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会場:I'PARK mall NHN Japan株式会社、韓国サムスン電子、韓国NEOPLEの3社は、2月3日、「アラド戦記」の日韓戦「2007-2008 日韓決闘大会」の「KOREA Round」を、韓国・龍山(ヨンサン)のI-Park mallにあるE-Sports Stadiumで開催した。今回の大会に先がけて1月19日に東京で「JAPAN Round」が行なわれており、今回の戦いで日韓のどちらが勝利を得るかが決定する。さらに出場した選手の中での最強の選手が選出されることとなる。 I-Park mallのe-スポーツスタジアムはケーブルテレビの人気番組の1つとして、「カートライダー」や「サドンアタック」など様々なネットゲームの対戦大会が行なわれている。扱うタイトルはおなじみの司会者がいて、定番の番組となっている。今回は「アラド戦記」という韓国で大きな人気を誇るタイトルの魅力からか今までのタイトル以上の数百人の観戦者が集まった。
いくつものスポットライトと、数百人の観衆、ハイテンションなしかし全く意味がわからない韓国語のアナウンス、そしてちょっと奇妙な“着物”を着て進行通りに動かされる「テレビ番組」としてのフォーマット……日本の選手達は全く未知の環境に放り込まれた。本稿では、彼らの“戦い”にスポットを当ててお伝えしたい。
■ 日韓最強プレーヤーを決める「日韓決闘大会チャンピオン決定戦」。優勝は堅実さとテクニックを併せ持つカマエルセラフ選手
トーナメントは日韓のそれぞれの選手が勝ち残るベスト4までは観客のいない別会場で行なわれた。結果、韓国側はカマエルセラフ選手(ストライカー)と、ミサ選手(グラップラー)、日本側は寿(とし)選手(阿修羅)とファバル選手(マイスター)の4人が勝ち進んだ。寿選手とファバル選手は前日に「仲間の中での強敵は誰か」という質問に、他の日本選手が声をそろえて挙げた選手で、彼らの評価通りの流れになった。 本会場に場所を移して寿選手vsカマエルセラフ選手、ファバル選手vsミサ選手の戦いが行なわれた。寿選手vsカマエルセラフ選手はまずストライカーであるカマエルセラフ選手の流れるような連続技を決め、あっという間に勝負を決めた。少しでも距離を取ろうとする寿選手を旋風脚で追いつめそこから一気に技をたたき込むその威力が凄まじかった。 1本取られた寿選手は、ハイパーアーマーでダメージを防ぐカマエルセラフ選手に攻めあぐねるが、一瞬の隙をつき相手を凍らせそこからダメージを与える得意の戦法に持ち込もうとする。しかし半分ほど体力を奪ってから再び敵の連続技に巻き込まれ、1セットもとれずに敗退してしまった。 ファバル選手は韓国選手から「特にマイスターには注意したい」と言われていた選手だ。「JAPAN Round」でトップバッターを務めた彼は1本目は取られたものの2本目、3本目は韓国選手を近づけさせず火器と爆発するロボットで追いつめ見事勝利を飾った。彼の勝利が「『アラド戦記』の本場の韓国にはかなわないのではないか」という思いで沈みがちな日本選手の気持ちを大きく上に向かせてくれた。 ファバル選手は今回の戦いでも対戦した日本選手達をロボットと火器で倒していった。今回唸らされたのは「手榴弾」の使い方である。対戦相手は面白いようにその爆風に巻き込まれ、姿勢を崩しさらに連続攻撃を食らってしまう。それをよけようとして大きく動くと追尾ロボットが待っている。 しかしミサ選手は特にマイスターの戦い方を研究していた。ファバル選手vsミサ選手では手榴弾の爆風を見切っているかのようにぎりぎりの所で的確にかわすのだ。さらに分身を置くことでロボットに目標を見失わさせる。マイスターが出すロボットはミサ選手に向かわず分身に引きつけられてしまう。 ファバル選手はロボットを出して距離を取ろうとするものの捕まり、きりもみをしながら地面にたたきつけられるグラップラーの大技「スパイア」を決められてしまう。2本目は飛び込んできた敵を迎撃し空中で蜂の巣にしたり、爆弾設置などをしていくがグラップラーの動きは速い。一進一退の攻防が続くものの手榴弾をかわし続けたミサ選手がふただびスパイアを決め一気に勝利をもぎ取った。今回観戦時にGMナゲール氏の話を聞くことができたが特にミサ選手の分身の戦術は「日本でもまだやっている人は少ないんじゃないか」と興奮気味だった。 この2つの試合で日本選手は敗退。決勝は韓国チームのカマエルセラフ選手とミサ選手の戦いとなった。格闘家でありながら攻撃の「ストライカー」と投げの「グラップラー」の戦いである。特にカマエルセラフ選手は「彼に挑戦して勝てば賞品を!」といったメーカー公認のコーナーを持つほどのスター選手だ。 カマエルセラフ選手は自分の戦い方について「攻撃、攻撃、攻撃です」と語っていた。対するミサ選手は「格闘家になってまだ日が浅いから……」とちょっと消極的だった。ミサ選手はインタビューなどが苦手なようでずっと照れていたが、「Japan Roundで戦って負けた退魔師の選手(輝ノ進選手)に借りを返したい」など激しい一面をのぞかせる選手だ。 決勝戦はカマエルセラフ選手優勢でスタートした。続く2本目もコンボ、ローキック、ボーンクラッシュの大ダメージを与えこのまま優勝が決まるかと思われたがミサ選手は投げで反撃し空中で旋風脚同士がぶつかった瞬間空中投げ「エアハンマー」を決めるなどじりじりとカマエルセラフ選手の体力を奪う。連続で投げを決めるミサ選手に対してカマエルセラフ選手は攻撃で対抗するも結果として投げられてしまう。この流れのままミサ選手が2本目を取った。 最終戦、カマエルセラフ選手は積極的に攻めるがコンボが決まらないなどうまくいかない展開になる。そこにミサ選手はスパイアなど投げ技を決め、カマエルセラフ選手を追いつめる。しかしぎりぎりの戦いの末ストライカーも投げ主体の戦いになり、最後は「タックル」という地味な通常技でカマエルセラフ選手が優勝した。
タックルはスキルのように大ダメージを与えないが、続けて浮かせられるため決めきれなくても次の一撃が当てられる。ここでタックルを出すのがこの選手の強さなのだと熱っぽくナゲール氏は語った。この堅実さがトッププレーヤーの“実力”であり、勝利を得る力なのだと感じさせられた。
■ 韓国チームが得意とする勝ち抜き戦。日本選手はどこまで食い下がれるか
寿選手は「臨機応変を心がけたい」というコメント通り、すぐさま技を切り換えアッパーを使って組み立てていったり、動きの遅いファイアウェーブを牽制に使うなど戦い方を工夫してジニョンアサランヘ選手、チョブン選手を倒す活躍を見せた。しかし次に現われたカマエルセラフ選手に敗れ、続けて他の2名も倒されてしまうという逆転劇を見せつけられてしまった。トーナメント優勝の実力を裏打ちするようなカマエルセラフ選手に興奮した拍手が浴びせられる中、日本選手達は肩を落とす結果となった。 続く第2戦は「あの時、あー君選手(ウエポンマスター)は覚醒したよね」と仲間達に言われるほどあー君選手の攻撃が相手選手の動きにかっちりはまった瞬間があった。「弱キャラといわれるウエポンマスターをプレーヤースキルで勝てるようにしたい」という事前のコメント通り、相手の追撃を先読みしてスピードを止めるような光剣の攻撃を繰り出し、相手チームを苦しめた。 さらにgaia201x選手(毒王)の敵の上に馬乗りになっての強烈な攻撃、ファバル選手の距離を活かしての戦い方などで後一歩まで韓国側を追いつめるも、ぎりぎりの所で力及ばず結果として第2戦もストレートで敗れ、韓国側が2ポイント取ったことでボイントは6-7と韓国側がポイントで上回ってしまった。 日本の各選手は全体的に一歩及ばない、というところが多かったように思える。寿選手が2連勝して相手チームを追いつめた際、我々日本メディアに向かって観客の小学生が「3選手が負けなければ日本の勝ちじゃないんだからね!」と何度も挑むように声をかけてくる場面もあった。試合に興奮するあまり小学生が大人に挑戦してくるような、そんな熱い空気が会場中を包んでいた。
もちろん日本選手を応援してくれる観客も多く、選手達は周りから「日本選手もがんばれ!」と日本語で声をかけられたという。観客の熱意と選手達の集中力が生む空間は、韓国のオンラインゲーム文化の1つの形をくっきりと表わしているように思えた。
■ 日本の頼みの綱のチーム戦、韓国の2週間の合宿によって生まれた結束力の前に敗れ去る。今後の大会は?
しかし、韓国側のチーム戦対策は万全だった。大きな原因の1つが「合宿」である。彼らは前回の日韓戦後2週間“合宿”を行ない、ひたすら技を磨いていたのだ。その話を聞いた日本のプレーヤーは「そんなに時間をとれない」と呟いた。仕事や学校を2週間休んでゲームの合宿に費やすような価値観は現在の日本では考えられない感覚だろう。 韓国では「カウンターストライク」の国際大会向けの合宿などいくつか前例があるほか、ネットカフェでの集中練習なども行なわれているという。国の人口の半分近くが周辺部を含めてソウルに集中している地理的条件や、企業がスポンサーを務めるプロゲーマーやプロゲーマーチームがいて今回の戦いやテレビ中継が日常風景となっている韓国とでは選手を取り巻く環境が全く違うのだ。 その「合宿の成果」はチーム戦第1戦で如実に表われた。gaia201x選手と寿選手という比較的近距離に強い二人がグラップラーとストライカーの格闘家のコンビに挑んだのだが相手のスピードが違った。日本選手二人にするすると近づき大技を決めていく。韓国選手の圧倒的なスピードに各個撃破された結果となった。 韓国側は6人中4人が格闘家から派生する職業である。格闘家の戦術の基本は近づいて大技を決めることである。韓国選手は100%キーボードでキャラクタを動かしているがその指の動きは日本選手が驚嘆するほど速く、そしてコマンドは正確だ。この操作に「チーム戦での戦術」をたっぷり練習した彼らは「Japan Round」とは全く別の存在だった。日本選手もお互いきちんと役割を果たすため戦うのだがその上を行かれている印象だった。 そんな中、チーム戦で善戦したのがアミリア選手である。相棒であるあー君選手と共にまず1ポイント先取してから、2回戦ではあー君選手が集中攻撃で倒れてしまい、2対1という極めて不利な状況に立たされながらテレポートやダッシュを巧みに使い1対1の状況からさらにほとんど相手の体力を削ると言うところまで戦ったもののポイントを取り返され、敗れてしまった。 ここでは合宿をした韓国と日本の土台の差、という比較だけでなく、「JAPAN Round」で全敗を喫した韓国側が、今回ほとんどストレートで勝った、というところに焦点を当てたい。合宿をして、技術を磨き、勝つ。勝負への思い入れにおいて、選手のみならず日本の運営側もそこまで強く思っていたのか? 今回はその差が出たと言えるだろう。日韓での「勝負の重み」は考えて行かなくてはいけないのかもしれない。 結果としてトーナメントは1位、2位、日韓戦の勝利国、全て韓国が取るという結末となった。日本選手の落胆は大きく、リーダーの寿選手の第1声は「申し訳ない結果になったと思います」というものだった。輝ノ進選手からは「雰囲気に飲まれてしまった」という声も出た。韓国選手に圧倒されている雰囲気の中で、ファバル選手は「日本と韓国のトッププレーヤーの選手はそれほど変わらないかもしれない、本当に勝てない人は圧倒されてしまうが、今回の戦いはもう少し、という展開もあった」と語った。 今回、「KOREA Round」で選手や運営スタッフと韓国に訪れる中で最も多く聞いた声は「次の大会はいつやるんですか」という選手達の声だった。今回はどちらかというと韓国側の企画に日本が乗ったという形で始まったイベントであるが、選手達の意識、そしてプレーヤー意識は今回を単発のイベントではなく、“第1回”であると捉えており、運営側のスタッフもまた実際イベントを行なってみて様々な思いを抱いているのを感じられた。
選手達の姿を一番近くで見ていたミスアラドの川口りささんは、緊張と不安で弱気になっている姿に、「もう少しイベントに慣れて、普段の力を出していれば絶対勝てたと思っています」と語った。韓国のゲームファンのエネルギーにも圧倒されたという。川口さんもユーザーへのメッセージは「次戦うときは、今までの2倍くらい強くなってください!」というもので、今回触れてみて、“次”を意識した人の多さを改めて感じさせられた。NHN Japanの今後の活動は期待していきたいところだ。
■ 戦い終わって……コアプレーヤーが見る「アラド戦記」の明日。さらなる“バランス”の姿とは
今回の日韓戦の日本選手選出に関しては、まず参加者を抽選という形で選別し、そこからトーナメントを行ない、上位6人に決定する、という形で決定された。この形式のためか、”抽選から漏れた選手の中に強いプレーヤーがいたのではないか”という声がユーザーにあったという。選手達の意気込みのコメントでも、ここを意識したのか、「選ばれた以上ベストを」という意味合いのコメントもあった。実際彼らはその意気込みの通り、日本代表選手として立派に戦ったが、今後、よりユーザーが納得できる形での選出方法はどうしていけばいいのか、考えていきたいところだ。 チームやタッグでのトーナメントもどうか、というところではやはり「それでも最強プレーヤーはシングルで」という意見は頷かされるものがあった。「アラド戦記」はパーティープレイでシナリオを進めていくことも可能だし、対戦はチーム戦などもさかんだが、やはり「対戦格闘ゲーム」という視点で本作を見るプレーヤーも多い。1対1こそ、最強の称号を受けるべき戦い、という想いは多くのプレーヤーの胸の中にある、というところだろう。 「アラド戦記」は韓国のコンテンツを後追いしていく形でアップデートするが、日本独自のコンテンツ、とは言わなくても、プレーヤーが求める要素は数多い。今回質問して最も最初に出てきたのが「バランス」という言葉である。今回の大会で大きく影響したのも細かい当たり判定を含めての職業間、もしくはスキルごとのバランスは常に議論されていく問題であり、この意見はつきない。 1つ具体的にバランスを考えていきたい事例として上がったのが「強化」の問題である。「アラド戦記」は韓国産MMORPGで多く使われているアイテムを使っていくことで装備や武器の強化が可能なのだが、これが対戦において如実に影響を及ぼしてしまう。この強化に関しては「運」の要素が強い。実力と違うところでのバランスはコアプレーヤーにとって気になる問題だ。不公平感をもたらす強化しすぎた武器は対戦でのルームを限定すればどうか、という提案の声も上がった。 こちらの問いかけに答えながらも、選手からは「それでも今回戦いに参加できて韓国に来られて感謝しているし、何よりも面白かった」という声が上がり、選手の多くが頷いた。彼らが「アラド戦記」を好きであることが強く伝わってきた。行きの飛行機の中でも、戦いが終わってホテルに帰るバスの中でも、食事の時でも様々な話題が出ながらも「アラド戦記」に行き着く。 選手の中には「初めてハマったネットゲームは『アラド戦記』」という人も多いようで、オフ会のようにプレーヤーが集まったのは前回の「JAPAN Round」が初めてだと語った選手もいた。「ずっとゲームの話ができるのって、楽しいですよね」。自分にも経験のある共感できる話である。
ゲームのイベントはプレーヤーに新しい出会いをもたらす。トーナメントで活躍する選手達の姿はゲームに新しいエネルギーを呼び込んでくれる。いくつものイベントを見てきた筆者にとっては今回のイベントでは様々な思いが浮かんできたが、ゲームに対するほのぼのとした好意と、熱い思いを持っているプレーヤーは多いし、「アラド戦記」は日本でも多くのプレーヤーを獲得する魅力的なタイトルだ。今回は韓国の動きに呼応して企画された側面が強いがこれをきっかけにファンの思いに答えるような今後のイベントを期待したい。
□NHN Japanのホームページ (2008年2月4日) [Reported by 勝田哲也]
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