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会場:San Jose McEnery Convention Center
Garriot氏は「ウルティマ」シリーズでプレーヤーに「世界を救う」体験を提供した。氏はゲームに限らず仲間と目的に向かって努力するのは特別な充実感をもたらすと考え、NPCの仲間と冒険することで擬似的な孤独ではない戦いへのアプローチを行なった。世界的なヒットとなったMMORPG「ウルティマオンライン」は目的に向かって努力する人々が実際の人間だったら更に素晴らしい体験ができるだろうと生み出された作品だ。 MMORPGを生み出したGarriot氏は、オンラインゲームでは不満を感じるようになった。ソロプレイではプレーヤーは特別な存在であることを強く意識できるが多くのプレーヤーと平等な関係にあるオンラインゲームではプレーヤーはありふれた存在であり、世界を救うような体験もできない。Garriot氏は次の作品として、マルチプレイとソロプレイの融合を目指してアイデアを構築していった。 Garriot氏は韓国のメーカーであるNCsoftに移籍し「Tabula Rasa」の開発に着手する。氏は様々なゲームに関わったトップクリエーター達によって「Tabula Rasa」を制作しようと「ドリームチーム」を編成する。 しかし、ここに実は「陥りやすい罠」の最初の1つがあった。厨房に複数の料理長がいた場合、優れた料理はできるかというと、必ずしもそうではないのである。各部門に優れたクリエーターを配置し、分担も行なったのだが責任の取り方の上で齟齬が生じてしまった。コミュニケーションの問題や、それぞれが持つセンスの問題で結局うまくいかなくなってしまった。 アジア(韓国)との感覚の違いも浮き彫りとなった。「会議の時に公の場で反対意見を言うことはアジアではタブーだったのだが、私はそれを知らなかった」とGarriot氏は語る。また、欧米のヒーローは筋肉質で力強いが、アジアではそういった人は頭が悪いように見られる傾向がある。欧米人から見れば、ひ弱そうな理知的なヒーローを好む傾向があるという。 建物などのデザインでも認識の違いが生まれた。Garriot氏はアジア的なカーブある屋根の建物などを制作したのだが、韓国の人々から見るとそれは「歴史」が感じられない奇妙なものに見えてしまうという指摘を受けた。 またGarriot氏は100年以上前の繊細で華やかなアールヌーヴォーの文化が独自に発展したような世界観を作り出したのだが、これはアメリカの人に受け入れられなかった。独特の未来の感覚を持ったキャラクタデザインや服装は、男性キャラクタは特に奇妙な感じを生んでしまった。華麗な服装に身を包む戦士達が楽器を武器に踊るように戦う世界観は、Garriot氏は現在も気に入っているのだが、プレーヤーを説得することができなかった。 技術的な問題も開発を続けていく内に明らかになっていった。開発当初は作品を早く出すために既存のゲームエンジンを使うようにしたのだが、結果としてやりたいことのできない制限の多い、貧弱な表現しかできなくなってしまった。結局高品質のオリジナルゲームエンジンを作らざるを得なくなったのである。 ゲームエンジンと共に、Garriot氏は「Tabula Rasa」を全面的に作り直すことを決断する。アールヌーヴォー的な世界は人類に敵対するエイリアン側に限定し、プレーヤーキャラクタは銃器などを使う“現実的”なものにする。アーティストはトップの才能を持つ者を起用するが、スターチームはとりやめる。最終的にはコードの75%、アートの100%、20%の才能のあるスタッフ、50%のデザインを一新した。 コンセプトは従来のものをより強化していく。MMORPGに見られるだらだらしたプレイ時間から、30分で区切りを持ったプレイサイクルにすること、ストーリー性を明確にして経験値稼ぎ中心のプレイから脱却することなどである。プレーヤーは人類の住む惑星を侵略しようとするエイリアンを撃退する戦士であり、その戦いの中で仲間達と共に特別な存在であり、戦争の鍵を握る人物であることを強く意識することができる。 現実的な世界観、説得力のあるコンセプトを生み出すことで、スタッフ達も自分が何をするかがわかってきた。Garriot氏はプロジェクトを見直すことでゲーム開発のスピードそのものも上昇したことを発見したという。現在「Tabula Rasa」は北米だけではなく、中国や韓国のスタジオでも分散して開発されている。ボリュームとテーマの一貫性を両立するためにアウトソーシングの管理も積極的に行なっている。 「ゲームはベテランだけでも、トップアーティストだけでも作ることはできない。ベテランと初級者のコンビネーションが必要である。作品は多くの人が認め、多くの人が好むものにしなくてはいけないが、それは、ハイエンドのアートツールによる芸術的に進んでいるセンスによって実現する」とGarriot氏は語った。 氏はここで突然「ところでここからは“Symbolic Communication”について語っていきたいと思う」と話題を転じた。「ウルティマ」では“Runic”という文字を使ったのだが、これはローマ字の先祖を変換しただけで他の言語圏の人達がこれを解読するには一端英語にしなくてはいけなかった。 「『Tabula Rasa』の文字は中国の古代文字や手話などを参考にしてシンボルによる表意文字になっている。例えば距離を示す基本文字に点を置くことで、遠くや近くを表現する。現在の言語体系によるものではなく、アメリカ人も韓国人も平等に法則を学ぶことで自国の言語に変換可能なのだ」
そう言ってGarriot氏は物語の書かれた文章を見せた。「ここの棒が離れているから“昔”で、人が二人立っているから“私達”……」と語る氏の表情はとてもうれしそうで、ゲーム開発の苦労とこれからのアドバイスを語っていた時とは全く違う印象を受ける。自分の世界を持ちそれをアピールする、独自のセンスで世界を構築していくこれこそ“Lord British” だと、思わせる雰囲気があった。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2006年3月24日) [Reported by 勝田哲也]
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