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土屋さんは、私と会ってから初めて“eスポーツ”という視点をLEDZONEに持ったというが、私と会う前から韓国にWCGを視察に行ったり、既存の「カウンターストライク」プレーヤーの動向を見ながら、どうやってコミュニティの中に入っていくかなど、eスポーツ的なことを十分に研究してきていた人物だ。LEDZONEはもともとeスポーツ的な要素を多く含んだプロジェクトだから、これは自然なことだ。私から言わせればLEDZONEはeスポーツビジネスそのものだ。 LEDZONEはLANエンターテイメントを実験するプロジェクトとしてゆっくりと始動した。2002年から日本人向けに「カウンターストライク」を改造した「カウンターストライク・ネオ」の開発をスタートし、2003年春、蒲田LEDZONEに設置した後もβテストをしつこいほど繰り返した。より喜ばれるゲームへの改良、安定したシステムの構築、店員の教育、コミュニティの運営方法、単価等のビジネスの実験を重ねていた。 実際に有料の営業を始めた後もゲームそのものの更新や、大会や店舗イベントの工夫、店員教育の工夫など毎日毎日改良をしていた。蒲田が落ち着くか落ち着かないかのタイミングで、すぐに池袋や南松本などのゲームセンターへの導入をして、インターネットを介して対戦できるようにもした。そうした実験の積み重ねが、PCでFPSを遊んだことが無いユーザーを中心に沢山の「カウンターストライク ネオ」ファンを生んだ。 ビジネススタイルの視点から見ると、従来のゲーム業界で行なわれてきた「ソフト開発して販売して終わり」というビジネススタイルではなく、こまめな対応によって「ゲームを楽しんでもらってお金を得る」というビジネススタイルの実験であったと思う。しかもインターネット上のバーチャルな世界ではなくゲームセンターというリアル店舗での実験だ。これはスポーツ的なコミュニティ主導のビジネスという点で、私が考えるeスポーツのマーケティングとかなり合致している。 そしていよいよ3年間のノウハウを、新しいバージョンの「カウンターストライク ネオ(旧称:カウンターストライク ネオ Ver.2)」に凝縮して、全国展開へと手を伸ばしてきた。土屋さんたちは実験を終えてこれからが本当の勝負だというところだろう。
現在すでにLEDZONE蒲田店、サントロペ池袋、伊勢崎町のAMPIAイセザキモール、プラボ南松本店の4店舗では先行設置され、プレイできるようになっている。すぐに8月中には博多、名古屋、京都、宇都宮などでも営業が開始され予定になっている。その後も続々と全国のセンターに導入されていくことになる。
これまでの「カウンターストライク・ネオ」は蒲田に56台、池袋に20台、南松本に20台、合計96台の筐体でしかプレイされない極端に少ない環境の中で、ゲームソフトのクオリティやサービスのクオリティをアップさせることに注力してきたといえるであろう。 しかし、今回は全国にまず2,000台の「カウンターストライク・ネオ」の筐体を全国に設置することを目標にしており、その上で沢山のプレーヤー数を獲得する事に注力していくという。今までの実験に使ってきた投資をここで一気に回収しなくてはならないのだ。 そのためにゲームセンターが導入しやすいように、筐体も新しくデザインされ直している。たとえば、エレベーターに乗るように筐体の大きさを一回り小さくし、椅子も分離するようになった。また、ゲームセンター側が慣れているコイン投入スタイルでゲームができるようにもした。またプレーヤーの数が増えることで発生するサーバー内でのレベルのばらつきも、プレーヤー熟練度というパラメーターををもとに一番適切な対戦相手がいるサーバーに自動でマッチングするようにもした。 さらに、数が必要なことと引き換えに、応答速度は速いが生産数が著しく減っているCRTではなく、応答速度は遅いが安定して量産されている液晶モニタの採用に踏み切った。この液晶モニタの件は、土屋さんも本望ではないという。 土屋さんはこんなことも話してくれた。「『カウンターストライク・ネオ』はスタイリッシュな遊びの一つになると考えています。スタイリッシュというのはカップルが期待するようなスタイリッシュさではなくて、ビリヤードやダーツのように大人がまじめに取り組むに値するかっこよさが我々のイメージするスタイリッシュです。空間があって遊ぶモノがあってプレーヤーがいてそれらがすべてかっこ良い空間を演出しているスタイリッシュさが必要なのです。だから筐体も設置するだけでスタイリッシュな空間がなるべく演出されるように、めちゃくちゃ凝ってつくっています」 LEDZONEは、16歳以下は一律入場禁止で、16歳以上でも学生服での入場も禁止にしている。これはこのスタイリッシュさを維持するためだという。現在LEDZONE店舗は、この蒲田と8月にナムコワンダータワー内にオープンする京都LEDZONEだけだ。その他はLEDZONEではない。LEDZONEというのはプロジェクトの名前でもあるが、今後はスタイリッシュさを徹底的に管理した「カウンターストライク・ネオ」専用のゲームセンターというニュアンスが強い。もっともハイクオリティなサービスで「カウンターストライク・ネオ」を遊びたいときはLEDZONEに行けばよい、というわけである。 それでは普通のゲームセンターに設置された場合は、どうやってクオリティを維持するのかたずねてみると、「それはお店が決めることなのでなんともいえないが、できればLEDZONEのようにスタイリッシュになってほしいと思っている」という。これがLEDZONEの「クオリティ」に関する戦略だ。 私は順調に筐体が全国のお店に設置されるようになれば、「カウンターストライク・ネオ」のユーザー数はあっという間にPC版「カウンターストライク」のプレーヤー数を抜いてしまうと思う。そうなると国内で様々なイベントの需要ができてきて厳密な競技イベントの需要がでてくることが想像できる。 「そうなるとやはりオンラインではプレーヤーの成りすまし等の問題から、教育されたスタッフがお客さんの信用に足りる環境の中でイベントをせざるを得なくなってきます。LEDZONEがそういったイベントの場所になって来るでしょう。また数が多くなってくれば前のようにPC版『カウンターストライク』の大会をサポートするのではなくネオ独自の大会なんかも大きく開けるようになって来るでしょう」と土屋さんも言う。私も同感だ。
「数」と「クオリティ」。この相反する難しい問題も、想定の範囲内にいれて話す土屋さんの言葉には3年間の実験を経てきた自信と熱意がこもっていた。
その中でも私が一番注目するのは、右の方に配置された親指を立てたアイコンの「グッドジョブ」キーだ。このキーは、試合中に自分の成績によって稼いだゲーム中のお金を、良い働きをしたチームメイトまたは敵チームのプレーヤーに少しプレゼントをしながら、「グッドジョブ!(よくやった!)」と褒めるための目的で配置されたキーなのである。 eスポーツの世界では、試合を始める前に対戦相手に「グッドラック(幸運を)」、試合が終わったら両者とも「グッドゲーム(良い試合でした)」と挨拶を交わす慣習がある。当然、プレイ中に良いプレイをした人に「グッドジョブ」と褒めることも忘れない。「グッドジョブ」キーは、このグッドジョブというテキストをキーボードでうたなくてもひとつのボタンで表示されるようにしている。 具体的な使い方を説明しよう。「カウンターストライク・ネオ」はラウンドという概念があり、1ラウンド中に自分のキャラのライフがなくなってしまったらそのラウンドが終わるまで操作ができなくなってしまう。そして他のプレーヤーのプレイを観戦するモードに画面が切り替わる。チーム制のゲームなので自分が撃破されてしまっても他のチームメイトが活躍してくれれば勝てるわけなので、撃破されてしまった人たちは手に汗握ってチームメイトを応援することになる。その時に活躍してくれたプレーヤーに「グッドジョブ」とほめる言葉を送るのだ。 また相手チームでも尊敬できるプレイをした人には「グッドジョブ」と褒めることもできるので、そういったすがすがしい態度は、ギスギスしないプレーヤーの輪を創っていくことになる。相手を尊重するスポーツマンシップ表現ボタンだ。 話は変わるが、格闘ゲームの文化では「マチ」、「ハメ」と呼ばれるマナーの悪いプレイをどう無くしていくかという議論が盛んに行なわれる。だが、プログラムやシステムでこの問題を解決する有効な手段は今だに搭載されていない。現実的には「マチ」、「ハメ」をなくす対策は、店員さんが筐体に「当店はマチ・ハメ禁止です」と書くくらいしかされていない。自由なプレイを約束されているゲームのなかで、何がマナーの悪いプレイなのかを具体的に書き出すのは難しい。 以前に土屋さんはこんなことを話してくれたことがある。お客さんの中で迷惑なプレイをしている人がいて、それとなく注意すると「お金を払ったんだから何をやってもいいだろう」と反論されることがある。当たり前だがお金を払ったら何をやっても良いわけではない。だけど、なかなかお客さん(多くの場合は子供)に込み入った倫理観や道徳を説明するのも難しいという。そこでLEDZONEの店員たちが始めたのが「グッドジョブ運動」。良いことをしたら褒めようという運動だった。 良いことをしたプレーヤーをほめることによってプレーヤー同士の中に明るい連帯感が生まれ、さらに具体的にどんなプレイが喜ばれるのかも提示される。連帯感がある社会ではコミュニケーションも活発になり、プレーヤー同士が迷惑なプレイを指摘しあってもトラブルになりにくいので、プログラムやシステムで解決しにくい繊細な倫理問題をプレーヤー同士が解決するようになるのだ。
「グッドジョブ」ボタンはこの「グッドジョブ」運動をさらに推し進める仕組みなのだ。格闘ゲームではなかなかできなかった「明るいプレーヤー社会つくり」の方法がスマートに実装されている。
■ 全国のゲームセンターがeスポーツセンターになる日
従来のスポーツと比べるとわかりやすいと思う。例えばサッカーが11人で競技するというルールは、一部の人間がアーティスト意識やエゴを持って決めたルールではなく、プレーヤー、チーム、審判、大会運営者等、多くのサッカーを愛する人たちのたゆまぬ努力の結果長い時間をかけて生み出されてきたものだ。 私が「カウンターストライク・ネオ」の文化を応援する理由は、このeスポーツ的な発想を、いままでのゲーム的マーケティングとうまくバランスとりながら、根本的なゲーム開発レベルから丸ごとチャレンジしている点だ。このような大きなチャレンジは、残念ながら我々GoodPlayer.jpの様な小さな会社ではなかなか実行できることではない。我々とは違う次元でeスポーツにチャレンジするLEDZONEチームを私は応援する。 eスポーツに興味がある全国のゲームセンターの人たちはこの新しい波に乗り遅れてはいけない。先ほども書いたようにみんなで文化を育てていくのがeスポーツ流なのだ。あまり知られていないことだが「カウンターストライク・ネオ」の開発は、蒲田のLEDZONEの中にある。お客さんとの間でおきてきた様々な問題を開発者も交えて身近に感じながらソフトを開発していく方針の表れだ。 日本の対戦ゲーム文化を牽引する「バーチャファイター」シリーズや「鉄拳」シリーズですらマイナーバージョンアップは1年おき、大幅なバージョンアップは3年、4年とかけて行なっている。それに比べて「カウンターストライク・ネオ」は毎日プレーヤーやオペレーターたちと顔をつき合わせて随時インターネットを介してバージョンアップを行なってくれる。懐の深いLEDZONEのスタッフは全国のプレーヤー、ゲームセンター経営者、オペレーターの意見を真っ向から受け止めてくれるはずだ。 最後に長い実験期間を経てすばらしいコンセプトを実現化しているLEDZONEチームのみんなに、私から「グッドジョブ」ボタン3連打を送ります。全国のゲームセンターがeスポーツセンターになる日も近い!
>Good Job! TEAM LEDZONE! I present you 100$-! (2005年8月2日) [Reported by 犬飼“POLYGON”博士@GoodPlayer.jp]
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