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★PS2ゲームレビュー★
発売から時間が経過した今でも「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」について、「自分が金八先生になれるゲームなの?」と真顔で聞いてくる人がいて驚いている。まず、このゲームは武田鉄矢氏シミュレーターではありません(髪を掻きあげるコマンドは見てみたいが……)。
ただ、今作の内容は一見する程度では多少掴みにくいのは確かなようだ。なので、上記のように勘違いした人にはこう伝えている。「主人公(プレーヤー)が新任教師の良質なアドベンチャーゲームだと思ってごらんよ。シナリオも練り込まれているし、アニメで描かれた生徒たちにも共感できる。問題解決のための推理も緊張感がある。金八先生が下地にはあるけど、ドラマの内容とゲーム内容とは、いい意味でけっこう距離があると思うよ」と説明するようにしている。ようするに間口の広いアドベンチャーゲームだと筆者は考えるのだ。
また、先ほど「生徒の悩みや不安が誘因となる様々な事件に対し、生徒たちの会話から得た情報で事件解決を目指す」と書いたが、重要なのは“どの生徒にどんな問題が起きているのか”ということ。1日で行動できるターンは限られているため、生徒たちの会話を聞き逃すと行動にムダが出てしまうため、事件解決までに至る必要ターンが足りなくなってしまいがち。緊張感を失わず、かといって難解ではないこのシステムと、生徒の会話にスムーズに入り込ませてくれる声による表現こそ、このゲームの重要なカギをにぎっている要素といえるだろう。
■ ドラマ「3年B組金八先生」ファンに対してサービスが多彩
また、ゲーム本編のシナリオをクリアすると、おまけとして「金八語録」がスタート画面に登場する。これは原作ドラマで金八先生が生徒たちに諭したお話を聞くことができるモード。あの「人という字は~」の話などの五編が入っている。
今作は原作ドラマを知らない人が遊べない、というゲームでは決してない。だが、この金八先生関連の演出を楽しむために、原作ドラマを知らない人はDVDやテレビの再放送を見て予習しておいてほしいと切に願う。それだけ、武田鉄矢氏本人を起用した“金八先生へのオマージュ”は力の入った豪華過ぎる内容であるからだ。
■ 推理アドベンチャー要素が高いゲームの進め方
ロールプレイドラマという稀有なジャンルの今作だが、ゲームの進め方は「会話で情報を入手し、手持ちの情報を他者に伝えて問題を解決する」という形。いわゆる推理型のアドベンチャーゲームに近いと筆者は感じた。だが、今作ではコマンドを選択して進めていくというオーソドックスなアドベンチャーゲームのタイプでもなければ、サウンドノベルのような正しい選択肢を選んでフラグを立てていくタイプでもない。1日(4ターン中)に入手したキーワードを「カード」として所持し、相手にぶつけて会話していくという解き方だ。
カード入手後は、事件に関連がありそうな人物に適切なカードをぶつけてることで新情報やキーワード(カード)をゲットできる。だが、見当違いの人物にカードを使ってしまうと、ターン数を消費するだけで何も得られない。また、一定期間内に物語を進行できないとマップ画面右上のバッドエンドシグナルが緑色から黄色、赤色へと変化していく。シグナルが赤色の状態でターンを無駄に消費すると、バッドエンド、すなわちゲームオーバーとなってしまうのだ。
このバッドエンドシグナルが赤色になってからの一手は、本当に頭を使わされる。外せばゲームオーバーというペナルティが待っているだけに、真剣になって人間関係や会話の情報を吟味している自分の姿がある。これも自然と物語に深く惹き込まれてしまう要因の1つだろう。心臓の鼓動を高鳴らせながら、正解の人物にカードをぶつけて答えを導き出した瞬間は心底肩の力が抜ける。プレーヤーの緊張感を一気に引き上げる手法は、ステレオタイプのアドベンチャーゲームやサウンドノベルではなかなか体験できないはずだ。「自分の一手がドラマを作り上げていく」というストーリーへの没入感も含めて、ぜひ多くの人に体験してほしい面白さだと感じた。
シナリオ1話のボリュームはテレビドラマのサイズを意識したというだけあって、話の尺が約1時間とちょうどいい。また、脚本も良質な物が多い。全編に渡って生徒と教師が困難を乗り越えようとしていく様子を、テンポよくまとめていると思う。個人的な感想を言わせてもらえば、青春群像ドラマから(自分自身の過去を強制的に見せられているかのような)気恥ずかしいセリフや無理やりに感動に巻き込もうという“ズルイ”演出がスポイルされていることによって、素直にシナリオの中身に共感することができた。また、人によって意見は分かれると思うが、学校ドラマから逸脱した破天荒なシーンが多く含まれているのも魅力。テレビドラマでは絶対に見ることのできない「金八先生」をゲームで確認してもらいたい。
■ アニメーションが生んだ新たな金八先生の世界
今作では登場人物がアニメで表現されている。通常の会話画面では、登場人物を腰から上のグラフィック(いわゆる立ち絵)で描写。目パチ、口パクがあり、人物が押し黙るシーンでは目を伏せる絵に、隣の人に話しかけるときは横を向いた絵に切り替わるなど、立ち絵の豊富なバリエーションで感情表現に起伏を持たせている。
声優さんの巧さもあるのだろうが、キャラクタ達の活き活きとした演技は実際のドラマに勝るとも劣らないリアリティを感じさせる。逆に、いわゆる普通のドラマを観ていると、ごくまれに「この演技はどうなのよ?」という白々しいシーンに出くわして芝居への集中が途切れることもあるのだが、本作においては終始生徒たちの熱演に惹きこまれぱなしであった。これはアニメという抽象化の技法だからこそ出せるリアリティだといえよう。 背景の絵の印象はスッキリと明るい感じ。背景の人物は少々雑だが、建造物は質感をしっかりと持たせて描かれている。特に地元民からすると荒川土手周辺の描写は見事の一言。原作ドラマのファンは「あ、これ東武線の陸橋かも」や「この橋は千住新橋か?」などと類推しながら楽しめると思う。
そして、随所にはアニメーションによるムービーシーンがカットインされる。絵は滑らかによく動き、その数も多い。1シナリオにつき、少なくとも10シーンはあるだろう。特に物語の山場はムービーシーンが絶妙のタイミングで挿入されるので、泣かせる場面は涙腺をグッと刺激し、笑わせるトコロはきっちり爆笑させるという起爆剤として作用している。
■ 生徒の未来を導く「才能開花システム」 主人公が教師というシチュエーションだけに、プレーヤーはシナリオクリア以外でも3年B組の生徒21人に教育指導をしなければならない。それをシステム化したのが生徒たちを育成させていく楽しみ=「才能開花システム」だ。生徒たちの才能を開花させるためには、英語カード、数学カードといった「才能カード」を使用する。才能カードは、シナリオを進めていくうちに他の先生たちから自動的に入手できるため、もらい忘れることはない。才能カードの入手後は、マップ上の生徒の顔アイコンがない場所に移動しよう。そこに登場した生徒に、才能カードを使用することが可能だ。 21人の生徒たちにはそれぞれ「才能パネルマップ画面」が用意されている。この画面を参考に、うまくカードを使っていくのだ。まず、スタート地点に隣接しているパネル枠に対応したカードを使用すると、そのパネルが開く。お次は開いたパネルに隣接したパネルの開花を目指す……といった具合にチャート方式に次々と才能カードでパネルを開けていこう。ちなみに、1ターンで仕様できるカードは1枚だけ。才能開花に時間をつぎ込み過ぎるとシナリオクリアに支障が起きるので、才能開花はバッドエンドシグナルが緑か黄色の時のみ実行するのがベターだろう。 次々とパネルを開けていくと、「?パネル」に隠された職業を発見することができる。1人のマップ画面には複数の「?パネル」があるので、生徒たちの明るい未来をたくさん導き出してやろう。生徒のパネルをすべて開けることができれば、その生徒は「Sランク」となり、その生徒にもっとも適した職業が提示される。詳しくは語れないが、Sランクの生徒が増えるほどエンディング後のお楽しみにも影響する。ゲームの1周目ではとても全員の才能を開花させることはできないので、2周、3周と周回を重ねて全員をSランクにするまでやり込むことができる。すべてのシナリオをクリアした後の余暇にもってこいのシステムといえるだろう。そして、すべての生徒をSランクに導くことができれば……。
■ 物語の裏側を楽しめるザッピングシステム
<ザッピングシステムの特徴>
上記のように、今作のザッピングシステムはあくまで主人公の体験のみを追うもの。同社のサウンドノベル「街」のザッピングのように、複数人いる登場人物の視点を自在に切り替えられるわけではない。「街」のような複雑なザッピングを期待していた人には、頭を切り替えて臨もう。
また、ザッピングはあくまで、「物語の裏側で何が起きているか」を知るため、同時攻略という楽しみ方をするためのシステムという位置づけ。そのためザッピングプレイでクリアしてもシナリオの結末事態に変化はなく、ゲーム内での重要性は低いといえる。これだけシナリオのボリュームがあるのに贅沢な話ではあるが、ザッピングプレイがプレイの難易度に関わってくるようなシステムでも面白かったかもしれない。そのあたりは次回作に期待したい。
■ アドベンチャーゲーム、サウンドノベルの第一歩を踏み出したい人にもオススメ サウンドノベル、アドベンチャーというジャンルは、チュンソフトのお家芸ともいうべきジャンル。それは「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」の仕上がりを見れば、あらためてチュンソフトの発表するタイトルへの信頼度が再認識できよう。チュンソフトの技術力とセンスに「原作モノ」という新たなDNAが融合したことで、ジャンル、メーカーのファンのみならず、新たな層のゲームファンに広くアピールできるタイトルが完成したといえる。
質の良いシナリオに飢えていたプレーヤー、アドベンチャーゲームの解決への道を探る楽しさを体験したいプレーヤーなら「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」はまさに求めていた通りのタイトルだろう。また、アドベンチャーゲーム、サウンドノベルの第1歩を踏み出したい人にも自信を持ってオススメできる一品と断言できる。興味を持った方はこのレビューを読み終わった後、すぐにゲーム販売店に走っていただきたい。 (C)2004 CHUNSOFT 『3年B組金八先生』はTBSの著作物です。
□チュンソフトのホームページ (2004年7月23日) [Reported by 福田柵太郎]
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