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会場:昭和女子大学
このカンファレンスは毎年開催されているもので、今年は3日間で基調講演と90プログラムほどの講義が予定されている。内容は家庭用ゲーム機のゲーム開発にかかわらず、PC、携帯電話など多岐にわたる。ジャンルも「NVIDIA GPU での物理演算」など技術の最新動向から、「モバイルと家庭用ゲーム機との連動とその先の可能性について」といった市場をまたいだ可能性に言及するセッションも用意されている。 残念ながらすでに参加申し込みは締め切られているが、弊誌ではゲームファンが読んでも興味深いものを中心に様々なセッションのレポートをお届けする予定だ。
講演の内容としてはシンプルで、現在の日本ゲーム産業の立ち位置を再確認し、共通の課題を確認し、今後なにをしなければならないのかといった提言となっている。 和田氏はまず最初に「家庭用ゲームソフトの世界市場規模推移」と題されたデータをスライドで映し出した。このデータは新聞やテレビなどで引用されることの多いデータで、世界市場規模としては右肩上がりだが、日本市場の占める割合は減少しているように見える。この点について「このグラフはデータの見方によって量的危機感を煽っている」とし、「ゲームを作っている側から言えば、市場は依然として成長市場。そういった点では楽観的でいいと思う」と説明。 その根拠としては、このデータが「家庭用ゲーム機」に限定されており、携帯電話やネットワークゲームといった新興市場について触れていない点をまず挙げた。さらに海外との市場比率については、「ゲームは日本が市場的に先行していたので、市場の確立は日本が早く、大きく成長し社会に浸透した。欧米で本格的に家庭用ゲーム機市場が伸び始めたのが'99年から2000年にかけて。2005年頃から浸透したと考えている。人口比率や購買意欲比率を考えれば (このデータ比率は) 当然だろう」とした。 このグラフのデータが非常に限定されていると指摘した上で、輸出競争力が依然として高いことや、ユーザーの年齢分布などに触れた。年齢分布については各年齢層のユーザーパーセンテージをデータとして示し、20歳代男性が57.2%となっている点を指摘し、「今後この層の年齢が上がってくるということは市場も広がってくると言うこと。これはゲーム産業がこれまで育ててきた資産」と和田氏は語った。また「50歳代が18.8%もいることが凄い。現役ゲーマーといえる」と示した。 さらにゲームに対して参加待機しているユーザーのパーセンテージを示したデータをスライドに表示し、「(ゲームをしてもいいと考えている人が多い数値を示して) 自分にマッチしたコンテンツがあればゲーム市場に入ってくる人はこれだけいる」として市場余力がまだあると説明。世代によってライフスタイルも違えばアクセスするデバイスも違うわけで、そういった点を克服していくことで市場を開拓していくことはできるとした。
ゲーム市場は誕生以来30年程度のメディアだが、すでにメインをはれるメディアに成長しており、産業として確立しているとという見方を示した上で、「ゲーム業界はこれから第2ステージに入る」と続けた。
和田氏は「たとえば」と断わりながら映画との関わり合いを挙げた。ゲームと映画の関係と言えば「映画のコンテンツを利用したゲーム作品の発売」と考えがちだが、和田氏は「そんな単純な話ではない」という。「ハリウッド映画では、俳優の拘束時間を減らしたり、様々な理由からプリビジュアライゼーションを多用するようになった。CGを使ってカット割りを練りに練って作り上げ、撮影は短時間で済ませてしまう」といい、ここにゲームで培われてきた技術が使われているという。また、リソースの共有も挙げられる。 同様の他産業でのゲームデザインのアイディアを応用した例として、オンラインショッピングでのサービスなども挙げている。「RPGでは戦闘を繰り返しアイテムを集めて強化したり販売したりすることがシステムとしてよくある。たとえばオンラインショッピングでものを購入してポイントがたまりサービスを享受できるのも構造的には同じ」と説明。 さらには最近注目を集めつつあるシリアスゲームについても触れ、「(ゲームを何時間もプレイするのは) 常に判断を迫られ、結果に対してフィードバックがあって、成功すれば報酬がある。この報酬がきちんと設定されているので、何時間でもゲームをプレイする。ゲーム側から見ればなんてこと無いことだが、教育ツールとしてみれば最強のツール。そういった意味で今後は (教育産業にも) 入り込んでいくだろう」とした。 ゲームそのものだけでなく、ゲームを核とした応用分野でも発展を見せるゲーム産業について今後の課題はどこにあるのか。 和田氏は「わたしはクリエイターではないので細かいところはとやかく言えないが」としながら、まず挙げたのが「クリエイターのコミュニティ作り」と「ツールについての理解」。以前から和田氏はツールについての重要性を解いてきたが、この場でも改めて説明した。「これまでハードを突き詰めてゲームを作り、どこまで表現できるかと言うのが手段のひとつだった。これまで『ツールを使用しても平均的なものしか作り出せない』という意識があったが、ハードが進化し表現できる範囲となった」とし、「ツールを使うとつまらなくなるという誤解があるが、それはとんでもない」と語った。 「ゲームに限らず産業が次のステップに進むときは必ず異質なものが導入される。ツールが優秀になればなるほど、そういった異質な才能が入り込んでくる。その土壌を作る」と和田氏は続けた。 このほかにも、和田氏はWeb 2.0などの例も挙げながらユーザー参加型のコンテンツへの取り組みを挙げた。ここでは「これまでゲームは、システムだけでなく全てのデータを作り上げてきた。しかし、ユーザー参加型のコンテンツではユーザーが触ることで変化することが前提となってくる。変化することが当然な中でのシステム作りが必要。ゲームの制作者ではないので判らないが、これまで全て作り上げてきたデータの部分を、外部から取り込むのかといった論議がされることで、何かこれまでと違ったものが生まれるかもしれない」とアイディアの一環も披露した。
また、今後のマルチコアプロセッサ時代の到来による技術的な変革の波が予想外に大きい事も課題として挙げた。ひとつのCPUを極限まで使う業界はゲーム産業と遺伝子情報や宇宙規模のシミュレートなどに使う科学系の産業だとしたが、CPUのこの変革は大きく、技術的な問題点として和田氏は挙げた。
とかくネガティブなイメージの報道が先行する最近のゲーム業界に向け、国内産業に対して立ち位置を再確認し、必要な問題意識を共有し今後の問題点を明確に提示、ゲーム業界の今後の動向について和田氏は提案した。様々な問題や立場はあるだろうが、和田氏の行動力の元、課題について様々な議論が行なわれ先に進むことが重要だろう。ある意味、今回の講演はゲーム開発者に向けてのエールのようにも受け取られた。 (2006年8月30日) [Reported by 船津稔]
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