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NHN Japanの携帯サイト「ハンゲ.jp」インタビュー
「ハンゲーム越えは必然」と語る森川氏のモバイル戦略

9月3日 収録

会場:NHN Japan本社

 NHN Japan株式会社は、3月に携帯サイト「ハンゲ.jp」を立ち上げた。位置づけとしては、Windows PC向けのゲームポータルサイト「ハンゲーム」のモバイル版といったもので、「ハンゲーム」と共通のIDでログインでき、アバターやミニメールといった要素も共有している。ゲームだけはWindows用のものをそのままとはいかないため、独自のモバイルゲームを用意している。

 「ハンゲ.jp」の位置づけを現状から察すると、日本最大級のゲームポータルサイトである「ハンゲーム」のサポートツール的なものと考えるのが普通だろうが、実はそんな軽い話ではない。それを端的に現わすのが、NHN Japan代表取締役社長である森川亮氏が「ハンゲ.jp」の事業部長も兼務しているということだ。

 果たして森川氏は「ハンゲ.jp」をどのように展開していこうと考えているのか。直接インタビューを行ない、話を聞くことにした。またモバイル事業部モバイルコンテンツ開発チームマネージャーの黒澤紀之氏にも同席いただき、コンテンツに関する詳しい話も合わせて伺った。



■ イノベーションを起こし続けるため、トップが率いることが大切

代表取締役社長兼「ハンゲ.jp」事業部長の森川亮氏(左)と、モバイル事業部モバイルコンテンツ開発チームマネージャーの黒澤紀之氏(右)
――本題に入る前に1つお尋ねします。今回、「ハンゲ.jp」で携帯コンテンツ市場に参入されたわけですが、森川さん自身は携帯コンテンツについてどういう風にお考えでしょうか?

森川氏 : 我々はゲームの会社ではないので、インターネットのビジネスとして捉えています。インターネットのお客様というのは、今はPCで使う方と同じか、それ以上に携帯を使われているので、インターネットの企業としては携帯のビジネスを本格的にやっていくべきだということで始めました。

――やはりビジネス的に将来性を感じたのが大きいということでしょうか?

森川氏 : そうですね、ちょっと遅いとは思うのですが。インターネットを使うお客様全てに我々のサービスを提供したいと思っています。外にいるときは必ず携帯電話を持っているはずですから、携帯電話のビジネスはこれからも伸びるでしょうし、その中で新しい価値を提供していきたいと思っています。

――ではそこを踏まえてお話を伺います。森川さんはNHN Japanの社長を務められていますが、「ハンゲ.jp」の事業部長も兼務されていると伺いました。これは面白い動きだと思うのですが、森川さんが自ら「ハンゲ.jp」を指揮される理由は何でしょうか?

森川氏 : 1つはインターネットのビジネスというのは、常にイノベーションを起こし続けなければいけないと思っています。経営者がイノベーションをコミットするくらい、自らそれを理解していないと、会社が成長を続けるのは難しいと思っています。多くのIT企業はそういうことに関わらずに、どちらかというとM&Aを中心に成長しています。つまり、自らイノベーションを起こし続ける会社というのは、日本にはあまりないのです。例えば海外だとAppleやGoogleのように、経営者自らがイノベーションを引っ張っていく会社もありますよね。インターネットの企業というのは、そういうところが生き残ると思っているので、自らイノベーションに参加して、それを作っていくことが大事だと思っています。

 もう1つは、PCのサービスで成功した会社なので、モバイルという新しいプラットフォームには若干抵抗感があったり、サービスで連携するときにモバイルの価値を低く見られがちなところがあります。モバイルのお客様を新たに獲得していかなければならないので、そこに私が入って自ら引っ張っていくことがとても重要だと思っています。

――「ハンゲ.jp」のサービスの狙いはどこにあるのでしょうか?

森川氏 : 1つはモバイルはとても大きい市場なので、その中で我々も成長していくためです。また既存の「ハンゲーム」のお客様の多くは、携帯電話をお持ちだと思いますが、外で遊べないのは申し訳ないので、家の外でも遊べる環境を提供したいというところです。

――最近、PCオンラインゲームは成長が見えない印象もあるのですが、そういうところを打破したいという狙いもあるのでしょうか?

森川氏 : オンラインゲームに関しては、弊社単体では成長は鈍化していません。市場全体が鈍化している一番の理由は、似たような物が多くて、今までにはない新しい種類のゲームや、日本人に合う日本人向けのゲームが出ていないからだと思っています。

 それとは別に、オンラインゲームの市場においては、モバイルの方が人の目に触れる場合が多いのです。モバイルは外で使用する場面が多いですから、バイラル(口コミ)で人に伝わることが多くなります。認知度アップという意味では、モバイルは大きいと思いますね。原宿に「フラットフラット」というカフェを設置したのも、認知度アップに関してとても重要だと思っています。オンラインゲームは、まだ知らない人が圧倒的に多いと思いますし、あるいは聞いたことはあるけれど、ちょっとマニアな物じゃないかというイメージを持たれています。でも実際やってみると簡単な物もあるし、気軽な物もあるし、楽しい物だと思うのです。そういったイメージを、もっとお客様に伝えたいと思っています。

――オンラインゲームの市場を広げるという意味でも、携帯ビジネスに入っていくのは意味があるということですね。

森川氏 : そうです。

――「ハンゲ.jp」のターゲット層はどこでしょうか?

森川氏 : まずはPCと携帯を両方使う方、10代後半から20代前半の方に集中しようと思っています。サービスが広がりすぎると訳がわからなくなってしまうので、まずはそこの方々が楽しみたい物や、ちょっとヒマなときに使ってみたい物を中心にサービスを考えています。

猛烈なプロモーション展開をかけている「ハン顔」。自分の顔と他の何かが合成され、シュールな絵ができあがるサービス
――私が外から「ハンゲ.jp」を見ていて一番感じるのは、プロモーションの凄さです。目立っているのは「ハン顔」で、テレビCMや電車内の広告など、パッと見た感じでは「ハンゲーム」以上に力を入れて頑張っていると感じます。「ハンゲーム」ではなく、あくまで「ハンゲ.jp」を押し出したこのプロモーション攻勢には何か狙いがあるのでしょうか?

森川氏 : それだけ力を入れているということです。お客様は歳を取っていきますし、利用動向も常に変わっていくと思っています。今の若い方はどちらかというとPCよりも携帯電話を使う時間の方が長いですよね。そうするとPCの「ハンゲーム」より、携帯の「ハンゲ.jp」のほうが、入り口としては親近感がわくのではないかと思っています。「ハンゲーム」がどうでもいいということではなく、入り口としてPCよりも携帯で遊んでいただいて、もっと遊びたければPCに行くといった流れの方が自然かなと思ったのです。

――若年層の中には、携帯は持っていてもPCを持っていないという方もいるので、そういうところからも拾っていく狙いがあるということですね。

森川氏 : そうですね。携帯で入っていただいて楽しさを知って、そこからPCを使う方もいらっしゃるので、結果的にPCのお客様も今は増えています。



■ 現在はまだβレベル。他にはない深みのあるFlashゲームの展開を目指す

――私が実際に「ハンゲ.jp」を触ってみたところ、「ハンゲーム」に紐づいたコミュニティと、モバイルゲームが入っているのがわかりました。はっきり言ってしまいますが、この形は他社でも似たようなサービスをやられているところはあります。「ハンゲ.jp」では、どこに魅力があると訴えていくのでしょうか?

森川氏 : まず立ち上げるときに、一番大事なことは核となるサービスのクオリティを上げることだと思いました。新しいことをやろうとする時、奇をてらいがちなところがあると思うのですが、お客様は今楽しんでいるものからイメージをして、よりよいものへという形に動くと思うのです。そういう意味で、ゲームと、基本となるコミュニティを徹底的に作ることが重要だと思ったのです。それがファーストステップで、いまようやくできあがってきたところです。3月にオープンしたときは、まだほとんど物がなく、α版程度の物だったのですが、今でもβにプラスアルファくらいの位置づけで、まだこれからだと思っています。これから私達ならではのサービスを増やしたいと思っていまして、ゲームに関してもコミュニティに関しても、下半期からやっていこうと思っています。

 携帯のお客様はPCのお客様と比べて、プラットフォームの特性からそれほど高いリテラシーを必要とするわけではありません。ですからサービスが多ければいいというわけではなく、シンプルで簡単に遊べて、それでいてヒマなときに使えるというのが結構重要かと思っています。客観的に見ると同じように見えるのですが、実際遊ぶとちょっとここが違う、といった部分は色々と工夫をしています。

――具体的にはどういう工夫を?

森川氏 : 例えばFlashゲームは、一般的にはすぐ飽きられるものです。そこに隠し要素を入れて、その攻略情報でユーザーが繋がったり、ランキングをみんなで楽しんだり、またそこからゲーム日記で人と人がBlogのように繋がっていくなどです。1つのゲームを軸に、ゲームをより楽しもうという切り口と、ゲームを通じて人と人が繋がっていこうという、大きな2つの軸があります。これに関しては他社さんよりも若干先行しているところもあると思っていますし、深みを見せていける重要な要素だと思っています。単純に「Flashゲームがいっぱいあります」というサイトはたくさんあります。ただFlashゲームに関してこだわりを持っている会社というのは、まだそんなに多くないとは思っています。

――「ハンゲーム」という大きなオンラインゲームポータルを運営されてきたノウハウは、「ハンゲ.jp」でも生かせるとお考えですか?

森川氏 : はい。ほとんどのモバイルゲームサイトの会社では、Flashゲームを外部で作っていますし、またどちらかというとクオリティよりも数で勝負しています。数も重要だと思いますが、やはり楽しくないと意味がないと思うのです。その楽しさが一瞬で終わる楽しさなのか、もう少し楽しめるのか。そういった楽しみ方の度合いを、我々でもう少し広げられないのかというところが工夫のしどころで、そういった細かいところを彼(黒澤氏)が色々と工夫をして頑張っています。

――一番の強みは、やはり「ハンゲーム」との連携かと思います。今のところは、ミニゲームができる、アバターが共通している、という形で繋がっているだけに見えますが、今後モバイルならではの戦略は考えられていますか?

森川氏 : まずゲームに関しては、今「ハンゲーム」でやっている物を携帯でも作ってサービスしようと思っています。「ハンゲーム」が提供しているカジュアルゲーム、また大型のゲームを、携帯でどんどん作っていくつもりです。

PCで人気のオンラインRPG「アラド戦記」をモバイルゲーム化した「アラド戦記モバイル」。高い再現性のみならず、強力な連携機能を計画しているという
――なるほど。「アラド戦記モバイル」は先日のイベントで触らせていただきました。

森川氏 : そういうところで、アイテムやキャラクタの連携などは進めていけると思っています。コミュニティに関しても、今はまだお話しできませんが、新しい部分をより連携していきたいと思っています。PCの世界はどちらかというとバーチャルなコミュニティで、相手が誰か、どこに住んでいるかがわかりにくいという性質があるのですが、携帯の場合はどちらかというと、使っているところを人に見せるシーンが重要だと思っています。見せて、それがバイラルで広がることがとても重要なので、どちらかというと人に見せやすいものや、人に見せて楽しいものを用意し、それがきっかけで繋がっていくようなコミュニティを、携帯独自で作っていこうと思っています。

――その話題は、まさに今展開されている「ハン顔」なのかと思います。「ハンゲーム」はゲームポータルですが、「ハン顔」はゲームではないですよね。それを前面に押し出していこうという展開はどこから出てきたアイデアですか?

森川氏 : 携帯のお客様を分析したときに、話のネタになるようなものへのニーズがとても高いとわかったのです。自分が関わることによって何か変わり、またそれが話のネタになるというのがとても重要です。単純に媒体を使って告知すると、それを見た人しか訴求できず、見た人の何パーセントが……と大体数字が見えます。そこから大きくブレイクするためには、あるネタで、人が人に広めるというバイラルがとても重要です。携帯のバイラルは、「ハン顔」が一番いいのではないかということで実行しました。バイラルを起こすのはなかなか難しいので、正直どうなるかわからなかったのですが、結構、楽しんでいただいて、ブログなどでも盛り上がっているのでよかったですね。

――あと「ハンゲ.jp」で気になるのは、ビジネス的な部分です。今のところ、特にお金を取っている部分は見えないのですが、ビジネスモデルはどう考えていくつもりでしょうか?

森川氏 : 今は「ハンゲーム」と同じくアバターの販売と、「ハンG」というアフィリエイト広告と、一般的な広告バナーといった部分があります。ただ正直言って、今はお金儲けを考えていません。「ハンゲーム」もそうでしたが、お客様が集まらないと、収益にも繋がりません。どちらかというと、今はお客様を集めることが重要なので、ある程度そこに集中したいと考えています。

――ちなみにアバターは「ハンゲーム」と共通なんですよね。

森川氏 : そうです。もちろん「ハンゲ.jp」でしか売っていないものもあります。



■ 大規模モバイルゲームメーカーに匹敵する体勢で、マルチプラットフォームを見据える

Flashの釣りゲーム「わくわくフィッシングモバイル」。ダウンロード不要で、遊び方もシンプルながら、通信にも対応。魚の大きさで競ったり、釣った魚をコレクションしたりといった要素がある
――では今度は黒澤さんに、コンテンツの方のお話もお伺いします。まず「ハンゲ.jp」の目玉コンテンツとして「わくわくフィッシングモバイル」を展開されています。これは「ハンゲーム」にある「わくわくフィッシング」のモバイル版という位置づけでいいのでしょうか?

黒澤氏 : そうですね。「ハンゲーム」でも、かんたんゲーム、じっくりゲームと、ドメインで大きく分けています。そこではお客様の属性が全く違います。じっくりゲームは、ゲームを心底愛してどっぷりやっていただく方。かんたんゲームは、ゲームそのものに対しての注力というよりは、誰とゲームを遊んだとか、どこにアバターが表示されているかで楽しんでいる方。「わくわくフィッシング」はそういった人の繋がりはちょっと薄いかもしれないですが、ある程度接続して、オートプレイで釣って、魚をコレクションしていくところが凄くうけています。イベントもやっていて、期間限定の魚を放流して、その期間にみんなが集めて、何が釣れたと盛り上がっていただいている、というサイクルがあります。

 「ハンゲ.jp」では、先述のドメインでいうかんたんゲームを楽しんでおられるか、もしくは「ハンゲーム」上に友達がいて、ミニメールや掲示板、ブログでやりとりしている人たちと、外でも繋がっていたいという方が非常に多いですね。ですから、かんたんゲームの概念と同じなのです。「今、気軽にミニゲームをやってみたら、自分のスコアが1,000点でした。でもランキング登録されてる人たちは10万点。いったい10万点出すにはどうすればいいの?」といったコミュニティが生まれたりとか。

 そんなにゲームに執着する人たちでもないので、翌週はやってくれないかもしれないのです。でもまた翌週に、また時間があったからやってみるという繰り返しを生みたい。毎日アクセスしたいとか、継続的に何かやりたいというものを作るとしたら何がいいかと考えて、PCで人気の「わくわくフィッシング」のテーマやコンセプトを携帯に持ってこようという形でやっています。あれは毎日釣り場に来てくれて、コツコツやればどんどん魚図鑑が埋まっていって、ふと振り返ってみると図鑑が埋まっていたという面白さがあります。そういう遊びの繰り返しを携帯でも感じていただこうと考えています。

――現状では「わくわくフィッシングモバイル」の手ごたえはいかがですか?

黒澤氏 : 今までミニゲームしか出していなかった中で、こういったものがサービスの中に入ってくると、お客様の反応が違いますね。クローズドβの初日で1万人集まりまして、先週オープンβにした後も、どんどん入ってきていただいています。

――話が前後してしまいますが、黒澤さんは「ハンゲ.jp」が動く以前は何をされていたのですか?

黒澤氏 : 以前はマルチターム(通信ミドルウェア「MPS」を制作していたことで知られた企業。モバイルゲームの制作部隊も存在した)という会社で、他社のモバイルゲームを受託して作っていました。昨年、マルチタームがNHN Japanに吸収合併されて、そこからNHN Japanの中で携帯の事業をさせていただいています。マルチタームで作っていたスタッフは、みんな他社のゲームも作っていたので、経験者が揃っています。

――なるほど、NHN Japanさんのどこにモバイルの開発部隊がいるのかと思っていたのですが、元マルチタームさんなのですね。開発部隊は現在何人ですか?

森川氏 : WEB開発なども全員合わせると60人くらい関わっています。

――60名というのはモバイルゲームサイトとしてはかなり大規模ですね。60人を抱えるモバイルゲーム会社もそう多くないと思います。

黒澤氏 : しかし、PCの「ハンゲーム」は400人近くいて、それと同じボリュームを携帯で実現させようとしています。「ハンゲ.jp」のゴールとしては、お客様にプラットフォームを選んで欲しいのです。「ハンゲーム」のような無料ゲームサイトやアイテム課金のオンラインゲームが集まったポータルサイトを、PCとモバイルで同じものを存在させて、「お客様は今どちらで遊びたいですか?」と差し出す。いわゆるクロスプラットフォームや、プラットフォームポータビリティといったものを実現するために、「ハンゲ.jp」もハンゲームIDを使っています。

 課金システムも「ハンコイン」を使って共通化していますので、携帯からチャージしてPCのコンテンツを購入できますし、逆にクレジットカードでPCからチャージしても、携帯コンテンツを購入できます。今後、モバイル向けにもアイテム課金のゲームなど色々なサービスが充実してきても、元々チャージされている「ハンコイン」を使って支払えるので、非常に行き来がしやすいと思います。今、キャリアの公式サイトを立ち上げて、似たコンセプトのPCサイトを作ったとしても、そこで行き来する仕組みを成功させているところはないと思いますし、それだけのボリュームのものを作る体力はなかなかないと思います。

 まず一番は、お客様が集まりやすい、入りやすい場所を提供することです。ゲームのコア層よりも、普段ゲームをやられていない方たちを携帯に集めたいと思っています。「ハンゲ.jp」に何となく、気軽に毎日来てくれるというふうに習慣化して、生活の中に入り込みたいと思っています。毎日、会社に行っている人は、PCの前には座っているかもしれませんが、会社でずっと「ハンゲーム」を立ち上げておくわけにはいかないですよね。ですが携帯なら、行き来の電車の中などでログインして、毎日来てもらうという習慣を持っていただいて、週末はそこで楽しんでいたものをPCで遊んでもらうというイメージです。「ちょっと忙しくて今週はずっと携帯だったけれど十分遊べた」というのが生活のリズムに入り込めれば、「ハンゲ.jp」だけに留まらず、NHN Japanのお客様として、ずっと関われるサイクルができあがるという考え方です。

――先程から、クロスプラットフォームといった言葉がスルッと出てきていますが、単なる連携ではなく、厳密な意味でモバイルとのクロスプラットフォームを実現したゲームというのは、私の記憶にはありません。御社ですと「ハンゲーム」のPCゲームとで考えられますが、そういうものを実現する方向で話を進めているのですか?

黒澤氏 : そうですね。秋にまた来て下さい(笑)。

――そんなに近い話なのですか。

黒澤氏 : はい、やります。



■ 「ハンゲ.jp」が「ハンゲーム」を超えるのは必然

――いろいろ話を伺ってきましたが、私が想像していたよりも、体制的にも、取り組む姿勢も、非常にアグレッシブですね。

森川氏 : 基本的に私は社長なのですが、モバイル事業部長としては、早期に「ハンゲーム」を超えたいと思っていて、来年中には超えるつもりでやっています。その分、スピードを速く。携帯はPCに比べて開発のスピードが圧倒的に速いので、今もものすごく速いスピードで作ってます。

――超える、というのは具体的にどこの数字をターゲットにしているのでしょうか?

森川氏 : 利用者数ですね。「ハンゲーム」の1日60万ユニークユーザーという数字を超えたいと思っています。世間を見る限りでは無理な数字ではありません。携帯でゲームを遊んでいる方はそれ以上に多いので、「ハンゲーム」のお客様がそのまま携帯でも遊べば、単純にその数字は行くと思っています。

――その数字を目標として考えると、一躍、日本有数のモバイルサイトになりますね。

森川氏 : 「ハンゲ.jp」が「ハンゲーム」を超えるのは、必然だと思っていますから、なるべく早く実現したいですね。

――必然ですか。

森川氏 : はい。やはり携帯はPCよりも一緒にいる時間が長いじゃないですか。時代の流れとしてはそうなるだろうなと思っています。

――それはちょっと面白いですね。今、「ハンゲーム」という巨大ポータルを運営されている立場からして、「ハンゲ.jp」はおまけのような扱いで、「ハンゲーム」に誘導するための入り口的な存在なのかと思っていました。それぞれにちゃんと立てて、ユーザーを入れていきたいという考え方なのですね。

黒澤氏 : 「ハンゲーム」は、まだ家族との共有サービスになりきれていないのです。IDを個人で持っていて、自分のブログなどプライベートなものは家族にも見られたくないですよね。家族で使っているPCの中に自分のプライベートなものが詰め込まれるよりも、携帯に全部入っていた方が安心できて、使う頻度も高くなるとも考えています。そういった方々の趣向にあったゲームは何だろうと考えると、携帯向けに作ったゲームは必要だろうし、PC向けのコアなゲームとまるっきり同じものを携帯でやろうと思う人はいないと思います。その間をつなぐコミュニティの機能として、ミニメールやブログがあるわけですが、それだけでなく、カジュアルゲームもその中間に位置するかと思っています。例えば、「大富豪」のようなトランプゲームだったら、携帯でもPCでも、どちらでも好きな方でできて、「お好きな方を選んで下さい」と差し出された方が、お客様も遊びやすいはずです。

カジュアルさを売りにしたMORPG「チョコットランド」。オンラインゲームの基本的な要素を押さえた内容で、モバイルゲーム化も面白そうな素材だ
 あとは我々が「ハンゲーム」でかんたんゲームに入れている「チョコットランド」はご存じでしょうか? MORPGですが、世界観もライトで、ゲームのサイクルとしては非常にシンプルなものです。「オンラインRPGをやりたいけれど、ちょっと怖いな」と思っている人が、「チョコットランド」をやってもらうには最適かと思っています。6人くらいでパーティーを組んでダンジョンに行って、アイテムを持ち帰って合成して、武器を作ってまた出ていく。そういう遊びのサイクルを覚えてもらえるわけです。携帯でも、これに近いものはできると思っています。プラットフォームとして、PC寄りのものもあれば携帯寄りのものもある、という形ですね。

――今後も色々な展開を考えておられるようですが、先ほど目標とされた数字などを実現するためには、何が鍵になると思われますか?

森川氏 : まずはゲームのキラーコンテンツでしょうか。面白ければ人は集まりますから。もう1つは、来ていただいた方が居場所として集まる魅力的なコミュニティの仕組みです。コミュニティに関しては、一般的にSNSやブログという言葉がありますが、その言葉がかえってサービスを制限していると思っています。本当に大事なことは、人が表現をして繋がることで、その表現の繋がりやすさをどうサービスとして作るかが一番重要なので、そういったものを作ろうと思っています。まずはキラーコンテンツ、そしてコミュニティの新しい仕組み。そこにマーケティングが入ってくれば、超えられると思います。

――ターゲットとするユーザー層は10代から20代前半だということですが、やはり学校のような同年代が集まる環境での口コミを狙っていきたいとお考えですか?

森川氏 : バイラルの基本は、共通のキーワードがあって、それに共感した人が集まるのがベースなので、学校や地域というものがバイラルの最も広がりやすい要素なのです。ですから一般的にはそういうアプローチが一番賢いやり方かと思います。ただそれにはまずは中身があって、お客様同士が繋がれる要素をどれだけしっかり作れるかだと思っています。

――ちなみに「ハンゲ.jp」は勝手サイトですよね?

森川氏 : そうですね。ただゲーム単体ではキャリア公式も考えています。アプリでの通信対戦は公式コンテンツしか認めていないキャリアさんもあるので、そこは公式にしていこうと思っています。

――「ハンゲ.jp」のコンテンツを見ると、ゲーム以外にも着メロなども入っていますが、今後、サービスはどういう形で広げていこうとお考えですか?

黒澤氏 : うちはゲームがまず主軸にあると思っています。ゲーム会社ではありませんが、ゲームがコアになっています。ゲーム以外のものについては、集まってくるお客様に必要なコミュニティの要素として、携帯電話で必然的に使われているデコメや着メロといったものを、インターネット会社として用意しましたという流れです。ですから今後もトレンドを見ながら提供していきますし、こんなサービスも面白いんじゃないかと我々が発案できるものがあれば当然入れていきます。その1つが「ハン顔」ということですね。

森川氏 : 今は、ゲームとコンテンツの境目がどんどんなくなってきていると思うのです。面白ければやるし、面白くなければやらない。またその利用シーンによって面白さの度合いが違うので、今後は占いや着メロも、もう少し我々のアレンジを加えて魅力的なものにできるのであれば、そういったところも自社でやることはあるかと思います。

――ではゲームの面では今後どういった展開をしようとお考えですか?

黒澤氏 : 今はFlashのミニゲームを毎週1本ずつのペースでリリースしているので、それでどんどん裾野を広げていくという狙いは続けていきます。その上で、徐々にコアゲームも投入していきます。ピラミッドをイメージすると、最下層に位置する無料ゲームを、下からどんどん積み上げている感じです。あるタイミングでコアゲームを投入することによって、ゲームやテクノロジーに対するリテラシーが高い人に対して、「携帯でこんなにグラフィックスの高い表現ができたんだ」とか、「携帯でネットワークゲームをこんなに遊べるんだね」といった驚きを与えたいですね。

 あと携帯だとPC以上に対応機種を気にします。コアゲームになればなるほど、最新の携帯電話でないと遊べないというものが増えてしまい、利用できる人の数が減ってしまいますので、そこは気をつけながらやっていきます。「わくわくフィッシングモバイル」は、Flashのミニゲームの集合体みたいなものです。実際に釣りをするアクションは、Flashゲームでやっているミニゲームとほとんど同じ仕組みですが、それを複数のフラッシュを遷移することによって1つの継続的なゲームにしています。Flashだけどミニゲームではない、といえるゲームも今後やっていきたいと思っています。



■ SNSやブログとは違う、ゲームを通じて繋がる新たなコミュニティを創出する

――そろそろまとめの質問をさせていただきます。「ハンゲ.jp」全体として、今後どういう展開をしていこうとお考えですか?

森川氏 : まずはゲームとコミュニティに集中していきます。ゲームに関しては、先ほど黒澤が話したように、Flashゲームもありながら、ある程度大型のゲームもあって、またその間の物もどんどん出していき、数とクオリティに関して、より力を入れていきたいと思っています。一方でコミュニティに関しては、ようやく一般的なものが揃ったところなので、ここからは我々ならではの、新しいコミュニティというものを作っていって、そこを軸にまたゲームに繋げたり、リアルの人間関係を作ったりといったところを強化していきたいと思っています。

――「ハンゲ.jp」ならではのコミュニティといえば、既に「ハンゲーム」との連携が十分独自性があると思いますが、それ以上にまだ何か考えているのですか?

森川氏 : はい。一般的にSNSやブログは、そう定義した瞬間に同じようなものになってしまいます。本当に大事なことは、人と人とが繋がりやすいことです。ゲームを通じて繋がりやすいコミュニティというのは、今あるものとは全く違うものができると思っています。ですからあまり形にこだわらず、「人ってこうやって繋がるよね」とか、「こうやって楽しむよね」というものを、より携帯らしいものとして作ろうと思っています。具体的な話はまだできませんが、ただ単にSNSとブログとゲームがありますというだけだと、やはりつまらないと思うのです。我々は、ブログでもSNSでも、新しいコミュニティを作って、それをまたゲームとも融合して、付加価値を付けていきたいと思いますね。

――では最後に読者に向けてのメッセージを一言ずつお願いします。

「ハンゲ.jp」に対して、相当な力を入れているのが伝わってきた。「ハンゲーム」を超える存在になれるかどうか、まだまだ今からが楽しみだ
黒澤氏 : GAME Watchをよく読まれている方には、まだまだカジュアルゲームが中心の「ハンゲ.jp」に物足りなさを感じるとは思うのですが、ミニゲームは昔のファミコンのノリで、今作っています。絵や遊びの中身はシンプルでも、ちょっとした裏技や隠し要素を入れて、それを発見してもらうというところを遊びにしています。それを情報交換できる掲示板も当然用意していますので、みんな集まってわいわい会話して下さい、というのをコンセプトにやっています。是非遊んでみて下さい。

森川氏 : 来年中には「ハンゲーム」よりも楽しいサイトにしたいと思いますので、楽しみにしていて下さい。

――来年中には、というのは楽しみですね。今日はどうもありがとうございました。

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「わくわくフィッシングモバイル」(C)NHN Japan
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□NHN Japanのホームページ
http://www.nhncorp.jp/
□「ハンゲ.jp」のページ
http://hange.jp/
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(2008年10月1日)

[Reported by 石田賀津男]



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