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CEDEC2007現地レポート

KONAMI、スクウェア・エニックス、セガ、バンダイナムコの大手4社が“技術部”のあり方を討議
パネルディスカッション「ゲーム技術の研究と共有のあり方について」

9月26日~9月28日開催

会場:東京大学



 CEDEC2日目には、コナミ、スクウェア・エニックス、セガ、バンダイナムコという国内大手メーカーの技術研究担当部門の担当者が集い、ゲームテクノロジーの研究手法と情報共有のあり方について討議するというユニークなパネルディスカッションが開催された。

 “技術部門ネタ”としては、昨年のCEDECで好評を博し、GDCでも同様の内容が公開された「『ファイナルファンタジー XII』解体新書」があるが、それに続く話となる。ゲームユーザーにとっては縁遠い存在であるゲームメーカーの「技術部門」とはどのような組織で、どのような取り組みを行ない、まだどこに向かおうとしているのか。メーカーの強さの源泉が少しだけかいま見えた、まさにCEDECならではの有意義なセッションだった。

 今回のセッションの登壇者は、コナミデジタルエンタテインメント プロジェクトソリューションセンターR&D推進グループ 植原一充氏、スクウェア・エニックス研究開発部部長 村田琢氏、セガ クリエイティブセンター 安藤隆氏、バンダイナムコゲームス コンテンツ制作本部 制作統括ディビジョン 技術部 斉藤直宏氏の4名。技術部門の名称はメーカーによって見事にバラバラだが、いずれもゲームメーカーの屋台骨である“技術”を担当している部署のメンバーという点では共通している。


■ 共通フレームワークは「社内オープンソース」方式!? KONAMI

コナミデジタルエンタテインメント プロジェクトソリューションセンターR&D推進グループ 植原一充氏。元プログラマで、「ポリスノーツ」、「ときめきメモリアルドラマシリーズ」、「メタルギアソリッド」シリーズのプログラムを担当
KONAMIのマルチプラットフォームフレームワークは、PCやDSまで含んだ全プラットフォームに対応。社内オープンソースという考え方は非常にユニークだ
今後の課題としては、新規技術の研究と情報共有。KONAMIは今も昔も開発が非常に強いという印象を受ける
 セッションは、まず始めに、各社における技術部門が設立された背景と、現在の役割についてひとりずつ説明を行なっていった。

 まず、コナミは、'90年代以降、3つの子会社による個別のゲーム開発体制が長く続いたため、コナミ株式会社として単一の技術部門を持ったのは2005年4月と意外と新しい。設立当初は、家庭用ゲーム機部門の下部組織としてR&D推進グループが設立され、翌年2006年3月に、デジタルエンタテインメント部門が子会社化として独立したことに伴い、家庭用ゲーム機のみならず、アミューズメント、オンラインなどすべてのデジタルエンタテインメントのサポート部門としてプロジェクトソリューションセンターが設立され、その下部組織として、現在に至っている。

 主な業務内容は、ゲーム作成ノウハウの社内共有、ネットワークゲームノウハウの社内共有、社内開発情報共有の3つ。ゲーム作成ノウハウの社内共有に関しては、マルチプラットフォームフレームワークの制作を筆頭に、オープンソースの最適化、外部ミドルウェア/ツールの調査、AM機器向けのI/Oドライバの作成などを担当。ユニークなところでは、モーションキャプチャスタジオの管理が挙げられる。

 ネットワークゲームノウハウの社内共有については、ネットワーク技術の研究、サーバークライアントシステムの作成などのほかに、運営規約の策定、禁止用語等の共有など非常に細かいところまで担当している。また、社内の情報共有については、wikiや掲示板を使った情報共有、社内セミナーの実施、技術コンサルティングと、実に幅広い。まさに縁の下の力持ち的存在だ。

 マルチプラットフォームフレームワークについては、PS3、Xbox 360、PCへの“同時開発”に対応し、WiiやDSへの転用も可能と紹介。共通フレームワークの取り扱いの基本スタンスは、「社内オープンソース」とし、開発チームへ使用を強制しないだけでなく、一部のみ抜き出して使うことも可能とし、さらに改変してもかまわないという。植原氏はこの理由として、「開発チームが掴んで離さない、優秀なプログラマたちの個性を殺さないようにするため」だという。

 アプローチとしてはR&Dからチームへの売り込みがメインで、開発チームからの意見の吸い上げは行なわない。基本的にサポートが中心で、虎の子のフレームワークの使用を強制しない。共通基盤を担う部署としてはやや押しが弱すぎる気もするが、「チームはそれどころではないんですね」と弁護。今後は積極的に売り込みをかけていくだけでなく、どんどん規模が拡大する業務をどう回していくかが今後の課題だと締めくくった。

【KONAMI R&D推進グループ】
R&D推進グループは、技術コンサルティングや情報共有サイトの運営などサポート的な業務が多い。ネットワーク技術も担当しているところが他社との大きな違い


■ グラフィックスデザイン、ゲームデザイン手法研究など、スクウェア・エニックスらしい組織構成

スクウェア・エニックス研究開発部部長 村田琢氏。入社は'91年で、代表作は「ファイナルファンタジータクティクス」、「ベイグランドストーリー」、「プレイオンライン」、「ファイナルファンタジー XII」など
研究開発部は6つの組織で構成されている。グラフィックスデザインやゲームデザイン手法研究などは、いかにも同社らしい
村田氏が示した概念図。情報を集め、需要や動機をキャッチアップして、開発に役立てるのが研究開発部の役割ということになるようだ
 「ファイナルファンタジー XIII」で採用されるという次世代機向けゲームエンジン“ホワイトエンジン”の“開発元”として、一躍有名な組織となったスクウェア・エニックス研究開発部。その部長を務める村田琢氏は、昨年のセッション「『ファイナルファンタジー XII』解体新書」に続いて2年連続の登壇となったが、今回改めて研究開発部の全体図が明らかにされた。

 ひとつ小さな驚きだったのは、設立が2006年9月1日だったことだ。CEDECの講演の前日にあたる。この日付そのものにあまり深い意味はなさそうだが、いずれにしても2006年5月のE3で「ファイナルファンタジー XIII」とホワイトエンジンが発表された時にはまだ研究開発部は存在していなかったことになる。「多様なコンテンツの創製」、「全社的な技術開発」をミッションとして、過去の資産を引き継ぐ形でかなり慌ただしく設立された雰囲気が伝わってくる。

 組織は、共通技術開発、生産技術研究開発、グラフィックスデザイン、オンライン技術、ゲームデザイン手法研究、Developers Relationsの5つの組織で構成されている。共通技術開発は、いわゆるホワイトエンジンをはじめとした共通開発基盤の制作を担当する部署。生産技術研究開発は、昨年のCEDECで大きく取り上げられた開発支援ツールの制作を担当する部署だ。村田氏は、「今はまだ見えていないが、技術ありきのゲームも考えられるのでは?」と、研究開発部発のゲーム制作の可能性に期待を寄せた。

 研究開発部の中でも、いかにもスクウェア・エニックスらしい組織といえるのが、グラフィックスデザインとゲームデザイン手法研究だ。デザインについては「次世代表現品質の達成と凌駕」、「これからの表現品質でも破綻しない、効率的な制作手法の確立」というすこぶる高いハードルを目標に掲げる。ゲームデザイン手法研究については「それがわかれば誰も苦労しないんですが(笑)」とあくまでこれからの組織であることを断った上で、コンテンツ内容を高めていくための方法をゲームデザインの視点から研究する部署と説明。極めてユニークな部署だ。

 一方、若干他社に比べて機能として弱いのが「オンライン技術」だろうか。村田氏は「『ファイナルファンタジー XI』のことではない」と補足した上で、担当業務はネットワークサービスの効率運用に繋がる技術開発、社内ネットワーク関係相談窓口だと説明。オンラインゲームそのものにはタッチしていない。

 この背景には、同社のオンライン事業が、「ファイナルファンタジー XI」を展開するオンライン開発部門のみでほとんど完結していること、オンラインゲーム向けのミドルウェアを手がけるコミュニティエンジンを子会社として持っていることなどが挙げられそうだ。仮にこれが事実なら、スクウェア・エニックスにとってオンライン事業はまだ全社的な規模としては見ていないということになるが、“次世代MMO”の存在も公表されており、スライドも簡潔な表現に留まっていたことから、発表できない部分が多いと見た方がいいだろう。


■ ドリームキャストの開発環境整備部門を前身としたセガ クリエイティブセンター

セガ クリエイティブセンター 安藤隆氏。ドリームキャストの開発環境「Ninja」の総責任者を務めた経歴を持つ
クリエイティブセンターでは、「パワーサポート」という現場に人を送り込む密着型のテクニカルサポートを行なう
 もともとプラットフォーマーだったセガには、クリエイティブセンターという独自の部門が存在している。その前身は、セガサターンやドリームキャストの開発環境を整備するテクニカルサポート部門で、セガ安藤氏によればドリームキャスト撤退によって「そもそもの存在理由がなくなってしまった」というが、開発分社化、ドリームキャスト撤退、分社再統合という荒波を乗り越えながら、現在に至っている。

 クリエイティブセンターは、所属としてはCSにぶらさがる組織となっているが、AMのサポートも担当。安藤氏は「部署の名前と実際にやっていることが全然違いますが」と苦笑いしながら、クリエイティブセンターのミッションについて、開発支援と開発効率化の促進、全社レベルでの情報共有と説明した。

 開発支援の概要としては、マルチプラットフォーム対応の開発環境の整備を皮切りに、開発機材、ライセンス技術、素材の一括管理、共有化、外部技術の導入折衝など。セガらしい部分としては、開発部門へのパワーサポート、つまり、直接、人を送り込むという派遣型の開発支援を行なっている点、それから格闘ゲームメーカーとしてモーションキャプチャスタジオの管理も行なっているところだろうか。モーションキャプチャスタジオは、設立以前からの資産が大量にあり、現在そのデータベース化の作業を進めているところだという。

 具体的な開発案件としては、全プラットフォーム対応のグラフィックスワークフロー、ツール開発用のプラットフォーム、MO型のネットワークゲームシステム、単体ツール、プラグインなど。ユニークな点としては、ドリームキャストの開発環境である「Ninja」のサポートもまだ行なっているところ。自社製品では「甲虫王者ムシキング」が「Ninja」を使って開発されているようだ。

 安藤氏が「いま旬の話題」として取り上げたのが、品質チェックツール。現在開発チームは、規模、期間ともに肥大化傾向にあって、デバッグする時間がないという実状があるという。これを手助けしようというのが品質チェックツールだ。今後も優秀な外部ツールなども併用しつつ、デバッグ作業に掛かる開発側の負担を軽減支援していく考えだという。

 また、パワーサポートについては、デザイナーとプログラマの間で業務上のコミュニケーションがうまくできない状態を解決するために、その間に入って一緒に作業を行なう業務。平たく言うと描いた絵がどう実機に表示されるのかを説明する仕事ということになるが、シェーダー世代に入ってこの問題が一層深刻化しており、重要な業務になっているようだ。

 最後に情報共有Webについて紹介された。情報共有Webの運営もクリエイティブセンターの担当業務のひとつとなっており、社内スタッフの交流の場を設けるだけでなく、旬のニュースやツール、デジタル素材、ドキュメント等の提供などもすべてWeb上で行なっているという。安藤氏は、技術は得てして個人に付いてきてしまい、優秀なスタッフは得てしてコミュニケーションが不得手な場合が多いが、これをどう全社的な知識として共有できる体制を作るかが今後の課題だとした。

【セガ クリエイティブセンター】
パワーサポート以外の業務も実に多岐にわたる。モーションキャプチャスタジオの管理については、「役者呼んで、弁当出してという地味で泥臭い作業」とコメント。今後、モーションのデータベース化を進めていくようだ


■ 技術部門に「サウンド課」を内包するバンダイナムコゲームス

バンダイナムコゲームス コンテンツ制作本部 制作統括ディビジョン 技術部 斉藤直宏氏
技術部の中にサウンド課があるのが大きな特徴
 バンダイナムコゲームスの技術開発担当部門は「技術部」。ゲーム開発を取り仕切るコンテンツ制作本部の直下組織として存在し、技術部の下に6つの課がぶらさがる。バンダイナムコらしい部分としては、伝統的に強いゲームBGMの制作を担当するサウンド課が技術部に所属しているところだ。

 サウンドチームは、重要な開発リソースの一部として開発部門が握っていることが通例だが、バンダイナムコゲームスでは、技術部が一括してサウンド部門を管理し、複数のタイトルに対して同時並行して楽曲やBGMを提供していく体制を取っている。4社の中で、ゲームサウンドの技術共有を全社的に行なっているのは同社だけで、ゲーム全体の技術共有という意味では、同社が一歩進んでいる印象がある。

 そのほかには、制作サポート課、プロジェクトサポート課、技術サポート課、モーション課、技術開発課などが存在する。セガ同様、モーションキャプチャは技術部門が管理している。技術部全体のミッションとしては、製品のバリューアップと開発コストの削減、そして将来を見据えた活動の3点となる。

 基本的なスタンスとしては、同社の社長室所属 技術担当参事の馬場哲治氏が進めている「流体力学のゲーム応用」のような基礎研究ではなく、基礎技術をベースにした応用技術を調査、研究し、実際に使える技術を開発チームに提供する部署となっている。

 具体的な業務内容としては、他の3社とそれほど変わらないが、開発フレームワークにサウンドが含まれているところや、ライセンス/特許技術の管理、開発フロー改善の提案といったところが異なっている。ユニークな試みとしては、7つの会議室とセミナー会場を使って年に1度大々的に行なう技術発表会。500名のクリエイターが参加し、自社の最新技術を生で見れる機会を提供している。

 最後に今後の課題として、社内間の活発な情報共有を促し、暗黙知を形式知に高めていくことと、今解決すべき問題と、将来必要となる技術研究をしっかり切り分け、同時並行して研究開発を進めていく体制の構築を挙げた。

【バンダイナムコゲームス 技術部】
各ミッションの比重は不明だが、ゲーム開発支援のほかに、モーションキャプチャやサウンド制作ディレクション、ネットワークサポートといった業務も抱えている


■ 大いに盛り上がったパネルディスカッション。業界全体のの情報共有は可能なのか!?

各技術担当部門の紹介はおもしろかったが、時間を使いすぎてほとんど質疑応答に時間を割けなかったのが残念だ
巧妙に煽りを入れた良い質問。予想通り、さまざまな意見が出て盛り上がった
 4社の紹介にセッション時間の大半が費やされてしまったが、司会のKONAMI植原氏も「時間配分を間違えましたね(笑)」と苦笑いだったが、その後、短い時間ながらもパネルディスカッションへと移った。

 まず、プロジェクト間やプロジェクト内での情報共有については、各社とも似たり寄ったりで、開発部門という“聖域”に対して、間接部門が介入していくことの難しさを滲ませつつ、原則としてプロジェクトごとの管理であり、全社的な統一はないというのが現状のようだ。セガでは、実験的に、ベーシックなライブラリの開発において、ソースコードを共有するという試みを行なっていることが披露され、スクウェア・エニックス村田氏は、「不自由さを感じさせずにやれたら、それが理想ではないか」とまとめた。

 今回のパネルディスカッションでもっとも盛り上がったのが、「海外メーカーの台頭が著しい中、企業の枠の超えて、日本のメーカー同士で技術交流を行なう予定はないのか?」という趣旨の質問。各社の反応は、主題である国内メーカー間の情報共有に対する意見ではなく、“海外メーカーの台頭が著しい中”という前提に対する反論が中心を占めた。やはり屋台骨を支える部署の責任者だけに、プライドを大いに刺激されたようだ。

 最初に反応したのがスクウェア・エニックスの村田氏。「日本にも個々人で優秀な人はいる。ただ、海外から学ぶべきところは学ぶべきというスタンスは持つべきで、たとえば良い意味でも悪い意味でも効率化は欧米の方が進んでいるが、これは取り返せないモノではない」と切り返した。

 続いて、バンダイナムコの斉藤氏も、「海外はPCゲームが先にあって、それが今の開発に繋がっていて、それがいまの開発環境に馴染んでいるだけ。それが勝ち負けに繋がるかというとそうではない。北米が山をぶち抜いて道をまっすぐ引くのに対し、日本は地形に馴染んだ形の道を引く、そういう文化な違いがあるだけ」と反論。

 これらの意見に対し、セガ安藤氏は「業界全体の技術共有は、できれば良いと思っている」と話を本題に戻し、「ただし、日本の場合は、会社の縛りがきついのでどうしても牽制し合ってしまう」と現状を冷静に分析。その上で斉藤氏は、CEDEC初日の夜に開催された開発者間のオフイベント“裏CEDEC”の存在に言及し、「個人レベルでの交流は多い。それが上司の愚痴だけになったらダメだが(笑)、我々としても何かしらのことは考えていきたい」と、業界全体の情報共有に賛意を示した。

 これを受けてスクウェア・エニックス村田氏は、「このパネルディスカッションがその第1歩ではないか」と話を繋げ、KONAMI植原氏も「私もCEDECのアドバイザリーボードを引き受けており、CESAという枠組みの中で、何らかの形での協力ができないかと考えている」と結んだ。業界全体の情報共有という点で、一定のコンセンサスが見られたという意味では非常に有意義なセッションだった。

□CESAのホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「CEDEC 2007」の公式ページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□関連情報
【2006年9月2日】スクエニ村田氏ら、門外不出の「FF」開発ノウハウを一挙公開
「『ファイナルファンタジー XII』解体新書」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060902/cedec_ff.htm
【2007年9月26日】CESA、「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2007」を開催
セガ小口副社長「楽しい国、日本」。DiGRA併催で東京大学にて開催
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070926/cedec_01.htm

(2007年9月29日)

[Reported by 中村聖司]



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