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今回、本作のエグゼクティブプロデューサーを務めるリチャード ギャリオット氏が、サービスに先がけエヌ・シー・ジャパンを訪れ、インタビューすることができた。ギャリオット氏はRPGというジャンルを生みだした人物であり、MMORPGというジャンルを作り上げた人物だ。ゲーム史にその名を刻む彼が、最新作である「タブラ ラサ」をどのような想いで作ったのか、そして現在のオンラインゲームを取り巻く状況に関してどのような感想を持っているかを質問してみた。 「タブラ ラサ」は本誌でも何度も紹介しているタイトルだ。「エイリアンとの戦い」をテーマとしており、プレーヤーは侵略してきたエイリアンから逃れた地球人である。彼等は戦場を他惑星に移し、同じようにエイリアンと戦う異星人達と協力して、エイリアンと戦いを繰り広げることとなる。戦いの鍵を握るのは人類の中に眠る未知なる力“ロゴス”だ。プレーヤーは重火器とロゴスによるスキルでエイリアンに立ち向かう。 FPSの様なアクション要素が高い戦闘と、アウトポスト(前哨地帯)を奪い合うゲーム性、そしてハードSFの要素を持つ世界観が魅力的なタイトルだ。本作の開発にはかなり紆余曲折があり、その姿を何度も変えたタイトルとしても印象深い。本誌でもE3や韓国のG★などで本作を追いかけている。こちらも併せてお読みいただきたい。
■ これからの「タブラ ラサ」。日本のユーザーに向けてよりコミュニティを強化する方向へ
ギャリオット氏: 非常に良い。販売は好調だし、コンテンツとしても成長をし続けている。我々は数週間ごとにアップデートを行なっており、プレーヤーにもとても満足してもらっていると思っている。 編: 日本のプレーヤーには「タブラ ラサ」のどこに注目して欲しいですか。 ギャリオット氏: やはり他のMMOとは全く違うゲームだ、というところだ。1つはスピーディーで戦略的な戦いが楽しめる点。そして世界がダイナミックなところだ。「タブラ ラサ」の世界は時と共に変化していく。3つめはミッションのストーリーだ。これに関しては特別に注意を払っている。 編: 世界がダイナミックに変わると言うことは、北米のサーバーは、サービスを開始した時とは全く違った状況になっているのでしょうか。 ギャリオット氏: もちろん変化している、しかしプレーヤーの活躍で世界が変化すると言うところを特に強調したい。他のMMORPGと比較するとわかりやすいのだが、通常のMMORPGは“静止”している。街の人々は変化しないし、モンスターを倒してもしばらくすると同じ場所に登場する。 「タブラ ラサ」はプレーヤー側がエイリアンの侵攻によりアウトポスト(前哨地帯)を失うと、そこのNPCからクエストを受けることができなくなり、ショップも使えなくなる。再びそこを取り返さない限り使うことができなくなる。 編: そうなると現在のサーバーでも北米は人類側が有利だけれども、ヨーロッパはエイリアンが有利、といった感じでサーバーごとの違いができているのでしょうか。 ギャリオット氏: 現在の所全サーバーの状況は同じだ。セオリーとして時間をかけてゲーム的に進化していけば変わっていくことも可能だが、サーバーごとに変わるというのは今のところしていない。 編: プレーヤーから特に評価の高い部分はどこでしょうか。 ギャリオット氏: スピーディーで戦略的な戦いは特に評価が高い。なぜならばこの部分が特に今までのMMORPGとは全く違うからだ。プレーヤーはアクションゲームのように戦闘を行なうことができる。これまでのMMORPGの戦闘は、たとえ3Dグラフィックスのものでも、結局ターンベースのシミュレーションのように攻撃もダメージも距離やタイミングにあまり関係がなかった。 「タブラ ラサ」は戦闘にきちんと3Dの距離の概念や、キャラクタの場所などが関係してくる。障害物に遮られていない敵を攻撃すれば最大のダメージを与えられるが、遮蔽物に身を隠した場合はダメージが半減する。敵は攻撃されるとまず物陰に隠れようとする。 プレーヤーに対して反撃する場合は、敵はプレーヤーを狙いやすい位置に移動する。またショットガンは近距離では複数の敵に当たるなど、武器の特性に合わせた戦いができる。こういった戦闘の駆け引きが特に人気だ。そして最も人気を集めているのがアウトポストの攻防戦だろう。フィールドに大きな変化を与えるこの戦いは迫力があり、他プレーヤーと協力する楽しさもある。 編: 逆に、現在まだ足りないな、と考えている部分はどこでしょうか。 ギャリオット氏: 日本側からは「グループで活動できる、一緒にプレイできるコンテンツをもっと増やして欲しい」という要望が寄せられている。もちろん現在の「タブラ ラサ」にはクランやグループといった要素は入っているが、世界的なマーケットを視野に入れた場合は、ここをもっと強化していきたい。特に日本のユーザーは協力プレイを好むと考えている。 編: 具体的にはどのようなシステムを考えていますか。 ギャリオット氏: 詳細についてはまだ明かすことができない。こちらは日本のスタッフと考えて今作っているところだ。 編: 「タブラ ラサ」の世界観はSFとエイリアンとの戦いをテーマにした、かなりハードなイメージがあります。以前ギャリオット氏が手がけた「ウルティマオンライン」(以下、「UO」)をプレイしていた女性ユーザーにアピールできる要素が少ないのではないか、という印象があります。幅広い層へのアピールするにはどのようなプランがありますか。 ギャリオット氏: それは面白い質問だ(笑)。「UO」は“仮想世界での生活”をテーマとしていて、一方で「タブラ ラサ」は異星人との戦いを扱って、ミリタリー的な要素が強い。現在の「タブラ ラサ」は男性にとって興味深い要素が主流だ。しかし、オンラインゲームは“成長していく”という所に特徴がある。プレイ要素が増えていく内に、女性にも興味を持ってもらえるコンテンツが増えてくると思う。 また、アメリカではMMORPGはハードなイメージを持った作品が多いが、女性もそれを楽しんでいるというデータがある。この作品もハードだが、女性も楽しんでくれる作品だと思っている。 編: 個人的にはアメリカのコンシューマゲームはFPSなど男性向けのハードなゲームが多く、女性や子供はカジュアルゲームをプレイしていて、ゲーム市場が二極化しているのではないかというイメージがあります。これについてはどのような感想をお持ちですか。 ギャリオット氏: 確かにハードコアプレーヤーは存在するが、実際は年齢や性別に関係なく、アメリカではコアなコンシューマゲームもカジュアルゲームも広い世代に楽しまれている。「全ての要素を持った真ん中のゲーム」というのは難しい。一番いいのは、簡単に始めることができて、奥深いものなのではないか。 「タブラ ラサ」は世界観こそハードだが、プレイそのものはすぐに楽しめるように簡単にしている。気軽にプレイしながら世界観の奥深さを楽しんでもらえるゲームになったと思っている。 編: 今後の「タブラ ラサ」の“進化”はどのようになっていくのでしょうか。“進化の方向性”を教えていただければ。 ギャリオット氏: MMORPGの良いところは、コミュニティの要望に合わせてゲーム自体が進化していけるところだ。現在多くの開発者が「タブラ ラサ」に関わっており、様々な方向へ進化している。まず第一は現在プレイしているユーザーに更に楽しんでもらう要素を提供することだ。 そのためにより高レベル向けコンテンツを用意し、より遊びごたえのあるものを追加していく。このために我々は数週間のスパンで次々と新しいコンテンツを追加している。新規マップや、新しい要素が追加されている。個人で乗れる乗り物「Personal Armor Units」などが追加される。 もう一つのチームはユーザーの裾野を広げるための方向性で開発を進めている。よりプレイしやすい「タブラ ラサ」を目指して、グループを見つけやすいシステム、友人を作りやすいシステムを考えている。初心者にとって魅力的なコンテンツにするための開発だ。現在はこの二つの方向に進化している。 編: 「タブラ ラサ」は何故韓国ではなく日本で先にサービスされるのでしょうか。 ギャリオット氏: 世界的なマーケットは大きく変化している。20年前にはまだそれぞれの国が独特のマーケットを持っていた。しかし現在では、ヨーロッパとアメリカのユーザーの嗜好はかなり近いものになっている。ゲームのデザインの上では、アメリカと日本のユーザーの好みは似ているが、韓国では大きく異なっていると考えている。 現在の「タブラ ラサ」は敵のエイリアンと戦う“PvE”がゲームの主軸となっている。これは日本や北米で人気の高い方向性だ。一方韓国では“PvP”が重要だ。このため韓国でサービスするためには「タブラ ラサ」のPvP要素をもっと充実させなくてはいけないと思っている。 編: 「タブラ ラサ」のビジネスモデルに関しては、北米と同じクライアント有料、月額課金方式になるのでしょうか。 ギャリオット氏: NC soft内でも様々なビジネスモデルがある。月額課金、アイテム課金などあらゆるビジネスモデルを採用している。日本ではどのような課金にしていくか、現在検討中だ。日本側スタッフと話し合っていて、こちらもサポートをしていく予定だ。 編: 今後は追加パックなどを発売していく予定ですか。
ギャリオット氏: 現在のアップデートは全て無料で行なっている。しかし現在、全く新しい惑星も開発しており、こちらは大きな容量となるのでCDなどのメディアでの配布を予定している。このメディアに関しては有料にするか無料で配布するかは現在まだ検討中だ。
■ ギャリオット氏が振り返るMMORPGの発展の歴史。ゲーム作りで自ら問い続けているテーマとは?
ギャリオット氏: MMORPGという空間が成長を遂げたことはとても興味深く、楽しい驚きに満ちていた。ただ個人的な感想を言わせてもらえれば、グラフイックスやユーザーインターフェイスでは大幅な変化があったものの、ゲーム性という意味でMMORPGのほとんどは「Ever Quest」(以下、「EQ」)に類似した作品ばかりだったと思う。 一方、生活を楽しめる「UO」タイプの作品があまり発表されなかったことは驚きでもあった。まだまだ「UO」タイプの方向は進化していく可能性があり、私はだからこそNC softにこれからのチャンスがあるのではないかと考えている。 編: 「Second Life」は仮想空間での生活、という要素を受け継ぐ作品といえるでしょうか。 ギャリオット氏: 「Second Life」はプレス関係者などマスコミから大きく注目されていたが、目指すところはとても漠然としていたように思える。エンターテイメントであったり、学問であったり、テニスシューズの販売であったり……。世界観もまた中世やSFなどユーザーの思いつきで足していけるので無秩序だ。何でも詰め込んだ結果、コンテンツとしては深みが足りない。 プレーヤー視点から見た場合、「バーチャルワールド」というのはもっとテーマが明確で輪郭がはっきりした“ゲーム”の方が、より魅力的だと考えている。 編: 「World of Warcraft」(以下、「WoW」)の世界的な成功について、どう思われますか。 ギャリオット氏: そもそも私が大ファンだ(笑)。美しいゲームで、ユーザーインターフェイスも良くできている。試練が与えられ、それをクリアすることで報酬を得られるというゲーム性はとても惹き付けられる。 しかし批判的な意見を言わせてもらえれば、「WoW」は「EQ」に似ている部分があり、開発者達も制作の上で「少なからず影響を受けた」と語っていたと聞いている。私はNC soft以外のMMORPGもプレイしているが、その中でも「WoW」をプレイしている回数は多い。良くできているゲームだと思っている。 編: 「タブラ ラサ」の「EQ」とは違う方向性、というのはどこになるでしょうか。 ギャリオット氏: 私の視点での「EQ」スタイルのゲームの特徴を説明しよう。「EQ」はチャレンジとそれによる報酬で構成されている。1レベルならこの狩り場、3レベルならばこの狩り場と行く場所が決まっており、プレーヤーは狩り場と街の往復で成長する。狩り場所は変わるが、やることはほとんど変わらない。 強いモンスターによってプレーヤーの活動可能な地域は狭められ、“押し込められている”というイメージが強い。ゲームは試練と報酬のバランスはうまく作れば大変面白く機能する。しかし「EQ」タイプのゲームは、常に同じくらいのレベルの人としか遊べないという問題点がある。これは「レベルグラインド」と北米では言われている。 一方で「タブラ ラサ」はレベルがそこまでユーザーを縛らない。ハイレベルのモンスターがいる場所でも低いレベルのプレーヤーが行くことができる。そしてハイレベルのプレーヤーと共に、エイリアンとの戦いに貢献することができる。世界は常に変化しており、プレーヤー達の活躍によって変わっていく。 「タブラ ラサ」では、プレーヤーは与えられた“任務”をクリアすることで活動範囲が広がっていく。例えば、私は1つの秘密を解き明かしており、あなたがそうでない場合、旅を一緒にすることはできても、あなたは新しいフィールドに行くことができない。それはレベルとは関係なく、達成した「任務」によって制限される。 「タブラ ラサ」では「インスタンストランスポーター」というテレポートユニットで様々な場所を移動できるが、それを使うためにもまず探検をしなくてはならない。その任務の達成やトランスポーターへの探検に、ハイレベルのプレーヤーは大きな助けとなるだろう。 編: では次にギャリオット氏自身のお話を聞きたいと思います。ギャリオット氏はNC Softにおいてオンラインゲーム制作の上で、北米と韓国の橋渡しをなさっているという印象を持っています。何故このような役割をするようになったのでしょうか。 ギャリオット氏: 私が参加した2001年当時、NC Softは世界でも珍しいオンラインゲームに特化した会社だった。オンライン以外のゲームも手がけているメーカーもあるが、オンラインゲームというのは複雑で、オンラインゲームに対して常に正しい理解をしているということは簡単なことではない。 私はNC Softの最も重要な人物と最初に話したとき、「今後オンラインゲームが伸びていく」という考え方を聞き、共感した。私のチームが考えていたことと同じだったからだ。その時「協力していこう」と考えた。 編: ギャリオット氏が参加してからのNC Softの活動に関してはどのような感想をお持ちですか。 ギャリオット氏: 私の助言がNC Softの活動の助けになっていれば、と願っている。ただ実際には教えると言うよりも、教えてもらうことの方が多かった。ただ、ここ数年で韓国のオンラインゲームが大きく変わった、という実感はある。数年前は韓国のゲームは全て見下ろし型のゲームで、3Dグラフィックスを使うということに対して、韓国のメーカーの多くは懐疑的だった。 現在アメリカとヨーロッパのテイストは似てきているが、それだけでなく各国のゲームは、アメリカや日本、韓国で人気のあるゲームの良いところを取り入れていこうという動きがある。それぞれの国の特徴というのはなくならないが、良い部分を学び取り入れていくゲームは増えていくと思っている。 編: ギャリオット氏がオンラインゲームを通じてユーザーに問いかけたいテーマというのは何でしょうか。 ギャリオット氏: 私はゲームのルールや細かい部分での規定を決めていくのではなく、ユーザーに対してストーリーを語りかけていきたい、と考えている。私の情熱はユーザーにストーリーを体験させることにある。私の活動は自分自身がやっていて楽しいものでなくてはいけない。 ゲーム開発において、ユーザーにとって便利な機能や快適性を考えてもいるが、常に問い続けているのは「何故私がこのゲームを作っているか」という質問に対しての答えだ。仮想世界で生活していくゲームを作っていく上で、私は心の中でこの問いを繰り返し自問しながら作っている。 編: 最後に、日本のユーザーへのメッセージをお願いします。 ギャリオット氏: 日本は世界的に見ても「UO」をプレイしたくれた方が多い国だ。そのおかげで「UO」は大成功を収めることができた。今回、「タブラ ラサ」を日本に紹介することができるのは、私としても非常にうれしい。現在「タブラ ラサ」は日本でのサービスに向けて全力で準備を進めている。みなさんに楽しんでいただきたいと思っている。
編: ありがとうございました。
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□エヌ・シー・ジャパンのホームページ (2008年3月14日) [Reported by 勝田哲也]
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