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会場:XPEC本社会議室
こうした状況下の台湾ゲーム市場で、オフラインゲーム、しかも、PCプラットフォームが依然としてメインストリームの台湾ゲーム市場において、コンシューマゲームを開発し続けているデベロッパーが存在する。ナムコやアイデアファクトリーとのコラボレーションで、日本でも知名度のある台湾のデベロッパーXPEC Entertainmentである。 XPECは純粋なデベロッパーとしては大所帯で、台湾だけで128名を擁し、この他に日本、上海、北京、そして蘇州に開発スタジオを持ち、全体では300名近いスタッフを抱えている。 今年XPECは、Taipei Game Showの出展を見送ったため、今回は、台北市南京東路二段に本拠を置くXPEC本社に赴き、CEOの許金竜氏に、XPECの事業戦略を伺ってきた。
■ コンシューマタイトルにこだわる異色の台湾メーカーXPEC
許氏: 私は生まれてから学校もずっと台湾です。ただ、XPECを設立してから手がけた作品は、すべて日本語版か、英語版ですし、これまで台湾や中国をメインターゲットとして開発した作品はありません。日本やアメリカ以外のメーカーが、日本や欧米の市場にゲームを作るのは難しいことです。XPECは他の台湾メーカーより難しいことにチャレンジしています。 私達が欧米や日本市場にチャレンジする理由は、台湾市場向けにゲームを作っても、市場規模の上で生き残る事ができないからです。特にXPECはコンソールゲーム機向けにゲームを作っていますが、台湾のコンソールゲーム市場はあまりに小さいのです。このため、難易度は高いですが、欧米、日本市場向けに作品を作っているのです。 実は昨年、中村さんにお会いしてから、良いことが続きました。そのひとつが、「HELLO KITTY MISSION RESCUE」がアメリカでなかなか好評で、Family.comというポータルサイトで、6~9才のユーザーが選ぶゲームNo.1に選ばれました。コンソールゲーム機と、携帯ゲーム機のソフトの中から選ばれたのです。他の上位タイトルには、任天堂、Vivendi、Activisionなど大手メーカーが並んでいました。この3社とならぶことができたのは、光栄でした。 編: XPECさんは設立が2000年ですが、それ以降にGamaniaの「リネージュ」や、Softworldの「ラグナロクオンライン」といったMMORPGのタイトルがムーブメントとなり大きな市場が形成されました。XPECは、今後も国内でMMORPGを展開するつもりはないのですか? 許氏: もちろんその意欲はありますが、我々はあくまでデベロッパーというポジションでやっていくつもりです。設立した時期に台湾や韓国でオンラインのPCゲームが大きなブームとなりましたが、我々は設立時期に大きな2つの目標を立てていました。1つは「オンラインゲームの開発能力を養うこと」、もう1つが「世界で通用するコンソールゲームを開発する」ということです。 私達の強い点は、台湾の他社に比べスタッフの開発能力が非常に高いところです。自分で言うのもなんなんですが、我々の開発力は台湾メーカーでトップ3に入ると思います。もちろん台湾1のメーカーを目指していきます。 私達は、現在、日本ファルコムと協力して「ソーサリアンオンライン」というMMORPGを開発しています。XPECはコンソールゲームメーカーとして知られていますが、PCのオンラインゲームも手がけています。現在私達はゲームの開発に全力を傾けていますが、運営に関しては、まだ検討中です。 オンラインゲームの運営に関しては、現時点では台湾国内で行なうことは計画にありません。ただ、中国国内で「BLUE CAT」というキャラクタを使った様々な展開を予定しています。この「BLUE CAT」に関しては日本のメーカーと手を組んで中国に進出したいと思っています。
■ 中国で誕生した人気キャラクタ、「BLUE CAT」
許氏: 私達は日本のメーカーと組むことで補い合うことができるのです。XPECは日本のメーカーと比べて、中国市場の適応性、中国の人の思考、習慣、そして「BLUE CAT」を中国人がどう捉えているかを理解しています。こういったところは日本のメーカーに比べてノウハウを持っています。 一方で、日本のメーカーはゲームの開発能力において高いものを持っている。これは依然として我々よりも高い水準にあると思っています。中国に関しては、ハッキングや市場の動向なども頭に入れておく必要がありますが、私達はこういった部分も十分に把握しています。 中国に関しては、XPEC単体で展開してもうまくやれるのではないかという自負はあります。しかし、我々は単に中国市場を見ているわけではなく、日本市場、欧米市場へもコンテンツを展開するのが目標です。日本のメーカーと組むことで、その経験を元に世界的な展開が可能になると期待しています。 編: 「BLUE CAT」は“グリーンゲーム”対応のMMORPGとして展開するのですか? 許氏: 「BLUE CAT」というキャラクタ自体、健康的で、教育的なイメージを持っています。たとえば「ドラえもん」は、バイオレンスなイメージはありませんよね。「BLUE CAT」もそれと同じように、クリーンな世界観を持っているので、子供達だけでなく、母親にもとても人気のあるキャラクタなのです。 ちなみに「BLUE CAT」は、'99年に中国現地で作られたアニメーションで、中国で初めて成功したと言える作品です。中国でここまで浸透したキャラクタはこれまで存在していません。今後もあまり出てこないのではないかと思います。ただ、限界があるとすれば、「BLUE CAT」はあくまで子供向けキャラクタだということですね。こういった特色を考えて、オンラインゲームや、カジュアルゲームを展開しようと思っています。 編: たとえばどのようなゲームですか? 許氏: オンラインゲームに限らず、携帯ゲームなど、様々なゲームを企画中です。1つ言えるのは、カジュアルゲームは必ず出します。 編: 日本での発表はいつぐらいでしょうか。 許氏: 4月ぐらいになるでしょう。ゲームタイトルの具体的な発表に関しては、今年末ぐらいですね。サービス開始に関してはまだ検討中です。 編: サービス予定地域はどこでしょうか。 許氏: まずは中国大陸ですね。ただ、「BLUE CAT」は東南アジアでも、台湾でも放映が始まっています。結果次第ではそれらの地域に運営を広げていく可能性があります。
■ XPECから見た中国のコンシューマ市場、「中国は永遠の砂漠ではない」
許氏: 確かに変化がありました。中国大陸で運営しているメーカーの環境は難しくなりました。しかし、それほど悲観することはないと思っています。 余談ですが、上海では不動産が高騰しすぎて、一般人が手が届かないくらいの価格になりましたが、政府の一声で価格が一気に下がり、再び手が届くようになってきました。世界の人々の上海に対する期待度は今も高いです。 世界のゲーム市場の2007年度の売り上げ予測は、2007年でアメリカで98億ドル、ヨーロッパで101億ドル、中国では12億ドルと言われています。中国の人口を考えればまだまだ大きくなる可能性を秘めています。確かに政府からは様々な政策が出ていますが、それは通過点にすぎません。 私が中国市場に期待している根拠は、「課金モデル」、つまり「お金を払ってゲームをする」という考え方が中国で根付いてきたと感じているからです。これは中国では大きな革命といえます。中国では月額課金制度のゲームは少なくなってきましたが、その他の課金制度のゲームが出てきました。 現在は「民族ゲームを作るように」とか、政府からの指導がありますが、そういったものでは業界の熱意は下がりません。上海や北京、西都などでは開発のスタジオが続々と誕生し、ゲームの作り手が増えてきて、健全な競争が生まれてきています。中長期間で成長が見込める市場だと思っています。福建省の廈門や南京などにも開発スタジオが出てきていて、我々から見て、現在ゲームメーカーを悩ませているのは政策よりもむしろ競争相手だというのが実情です。 編: 許さんは、セミナーでコンシューマゲームも中国市場に根付くとおっしゃっていましたが、その根拠は何ですか? 許氏: ご存じの通り、中国でPCのオンラインゲームが根付いたのは、海賊版のオフラインゲームが氾濫していたからです。もし海賊版の取り締まりがきちんとできていれば、オフラインゲームもユーザーに受け入れられたはずだと思っています。 コンソールゲームとPCオンラインゲームを比較してみると、コンソールは規格が統一されているのに対し、PC方はハードによって動かないゲームなどが出てきてしまいます。コンソールゲームは、ゲーム専用機としてユーザーにゲームをプレイする環境を提供するものですが、最近は様々な機能を備えてきました。PCは様々な機能の中にゲームが遊べる機能が入っているにすぎません。 オンラインPCゲームの流行は、PC房(バン)によってもたらされました。コンソールゲームを浸透させるためには、この戦略を参考に、PC房にコンソールゲームを置くのは有効だと考えています。 視点を変えて、中国の平均所得と携帯電話の需要を考えてみると、携帯電話は平均所得で給料1カ月分という高価な製品であるにもかかわらず、需要は非常に高いです。ハイテク機器を中国の人々はどういった心境で買うか、こういった部分の研究はこれから必要になってくると思います。 多くの人が中国ではコンソールゲームは成功しないと言っていますが、成功の定義とはどんなものでしょうか。現在、中国のコンソールゲーム市場はほとんど0です。成功とは、500万台の売り上げを上げることでしょうか、1千万台でしょうか。1例ですが「BLUE CAT」のDVDは、海賊版ではない正規品が7,500万セット売れたのです。コンソールゲーム機の展開は、MicrosoftさんやSCEIさんがこれからどういった方法で中国市場に取り組んでいくか、それにかかっていると思います。 もう1つは、コンソールゲームとPCオンラインゲームはバッティングするのか、共存できるのかと言うことです。共存できるとしたらどういった形になるか、それは消費者のニーズにどう応えていくかになるかと思います。中国はコンソールゲームにとって“永遠の砂漠”ではないと思います。
■ 次世代機にも果敢にチャレンジ、開発環境の整備に期待
許氏: 私達はまだまだ成長中のメーカーなので、評価を言えるような立場ではないですね(笑)。ただ、1つ言えるのは、私達はこの3つのプラットフォームそれぞれに対して、一番適したコンテンツを提供するというだけです。 編: それは全プラットフォームへの展開は前提だと言うことですか? 許氏: もちろんチャンスがあればチャレンジしていきます。今後もパートナー企業と協力して開発していきたいと思います。 編: 次世代機はハードウェア、ネットワーク、セキュリティー、高解像度表示など注目すべき要素が多々ありますが、次世代機のどういった部分に期待をしていますか? 許氏: 我々は開発会社なので、できるだけフレンドリーな開発環境を望んでいます。ユーザーの視点に立ってみれば、ハードの性能がどういったものであっても、根本的にゲームに望むものは面白い、楽しいゲーム性であると思っています。この面白さ、楽しさを提供できるステージを準備していただければ、非常にありがたいと思っています。 実際、ハードの性能が上がるにつれ、ゲーム製作に必要な手間も多くなってきています。どんなにに見えるものが美しくなったとしても、プレーヤー達は“心”で楽しみ、心で笑うんですよ。心に響く何かがなければやっていけないと思っています。そこが一番重要なのではないでしょうか。 編: 台湾ならではのキャラクタを世界に発信しようという考えはありますか? 許氏: それはいつも私達が目標としているところです。一番理想的なのは自社でキャラクタを作って、アニメーション作品やゲームなどを展開し、一大ブームを作り上げることです。ただ、今現在台湾ではほとんどが外来のキャラクタばかりで、オリジナルのキャラクタがないのです。漫画やアニメーションは、日本かアメリカのものばかりなのです。 こういう状況の中で台湾オリジナルのキャラクタコンテンツを育て上げようとするのは非常に困難です。台湾の人口は2,300万人しかいません。映画やアニメ、漫画でもそれがブームになったとしても、それは台湾国内だけではダメなのです。台湾と同時に海外のどこかでブームになる確信がなければ、それを生み出すのも非常に難しいのです。 編: しかし、台湾や中国では「武侠」モノや「クンフー」モノの人気が非常に高いですよね。これらは一種の中華圏オリジナルだと思いますが、これらを世界に発信する考えはないのですか? 許氏: 台湾本土だけではなく、中国までを視野に入れれば、「武侠」や「クンフー」は大きな人気を獲得できるジャンルだと思います。しかし我々は、それ以外にも大きな魅力を発揮できる素材はあるのではないか考えます。 どうしてかと言えば、武侠ものはありふれすぎていて、同じようなものを出してもどこで違いを出すかが問題となります。だからこそ他のジャンルはないか、もしくはどういったことをすれば他と違いが出せるかを研究しています。 編: 2006年はXPECさんはどういった年になりそうでしょうか? 許氏: 2006年は、まず日本のメーカーさんと共同開発したニンテンドーDS向けのゲームを発売します。そしてナムコと共同開発しているPSP向けの「BOUNTY HOUNDS」を発売します。他に、Xbox 360向けのタイトルと、私達は発売時期などを明確にできませんが「ソーサリアンオンライン」もあります。さらに中国関連では、「BLUE CAT」のコンテンツ開発ですね。 編: これらの中で一番のチャレンジはどれになりそうですか? 許氏: なんといっても中国市場の開拓です。日本メーカーと協力をしてのチャレンジとなります。 編: 中国市場のチャレンジは大きなビジネスとなりそうですが、特定のメーカーとだけ組むのではなく、ゲームタイトルごとに別のメーカーと手を組むというXPECの戦略は今後も変わらないのでしょうか。 許氏: 他のメーカーと手を組む場合は、ジャンルや領域などで競合しないように気をつけています。今後、次世代機では特に他社との協力体制が必要不可欠になるでしょう。開発にコストがかかりすぎるために、1社で開発をするのはなかなか難しくなっているのです。他社との協力は必然となってくると思います。 編: 「BOUNTY HOUNDS」では、ナムコと協力して開発していますが、今後もナムコのような日本大手のメーカーと協業していくつもりですか? 許氏: Xbox 360やPS3といったハード向けにゲームを開発するときに、それを1つの会社でやろうとすると、膨大なコストがかかってしまいます。ご存じだと思いますが、アメリカのEAやActivisionも大幅なリストラを行なっています。これは、私達のような開発会社が、大手のパブリッシャーと協力をしてゲームを開発している機会が増えたことを示しているのではないでしょうか。 ただ、その時には我々が作るグラフィックスや技術が世界レベルに達していなくてはいけません。私達はゲームに関して強い情熱を持っていますし、品質に関しても世界レベルに達することができれば、協力をしていけるのではないかと思っています。そういう自負は持っています。 編: タイトルごとにパブリッシャーを変えるのは、許さんのポリシーなのでしょうか、それともビジネス的な部分なのでしょうか。 許氏: 現在私達は開発に関して努力を続けていますが、世界中の皆さんに満足していただける品質にはまだ達していないと思っています。ですので今後もXPECは、他のメーカーの良いところを勤勉に学んでいきたいと思っています。今後とも大手のメーカーさんと組んでゲーム作りを学ぶと共に、新しい市場を開拓していきたいと思っています。 編: 今年は日本のユーザーもXPECの名前を耳にすることも多くなってくると思います。日本のユーザーへメッセージをお願いします。 許氏: XPECは台湾で発足したメーカーです。今後はゲームを通じて皆さんとふれあう機会も多くなっていくと思います。皆さんからは、「台湾のメーカーが作った」という特別な見方をするのではなく、ゲームの内容自身、我が社の実力を見ていただければ、非常に嬉しいですです。どうぞご期待ください。 編: ありがとうございました。 (C) 2001-2005 www.topbluecat.com Inc. All rights reserved.
□XPECのホームページ (2006年2月18日) [Reported by 中村聖司 Photo by 勝田哲也]
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