【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

BBA、第10回オンラインゲーム専門部会を開催
コーエー松原氏、「三國志 Online」を例に国際分業の実態を報告

9月19日開催

会場:東京大学理学部1号館中央棟2F小柴ホール



 有限責任中間法人ブロードバンド推進協議会(BBA)の傘下組織オンラインゲーム専門部会は、9月19日、東京大学において、第10回目となる研究会「アジアにおけるグローバルコンテンツ開発。シンガポール共和国における現地法人設立の利点-海外展開により拓かれるデジタルゲーム産業の発展と、その可能性-」を開催した。

 今回の研究会は、第8回に引き続き「デジタルゲーム産業における国際分業」をテーマにシンガポールとの国際分業についての可能性について、2本の講演とパネルディスカッションが行なわれた。

 講演者には、'65年のシンガポール建国以来、アジアのハブとして機能してきたというお国柄からか、シンガポール政府から直々に経済開発庁情報通信メディア局局長のQuek Swee Kuan氏が出席。日本側からは、いち早くシンガポールに現地法人を設立したコーエーからオンラインゲーム担当執行役員の松原健二氏が出席した。共に支援側、設立側の立場から、シンガポールでの子会社設立の優位性を説いた。


■ シンガポールは成熟したゲーム文化を背景に、一大開発拠点化を推進

挨拶を行なうオンラインゲーム専門部会部会長の新清士氏。会場では来年のアジアオンラインゲームカンファレンス用のアンケートも行なわれた
「シンガポールにおけるデジタルゲーム産業・現地法人設立の利点」の講演を行うシンガポール共和国政府経済開発庁情報通信メディア局局長のQuek Swee Kuan氏
 シンガポールは、2002年の日本とのFTA(自由貿易協定)締結以前から、製造、金融分野の大企業を中心に国際分業が進められてきた。これは日本だけでなく、世界的な傾向であり、シンガポールは税制優遇制度や物理的な立地の良さ、優れたインフラ設備といった要素から、国際企業のアジアパシフィック地域の拠点として利用されてきた経緯がある。

 ただ、ゲーム分野に関して言えば、現在、国際分業のメインストリームとなっているのはなんといっても中国であり、今後はタイ、ベトナムといった東南アジア、そしてインド、ロシアといった新興市場に熱い注目が集まっているのが現状である。

 一方、シンガポールは、国としての小柄さを活かし、常に時代の変化に素早く対応し、対外的には国家間の経済協定の締結および関税の撤廃、国内ではインフラや人材育成に大きな力を注いできている。従って国としてはすでに先進国の水準にあり、そのため国際分業における大きなうまみのひとつである人件費の圧縮には結びつかない。ことに国境が意味をなさないオンラインゲーム市場では、そのメリットはますます薄くなってしまう。

 「なぜ今、シンガポールなのか?」という問いは、私だけでなく、おそらく出席者全員に共通するものであり、Quek氏の講演も「なぜ?」に対する答えに多くの時間が費やされた。

 Quek氏がアピールしたゲーム産業におけるシンガポールの強味は、意外にも「ヒューマンリソース」だった。シンガポールはわずか400万人ほどの小国だが、人口の約25%にあたる100万人がオンラインゲームユーザーだという。オンラインゲーム利用率の高さは、中国、韓国についでアジアで3番目ということで、最大規模のオンラインゲームは「メイプルストーリー」の55万人(マレーシアを含む)と、日本を上回る同時接続者数を誇る。

 ここからの動きがおもしろいのだが、シンガポールでは「いいゲーマーがいい開発者になる」という考え方のもと、ゲームをオフィシャルスポーツとして認定し、いわゆるe-Sportsを積極的に支援している。これはCPLのアジア大会やWorld Cyber Gamesの開催実績がその背景にあるものと思われる。

 Quek氏は、そのほかにも緩やかな移民法による優秀な人材の流入やIP(知的財産権)保護の優秀さを挙げたが、前者はまだまだ時間が掛かるし、後者に関しては自国内はともかく、海峡を挟んで隣にあるマレーシアからの海賊版の流入が多数報告されており、あまり参考になる情報とは言い難い。

 Quek氏は結論として、シンガポールが全国的にゲーム文化が成熟していることをアピールし、現地人によるゲーム開発を極めて行ないやすい環境であることを強調。また、新しいものを好む国民性からアーリーアダプタ層が多いため、オンラインゲームのテストの場としても有用という新手の提案も飛び出した。

 厳密にβテストだけというのはオンラインゲームのビジネスモデルとしてあまり現実的ではないにしても、国の幹部が、「自国の優秀なインフラとヒューマンリソースを使ってテストをしてください」と言う国はシンガポールぐらいのものだろう。立ち位置として非常にユニークな国である。

【シンガポール法人を置く企業】
デジタルゲーム産業では、コーエーとElectronic Artsの2社が代表的な存在。映像関係ではLucasfilm Animationがアジアパシフィックの拠点をシンガポールに置いている

【なぜシンガポールなのか?】
デジタルゲーム産業におけるシンガポールの強味を箇条書きしたスライド。Quek氏によれば、法人税は通常20%だが、10%、5%、場合によってはゼロまで下がるという


■ KESは「三國志 Online」開発終了後も継続。アジア展開の運営拠点になるか?

「コーエーのグローバル戦略・シンガポール現地法人設立の狙いと成果」と題した講演を行なうコーエー執行役員松原健二氏。シンガポールでのアジア全域オペレーションの可否は、国家間を物理的に繋ぐインターネット回線の帯域の精査が先だという見解を示した
コーエー4作目のMMORPG「三國志 Online」は、シンガポールで開発されている。プロジェクト立ち上げの段階からアジア展開を前提にするのも同社初のケースとなる
最後にパネルディスカッションでは、オンラインゲーム専門部会副部会長の中村彰憲氏をモデレーターに、シンガポールに法人を設立することのメリットが改めて強調された
 コーエー松原氏の講演では、2007年春正式サービス開始予定の次期主力MMORPG「三國志 Online」の開発スタジオであるKoei Entertainment Singapore(KES)の例を中心に、シンガポール法人の現状が報告された。同社のシンガポール法人のまとまった情報が公開されるのは、今回が初めてのケースだ。

 松原氏は、まず世界に点在するコーエーの海外法人を紹介。現在、コーエーは海外法人が10カ所にあり、その中でもシンガポール法人は最大規模となる約80人のスタッフを擁している。同社は、従業員約500名、売り上げ280億円弱と、国内メーカーとしては中規模だが、その中では比較的海外事業に積極的なゲームメーカーといえる。

 松原氏は、海外法人の役割について、「本社開発の一部をアウトソース」、「現地市場への技術支援」、「オリジナルタイトルの開発」の3つを挙げ、中でももっとも事業として難易度の高い「オリジナルタイトルの開発」を担当しているのが、KESとカナダにあるKoei Canadaの2拠点であることを紹介。先述したようにシンガポール法人は2004年11月に設立され、「三國志 Online」が開発されている。一方、Koei Canadaは、CGのアウトソース先として2001年6月に設立され、現在はプレイステーション 3向けアクションレースゲーム「Fatal Inertia」が開発されている。

 さて、本題であるシンガポール法人設立の狙いについて松原氏は、オンラインゲーム産業がアジア地域で今後も順調な成長が見込めることを背景に、シンガポール経済開発庁(EDB)によるデジタルメディア産業支援による国からの強力なバックアップ体制を挙げた。

 EDBのデジタルメディア産業支援は、今後10年間で約700億円の投資を柱にしているが、中でも松原氏は枠組みだけではなく、現地法人設立後の継続的な支援を大きく評価。また、日本最初のFTA(自由貿易協定)締結国であり、国交樹立40周年という良好な国際関係も少なからず影響を与えたようだ。

 続いて松原氏は、シンガポール法人設立までの大まかな動きを紹介。よく知られているように、コーエーは2002年にシンガポール政府と提携し、2003年よりシンガポール人研修生の受け入れを開始している。この受け入れでは21名の研修生が、最大18カ月日本に滞在して松原氏の第4部でオンラインゲーム開発に従事している。2004年11月に設立されたシンガポール法人では、このときの研修生をすべて中途採用として雇い入れている。

 現在シンガポール法人で開発が進められている「三國志 Online」は、本社の下請け事業ではなく、KES独自のプロジェクトであり、10名の日本人出向者を各セクションの責任者として据え、現地スタッフを中心に80人体制で開発が進められている。

 とはいっても完全にKESのみでプロジェクトが完結しているわけではなく、KESは企画、プログラミング、CGなどコアの部分を担当し、ネットワークエンジンやサウンドなどは日本に委託し、さらにCG作業の一部を中国北京の子会社に委託しているという。予算については「やっぱり10億円規模になるのではないか」と、日本とあまり変わらないことを匂わせた。なお、ゲームの具体的な内容については、改めて開催される発表会で明らかになる模様だ。

 松原氏は、実際に法人を運営してみて気づいた問題点として、「言葉の壁」と「仕様外の仕様」の2点を挙げた。いずれも国際分業ではよく話題になるテーマだが、言葉については英語、日本語のレッスンを社内で開催し、仕様外の仕様については短ピッチでマイルストーンを設定し、そこで結合テストを行ない、わざとプロジェクトの問題点が浮き彫りになるようにして解決したという。

 また、松原氏の出張時は、出向スタッフの愚痴を聞くことも大事な仕事のひとつだという。現地スタッフの生の声を聞くため、5~10人と毎回ランチョンパーティーを開くという。シンガポール人は、日本人にも似て休日出勤もいとわず、他のアジア諸国のスタッフに比べると大人しいという。ただ、文化としてモノ作りに慣れていない部分もあり、「なぜ毎日遅くまで働くのか?」という素朴な疑問も出てきたりするという。

 逆に良かった点として、スタッフのほとんどが現役ゲーマーであり、かつ公用語の英語に加え、中国語も話せることから、中国・台湾市場の最新情報のキャッチアップが早いことを挙げた。意外なところでは、生活環境の良さが紹介された。松原氏は、自身の海外駐在経験とも照らし合わせ、初の海外駐在でも早期に仕事に集中できる環境が整備されていることをメリットを再三強調した。

 最後に松原氏は、シンガポール法人の今後の展開について、海外サービス運営支援やオンラインゲーム以外の他プラットフォームへの展開について意欲を見せた。海外サービス運営支援については、本社運営部門と連携しつつ、「三國志 Online」の海外展開の際に必要となるゲームポータルの設計および運営を行なう構想を明らかにした。

 肝心のオンラインゲームの運営に関しては、シンガポールにサーバーを置き、アジアにおける物理的な運営/開発拠点とするのか、あるいは従来のように運営は現地パブリッシャーに任せ、シンガポール法人はそのオペレーションのみを担当するのかは「まだコメントできない」ということだったが、現地に運営部隊を持つ以上、自社運営に踏み切る公算が高い。

 仮にそうなれば、日本からワールドワイドの運営を行なっているスクウェア・エニックスともまた異なる日本とアジアに二分化した新しいオンラインゲーム運営モデルが確立されることになる。松原氏によれば、「三國志 Online」について「来春サービス開始へのゴールが見えてきた」とコメントし、開発が順調に進んでいることを伺わせてくれた。引き続き今後の動きに注目していきたいところだ。

【「三國志 Online」の開発体制】
「三國志 Online」は、シンガポール法人だけで80人体制で開発が進められている。今回紹介された問題点や良かった部分は、ゲームにどう影響するのかが注目されるところだ



□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bbassociation.org/
□関連記事
【2006年7月10日】BBA、第8回オンラインゲーム専門部会を開催
国際分業の要は“ブリッジスペシャリスト”の確保
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060710/sigog08.htm
【2004年7月26日】オンラインゲーム専門部会第2回研究会レポート
中国オンラインゲーム市場の特異な実態が明らかに
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040726/sigog2.htm
【2004年6月21日】SIG-OG、オンラインゲーム専門部会特別講演会を開催
コーエー松原氏「開発費回収のために海外展開は必然」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040621/sigog.htm

(2006年9月19日)

[Reported by 中村聖司]



Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.