|
会場:新宿ロフトプラスワン
【蟲師 ~天降る里~】 価格:5,040円
CEROレーティング:A (全年齢対象)
DS版「蟲師 ~天降る里~」は、「蟲師」の原作世界を再現しており、プレーヤーは新米蟲師としてその世界観の中での生活を楽しめる。“蟲"を採取し調書をつけ、物語を進めていくことはもちろん、釣りをするなど美しく描かれた自然の中で暮らすことも可能。本作では、こだわりの自然の環境音や生き物の鳴き声などが収録されており、「蟲師」の雰囲気を盛り上げてくれる。 また、蟲を採取するシーンでは、ニンテンドーDSのタッチペンを使用し、蟲の種類によって様々な採取方法がある。蟲をタッチペンでクルリと取り囲んだり、タッチペンで虫の一部を突いたり、蟲をなぞったり、かなりの数が用意されているようだ。 イベントが行なわれた会場は、新宿ロフトプラスワン。飲食を楽しみながらライブを楽しめる会場ということで、同会場で開催されるイベントの多くがそうだが、来場者だけでなく出演者もお酒が入り楽しい展開となった。また、原作にも登場する「光酒 (こうき)」と銘打たれたスペシャルドリンクが登場。さすがの人気であっという間に売り切れてしまった。
来場者には全員に「蟲師 ~天降る里~」のオリジナルB2ポスターがプレゼントされ、希望者には長濱監督自らがサインするなど、来場者にとっては満足度の高いイベントだったことだろう。
イベントは出演者全員にスペシャルドリンクの「光酒」が振る舞われ、「乾杯」のかけ声からスタート。まずはゲーム化されるに至る経過がマーベラスエンターテイメントの企画プロデューサー、水谷英之氏の口から説明された。 水谷氏によれば「僕は始めは企画に携わっていなくて、前任者はXbox用ソフトとして企画を提出していた」という。そこでは光と影が丁寧に描かれ、美しいグラフィックスのゲームに仕上げられる予定だったという。この当初の企画に対して水谷氏は「ちょっと違うかなと考えた」とか。理由は、「蟲師」の世界観を表現するという点において、「派手な映像を作ることは可能だが、人肌の暖かさや自然の息吹を出さないと、映像ではアニメ版にかなわない」と考えたからだという。 そこで出てきたのが「終わらない日常、終われない日常」だという。つまり「蟲師」の世界観の中で暮らすことのできるゲームと言うことだ。こうやって企画が固まり始めたのが2005年で、ここで水谷氏は監督の長濱博史氏を尋ねることとなる。長濱氏は「『スパイダーマン』のような要素のゲーム」と話したという。長濱氏は「『スパイダーマン』というゲームは1回クリアしてもニューヨークの街をぶらついたりしていられる。つまり、クリアしたら終わるゲームにはしたくなかった」とその理由を述べている。 ゲームにはオリジナルストーリーが収録されているが、これを描けるのはアニメ版のオリジナルスタッフが集まるしかないということで、監修を担当した長濱氏をはじめ脚本の桑畑氏、ギンコ役の中野さんらが集結。通常ではこういった主要メンバーまでとなるが、本作ではさらにキャラクタデザインの馬越嘉彦さん、音響監督のたなかかずや氏も参加。世界観の再現にこだわってゲームの作品世界を作り上げている。 ゲームの制作を担当したのは有限会社テンキーだが、水谷氏は企画当初「どこが作ることになるんだろう」とドキドキしたという。というのも「蟲師」のゲームは企画当初から「無理」と思っていたからだ。しかし、制作にあたってはテンキーの熱いスタッフが集まり、「何度も挫折しそうになった」という中で「奇蹟の完成 (水谷氏)」となった。 ここからはゲーム内の細かい話しに移るが、面白いコメントを抜き出していきたい。ゲームの舞台はとある里を中心に、水田から雪山まで周りの自然が描かれている。里には人が住み、もちろん村長も登場。大きく流れるオリジナルのストーリーを軸に、これらの村人たちとの会話から展開するミニストーリーも多数収録されている。 主人公は男の子と女の子から選択することができるが、もちろんこの主人公のデザインは馬越嘉彦さん。長濱氏は「僕は村長が好きです。主人公のキャラクタのデザインを馬越さんにやってもらうのは普通 (考えられる事) だが、村長や村人までデザインしてくれている。その他大勢の着物の模様まで色鉛筆で細かく書いてくれる。俺は嬉しい。本気でやってくれている」と感動したという。さらに村人の集合イラストをスクリーンに映し「これは全てバラバラにデザインされているんだけど、ひとりひとりきちんと対比を考えて描かれていて、一緒に並べるときちんと大きさの対比がわかるようになっている。それが馬越さんの凄いところ」と続けた。 イベント会場に馬越氏はいらっしゃらなかったが、ステージでは苦労話に一花咲いた。今回キャラクタを3D化する必要があり、馬越氏には髪の長い女性は描かないで欲しいといった要望が出されていたとか。ゲーム内のグラフィックスは3Dで描かれているため、ギンコも3Dに起こされており、見えない木目などもきちんと描かれているという。この点についてテンキーも美術を担当した有限会社 草薙もこだわりをみせ、「DSの小さい画面で見えないんだけど、そこまで気を配って作ってある」とアピールした。長濱氏は細かくチェックしており、登場する蟲についても「ちょっと長くしてくれ」とか、「増やしてくれ」など様々な注文が出たという。 長濱氏は制作にあたり「とにかく自由度が欲しかった。『蟲師』のファンとしてやりたいことを全部やりたかった」と考え要望を出したという。しかしニンテンドーDSでないができるかもわからなかったため、最初は「お茶碗を落としたら割れる」など様々なアイディアを出していたが途中で止められてしまったという。では不可能な中で何を実現したいかと考えたときに「オリジナルでいこう」と言うことになったのだという。 また、「気持ちとしては原作の単行本があり、アニメがあって、DVDがあって、フィギュアがあって、ゲームもその並びにあるもの」と語り、「マンガが好きで、アニメも好き。だからゲームも好きという人に向けて作ったゲームで、ゲームの人だけに何か付け加えると行ったことはやっていない」とキッパリ。全方向のユーザーに向けて作られるゲームが多い中、とにかくファンを大切にした作品作りに徹している点は好感が持てると共に新鮮でもある。 このファンに向けて世界観を再現させるという点は徹底的に行なわれており、「ゲーム開始直後に“セレクトボタン”という言葉が出てくるけど、ドキッとする(笑) 。これはしょうがないけど、極力ゲームのシステムが出ないように作っている」という。ゲーム側の人間から言えばよりわかりやすくという考えが優先されがちだが、「ゲームをやっている人には説明不足と感じるかもしれない」というほどに世界観の再現は徹底されているようだ。 この点についてはもう一つのこだわりが披露されている。ゲームでは狩房淡幽は素っ気ない態度を取るという。この点について長濱氏は「淡幽はプレーヤーに対してギンコほど心を開いてくれない。この点について、もっと(ゲームファンなどに)サービスしても良いんじゃないか?」といった意見もあった。しかし、原作を知っていればギンコと淡幽の関係がわかるはずで、その関係はイコール我々ではない。我々ごときではギンコほど心を開いてくれないことは、原作を知っているファンには分かってもらえるはず。ユーザー寄りでないことが逆に原作寄りとなっている」と、脚本家の桑畑氏と共にこだわった点のひとつとして解説した。この件に対してはキャラクタの表情から台詞回しまで徹底的に監修したという。
長濱氏のチェックでひとつ面白かったのは、「調書の作成」の部分。ゲームとしては、うっすらと蟲が描かれていて、それをユーザーがペンでなぞるというスタイルを取っている。これを見た長濱氏は「(元の) 線を描かないで欲しい」と注文をつけたという。しかしこの点についてはテストを行なったところ「みんな絵を描けるわけではないので、自由に描けと言われても絵が描けないと言われたんです (長濱氏)」といった結果となり、意見は取り下げたのだとか。長濱氏は「これは自分の悪いところで、自分は絵を描く人間だから自由に描かせてほしいと思う」と説明。これに対してプロデューサーの石綿氏が「一度○をもらえると自由に描けるようになりました」と伝えると、長濱氏は「それは良い!!」と嬉しそうに答えていたのが印象的だった。 冒頭にあったとおり、制作者側には「終わることのないゲーム」といういわば究極の願いがあり、攻略本の出版について「今は何とも言えない」としながらも、「攻略するゲームではない。アニメ番組は30分経つと終わってしまうが、ゲームではプレーヤーは終わらせる事を望んでないと思う。あえていうなら、自分のやめたいときにやめられるゲーム」と説明し、プレーヤーのためのゲームであるとコメントした。 イベント後半には音楽の増田俊郎氏や、原作の漆原友紀氏の担当編集者である宮崎氏も登場。宮崎氏はゲームについて「漆原さんも面白いと言ってました」と長濱氏に告げると長濱氏は「最大限の賛辞だ」と表情を崩した。 一方、増田氏はゲーム化の話を長濱氏から受けたときの第一声は「ゲームになるの?」だったとか。そこで話したのが「何もしないことをするゲーム」だという。これはいわばゲームの中で自由に暮らせるゲームを意味し、長濱氏はこのとき「1日中、長々と滝を見つめて夕方に蟲が現われて『嬉しい』というゲームにしたいんですよ」と増田氏に説明したという。これを聞いた増田氏は「それは良いね」と返事をして音楽を制作することとなった。 しかし増田氏によれば「蟲師」の音楽は作ろうとしても作れないのだという。自然に出てきた曲で、「蟲師」の事だけを考えているとできるのだという。この点については面白い話が披露された。アニメ版を制作中に増田氏ができた音楽を長濱氏に渡したところ、長濱氏はその曲に違和感を覚え、増田氏に連絡すると増田氏は「それ、間違いだ」と言うことに気付いたという。手違いで増田氏が手がけていた違う作品の音楽が混じっていたということだが、「蟲師」に関しては皆、神懸かり的に「蟲師」の世界観を共有し、それ以外のものが敏感にわかるようになっていたようだという。
このほかにもオフレコ話が飛び出すなど興味の尽きないイベントだったわけだが、通常のオリジナルのゲームの制作とは逆のアプローチで原作付きのゲームが作られ、それがきちんとした思想の元作り上げられていることから、ただのキャラクタゲームに留まっていない点が面白いと感じたイベントだった。 (c)漆原友紀/講談社・「蟲師」製作委員会 (c)2007 Marvelous Entertainment Inc.
□マーベラスエンターテイメントのホームページ (2008年1月28日) [Reported by 船津稔]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|