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会場:Shanghai New International Expo Center
入場料:50元(約800円)
実際に触れられる形で展示することで、その魅力をダイレクトに伝え、ショップでの購入に結びつける。これがもっともオーソドックスなゲームショウの役割となるが、SCE Asiaの出展は、この捉え方がまったく適用できない。もちろん、街に行けば輸入版が存在するわけだが、SCEのプラットフォームラインナップの中で最高級機に位置するPS3は、モノ自体の取り扱いが限られている。にも関わらず、出展する意図とは何か? 今回は、SCE Asiaの陣頭指揮を執るSCEコーポレートエグゼクティブ SCE Asia統括兼アジア事業統括本部長の安田哲彦氏に、SCEのアジア戦略をお伺いした。
安田氏とのインタビューは、2005年2月のTaipei Game Show以来となる。安田氏は、会っていきなり舞台裏を全部バラしてしまうような本音トークを好み、アジアで長年ビジネスをしてきた人間だけが持つ一種の凄みを感じさせる人物だ。時折、SCEJの営業時代に培われた独自の営業哲学から来る浪花節が顔を覗かせ、また、言葉の端々にSCEJに対して苦言が入り交じるあたりは、古巣に対する人一倍の愛着の深さゆえか。ちなみにSCE Asiaは、安田氏の強いリーダーシップで率いられている組織ゆえに、SCE社内で俗に“安田組”と呼ばれているという。その理由は、インタビューを読むことでなんとなく掴んで貰えると思うがいかがだろうか。 ■ SCE Asiaの中国市場に対する捉え方、PS3の値下げはあるのか?
安田氏: 毎回思うことなんですけれども、我々のコンソールゲームもそろそろオンラインのほうにも力を入れたいなと思うのですが、我々のコンソールゲームは実にゲームショウ向けのものなのだなと。コントローラーを握ればすぐ遊べる。他にそういうゲームは出展されてないですよね。我々みたいな商品は、案内をしてあげやすいなと思いましたね。他のブースについても皆さんがんばっているのですけれども、社名を知らしめるのにはいいのかもしれませんけど、遊んでみるチャンスは少ないように見えました。 編: SCE Asiaのブースは出し惜しみなしといった感じで、日本や欧米と変わらない出展内容でしたよね。 安田氏: そうですね。出来るだけそうしたいし、私なんかはSCEが出来る前から、準備室からこの仕事に参加しているので、その辺は特に心がけています。格好いいことは本当に何も無くて、他社さんに対して好戦的でもないつもりです。やっぱり自分たちがやるべきことができてないとダメだと、社内的にも結構きびしくやっています。 編: 今年のChinaJoyは、SCEさんを筆頭にEAやUbisoftがコンシューマゲームを出展していました。中国では、コンシューマゲームの販売は禁止されていると聞いていますが、そういう意味では風向きは変わってきているのでしょうか。 安田氏: 変わっていないと思います。我々は要するに合法だと言われるまでは正式にはこの国ではモノを売れないわけです。ただ、ありがたいことに北京と上海でゲームショウが2つある。この2つだけが中国国内で我々の宣伝をきちっとできるところなのです。多分去年来てくれた人は今年も来てくれたと思うし、前回は実機が触れなかったけど、今回は実機が触れると。ソフトもこの前は映像しかなかったのが、今回は遊べるようにしてありますから。こんなところまで遊べるんだというところを皆さんに案内ができたなと思っています。 編: その結果、仮に輸入版でもいいですし、日本や台湾、香港に旅行にいったときに本体やソフトを買っていただければOKというビジネスなのでしょうか。 安田氏: 今のところそれは推奨はしませんけれどもそういう結果になることが多いかもしれない。ただ、私が残念に思っているのはまだうちの機械はそんなに安いものではないので、お金を貯めて買っていただいた人たちに対するアフターサービスです。それができにくい環境にあるのは少し心苦しいところです。確かに中国の方でお買い上げになった方はたくさんいると思うのですが、「これ壊れちゃったよ、どうしよう」というユーザーもいると思いますからね。 編: 確かにPS3は他のゲーム機に比べると少し高い設定になっています。北米で値下げが発表されましたが、SCE Asiaではいかがでしょうか。 安田氏: アジアの場合、日本からの並行輸入が多いので、価格的には日本の条件に合わせて値段を調整していく予定です。 編: 日本が値下げすればアジアも同時に? 安田氏: 基本的にそういうスタンスですが、単純に値下げという形になるか、ソフトをバンドルして実質的に値下げということもあるかもしれません。 編: 安田さん自身は値下げについてはどのように考えていますか? 安田氏: これは私の考えですけど、プレイステーション 3に関しては、発売する前にいろいろな議論があったのです。1番最初にプレイステーションを十数年前に発売したときに、当時39,800円だったじゃないですか。十数年前の398って、今の貨幣価値だといくらぐらいになるのかなって考えた時に、598でも高くは無いなと思うんです。 ただ、ユーザーさんの立場から見れば、中身は別として一見1万円安い2万円安いというゲーム機が他にあったりすると、どうしてもそっちに目が行きやすいのかなという印象は持っています。今の599から499、その下の段階もあるかもしれませんが、それぐらいになると商品的にはかなり動き始めるのではないかと思っています。 誤解されている方もいますが、他のゲーム機と比べて「要らない」といっている人はいないのです。「高くて買えないよ」という人がいっぱいいるのです。じゃあ絶対買わないのかといえば、安くなったら「絶対買います」と。これは今まで「絶対買いません」という人は会ったことが無いので、どこかの価格になったときに、買い始めてくれるのではないかなと思います。 編: アジアでのブレイクポイントというのはどのぐらいの価格帯だと思いますか。 安田氏: やはりいまだと398くらいなのかなという気がしますね。それが1日も早く実現できるように原価を下げるための努力をしています。ただ、原価だけを下げていくことは出来ないのです。モノを売りながら原価をさげることを今一生懸命プランを練っているところです。 編: SCE Asiaの中で、売り上げの占める割合は、PS3がトップなのでしょうか。 安田氏: いえ、金額的にすると結構まあまあの割合ですが、台数的に少ないですのでそこまでいっていません。ハードだけで見ると、今もPS2です。ソフトも含めて見るとPSPですね。 編: 市場規模として大きいのは香港、台湾の2つでしょうか。 安田氏: その2つが大きいところですね。価格帯がちょうどよくあってきているのではないでしょうか。 編: アジアのPSPとPS2の販売状況はいかがでしょうか。 安田氏: 実はPSPもPS2も数が足りなくて社内で喧嘩です(笑)。他のリージョンからわけてもらうのに必死です。日本からもらい、アメリカの分も、ヨーロッパからもちょっとわけてくれないかと。入ってきたものはその日のうちに全部出て行ってしまう状況です。 編: それは凄いですね。これは日本と欧米の需要が一段落して、次にアジアが活況を呈してきたと見ていいのでしょうか? 安田氏: というよりは、やり方の違いでしょうね。各地域ごとに違ってきてるなじゃないかなと思うのは、SCE Asiaの場合はソフトが売れない地域なので、利益構造が他の地域とまったく違うのですよ。他の地域はハードで赤字が出てもソフトでカバーできるという構図ができていますが、SCE Asiaではソフトがほとんど売れないわけだから、ハードでも利益を出しておかないとビジネスにならないわけです。 ですから、日本と違ってテレビCMだとか派手なことができません。SCE Asiaの前身となる準備室の時から、香港でも台湾でもずっと続けてきているような、毎週どこかのショッピングセンターに行って新しいソフトをみんなに案内して遊んでもらうということをずーっと続けているのですよ。それが最近になって成果が出てきたのかなってそういう風に思っています。 私がソニーに入社したての頃は、予算も無いので、失礼だけどまだ売れていないようなタレントと我々が新小岩の商店街とかにいって、タレントさん連れてのぼり持って法被着て練り歩くわけですよ。それでレコード屋さんの前でみかん箱の上でカラオケで歌わせるわけです。そうやって一生懸命レコード盤を売って、今日は5枚売れたね10枚売れたねとやってました。こんなことやるためにこの会社入ったんじゃなかったのに、とんでもないことになっちゃったなと思ったんだけど(笑)、いわゆるそういう草の根みたいなものっていつか花開くものと信じながらやっていたのです。 SCE Asiaのビジネスもそうした取り組みをみんなに付き合わせているような感じですよね。みんなはやりたくないと思うんです。だって、メチャメチャに暑いのに着ぐるみ着てチラシ配りしてるわけですから、「なんで俺こんなことやってなくちゃいけないんだよ」と思うに決まっているのですよ。しかし、それは誰かがやらないといけないことですし、やっているときは大変だけど、やり終わって成果が出来たときに、この会社に愛着が出てくるんですよ。 私はSCEJでそれをやってた人間ですから、今もJの方にもすごく愛着がある。香港でも同じようにやってきたからものすごく愛着がある。台湾も2DKで始めて、やっとちゃんとしたオフィスになりましたが、そこもゼロからのスタートですからすごく愛着があるのです。俺と同じような愛着がみんなにも出てきたときに、もうちょっと仕事だからとかやんなくちゃいけないからとか気合とか入れなくても自分の体が自然に動いちゃうと思うのですよ。そこをこれからも伝えていきたいところですよね。
■ プレイステーション 3のアジアでの反応について。赤字覚悟の販売継続は「原価を下げるため」
安田氏: いいですよ。色々なことがPS3を媒介にしてできるわけです。日本と比べて平均所得が違いますので、バカスカ売れますかといえば売れないのだけど(笑)、コンスタントには売れていますよね。 編: アジアは日本と違って、デジタルハイビジョン放送によるハイデフの波が来ていないですよね。そういう意味ではテレビの買い替えが日本以上に進んでいないアジアでは、かなり苦しい展開になるのではと思ったのですが。 安田氏: それは我々も自覚しているところですが、1つ良い味方ができているのですよ。それはソニーなんです。彼らはBRAVIAのようなHD液晶テレビを売りたい。我々はPS3の映像を普通のテレビではなく、HDテレビに映してもらいたい。やっとWin-Winの方向が一致して非常に良い関係で香港の販売会社さん、台湾の販売会社さん、シンガポールの販売会社さん、一緒に提携して一緒に売っていますよ。私も必ずスピーチの中で、私たちのすばらしいPS3の映像をぜひBRAVIAでお試しくださいみたいなコメントを必ず入れるようにしていますからね。 編: 確かに今年2月に台湾を訪れた際は、BRAVIAの広告が本当にいっぱいありましたし、ソニー系ショップでもBRAVIAが人気でした。 安田氏: 広告という点では、私のテリトリーでは、広告代理店さんを一切使わないのですよ。代理店さんに丸投げするようなことばかりやっているとお金ばかりかかっちゃって仕事を覚えないでそのまま育っちゃうので、とにかく宣伝の担当になった人というのはサンプル版を持って媒体回りしてくださいと。書いてもらえなかったらもう1回回りなさい。また書いてもらえなかったらまた行けと(笑)。 たとえば台湾だったら「台北Walker」という雑誌があるのですが、表2見開きで紹介をずーっと数カ月やってくれてるわけです。別に高いお金を取られているというわけではなくて、タイアップでやっていただいている。媒体料150万だとか300万だとか払うだけでやりとりしているのではなくて、何回も通ってやっとそれを取ったとなるとすごい充実感が担当者はあるわけです。自信もつくわけです。仮に広告出すだけのお金ができたとしても、広告代理店さんが入ろうと思っても我々が押さえた方が安くつくわけです。媒体さんとも我々のほうが仲がいいわけです。どこにも入る隙間が無い。だからこういうイベントがあると、イベンターの方は手伝っていただくのだけど代理店さんは一切絡まない。そうすることでコストを下げています。アジアではずーっとそういうことをやり続けています。 韓国のPS3ローンチを6月16日に行なったのですが、その際も広告代理店さんは使わなかったのです。イベンターの方はお願いしましたが、「あとはSCE Koreaだけでやれ」と。そこでひとつおもしろい話があるんですが、徹夜して設営作業をやっていたら、設営をしている現場に、販売をしてもらっているヨンサン地区のお店の親父さんが、夜中の2時くらいに夜食に差し入れに来てくれたんです。 それで次の日にその方と食事したら、「俺はもう涙が出たよと。今まで思いもよらなかったけど、あいつら徹夜で設営していたんだよね。感動したよ」と、喜んでくれたんですね。ローンチの後、「立ち上げがうまくいったのは皆さんのおかげです、ご苦労さん」というと、スタッフは「ああ疲れたけど良かった。イベントを自分たちでやった」という満足感があるわけです。これが会社に対する愛着だとか愛社精神だと思います。俺も会社の神輿を力を入れて担いだんだという意識が少しずつ定着してきてくれているかなと思いますね。 編: 韓国でのPS3のローンチでの来場者の反応はいかがでしたか。 安田氏: すごかったですよ。あっという間に用意していたPS3が無くなりました。完売です。 編: とすると、今後はどうされていくのでしょうか? 安田氏: 毎月一定の数を用意して売ってもらおうと思っています。ただ、ご存知のようにPS3って1台売ると何がしか儲かるのではなくて、何がしかのお金が出て行っちゃうので、当然バジェットはあります。PSPが売れて、PS2が売れて、各々のソフトが売れて、若干の利益が出る。それを見ながらPS3を売っていくというような感じです。やっぱり赤字にはできないので、このくらいまでなら売ってもいいよというような感じでいまやってます。もう少し勢いがついてくるとまた様子が変わってくると思います。 編: アジアで赤字にも関わらず出し続ける理由は何でしょうか。 安田氏: 要するに原価を下げて早く値段を下げたいからです。売らなかったら原価は下がらない。今までもそうでした。新しい商品を出したときは2~3年は必ず赤字になってました。原価が下がって、そこから一気に利益があがって、また新しい商品を出すと赤字になる。その繰り返しなのですが、今回ばかりはなんでそんなに騒がれるのかわからないくらいに騒がれていますよね。先ほども申し上げたとおり、最初からやっている私からするとおかしい感じなんですよね。なんで今回だけ騒がれるんだと。これまでも同じことは毎回あったんです。 編: ちなみにPS3は、システムOSやいくつかのタイトルで簡体字のものが出てきています。これは中国でもいつでも発売できるようにという意思の表れなのでしょうか。 安田氏: 必ずしもそういうわけではないです。繁体字、簡体字というのは香港でも台湾でもシンガポール、マレーシアでも必要なものなのです。シンガポールチャイニーズは簡体字です。 編: ニーズがあるということは、PS3の時代では、繁体字、簡体字は両方対応していく方針ということですか? 安田氏: まだハッキリとそう決められる程じゃないんですよ。PS2の時代は、コピーにやられちゃいました。やっとビジネスとしてスタートしたのはPSP、PS3からなんです。それでいろんな形のものを出していって、何が一番受け入れられやすいかを手探りで探っているところです。 アジアでビジネスを始めたばかりの頃、ジャケットが日本語表記ではわからないからというので、中国語で出してみたら、「ニセモノなんじゃないの?」って言われたんです(笑)。「日本のゲームは日本語が書いてあるはずだ」って。それはそうなんだけど、「お前らが作れっていったから作ったんじゃないの」って(笑)。そんなバカなやり取りがあって、そういうところを経て今に至っているのです。蓄積したものをずーっと取り込みながらやっていきたいなと思いますね。
■ オンラインサービスの取り組み。アジア独自の映像配信サービスに注目
安田氏: と思っていたんだけど、意外と変わってないですね(笑)。 編: といいますと、デジタル流通は思ったほどうまくいかなかったということでしょうか。 安田氏: そうじゃなくて、ネットワークの世界に初めて入っていけたという感じですね。隣にいる彼(江尻氏)は、元々台湾So-netのバリバリのトップだった人です。その彼がわざわざ来て香港の方で仕事をしてくれているわけですから、当然次の一手を着々と進めていますよ。 江尻裕一氏: ネットワーク時代とはいえ、安田が言っていたようなディテールレベルでのベタな作業というのはいっぱいあるわけです。商品をちゃんと並べる、動きを良く見て売れている商品を前に出す。こればかりはいつになっても変わらないわけです。これをひたすらやっていますね。ものすごくベタですが。 編: つまり、日本や欧米とは異なる独自のオンラインサービスを展開していくということなのでしょうか。 安田氏: SCE Asiaは投資できるお金はあんまりないんです。そんなに儲かるわけじゃないし、ソフトの商売があんまり出来ていませんからね。だから、アジアでは、日本や欧米の各リージョンでサービスされているもの、たとえばプレイステーションストアで扱っているものを、うちでも扱わせてよということをやっています。だから、ストアのアイテムってアジアが一番多いんですよ。 ネットワークを使ったマーケティングという意味ではやっぱりいろんな工夫をできるようにする。お金をかけないでできることはいっぱいありますので、欧米や日本に負けない色々なことを考えて、トライをしてだめなら変える。ひたすらまわすということをやっています。 編: PSストアの品揃えがアジアが一番多いというのは、まさしくアジアらしい展開の仕方ですが、その中でユニークな試みは行なっているのでしょうか? 安田氏: 今それを形にどんどんしていこうと思っているところですね。もう少し経つと具体的な形をご案内できると思います。こういうサービスは、ぶち上げてしまうと引っ込めるわけにはいかないのでね(笑)。 編: それは映像配信でしょうか。 安田氏: うーん。それもひとつですね。 編: 中国に来て驚いたことは、ネットカフェでストリーミング映像を見ているユーザーが激増していたことです。 安田氏: そういったものもPS3でもできるし、PS3に撮った映像をPSPで見ることだってできます。ただそれが具体的にこうすればこうできるというのにはもう少し時間がかかるんじゃないかと思いますね。 編: それはオンラインサービスのくくりの中で行なうわけですね。 安田氏: オンラインサービスは、やっぱりそこまでいかないと、皆さんに興味を持ってもらいにくいですよね。そこで興味を持っていただけるのはもしかしたらゲームなのかもしれないし、もしかしたらニュースなのかもしれないし、もしかしたらどうなのかなということをいま探っているわけです。 編: 「Wiiチャンネル」のようなイメージでしょうか。 江尻裕一氏: テレビとネットワークが繋がることって結構画期的だと思うんですよね。今までインターネットでみていたようなニュースやYoutubeのような動画配信サービスも含めてですけど、あれがそのままテレビで見られればいいのかどうかと素朴な疑問があって、私自身もまだ実はこうですとお答えできる解はないのです。オンラインならではの面白さを引き出せるような形を考えたいですね。 編: PS3で期待されるのは、当然、PCと変わらない原寸大のサービスです。 江尻氏: それもそうですが、そもそもわざわざお客さんがPS3をつけてネットにログインして、テレビで見るというハードルは、通常のテレビ視聴と比べて若干まだあるわけです。これをクリアしてテレビで何を見たいのか。走り出してからも探りながらやっているのですが、切り口を完全に変えたものを、頭をぐいぐい絞って考えています。 安田氏: あと供給側だけの論理で組み立てないように考えていますよね。商品作るためのマーチャンダイジングと同じように何を欲しがられているのか一生懸命探している。映像関係だと、どうしても上位に女性の裸が来るので困ってしまうんですが(笑)、それはうちとしてはやれない。だから、その次くらいからスタートしなくてはいけないですよね。 編: 見えにくいのはビジネスモデルです。ユーザーに対して課金を発生させるのでしょうか。 安田氏: 当然、どこかのタイミングでお金はいただくんですが、基本的にはプリペイド方式でやろうと思ってます。 編: その映像配信サービスは大体いつくらいにお目見えするでしょうか? 安田氏: 自分たちの目標ってあるんですけれども、新しいハードルができたりすると結構変わりますからね。具体的なスケジュールは勘弁していただくとしても、方向性はそっちに向かって走っていますよ。やっぱりせっかくネットということでスタートしているわけですから、形にしないとスローガンだけで終わっちゃいますからね。
■ アジアで成功するビジネスモデルとは何か? 将来の中国の展開戦略を聞く
安田氏: 他社さまのことですのでコメントは控えさせていただきたいのですが、他の業界も含めて、日本と中国の合弁というところでいうと、実にいろんな業界の方が中国で日本の会社がビジネスをおやりになっている。必ず合弁の比率というのが日本は49で中国が51ぐらいで、あんまりうまくいっているという話を聞きません。ゲーム業界でも最近2、3トラブルがありました。我々としてはもう少し色々な角度から見ないと、合弁での事業はちょっと怖くてスタートできないなという感じですね。 編: 今後仮に単独での中国展開が可能になったとして、当然マーケティングを色々と考えていかなければいけませんが、中国にはゲームに関するテレビCMができないといった意外な部分にハードルがあります。そうした中でどのような展開を考えていますか? 安田氏: SCE Asiaは、元々テレビCMをやっていないのでその辺は変わりません。それから、中国は地域によって言語も違いますよね。ですから、地域をいくつかに区切りながら、そこで独自のプロモーションを各々やっていくことになると思います。たとえば香港や台湾、シンガポールでやっているみたいなことを中国各地でやるようなイメージですよね。 編: なにぶん中国は広いですからね。 安田氏: 広いといってもある程度のお客さんは海岸の方にいますよね。それを何分割かにしていくだけです。5分割でできるのか、6分割にしなければならないのか具体的にはやってみないとわかりませんけど。それはそれで1つの販売会社として工夫をこらしてやっていく形になると思います。 編: 先日、中国の電脳街を歩いてきました。実に至るところにPSPが置かれていました。電脳街なのにVAIOやウォークマンよりもPSPのほうが目立つような状況ですが、こうした実態をどうご覧になりますか。 安田氏: それだけお客さんからもリクエストが多いわけです。だから、SCE Asiaでは本当にPSPの数が足りないんですよ。香港で売り、台湾で売り、シンガポールで売りと、我々が正式に売っているところから、片っ端から集めて持っていく知らない人がいるからです。 編: PSPは、むしろ中国の方が、近隣アジア諸国以上に需要があるように感じられましたね。 安田氏: そうですね。PS2についてもこれからますます売れるんじゃないかなと思います。PSPは別に中国だけじゃなくて、台湾でも香港でもシンガポールでもかなり売り上げは上がってきています。中国に流れている以上にローカルでの消費が増えていますよね。最初はPSPはあんまり元気なかったんですよ。でも、ソフトドリンクとのタイアップや、銀行さんとのインセンティブとか、色々なところでBtoBでやったんですよ。そしたら皆さん快く受けてくれて、相当数売れるようになってきました。 編: PSPの使い方としては、1つは海賊ソフトをプレイすることと、1つはデジタルメディアプレーヤーということになるのでしょうか。 安田氏: 他の使い方もこれから提案していかなくてはいけないですよね。今後は特にPS3と一緒にどうやって使うのかということを考えなければなりません。これを一足飛びにいろいろなことを発信してもダメなんで、たとえば2か月に1回くらいのペースで節目節目で、今回はこういう使い方を提案しましょうということをやっていくつもりです。今回はプリンタが使えるようになったんだっけ? 江尻氏: エプソンさんのプリンタにも対応しましたし、リモートプレイがネット経由でいけるようになりました。今までは同じルータでなければいけなかったんですが、今ではインターネットを介してリモートプレイができます。それから、機能の追加で大きかったのは、PS3でのDVDの画質を向上させました。PS2のゲームを液晶でやると結構汚かったんですけど、これもアップコンバータですごく綺麗に映るようになりました。 編: Ver1.80の公開によってアジア圏で需要は喚起されたのでしょうか? 江尻氏: されましたね。PS2のソフトを持っているお客さんで、多分テレビをLCDに変えたお客さんは画質は結構落ちていたんですね。480iという規格は、ブラウン管で見たら結構綺麗にできていたんですけれども、液晶で見てしまうと結構モザイクになるんです。これがアップコンバートされて、モノによっては1080iや1080pの本当にフルHDに近い映像で、PS2のゲームが遊べるようになっています。これは機能的にはもちろん過去のタイトル資産がそのまま活かせますので、そうした上でも良かったかなと思っています。 編: アジアは、映像に対する需要が高いのが1つの特徴だと思います。 江尻氏: 今PSストアにフリーのムービーなんかを置いていますが、ダウンロードデータのハードディスクの占有量を計ってみると、具体的な数字は言えませんが、アジアが一番高いんですね。何に使っているかというと、ダウンロードしたムービーを入れたり、自分で持ってきた映像やムービークリップとかを入れている。デジタルコンテンツに対する敏感度というのは中国は非常に高いですよね。それらがネットカフェでストリーミングされているイリーガルコンテンツや、ネットカフェにストアされているデータであることも把握していますが、平均所得とネットワークの回線のスピードが上がってくると、ポーンといくのではないかという期待はありますね。
■ SCE Asiaの今後の展開について
安田氏: 今もそんなもんですよ。ただ、面白いのは、アジアでビジネスをやる前は、日本のものがアジアに行っていたわけですが、どのくらいのものが行ってるのは、誰も知らなかったんです。当時の私もそんなこと考えたこともなかった。自分がいざ香港に行ってみると日本から大量に流れてきていて、俺たちが売るスペースがないような状態だったんですね。 それで実際にビジネスを始めてみて実感したのは、わざわざ自社でやらなくても、黙ってれば勝手に商品が流れてきて同じくらいの売り上げが上がるというのは間違いであって、直接我々がやることによって1億円だったものが、5億円になるということです。イベントをやってみたりプロモーションをやってみたり、営業活動をやってみたり。営業活動っていっても今までやってこなかった店頭のPOPだとか、看板をつけたりして、いろんなことをやるわけです。そうすることによって平行に任せておくより5倍以上の売り上げが上がるようになりました。 最近は、平行業者さんもプレイステーションは扱いません。儲からないから。結局、日本で平行業者さんがアルバイトを雇って一生懸命買ってこっちに持ってきたわけだけど、それより若干安く我々が出せば彼らは儲からないわけです。こういう対策を現地に法人を作ってやらないところは、大挙して流れてきちゃいますよね。たとえばアジアのどこの国でも他社さんのものというのはほとんど平行輸入品ですよね。今回PS3で海賊版対策をしましたが、他社さんのものは相変わらず、チップをつけて海賊版がバカバカ売られているわけですからね。 編: SCE Asiaの展開地域は、中国が最後なのでしょうか。 安田氏: まだまだ他にもいっぱい国がありますよ。我々が今まであんまり意識していなかった国名も最近ちらほら聞こえるようになってきてますからね。 編: たとえば、インドとかでしょうか。 安田氏: インドについては社内でもはっきりとボーダーラインが無いんです。今の時期にどこがやるという話をするよりももう少しSCE Asiaが力をつけてから仕切り直しをしたいですね。 編: インドは地理的にいうとアジアだと思いますが。 安田氏: そうなんですが、昔イギリス領だったからSCEヨーロッパがやるべきとかいろんな議論があって(笑)、あんまりそういう話を社内でしてても疲れちゃうんで今の段階ではなるべくしないようにしてるんです。ただ、個人的な目標としては、よく研究した上で、あと2、3年がんばったらSCE Asiaで正式にやりたいなとは思っています。 編: インド以外のエリアについてはいかがですか。 安田氏: ゲームってやはり万国共通で喜ぶんですよね。お子さんだとか大人になってもどうしても時間みつけてはやっているので、別に国境は無いと思いますよ。 編: そういう点では、SCE Asiaの公式ホームページが多言語対応し、“大アジア”的なサイトになりましたね。 安田氏: 深い意味はありません。なるべく多くの人に見ていただきたいだけの話です。アジアのユーザーに、なるべく受け入れていただけるように間口を広げているだけですよ。 編: 今後、サイトでのユーザーの反応を見て、展開エリアの拡張も行なわれたりするのでしょうか? 安田氏: うーん。悩ましいところなんですけどね。関税がものすごく高い国では、正式にやっていても利益がでません。正式に展開すると、その国で宣伝ができるようになるのですが、100台入れるたびに宣伝に1,000万円かけましたとなると費用対効果がまったく上がらないんです。でも、阻止したくても我々の力の及ばないところで、勝手に運んでいく人がいるので、持っている人はどんどんどんどん増えていくのですよね。そうなると必然的に情報サイトは必要になりますよね。 編: なるほど。そのためのサイトであると。 安田氏: ただ、ベトナム語でやってくれとか、タイ語でやってくれとか、マレー語でやってくれとかなるとそこまでの体力は正直なところないです。体力ができればやるつもりですけれども、今のところは中国語、英語、韓国語というところがぎりぎりですよ。 編: 最後に日本のユーザーだけでなく台湾、香港などアジア圏のユーザーに一言お願いします。 安田氏: SCE Asiaには、私以外に多くの若くて優秀なスタッフがいます。ユーザーさんと年の近い趣味の近いスタッフが寝ないでがんばっていますので、SCE Asiaのサイトを見てみたり、イベントに参加してみたり、一緒に楽しんでください。我々も一緒に楽しめるような環境を作るために全力でがんばっていきます。「アジア地区がSCEの中で一番ピカピカだね」と言われるまで私も死なないようにがんばります。どうぞよろしくお願いします。 編: ありがとうございました。
□China Digital Entertainment Expoのホームページ (2007年7月16日) [Reported by 中村聖司]
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