDA HOLDINGSおよびテクノブラッドの資本が計49%入っており、ソフトバンクグループ傘下という意味では兄弟会社となる。 今回のセミナーでは、ガンホーグループが推進するゲーム内広告事業における提携パートナーとなるアドバゲーミング社の代表取締役社長 高橋弘氏を迎え、ゲーム内広告の可能性についてプレゼンが行なわれた。一方、ガンホーモードからは、予想された広告プラン、価格設定等の具体的なビジネスプランは一切紹介されず、ゲーム内広告事業における“コンテンツ”となるアドバゲーミングパッケージの概要が紹介されるにとどまった。 高橋氏の講演では、北米最大手のElectronic Artsが「FIFA」や「Need for Speed」、「Sims Online」等で実施してきた“看板型”のアドバゲーミング事例の紹介からはじまり、韓国や日本などの事例も点描しながら、アドバゲーミングの歴史が披露された。過去の事例と、アドバゲーミング社のビジネスが根本的に異なるのは、同社はオンラインゲームのみを対象にしているところだ。そのメリットとして高橋氏は、ゲームの開発後に、あらかじめ想定した枠に対して動的に広告を配信できるという「ダイナミック広告」に向いた“メディア”であることを挙げた。 つまり、既存のオフラインゲームなら、ゲーム制作時に広告のすべての仕様を完全に盛り込んでしまう必要があるが、オンラインゲームであれば、新製品タイミングに合わせたり、特定のセグメントに特化したり、フリークエンシーコントロールが自由自在にできるようになる。言い換えると、インターネット広告のアプローチがそのまま通用するということになる。 高橋氏は、オンラインゲーム内広告の魅力として、量的な魅力、質的な魅力、広告ターゲットとしての魅力、「広告手法」としての魅力という4つの魅力を挙げ、オンラインゲーム広告のポテンシャルの大きさと効果の高さをアピール。その一方で、今後の課題として、効果測定の確立、配信エンジンの開発、そしてユーザーが納得できるメリットと融和施策の創出などを挙げた。魅力はともかくとして課題のほうは、事業を開始するにあたって必ず乗り越えなければならないたぐいの課題であり、講演を聴く限り、インターネット広告のような恒常的な状態になるにはまだ時間がかかりそうな印象だ。 高橋氏の講演は、要するにオンラインゲームは、高い購買意欲と資金力を持つ“ロイヤルカスタマー”を数十万規模で擁しており、画面に対する集中度もTVや他広告媒体と比較しても高い。だから、高い広告効果が見込めるというわけだが、ビジネスモデルうんぬん以前に、オンラインゲームのビジネスのあり方そのものに大きな落とし穴があるように思える。 具体的には、オンラインゲームはユニークユーザー数がわからないことだ。たとえば、「ラグナロクオンライン」は会員数160万人、同時接続者数10万人としているが、会員数は、サービス開始時から現在までの累計登録者数であり、複数アカウント取得者や不正行為者もすべて含まれている。同時接続者数10万人についても2005年第1四半期の数字であり、いずれも実情を反映した数字ではない。 これをそのまま160万人がプレイするオンラインゲームとして理解して出稿してしまうと、費用対効果に大きな乖離が生じてしまうことになる。広告ビジネスにおいて重要なのはユニークユーザー数だが、これが曖昧模糊として見えてこないのは、広告媒体として大きなマイナスポイントだろう。
さらにいえば、実際にログインしているユーザーのすべてが、たとえば母国が出場しているワールドカップの試合ほどの注目度で画面を注視しているかというとそれも実情とはかなり隔たりがあるように思える。「ラグナロクオンライン」が国内におけるメジャータイトルのひとつであることには異論の余地はないが、ユーザー数まわりの実数、実情が見えてこないようでは、広告を出そうにも出しようがない。ここをどうするかは、今後、広告の受け皿となるオンラインゲーム業界全体で考えていく必要があるだろう。 ■ ガンホー・モードの最終的な狙いは包括的なEコマースサービスか
今回初めて公開された「アドバゲーミングメニュー」は、ガンホーゲームズとMMORPGの2つのレイヤーで構成されている。ガンホーゲームズのほうは、ゲームポータルへのバナー広告の出稿という単純な話ではなく、ジー・モードが開発を担当しているFLASHゲームの企業コラボレーションゲームへの活用の提案というもの。 '90年代中頃に、コカコーラやディズニーなどのグローバルメーカーが、自社公式サイトへの誘導をはかるために、現在のFLASHゲームのようなゲームコンテンツを用意するのが一時トレンドになっていた時期があるが、その舞台裏を彷彿とさせる温故知新的なビジネスモデルだ。 中でもユニークなのが、現在、ガンホーゲームズでサービスされているFLASHゲームを「カジュアルゲームテンプレート」として一種のサンプルとしているところだろう。ガンホーゲームズは、見た目上はゲームポータルのようだが、実際はBtoBのビジネスへの活用も想定していることになる。 一方、MMORPGについては、「エミル・クロニクル・オンライン」をサンプルに、看板、ワールドメッセージ、シアタームービー、オリジナルNPC、オリジナルアイテム、オリジナル看板などさまざまな露出先が提案された。ユーザーの導線についても、ガンホーゲームズの存在を活かし、公式サイトやゲーム起動ランチャー、FLASHゲームとの連動を行なうという包括的な構想となっている。 現時点で対象となるゲームコンテンツは、「ラグナロクオンライン」と「エミル・クロニクル・オンライン」の2タイトルで、現在開発中の「ラグナロクオンライン II」、「グランディアオンライン」、「北斗の拳 Online」についてもアドバゲーミングの対象にするとしている。 ただ、現時点では、具体的な価格設定や効果といったデータがなく、それを測定する方法も未確立であり、まずはグループ内コンテンツを利用したテスト出稿によるデータ集めを行なっていくという段階のようだ。実際にクライアント側に具体的な提案が行なわれるのは、かなり先の話になりそうである。 最後にガンホー・モード代表取締役社長 森下一喜氏から、将来の構想が語られた。森下氏がもっとも力説していたのは、オンラインゲームにおけるEコマースの可能性について。森下氏の構想では、オンラインゲームをビジュアルインターネットモールとして活用することを考えており、将来的には「ワンストップ(オンラインゲーム内だけ)で購買まで繋げていく」機能を、主要オンラインゲームに盛り込む考えだ。 森下氏は、「ショッピングをエンタメにする」と切り出し、既存のEコマースサイトを引き合いに出し、「ECサイトではパソコンの前でひとりで買うことになるが、オンラインゲーム上なら仲間とお話ししたり、相談しながら購入できる」とオンラインゲームでのEコマースの可能性を熱っぽくアピール。 森下氏のこの主張は、実は「エミル・クロニクル・オンライン」の立ち上げ時の2005年4月から続いており、ここにガンホーグループが本当にやりたいビジネスが見え隠れする。Eコマース機能がゲーム内に実装されれば、それを目的とした新規ユーザーを獲得できるだけでなく、看板型広告直にモールに結びつけることで、広告効果の向上も期待できる。ユーザーに対しても、たとえば10%還元等の購入特典を設けることで、ゲーム内広告に対する否定的な意見も和らげられるかもしれない。そう考えると、森下氏がEコマースに固執する理由も理解できる。 ただ、問題なのは、Eコマースを目的としない純粋にゲームプレイを目的としたユーザーに対して、いかにゲーム内広告を納得してもらうか、そのための施策だろう。正規の利用料金を払ってオンラインゲームをプレイしているユーザーにとって、広告の表示は単なるノイズに過ぎない。たとえば、広告が表示されるサーバーは月額料金が半額になるなどの実利的なメリットが約束されない限り、ゲームファンは納得しないだろう。 ゲームメディアの立場から見る限り、アドバゲーミング市場は乗り越えるべき課題が多く、ビジネス的なリスクも高い。実装までの道のりは平坦ではなさそうだが、オンラインゲームファンは、Eコマースやインターネット広告に抵抗感のないユーザーが大多数であり、かつインターネット利用者の中で比較的購買力、購買意欲が高いユーザーが多いのもまた事実であり、確かに高いポテンシャルを感じさせてくれる。引き続き今後の両社の動きに注目していきたいところだ。
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□ガンホー・オンライン・エンターテイメントのホームページ (2006年11月29日) [Reported by 中村聖司]
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