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会場:Shanghai New International Expo Center
入場料:50元(約800円)
本稿では、アジア市場での最新動向を、SCE Asiaプレジデント安田哲彦氏にインタビュー形式で伺った。アジア市場においても、「メタルギア ソリッド 4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット(MGS4)」や台湾メーカーによるご当地ソフトの「レールファン台湾高鉄」などハードウェアの売り上げを牽引するソフトウェアが次々に誕生しており、それがハードを牽引するというゲーム機としてのビジネスがアジア市場においても綺麗に成立しつつある。 その一方で、中国市場については、ゲーム機そのものの市場開放に向けた取り組みは進展を見せず、東南アジアや南アジアの中華圏や中国語文化圏という切り口からの浸透が模索されている。こうした国々ではソニー本体との協業姿勢をより鮮明にアピールするなど、アジア独自の展開を見せつつある印象だ。
また、安田氏が長年取り組んできた海賊版や平行品対策について、一度は衰退した平行業者が再び跋扈してきてしまったという。1つ1つやるべきことを粛々とやっていくという安田氏の言葉の裏で、常に微妙な要因で展開が左右されてしまう海外展開の難しさについて改めて考えさせられた次第だ。
■ ChinaJoyでは初めてオープンな試遊台ブースを展開
安田氏: これまではブースを展開する場合、限定したユーザーに向けて大きな映像を見ていただいたり、音を聞いていただいていたのですが、ソフトのタイトル数が増えてきて、より多くの中国ユーザーに体験して頂くため、オープンなブースを設置いたしました。 私たちが政府の取締りに協力すると、多くの平行輸入品やコピー品が出てきます。国や地域によっては例えば台湾の場合では平行品として、日本語版と、日本語以外の言語にローカライズされているものが出てきます。これが香港やシンガポールあたりでは、英語版のものがものすごく多いわけです。そうしたものを見ますと英語のものに対する抵抗感というものがそうした地域ではないといえると思います。むしろ日本語から中国語にローカライズされたものに加えて英語のものに対するリクエストがあるのだな、そういうマーケティングの方法もあるのだなと考えさせられます。 そうしたニーズが強いからからこそコピーが出てきてしまった。そこで今後は、英語版のソフトも積極的にアメリカやヨーロッパから持ってきて発売できるようにしたいです。今回はそうしたソフトも実は展示してあるのです。UBI SoftさんやEAさんが展示しているものと同じバージョンを展示してあります。SCE Asiaブースにある「Eden」というタイトルはE3Aでデモされているアメリカとまったく同じバージョンのものを持ってきています。また、E3でデモされた「Little Big Planet」もE3と同じバージョンのものをプレイアブルで展示していました。 E3もようやく気づいて閉め出しましたよね。以前は平行業者ばっかりウロウロしていた。もちろん、普通の商談者もいるのだけどね(笑)。今年は質が落ちているとかそういうことではなく、今までみたいにお金をかけ放題やっていくのではなく、本来の目的に集中していくことの表れなのでしょう。お祭りも必要なのだけどね。(笑) 編: 平行業者はアジアでまだまだ活動しているわけですか? 安田氏: そうですね。2年前までは平行輸入業者というものは非常に力が弱ってきていたのです。それが他社さんのものが売れるようになってそれで稼いじゃったものですから、彼らが少し息を吹き返しているのです。元の木阿弥に戻りつつあるというのが現在のところです。 同時発売に現在すごくこだわりを持っているのは、平行輸入が本当に復活してきてしまっているからです。平行輸入業者たちが一度あきらめかけていた商売をまたやり始めてしまった。例えばわれわれを通らない商品を香港で発売するためにあるソフトメーカーさんが事務所を作って人を雇ってそこで発売しようとやったところ、発売の1週間くらい前から日本の平行品が入ってきてしまっていて、香港用に用意していたソフトがまったく売れなくなってしまったというのはよくある話なのです。 だから同時発売というのは大変大事なことです。これはゲームに限らずレコードについても同じことが言えます。HMVさんはがんばってダウンロードではないパッケージの音源を売ろうとしていますが、同じようなタイミングで発売していかないと用意していたものが全部残ってしまう。 ハードについても同じです。我々が香港で出す場合には香港で出すための安全規格基準をすべて通すのです。だから店に並ぶのが遅くなってしまう。台湾だったら台湾、シンガポールならシンガポールでもまた通すのです。アメリカや日本で売っているものを持ってきたら本来は基準外なので違法になるのです。ですから、当局には平行品を取り締まらないと安全規格基準を取っている意味がないでしょうという話をしています。 編: アジアビジネスのネックはもはや平行品のみといった印象なのでしょうか。 安田氏: あとは海賊版ですね。この1、2年の間、海賊版対策のために活動を各国政府に協力してきているのだけど、海賊版がなくならない理由を考えると所得の問題が大きなウェイトを占めていると考えています。ソフトウェアメーカーさんはかなりの時間とお金をかけて良いソフトをお作りになっているのだけど、その分お値段もそれなりのものになりますよね。 アメリカやヨーロッパのように所得の高いところではそれらのソフトが買えるのだけど、アジアではそれを買い続けるのがきついという地域なのです。しかし、ゲームに対する興味はある。だけど本物には手が出ない、かといって盗んでしまうわけにもいかない。その次の考え方でコピーを探すわけです。安いものがありましたので買ってしまいましたという流れです。日本も昔はそうだったのですが、著作権保護の意識を高めていくと同時に、所得が上がってくるにしたがってだんだんと淘汰されてくるでしょう。 次にネットのダウンロードは、いろいろな余分なお金がかからないだけ安くダウンロードしていただける。それはコピーにとっては大きな脅威になり、ダウンロードが普及すれば、前ほどひどい状況にはならないのではないかと思います。PS3やPSPを持っているお客さんにはちゃんとアクセスしてダウンロードして頂いていることについてアジアにはかなり進んできています。インフラの問題があったりしてトラブルもあるのですが、インフラの構築というものもちゃんとしてくださいというお願いもしています。 編: 現在、PS3を中国国内に持ってきて、PSネットワークにはつながるのでしょうか。 安田氏: 繋がります。しかし引き続き市場として開放はされておりませんので、香港に行かれた方がお土産に買っていただくといった個人ベースでのものの動きにとどまってくると思います。 編: SCE Asiaさんが待ち望まれている中国でのゲーム市場の開放についてですが、昨年から何か進展はありましたか? 安田氏: それはプライオリティナンバーワンで、北京事務所を中心に一生懸命話し合いを続けていっています。正直いって5年以上何も動いていないのです。これは我々だけではなく他社さんであれ、据え置き型のゲーム機をこっちに持ってきてソフトをつけて売るという作業がどこも正式にはやってはいけない状況です。これが動かない限りは平行輸入で商品が入ってくる以外にはありません。 我々は今上海でやっているゲームショウと、北京でやっているゲームショウの2回だけが中国の皆さんに宣伝できる場ですので、そこに出ながら政府関係者とお話合いを続けている状況です。このままほっておくとせっかく優秀なマーケットに育ちそうなものが健全な育ち方にならないですよね。平行品で遊んでいるユーザーさんも商品の安全規格が取れていない商品なわけですから、結局壊れたりしていても、我々は対応できませんし、修理もできないということになります。結局ユーザーさんが損をしてしまうのではないかと思うのですが、なかなかそこまで手が回らない状況なのかなと考えています。これから3年かかる5年かかるということであるならば、いっそのことこちらでの活動を切り上げて、開放を待ってからまた活動をスタートするということも選択肢の中ではあると考えています。 編: かなり厳しい状況ですね。 安田氏: 開放があるあると言われながら私たちは期待してずーっと誠心誠意お付き合いをさせていただいていますが、関わっている官庁が多いせいか、なかなか前進しないようですね。開放しないと、我々も中国のソフト産業の発展に協力しようがないですね。 ユーザーさんが一番かわいそうです。ネットでみなさん情報を取るから昔よりは情報はあると思うのですが、香港や台湾のお客さんと買った以上は同じサービスを受けられる権利はあると思うのです。それが得られないという我々から見たら非常に深刻な状態になってきているのではないかと思います。
■ ソフトウェアがハードウェアを牽引する転換の年に
安田氏: ゼロからスタートして昨年10周年を香港の会社で迎えました。準備期間も含めて足掛け12年以上やってきました。着実に対前年で150%くらいでずーっと推移してきています。右肩が下がったことがないのです。ずっとその階段を上ってきているので、そうするとある程度の数量も売れるし、売り上げの金額も出てきている。SCE Asiaというものができたことによってリージョンの1つとしてきちっと社内的にも認めて頂いて、アジアのユーザーさんのやりたいことが比較的すぐに実現することが最近できるようになりました。 台数は毎回申し上げてないのですが、非常に順調です。PS2についても昨年以上に売れていますし、PSPについても日本と変わらない数が今年は売れるのではないかと考えています。ただしPS3に関しては所得の問題ということが一部にあって、サンキュッパ(39,800円)というのが1つのプライスポイントだと考えているのですが、それにした途端に売れてはきているのだけど、あまり潤沢に出しすぎるとまだまだ利益があがる商品ではないので、大事に売っているというのが現状です。たくさん出して他の地域にいくと、他の地域ではそれを売ればいいのだけど、我々だけ赤字になってしまうということになってしまいます。他の地域から入ってこない程度に防御をしながら、よく説明をして欲しい方に粛々と売っていくという方法を今年度いっぱいつづけていく方針です。 SCE内部のシェアについては、商品によってばらつきがあります。戦略的に販売している商品の価格がありますよね。4万円のものと2万円のものでは値段的にずいぶん違うわけです。値段がこなれているものについては10%のシェアというわけではなくて20数%のシェアを取っているものも出てきます。PSPも今年は非常に順調で、あとはPS3がもうちょっと安くユーザーに提供できるようになり、10%取れたということになるとトータルで考えればかなり良いということになります。 編: ハードビジネスにおいて、もはや一番苦しい時期は過ぎたという印象でしょうか。 安田氏: 苦しくはないですよね。一番苦しいのは相変わらずソフトウェアが相変わらず他のリージョンと同じようにぼこぼこ売れるという状況ではないということです。やはりバンドルセールスをやりながら1台売れたら何枚売れましたということを追いかけていることをまだしなければならない状況です。 編: 台湾では赤色のPS2がアジア先行発売されました。こうした試みは今後も行なわれるのでしょうか。 安田氏: これからもありますよ。お客さんが喜んで頂けるなら企画してくださいということで、皆さんでやってもらっています。皆さんでということはうちの社員だけでなく代理店の社員、お店の方々だとかそこに集まってくるユーザーさんからこんな色が欲しいということがあれば検討して企画にあげて実行していきます。ずーっと同じものを売り続けているのも山が作れないから。次は何色になるのか楽しみですね。 編: アジア限定カラーの売れ行きはいかがでしたか? 安田氏: 初回分はぱっとなくなってしまいましたね。初めて買うお客さんというより、2台目を買ってみようというお客さんに引きがありますね。PS2だけじゃなくて、PSPもアジア地区では作っても作ってもなくなってしまう。アジア地域では本当によく売れていますね。ですからほとんど在庫がないのですよ。 編: PS3は、Blu-rayも観られますし、ゲームも増えてきて、次世代機の中でも特に気に入っています。 安田氏: アジアでもBlu-rayの引きは強くなってきていると思います。ただ、Blu-rayのコンテンツはまだまだタイトルが出揃わないという印象を受けます。これが強化されれば跳ね上がっていくと思います。 PS3はゲーム機ですから、その中でBlu-rayが観られますという特徴があるわけです。あくまでプロモーション自体はゲームを中心にやっています。インターネットや何かのインフォメーションの中にBlu-rayのコンテンツもかけてみてくださいよという情報を出していっているところです。いずれにしろもう少しタイトルの充実が必要だと思います。現状はまだ元々DVDで出ていたタイトルでBlu-rayでも出ているということが多いですが、Blu-rayでも先に新譜が出たりするとまた違ってくると思います。 編: PS3は当初ゲーム機なのかそうでないのか、ハードウェアとしての位置づけが曖昧なまま走り出したという印象が強かったですが、最近はゲーム機としての機能が大きくクローズアップされてきましたよね。アジアでも「メタルギアソリッド 4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット(MGS4)」の小島秀夫監督をアジアに招いてイベントを行ない、PS3のハードの売り上げに大きく貢献したと伺いました。 安田氏: 本来的にはゲーム機として売らなければダメなんだって。会社の中には色々な人がいて、いろんなことを言ってますが、今はようやくゲーム機として1本化して健全な方向に向かっているのだと思います。 友達が遊びに来て「そのソフトを遊ぶにはどうしたらいい?」と聞かれたとき、「PS3を買えばいいよ」というやりとりがあって、ハードが売れていくという方法があると思うのです。私が日本にいた時にやり始めたのは、「リッジレーサー」、「リッジレーサー」とやってそれっきりなかったのでしょうがなかったのだけど、それを売りながらくっついてハードが売れていった印象は持ちましたよ。今はだいぶ当時の状況に近づいていっている。 ソフトがなければただの箱というのは、どのハードでも同じです。一貫してゲーム機として今までやってきたのですが、人間ですので迷いもある。一時どっちなのよと言われた時期がありました。我々はソフトメーカーさんとコラボでやりながら誠心誠意やっていきます。今回小島さんのツアーもその一環です。彼らもアジアというものを漠然と理解していたと思うのですが、韓国、台湾、香港を回って頂いて肌で感じて頂いた部分があるのではないかと思います。 その場でユーザーの皆さんに「年末のアジアゲームショーにまた来るからね」と約束してくれたみたいです。そういう風になるのが一番いいと思うのです。PS3の本体を見せてどうのこうのといったってつまらないじゃない。お客さんが何を見て寄ってきてくれるのかなと思えば、コンテンツを見て頂いてその結果ハードを買わないと遊べないなという風になってくれるのが一番自然なのですよ。今はそういう風に徐々に戻ってきていると思います。やはりハードが前に出てしまうと宣伝もしにくいし、あんな機械を出してきたってさ、出している方は自分の商品だからうっとりしてああ綺麗だとか言ってるけど、お客さんはつまんない。やはりコンテンツがないとダメだよね。 編: アジアでの「MGS4」の売り上げはいかがでしたか? 安田氏: 大きかったですよ。節目ごとのセールの山がありますが、その中でもっとも大きく動きました。週間の販売台数をつけていっているのだけど、グラフがピコーンと大きく振れました。トータル1年で対前年200%くらいになればいいなと思います。 編: アジアで展開されている「MGS4」の言語を教えてください。 安田氏: 日本語版と英語版になります。台湾は日本語版で、香港は英語版になります。香港ではコナミさんが販売されています。 編: 日本国内ではPS3のネットワークで動的な広告配信のアナウンスが今月されました。アジア独自のビジネス展開はありますか。 安田氏: あると思いますよ。これからきちっとインフォメーションしていかなければならないので考えています。ただ、アジアは難しい。夏休みのタイミングもお正月のタイミングも国によって違う。5月くらいにはタイで水かけ祭りがあってそれが正月だという。シンガポールではチャイニーズニューイヤーも日本の正月もある。インド人の正月にいたっては10月とかそういう時期です。タイミングを図る上で、非常に難しい地域であるわけです。また、関税を考えないでやれる地域では香港、台湾、シンガポール、韓国。その他の地域では関税が高かったりして、そうした条件から優先順位をつけていって、どこを重点的にやっていくかということをやっていかなければいけない。そうした難しさもあって今までは南アジアはイベントの回数などがこれまで少なかったのですが、今後増やしていこうと考えています。
■ 今後は東南アジアに注力、期待する地域はシンガポール 編: 先ほど中国のお話しの中で、解放まで時間が掛かるのであればいったん切り上げてと仰っていましたが、仮にそうなる場合、次のターゲットとなる市場はどこになりますか? 安田氏: 台湾や香港で一生懸命イベントをやっていると中国国内の人が見ているなということに気づきます。それからシンガポールの場合は、ローカルマーケットとしては非常に少ないのだけど、実に多用な地域の人たちが見に来ているわけです。今まで、そうした方々に対するアピールがちょっと回数が少ないなと思いましたので今後は増やしていきたいと思います。 ソニーとのコラボレーションもこれまで独立独歩できたのですが、「Bravia」でのコラボレーションを足がかりにもうちょっと強化していこうとしています。ソニーはクオリティの高い販売活動を「SonyStyle」や「SonyCenter」といった売り場を作って展開しています。彼らは元々展開していたのですが、良い場所を確保して、良い形で展開していますよね。ディスプレイひとつとって見ても、向こうで一生懸命売ろうとしている社員さんが全部考えてやっている。サッカーゲームを展示した際は、サッカーの人形やサッカーボールを置いてみたり、フラッグが置いてあったり「へー、こんなディスプレイをしてくれるわけ」というくらいに色々なことを考えてやっている。こちらの供給も一生懸命やっていかなければいけないなと思って力を入れてやっています。 話は変わりますけど、シンガポールにもF1が来ます。モナコグランプリが市内走行するのと同じように市内を走るのです。それに加えてナイトレースをやるというのです。今までの街灯の本数ではまったく足りないので、特設でずーっと街灯をつけていますよ。確かもうそろそろ完成するはずです。さらに注目を集めるためにカジノを作ってみたり、ああいうところでイベントをするということはあの地域全体の活性化にも繋がるので少し力を入れていきたいです。 今年来年は東南アジアにさらに一生懸命力を入れていきたいです。人もだいぶ入ってきてくれるようになったのです。社内でも手を上げてSCE Asiaに入ってきたいという方も増えてきました。アジアで仕事をされたいという方も増えてきましたので非常に良い環境です。 編: 現在SCE Asiaの各ブランチの状態はどのようになっているのでしょうか。 安田氏: 現在、香港、台湾、韓国、中国に事務所があります。正式に商売をやっているのは韓国、香港、台湾、シンガポール、タイ、マレーシアになります。タイ、マレーシアは関税が高い。1物2価になってしまっていてハードがどうしても高い。違う売り場にいけば、平行で安く入ってきている状況なので、なかなか難しいは難しいのだけど、「SonyCenter」が若干価格は高くてもイベントやお店のお客さんへの説明の中でその高さを克服しようという動きがありますのでそれと一緒にやっていこうと考えています。 編: 具体的にはどのくらいの値段になってしまっているのでしょうか。 安田氏: マレーシアの関税はハードについては5%です。しかしソフトの値段が30%とさらに高い。30%まで違ってしまうと違いすぎて商売にならない。30%高いソフトと平行で入ってきたソフトと、コピー品という三つ巴の戦いが行なわれてきている。しゃれにもならないのだけどね(笑)。まじめに仕事をしようとしている人が儲かる状況ではないのです。それを少しでもちゃんとした方向に向けたいなとは思います。 編: 各ブランチでの手ごたえはいかがでしょうか。 安田氏: 香港、台湾は何回かお伝えしているとおりで、韓国が最近ではお伝えする機会が多くなっているのですが、シンガポール地区、マレーシア地区もものすごく強化していきたい。タイももう少しがんばりたい。今期中はそこらへんを粛々とやっていきたいのです。頭の中で今後を考えているところはあるのですが、準備をきちっとしないと次の段階にいけないので、今やっているところをもう少ししっかり底上げして認めてもらった上で、さらに底上げをしていきたいです。ベトナムなんかも成長してきていますからね。テレビや何かも販売台数がお店に聞くと売れ始めていますし、持っている人をよく見かけるようになってきました。 各国地元のディストリビュータさんとソニーの販売会社さんの各国2件ずつとお付き合いして、そこに営業的なことはお任せしています。ディストリビューターさんの社員さんが5人、6人という単位でその国の中を回ってくれているわけです。香港や台湾から月に1度、皆さんに集まって頂いて、新作のご案内を販売店さんのパートナーショップに招いてお話しするということをずっとこの10何年間やっています。この時期はこのキャンペーンをやります、今度こういう商品が出ます、こういうソフトが予定されていますというインフォメーションを毎月アップデートしていくというやり方をしています。 こちらから情報を提供するばかりではなく、「あれはどうなっているのですか?」という質問も来る。できるだけ誠実に応えながら、できるものはやりますしできないときにはもうちょっと待ってくださいといって少しずつできるようにすることの繰り返しになります。香港地区でも台湾地区でもお店とのインタラクティブは非常にうまくいき始めている。大事なのはお店からユーザーに対するやり取りなのです。ここら辺がもう少し強化できるようにしていきたいです。
■ 台湾大同大学での「台湾クリエイター育成プログラム」にかける期待
安田氏: 去年は中国でビジネスができるといいねという話があったのだけど、今年はオリンピック一色になってきているし、その前に不幸な災害が起きてしまったのでなかなか優先順位としてゲームが回らないのかなという風に見てしまいます。では、何をやろうかということを現在議論しています。 編: 中国市場はもう少しこのままの状態が続くとお考えでしょうか。 安田氏: よそ様の国に行って商売させて頂くわけですから、簡単には行きません。その国には制度があるし、習慣もありますので、それを守りながらやらないと結局一時はできてもすぐにうまくいかなくなります。そうならないために準備万端でやろうとしています。ただし、人も金も限られているので毎年駐在事務所を置いて人が何人かいてやっていてみたり、こういうゲームショーにお付き合いしていても億単位の金がかかってしまう。そのリソースを他に使った方が良いということも出てくるわけです。こうした状況が続くようであれば中国国内の意見が統一されるまで余計なことは聞かずに待っていた方が良いのかなという気も最近少しはしています。そういう選択肢も出てきています。 編: 中国市場に対するモチベーションは下がったといえるのでしょうか。 安田氏: ゲームショウを見ればユーザーさんは非常に興味をもって見ていただいているわけです。かたや法律や規制など色々な理由があってやっているわけであって我々がどうこう言える問題ではないのです。だから台湾みたいにウェルカムで協力してあげるので一生懸命がんばってくださいというところもありますので、お話はしたにしてもやれとはいえません。お願いをしているつもりはなく、お付き合いをさせて頂いているし提言もさせて頂いている。それをどう取って頂くかというのは相手側の問題ですので、あまりしつこくやりすぎてもいけない場合は少し待つことも必要かなと思います。 ユーザーの方は気の毒だと思います。結局健全な市場ではなくなってしまうのです。平行ものとコピーでゲーム業界が成り立っているってどう見ても健全ではないじゃないですか。それが健全だというのならそれでやっていくしかないわけですし、遅まきながら急いで健全にしてくださいよといわれれば、「はいよ」ってその準備があることはお伝えしたい。ディスカレッジしているわけではなく3人分の仕事を2人でやるようなぎりぎりのところでやっているので、別なところで仕事があればこちらをお休みしてやってもらうことだって考えられるわけです。 編: Taipei Game Showで「台湾クリエイター育成プログラム」を発表されました。あれから半年が経過しましたが、プログラムの進捗はいかがですか? 安田氏: 大同大学というところで講義が行なわれています。私もスタートした時に行って学生さんたち100人くらいにお話をしたこともあるのですが、熱気がすばらしかったね。ここまで学生さんたちが真剣なのかなと思いました。5人~10人1組でグループ1組になって、大きな半紙に色々なことを書いて色々な説明をしながらこんなタイトルを作りたいみたいなことをやっていました。素晴らしいですよみんな。いい目をしていました。それを見て涙ぐんだ感じが俺も年を取ったなと思いました(笑)。 人を育てるというのは半年や1年でできることではありませんから、1年2年3年というサイクルで一生懸命ノウハウを見つけて頂くためにこちらから色々な教育活動に協力している状況です。ただ、非常に吸収は早いみたい。知りたいと思っているから説明しても全部覚えてしまうよね。後ろで弁当食ってるやつなんて1人もいないのだから、非常にいい状況ですし楽しみです。その中からだんだんゲームを作ってみたいという人たちが出てくると思います。これから第3回目にプログラムが始まります。 編: 授業の後に飲みに行き、恋愛をし、人生の経験をつむことが素晴らしいゲーム作りに繋がると以前おっしゃっていましたよね(笑)。 安田氏: だから特に最近多いのはコンピュータはすごく便利なものなのだけど、コンピュータからものすごい量の情報を得ても考える時間がない。下手するとうちの会社でもコンピュータの前にずーっと座っている社員さんがいるのだけど、仕事ができない。色々な知識はあるのだけど仕事をやっているかというと、コンピュータ相手の仕事はできても人間相手の仕事はできなくなってしまう。一種の病気のようなものだから、そうならないようにしなければならない。 ソフトを作るということは人生と同じです。食べ物だったら甘いとか辛いとか酸っぱいとか美味しいとか色々なことがある。運動すれば限界がある。腕立て伏せ50回で30回くらいから腕が痛くなってきて、それでも50回やりきるというところで精神的な限界を超えるわけです。そういうことがあると違うのではないかなと思うのです。本当に売れるソフトを作る人というのは非常に人間的ですよね。言葉で説明するのは難しいですが、非常に心がある人が多い。アジアでもそういう人が増えてくれれば良いなと思います。他の大学からもご提案をいただいていますが、まずはここをやってから次に行きますということで待って頂いています。教育をやってモノになるまでの段取りでやってもらっています。 編: 最後にユーザーさんにメッセージをお願いいたします。 安田氏: 最近は日本にお買い物に来る中国の方も多いです。正規品に対する意識がずいぶん中国の方が考えるようになってきた。「これは本物なのですか、偽者なのですか」という、観光スポットに来た彼らを収録したテレビ番組の会話を聞いていると本物に対する執念が出てきたなと感じます。ゲームも然りですので、コピーというものに対して皆さんでよく論じ合って、中国の中から色々な意見が出てくると良いと思います。人から言われたことをやるということはなかなか本腰が入らないのだけど、自分たちの気持ちから出てきたものはすごく真剣にやるじゃないですか。 我々から見てコピーは困ることですが、それで一番損をしているのは中国の方です。そのあたりをよく考えて議論していただきたいとよく思うことです。頭ごなしに言えば言えてしまうのですが、そういうことではなく、日本にもたくさん来て頂いていて東京ゲームショウでもよくお見かけしますが、本物はやはり本物なのです。偽者から本物は生まれません。買う枚数が減ってもいいですので本物を買ってそれを掘り下げていってもらった方が本当の意味でのソフトの意味がわかってくるのではないかと思います。 後はバランスの問題で、コンピュータは色々な知識も必要だし、色々なインフォメーションが必要だけど1日中それでは終わってしまう。会議が好きで1日の8割を会議に割いていると決まったことを実行する時間が2割しかない。絶対最初からできるわけがない。多くとも2割くらいの時間で会議をして8割の時間で実現してください。そういうことをよく考えながら動いています。コメントからは外れましたが、よく咀嚼していただければと思います。
編: ありがとうございました。 (2008年8月8日) [Reported by 三浦尋一]
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