Richard Garriot氏インタビュー
新作「tabula rasa(タビュラ・ラサ)」、「リネージュ2」に迫る!

2月28日 収録(現地時間)



 「ULTIMA Online」の開発後、ORIGINを退社し、現在は「リネージュ2」の開発に関わっているとされるRichard Garriot氏に、「D.I.C.E.Summit」において個別インタビューを行なった。


編集部:現在携わっているプロジェクトについて教えて下さい

Richard Garriot(RG):すでに開発が開始されてから9カ月が経過したが「tabula rasa(タビュラ・ラサ)」を開発している。ラテン語で文字の消された石版という意味で、白紙状態という意味もある。私はご存じの通り(笑)、「ULTIMA」シリーズの制作を行なってきたわけだが……。

編集部:タイトルは「もうすべてを振り出しに戻して新たなものに挑戦したい」という意味を引っかけている?

RG:その通り。開発が進むごとにどんどん進化しているので、「こんなゲームだ」と言い切ることができないのだが、もっとも基本となるコンセプトについては決定している。それは「中世や剣と魔法の世界を舞台にしたゲームではない」ということだ。

編集部:それは意外だ(笑)

RG:みんなそういうよ(笑)。ファンタジー(幻想)的世界ではあるが舞台は近未来で地球上ではない。地球上の近未来的な世界観を多分に取り入れたものになってはいる。
 これまでのMMORPGというのは、たとえ時代設定が中世だとしても現実世界の再現を行なおうとしているものばかりだった。我々が今、タビュラ・ラサでやろうとしているのは現実世界の再現ではなく、いうなれば「ゲーム世界」なのだ。

編集部:ちょっとイメージがつかみにくいのだが

RG:それではイメージしやすいように表現しよう(笑)。ゲームシステム的には「ULTIMA Online(UO)」や「Ever Quest(EQ)」のようなMMORPGにシングルプレーヤー的ゲーム展開を盛り込んだものという感じか。
 もっとたとえるならばテーマパークだ。といってもゲームのビジュアルがテーマパークライクというわけではない。メタファとしてテーマパークに近いと捉えてほしい。

編集部:うーむ。難しい

RG:たとえばディズニーランドのスペースマウンテンに乗ったとしよう。その場合、自分以外のコースターに乗っている乗客のことなんか気にしないで楽しんでいるだろう。そのアトラクション自体が自分専用という感覚で楽しんでいるはずだ。これをオンラインゲームでやろうとしているのだ。
 たとえば、タビュラ・ラサでは、プレーヤーが街から飛び出して冒険に出発したとすると自分専用の冒険が楽しめる……という感じなのだ。
 冒険のシナリオは冒険者のパーティごとに与えられ、そのひとつひとつが非常に物語性の高いものになっている。

編集部:なぜこのようなシステムを考えたのか

RG:「UO」のようなMMORPGを例にしてみよう。あるパーティが、とあるダンジョンに入って冒険したとする。すでにそのダンジョンに別のパーティが入り込んでいたとすると、すべてのモンスターは倒されていて、宝物は取られ尽くしていることになるだろう? これはゲームとして非常におもしろくない。
 だから、プレーヤーごとに独立した冒険を与えてやる必要があるのだ。

編集部:するとプレーヤー間の結びつきが楽しさの大部分を占めるオンラインゲームの意味合いが薄れてしまうのではないか?

RG:それについては、各パーティはそれぞれの冒険の中で、ストーリー展開上の必然性を持って遭遇するようになっているのだ。そうすれば物語もドラマチックになるのが想像がつくだろう?

編集部:たしかにその通りだ

RG:シングルプレーヤーのドラマチック性とオンラインゲームの一体感の両方が楽しめる……というイメージだろうか。
 しかし、タビュラ・ラサでは、街のような場所ではプレーヤー間で自由にコミュニケーションが行なえる一般的なMMORPG的なものになる。だからここでは、一緒に冒険に出る仲間を捜したりはできるので、ここでもプレーヤー間の結びつきは楽しめるはずだ。

編集部:装備の買い物なども街で行なえる?

RG:そう。ひとたび冒険に出てしまうと以後のゲーム展開は完全に与えられた筋書き通りに展開するので、アイテムの売買等も筋書きの範囲内でしか行なえなくなる。

編集部:すべての冒険は自動生成されるような仕組みになるのか?

RG:いや、そうではなく基本的には「我々開発側が作り込んだシナリオ」のスタイルを取る。
 実際のシナリオは、ふたつのタイプからなるイベントの多様な組み合わせから成り立っているといえる。
 1つは戦闘キャンペーンのようなものを挙げることができる。プレーヤーとプレーヤー、あるいはパーティとパーティ同士がぶつかり合うようなイベントだ。こうしたイベントでは、先ほど言ったように各パーティが物語進行における必然性を持って遭遇することがある。
 もう一つは完全に仕込まれた筋書き通りに進行するイベントだ。

編集部:タビュラ・ラサは3Dベースのゲームになるのか

RG:その通り。我々は「Dark Age of Camelot」等でも使われている「NetImmerse」エンジンのライセンスを取得して、これをタビュラ・ラサ用にカスタマイズして開発を進めている。

編集部:ビジュアルのスタイルはどんなものになっているのか

RG:まだどんどん変化している。全く新しいものを作り出そうとしているので試行錯誤をしている段階なのだが、あえて例を挙げるとしたら「Mist」に近いといえるかもしれない。「Mist」に似ているという意味ではなくて、その独特な世界観が……という意味でだ。

編集部:発売はいつになる予定か?

RG:以前、完成までに3年は掛かると言ったことがあった。あれから9カ月が過ぎているので2年後ということにしておこう(笑)。ただし、テストプレイは1年後から始めることを目指している。


「今日は実は朝から夜までずっとインタビューなんだ。GAME Watchが一番最初なんだよ」とRichard Garriot氏
Gariotto氏のゲームデザイン思想について

編集部:あなたはオンラインゲームの創始者的存在でありながら、シングルプレーヤーを非常に重視した姿勢を貫いているように思えるが

RG:私が「UO」を作ったそもそもの動機は、それまでの「ULTIMA」シリーズを友達とプレイできたらどんなに楽しいか……というところにあった。
 しかし現在マルチプレーヤーゲームの多くはシングルプレーヤーの楽しさが提供できていない。それはゲームの最終目的が見えてこないのと、ゲームを進行させていくことで得られる報酬がはっきりとしないのが問題になっていると思う。

編集部:具体的に言うと?

RG:たとえばシングルプレーヤーゲームではプレーヤーは世界を救ったヒーローになれる。付け加えれば達成感が得られるわけだ。
 しかし、多くのMMORPGではこの達成感が得られないし、みんなとプレイしていることの楽しさはあっても自分が特別な存在であるというヒロイズム的な感覚を持つことができない。シングルプレーヤーゲームの強みはここにあると思う。タビュラ・ラサではそうした感覚をMMORPGに盛り込むことを目的としている。

編集部:最近ではそうした良作のシングルプレーヤーゲームには出会えたか?

RG:2、3日前に「Medal of Honor:Allied Assault」をプレイしたが、あれはよかった。FPSではあるが非常にシナリオがよくできていて、あれこそアドベンチャーゲームといえるのではないだろうか。

編集部:オンラインゲームにはない楽しさというわけか?

RG:そう。「UO」も、「EQ」も「Asheron's Call」も、MMORPGはある意味、混沌としている部分を持っていると思う。

編集部:その混沌さがよいという人もいるようだが……?

RG:それには賛同しかねる。一つのゴールに向かってお互いしのぎを削るようなゲームというのは非常に達成感があるのに、今の多くのMMORPGは敵意に満ちあふれていて何をしていいかよくわからないのが多い。ゴールが見えないし報酬も明確なものがないから、意地悪な言い方をするといつまでプレイしても達成感が得られない。
 まだ、MMORPGは黎明期なんだと思う。あと5年、10年たつと、そのあたりの問題も解決されるんじゃないだろうか。

編集部:MMORPGはともかく、ロールプレイングゲームというジャンルについてはどう思うか

RG:自分はロールプレイングゲームというものは大きくふたつのタイプに分けられると考えている。
 1つは役割を演じるゲームだ。大統領でもいいし、とにかくその役になりきることが楽しめるゲームだ。意外にもこのタイプのゲームには良作は少ない。
 最近の作品で素晴らしかったものをあげるとすれば「THIEF」だろう。あれをRPGとくくる人は少ないと思うが、役割を演じ、THIEF(泥棒)の行動を疑似体験できるという意味ではまさしくロールプレイングだった。先ほど挙げた「Medal of Honor」もノルマンディ上陸作戦に参加した兵の役割を演じるという意味ではFPSではあるが、ある意味ロールプレイングだといってもいいと思う。
 自分はこのタイプのゲームを「純粋なロールプレイングゲーム」と呼んでいる。

編集部:もう一つは?

RG:ふたつ目は、私は「ロールプレイングアドベンチャーゲーム」と呼んでいるジャンルだ。これはアイテム等を効果的に使ったり、パズルを解いて物語を進行させていくタイプのゲームだ。例としては「Diablo2」、「ゼルダの伝説」などが挙げられる。
 最近の多くのゲームはこれらのふたつのハイブリッド的作品が多くなっている。最近の「ファイナルファンタジー」シリーズなどはその最たる例だろう。

編集部:いろいろなゲームを分析しつつプレイしているようだが、どのくらい普段ゲームをプレイしているのか

RG:ここ数年はあまり興味を引くものがなかったのだが、「Diablo2」はここ数カ月ほとんど毎日プレイしている。「Medal of Honor」は2、3日前に知ったが、これからもプレイすることだろう。
 そのほかはちょっとさかのぼって「ALICE IN NIGHTMARE」、さらにさかのぼって「COMMAND&CONQUER」、「WARCRAFT」、その前になるとアップルのごく初期の「SUNDOG」などになる。振り返ると本気で私を夢中にさせたゲームは少ない。

編集部:そうしたゲームはどうやって見つけたのか

RG:主に自分のスタッフがプレイするのを見て。必死になってやり込んだゲームは数少ないが、カジュアルには一通りゲームを楽しんでいる。「Unreal2」などは毎日自分たちのスタッフと対戦している(笑)。

編集部:ちょっと話題を変えて。ゲーム制作時に、もっとも時間を費やすのはどんな部分か?

RG:答えるのに難しい質問だ(笑)。まず制作前だと優秀なプログラマやデザイナーを見つけるところだろう。そうした人材に巡り会うことはなかなか難しいが、幸運にも私はそうした優秀なスタッフと巡り会うことができた(笑)。
 実際のデザイン時に苦労するのはたとえば戦闘だろう。ゲームのジャンルにもよるが、一般的なゲームではプレーヤーがプレイ中もっとも多くの時間を費やす部分だ。この部分が楽しくなければゲーム全体が楽しくなくなってしまう。


「リネージュ2」には「Unreal」のテクノロジーが使われる?

編集部:日本には非常に多くのあなたのファンがいて、みんなが「リネージュ2」にどの程度関わっているのかを知りたがっているのだが

RG:結論から言うと、当たり前だがリネージュ1よりも2の方がより大きく関わっている。
 リネージュ1のオリジナル開発者であるJake Songはたびたびテキサス州の私の元へやってきて開発を行なっている。Jakeはタビュラ・ラサの開発にも参加してもらっていて、同じように私はリネージュ2の開発に参加している。言ってみればリネージュ2、タビュラ・ラサ両タイトルとも相互共同開発的にプロジェクトが進んでいる。

編集部:なぜそのような開発スタイルになったのか?

RG:結論から言えばマーケティング戦略的な面からだ。
 欧米、韓国、日本というのはゲーム市場規模として非常に大きい。この3つの地域で成功させることが、全世界での成功につながると考えている。
 この3つの地域はゲームに対する考え、そしてゲームプレイ環境が微妙に似つつも微妙に異なっているのだ。Jakeと私はこの違いを理解し、克服するために密接な関係を持って相互に意見を交換しているというわけだ。

編集部:リネージュが成功した秘訣はなんだと思うか

RG:城の攻略という要素だろう。その他のMMORPGがゲーム性の部分で戦略性が全くなかったのに対して、リネージュはあの要素のおかげでプレーヤー間に有機的な戦略を生み出させた。あれは単純明快だが素晴らしいアイディアだった。

編集部:リネージュ2はどんなゲームになりそうなのか

RG:まだ非常に開発の初期段階なので、どんなゲームになるということはいえない。あと開発に2年くらいは掛かるだろう。
 今いえることはフル3Dになると言うことだけだ。

編集部:リネージュ2に使用されている3Dエンジンは新しいもの?

RG:その通り。いくつかのテクノロジーは「Unreal」からライセンスしてもらうことが決定している。


なぜゲームを作り続けるのか?

編集部:もうお金は稼げるだけ稼いだはずなのになぜまだ働き続けるのか?(笑)

RG:幸運にも「UO」で成功を収めることができて、「リタイアして遊んで暮らせばいいのに」と言われることもある(笑)。
 しかし、コンピュータゲームというものの進化が止まらない以上、興味がわき続けてしまうのだから仕方がない(笑)。きっと進化が止まったらそのときにはきっと引退するだろう(笑)。

編集部:まるで科学者的な思想だ

RG:全くその通り。テクノロジーの進化に携わっている自分がいる以上、その場から離れるなんて考えられないわけだ。

編集部:最後に日本のファンに向けてメッセージを

RG:ORIGINを退社し1年間のオフの間に日本人プレーヤーとの関係がちょっと断ち切れてしまった感がある。しかし、現在開発中のタビュラ・ラサは日本のファンの意見を採り入れた素晴らしいものにするつもりだ。期待していてほしい。

(2002年3月1日)

[Reported by トライゼット 西川善司]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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