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(1) 出展タイトルが大幅に増加
以上が今回のTGSにおける簡単な総括となる。まず出展数に関して言えば、実に133ものタイトルが出展され、去年の80タイトルを大きく上回っている。しかし、なにか寂しい感じがしたのが、大手オンラインゲームパブリッシャーの不在である。 「ラグナロクオンライン」の次期作品「ラグナロクオンライン II」の期待に沸くガンホー・オンライン・エンターテイメントや、「スカッとゴルフ パンヤ」をはじめ、現在7つのタイトルを運営および準備中のゲームポット、「リネージュ II」や「ギルドウォーズ」を展開するエヌ・シー・ジャパンなど現在のオンラインゲームユーザーの関心が集まるタイトルを提供する運営会社の姿がなかった。 逆に、プレオープン開始から10日弱で10万人を突破し、話題を集めた「ファミスタオンライン」や、期待のオンラインFPS「Special Force」を擁するNHN Japan、フォーチューンシステムで話題の「モナトエスプリ」を運営予定のNeoWiz Japan、2001年以来のTGS参加となるガマニアデジタルエンターテインメントなど、ゲームポータル系の出展が目立った。 また、新進気鋭の韓国独立系のパブリッシャーCykan Entertainmentの「PaperMan」や先にご紹介した「Special Force」、「War Rock」など、FPSタイプのオンラインゲームも人気を集めていた。携帯コンテンツでは、従来のコンシューマー系ゲームメーカーの携帯参入に加え、ネクソン・モバイルが「マビノギ」、「メイプル・ストーリー」の携帯版の発表を、KDDIが多人数対戦型のコンテンツを24タイトルも発表するなど、125にもおよぶタイトルが出展されていた。
このように過去最大のオンラインゲーム出展数となったTGSではあったが、ユーザー側はどう見ていたのだろうか? 私が取材を行なったのは、ユーザー来場者が過去最高の約84,000人を記録した9月23日。ユーザーがどういった視点でどういうゲームに興味が向いているかを取材するためであったが、ユーザーの眼は確実に新ハードに向けられており、発表された133タイトルをじっくりと足を止めて見ていたユーザーは少なかったように思う。やはりコンテンツそのもので国産コンシューマーゲームと並べてみるとそのクオリティには歴然とした差があり、お世辞にも市民権を得たとはいえない。 これは今回ガンホー・オンライン・エンターテインメント、ゲームポット、エヌ・シー・ジャパンをはじめ国内ベスト5に入るようなオンラインゲームパブリッシャが出展を見送っていることも大きく作用しているだろう。
オンラインゲームファンの多くは「RO II」の最新情報や、運営がゲームポットに移管された「ファンタジーアース」や「スカッとゴルフ パンヤ Season3」、またTGSの初日22日より体験会が開始されている「ギルドウォーズ」などが気になっていただろう。勿論、大人の都合があるのかもしれないが、それら注目の作品が出展されていないのはなんとも寂しい限りである。 ■ 何故出展しないのか? 大人の都合はどこにあるのか?
(1)来場者の注目が新ハードに注がれるため さらに、今回出展していない大手パブリッシャの多くは、オンラインマーケティングに集中しており、実際に「Google Adwords」や「アフィリエイト広告」に積極的に広告費用を投下している。Google Adwordsは、広告主が検索ワード指定しクリック単価を入力する。検索順位は入札にて決定(高いクリック単価を指定した広告が上位に表示)され、検索のみならず、AdSenseに登録しているサイトにも表示させることが可能。本記事の下部に表示されているのがまさにそれだ。 TGS出展のコスト(装飾を含む1コマ平均150万円程度、合計3,000万円~5,000万円+販促物制作費用)と比較した場合、クリック単価を100円と大きく見積もってみても「Google」で30万クリック~50万クリック、会員登録へのコンバージョンを3%程度とすると、9,000人~15,000人の会員登録を誘導できてしまう。「アフィリエイト」であれば、平均獲得単価を200円と仮定すると、15万人~25万人の誘導ができる試算となる。 こういったことからも、国内パブリッシャがTGSへの出展になかなか踏み切れない要因があるのではないかと想像される。ブランドマーケティングの観点で認知度向上を目的とした出展はありえるが、先ほど紹介したメーカーはすでに十分な知名度を持っている。Cykan Entertainmentのような新興パブリッシャーには良い機会となるが、そうでないメーカーにとっては、あまり出展するメリットが見いだせなくなってきているのではないだろうか。 視点をすこし変えてみる。従来のパッケージゲームのゲームショウでの目的は、会社やコンテンツの認知度向上や、ブランディングをより多くのメディアを通じておこなうことである。つまりいかに印象深く期待感を誘い、発売直後もしくは発売前のタイトルの購買につなげるかが重要となる。 オンラインゲームでは、認知度向上と購買(決済)との中間に「会員登録」という壁がある。またパッケージのような売り切り型ビジネスモデルとちがって「リテンション(継続プレイ、継続課金)」のフォローも重要となる。たとえば、新規獲得に向けた「会場限定簡単会員登録で○○プレゼント」やサービス前のタイトルの場合、以前「エバークエスト II」で実施していたベータテスト参加IDの限定配布なども良い例である。一方、現行ユーザーに対しては「会場限定レアアイテム配布」や「ギルドトーナメント」などゲームイベントを絡めることも重要な話題づくりとなるだろう。
来年以降はオンライン対応の新ハードも増え、オンラインゲームそのものの出展もさらに多くなると予想されるが、従来のパッケージ販売を前提とした展示会から、オンラインゲームを意識した新たなPR合戦に期待したいと思う。その意味で先日おこなわれた「ChainaJoy」や先進国韓国で11月に実施される「G★(G-Star)」などオンラインゲーム系のイベントにも注目していきたい。
■ キッズコーナーにみるオンラインゲーム市場の可能性と今後の課題
今年は、バンダイナムコゲームズが「たまごっちのプチプチおみせっち ごひーきに」、「バトルスタジアムD.O.N」の体験コーナーやタカラの「ワンタメ アイドルパピー」との連携で話題となっているカプコンの「ワンタメ ミュージックチャンネル」や、ロックマン生誕20周年を記念した「流星のロックマン」などに多くの子供たちの熱い視線が注がれていた。 NHN Japanの「ファミスタ」オンラインでは、往年のプレーヤーであろうお父さんとその子供が仲むつまじくプレイしている姿は、とてもほのぼのと感じた。NHNJapanの今後の戦略を占う中で重要となる「子供層の取り組み」に対し、キッズコーナーへの出展は、他のオンラインゲームパブリッシャと違った差別化ができたのではないだろうか。 もちろん、ただ子供向けのコンテンツを提供するだけではダメだ。日本のオンラインゲームの場合、子供向けコンテンツにも大人たちが同居しているのが実情だ。事実ゲーム内でもこれに起因するトラブルも多い。オンラインゲームのアイテム詐欺事件がよくマスコミでも取り上げられているなど、安心して遊べる環境整備は十分とは言い切れない。韓国では年齢別サーバーを設置するなどの工夫をよく聞くが、国民番号のない日本ではこれも難しい。「ネット風営法」など接続時間や入店(ログイン)規制などの法的準備も今後は必要だろう。 中国では新聞出版総署による「ネットゲーム熱中防止開発基準」なるガイドラインが発表され、年末にはシステム導入が義務付けられるなど法整備も進んでいる。このあたりはCERO(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)などでも今後十分に議論されていくこととは思うが、RMT問題と合わせて一刻も早い法整備が必要な分野だ。 オンラインゲームが市民権を得るにはこういった子供層への配慮や、法整備をはじめとした環境準備が大きなポイントであり、ハンゲームはじめ、ネクソンの「メイプル・ストーリー」やバンダイナムコブースで展示のあった「SDガンダム カプセルファイター オンライン」など、子供向けコンテンツを提供及び提供予定の企業の今後の展開に非常に期待したいところである。
■ 各社ともポータル戦略に躍起。次世代機でポータルの行方どうなるか?
今回の出展の中で言えば、豊富なアバターを武器に1,800万人の累計会員数を誇る「ハンゲーム」を擁するNHNJapanをはじめ、GASH決済を中核にMMO系オンラインゲームを提供しているガマニア、新興ながらコミュニティや決済、アバターを連動し統合的ゲームポータルを目指すNeoWizJapan(ゲームチュー)やNETTSの「jgames」などがある。 また、今回のTGSで発表のあったカプコンとドワンゴが共同運営する「ゲーセン・ドット・コム」や、「モンスターハンター フロンティア オンライン」を提供する「ダレット」、SeedCとテクモと共同運営し「War Rock」を提供する「LieVo」など従来のコンシューマーゲームメーカーや携帯系運営会社の参入など、今回出展していない他ポータルを含めゲームポータルブームを予感させる。 一方のプレイステーション 3など次世代機のポータルサービスに関しては、今回のTGSではこれといった新しい情報は公開されていない。すでにXboxでは、Xbox Liveが提供され、PS3も同様な機能提供を示唆している。だがこちらの機能は決済やメールやチャットといったコミュニケーションプラットホーム機能の提供に近く、これはスクウェア・エニックスの提供する「PlayOnline」も同様だ。これらはポータルやコミュニティサービスと呼べるような機能はほとんど備えていない。 次世代機で必要となるポータルサービスは、タイトルとメーカーを股に掛けた横断的な共通認証システムをベースに、ポイント、SNS、ブログ、掲示板、アバターなどの複合的サービスの提供が必要になる。オンラインゲームの提供とコミュニティやポータルとの連携が重要視されている現状で、これらが今後どのように追加され「コミュケーション機能の提供」から「コミュニティサービスの提供」へどう進化させるべきかなど課題は多い。勿論、プラットホームのみ準備してサービス運営は別会社が名乗りを上げるというのもひとつの答えだ。 今後はパブリッシャが提供するポータルがどのように進化を遂げるのか、またゲーム機ベンダーが提供するコミュニケーションプラットホームがどのようなユーザビリティを発揮するのかしばらく目が離せない。このポータルに関する考察は機会があればもう少し掘り下げて論述していきたい。
■ いよいよ腰を上げた? 国内ゲームメーカーのオンラインゲームへの取り組み
またステージイベントでも、オンラインゲームが目立っていた。スクウェア・エニックスは「ヴァナ☆フェス2006」を開催し、あまりの来客にアンケートを中断するほどの人気を集めた。ハドソンは、高橋名人の司会による「ハドソンキャラバン 2006 ボンバーマンカップ」の決勝大会を「ボンバーマンオンライン」を用いて開催し、大きな盛り上がりを見せた。また、変わった試みとしてはコーエーとELEVEN-UPが互いのブース間で「真・三國無双BB」の通信対戦を実施していた。ようやくステージの中心にもオンラインゲームが登場し、本格的にオンラインゲームの認知が国内ゲームメーカーにも浸透したように伺える。 但し、現在出ているタイトルはコンシューマーシーリーズのブランド力に依存したタイトルが中心である。「オンラインゲームにおける目新しさ」の部分に眼を向けてみると、まだまだ海外産オンラインゲームと一線を画するものは出現していない。だが、国内ゲームメーカーがTGSのような場でオンラインゲームのPRを積極的におこなう事は、オンラインゲームユーザー層の拡大という意味で大きな意義があったように思われる。未だ出遅れた感の否めない国内オンラインゲームだが、世界をリードするコンテンツ開発力と新ハードのオンラインゲームの対応など、今後の国産オンラインゲームの出現に大きな期待が高まる。
今年の会場で、ふと気づいたことがある。それは販促物の変化だ。今年行った方はお気づきだと思うが、紙袋の配布は大幅に減少した。海浜幕張駅でも積極的に配布していた「Blue Dragon」と、会場内では「ハンゲーム」の紙袋はよく目に留まっていた。また、販促物全体の配布も例年に比べると今年は少なく、逆に目立ったのはタッチアンドトライを中心としたコンテンツ訴求である。ゲームショウ自体も「モノ」で釣る時代から「コンテンツ(内容)」で釣る時代にようやく変貌しつつある。その意味でTGSも「TGS2.0」へと進化していただきたいとおもう。 というのも、今回のTGS2006は、来場したユーザーに対し、次世代機のやオンラインゲームの魅力が伝わりにくい状況になってしまっていたからである。過去最大来場者数を記録した場内では身動きの取れない通路とタッチアンドトライコーナーに並ぶ多くの列が存在した。これでは、ユーザーに十分な商品の訴求ができるはずがない。 中でも私が特に遺憾に感じたのがキッズコーナーである。非常に貴重でかつ今後のゲーム市場を占う上で重要なコーナーが、なぜか今年は物販コーナーと飲食コーナーの側に設置されていた。それ自体は決して悪い判断ではないが、付随する結果として、キッズコーナーは常に飲食物の臭いが漂い、周りには休憩を取るために地べたに座り込む来場者やコスプレーヤーの姿が目に付いた。 これでは、ゲームの健全性を親御さんに訴えることは難しい。今年のTGSは、次世代機、オンライン、携帯と注目度の高いショウだったのは事実だが、こうした反省材料も確かに存在したように思う。予想以上の出展者と来場者の増加、その結果手狭となった会場配置の苦肉の策であったとは察するが、規模に応じたスペースの確保や分催の再検討など、今回の反省を生かした運営を2007年のTGSに期待したいと思う。
□バックナンバー 【9月19日】「Web2.0時代のオンラインゲームビジネス」その3 オンラインゲーム最大のコンテンツは“ユーザーとコミュニティ” http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060919/online03.htm (2006年10月10日) [Reported by アラン・ブラフォード Photo by 中村聖司]
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