|
■ 2007年3月期でタイトーの不採算事業を一括償却
決算短信の説明は和田氏自らが担当。決算短信の内容に触れる前に和田氏は今年の決算の性格として、「『ファイナルファンタジー XII』などの大型タイトルが海外で順調に売れ、国内についても『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー』や『ファイナルファンタジー III』が好評を得て、一定規模まで売り抜くことができ、結果として新会社発足以来最大の経常利益を達成することができた。このタイミングを捉えて、タイトーを含め、次のスタートを切るためにやらなければならない処理を済ませた」と報告。 決算短信については、総資産を減らさずに内容を変えた過程の一端を該当項目を示しながら紹介していった。基本的には、ほとんどがタイトー周りの処理で、カラオケ事業の譲渡益や人員整理による退職給付引当金戻入益等を特別利益として計上する一方で、店舗閉鎖の資産処分損や閉鎖損、“のれん”の償却、人員整理の割り増し退職金といったアセットサイドの不良債権を特別損失として一気に処理している。結果、2007年3月期の純利益は32%低下し、AM事業も3億5,100万円の赤字となっているが、いずれも特別損失として一気に処理したためで、AM事業そのものはすでに黒字化を果たしていることになる。 続いて和田氏は、セグメント別の説明を行なった。まず、ゲーム事業については、「1693万本のうち、721万本が日本です。つまり、海外のほうが売り上げが多い。これまで日本比50%まで伸びたことはあったが、海外のほうが多いのはこれが初めて。これは大型タイトルが売れたこともあるが、今後効いてくるポイントとして北米、欧州共に自社パブリッシュに切り替えたことが挙げられます。これまでは販売を許諾していたので、許諾された側と自社だと営業のテンションが結構違う。これは今後結構効いてくると思います」と、ビジネススタイルの変化が好調の要因であり、さらに伸びる要素として影響してくることを強調した。 オンラインゲーム事業については、「依然として好調。今のところ残念ながら利益のほとんどが『ファイナルファンタジー XI』で、2007年3月期の終わり頃から若干、アイテム課金等の利益貢献が出てきた。大型タイトルについても2、3用意している。今年は出ませんが、来年、再来年が楽しみ」と簡潔に結んだ。和田氏の「ファイナルファンタジー XI」に対する全幅の信頼ぶりが伺えるが、言い換えると「FF XI」のユーザー数を維持しつつ、「コンチェルトゲート」や次世代MMORPGで、一定の新規層を獲得するという極めて難しいオブジェクトに挑まなければならない。 モバイル事業については、「前年度に先行投資先行投資と申し上げたが、実はあまり行かず利益を食っただけになりました。それが立ち直り、巡航速度に戻ってきた」と厳しい評価を下した。営業利益で見ると、前年比38.8%増の30億1,300万円となっているが、和田氏の期待には届かなかったようだ。 タイトーの事業全部をひっくるめたAM事業については、前述のとおり、“のれん”の償却十数億円分をAM事業に含めたため、トータルでは3億5,100万円の赤字だが、実際にはすでに黒字化を果たしていることを説明。和田氏は、総評として「まんべんなく成果が出た年」と自己評価し、重ねて海外事業についてもっとも成長の余地が残されている分野であることを強調。日本の売り上げの1/4にも満たないことから、海外の利益をいかに引き上げていくかが今後の課題だとした。
■ 今後は海外事業に傾注。「ドラクエIX」は開発順調も発売時期は未定
和田氏は、当年度の事業計画について「新型プラットフォームはまだ大きな数字は見込めず、携帯ゲーム機については若干利益率が落ちる」と切り出し、「当年度はまだ利益率は高まらないのではないか」と冷静な見解を示した。オンラインゲーム事業、モバイル事業についてはいずれも「横ばい」とし、AM事業については、営業利益3億5,100万円の赤字から一転して35億円の黒字化という強気の予測を示した。 続いて和田氏は、「目標:経常利益500億円」と見出しで、2010年までの予測が示されたスライドを示しながら、今後の事業展望を述べた。「これまでゲーム事業は、150億から200億のレンジだったものが、2005、2006、2007年に120億から150億のレンジに落ちている」と厳しい現状認識を示し、その理由として「マーケットの伸びなさ、利益率の停滞」などを挙げ、その打開策として「やっぱり海外ですね」と繋げた。 「海外にはまだまだ相当の余地がある。日本のマーケットは、据え置き、携帯型合わせて世界の20%ほどしかない。残りの80%に対するアプローチが弱い。逆に言うと、4、5倍外(海外)にマーケットがあります。外のやり方については、アメリカのテイストに合わせるとかいろいろ言われていますが、実はいかに同時リリースするか、いかにリテイラーに働きかけていくか、という割とベタベタなところが重要です。それから、いかに人を投入してパブリッシャーを立ち上げるか。地味なんですけど重要です。で、ここが(スクウェア・エニックスは)でき始めているということです」と自信たっぷりに報告。 続けて和田氏は、「共通エンジン共通エンジンといっているが、いかに多くのプラットフォームで出せるか、ゲームデザインを磨くための試行錯誤がいかにできるかというところを共通基盤開発として取り組んでいる。ビジネス面、開発面においていかに世界のマーケットを取っていくかを戦略の中核に据えて取り組んでいる」と報告し、ビジネスのコアを日本から海外に広げていく方針を改めて明確にした。 2010年に経常利益100億の大台を見込むオンラインゲーム事業については、「着々と伸びてきていて、今はほぼ『FF XI』1本だが、現在2本ほど大型タイトルを用意している。倍というのは乱暴だが、ここは堅めかなと。実は重めじゃないのをいくつか種まきをやっている。この中のいくつかが貢献して数十億の売り上げを出してくれるようになればいいかな」と、2007年3月期比で33億弱の増加となる経常利益100億円達成に自信を見せた。 質疑応答では、予想通りAM事業と「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」に対する質問が集中した。まず「ドラクエIX」については、「開発は極めて順調です。『ドラゴンクエスト』については、昨年DSで『モンスターズ ジョーカー』を出し、中学生ぐらいのユーザーを対象に遊んで貰い、通信対戦はいまも遊んでいただいています。今年の夏はさらに対象年齢を下げて、アーケードゲームで『モンスターバトルロード』を展開します。その同時期にWiiで体感型の『ソード』を出します。その上でいくつかのリメイクを経ながら、『ドラクエXI』へと繋げていきます。一連の流れの中で順調ということです。作っているのが同じ方なのでバランスが結構難しいのですが(笑)、ほかはうまくいっているということです」と回答。 「ソード」から「ドラクエIX」までにリメイク作品を用意する構想が明らかにされたのは収穫だが、気になる販売見込み本数や発売時期については明言を避け、「読みにくいというのが正直なところ。値段については『ドラクエVIII』ではできるだけ高くすると言ったが、『ドラクエIX』については何とも言っていない。先ほど3倍売れるみたいな発言がありましたが、どちらかといえばそちらを狙う。今回はひょっとしたらひょっとするかもしれない。ぜんぜん違う数字が出るかもしれない」と、値段はDSの水準を守りつつ、本数で稼ぐ戦略を明らかにした。 AM事業については、2008年3月期の“仕込み”の内容、営業利益35億の根拠、そして2010年に営業利益150億という計画の内容について質問が相次いだ。仕込みについては、「ものすごい奇策があるわけではない。たんねんにたんねんにしつこくやっているだけ。業界の中でいくつか指標となっている数字があるが、他業種からすると、それは違うのではないかというのがいくつかあって、それを改善することで資産的にはかなりいけると考えている。ゲームについては、第1弾として「バトルロード」を展開する。(タイトー)の携帯事業は小ネタがいくつかある。ネットの恐ろしさは小ネタが主役になる可能性があるところで、小ネタをいかに持つかが戦略的に重要」と回答。 2008年3月期の収益要因については、「施設運営でいくと、店によっては前年同月比150%、160%というところがボチボチ出始めている。225店舗から187店舗まで整理する計画で、直近で203店舗あると申し上げたが、まだ20店舗近く残っていて、これが開店休業状態になっている。これが既存店の足を引っ張る形になっているが、それでこの数字(2007年3月期の実績)ですから、当期見込みがそれほど無理な数字だとは思っていません」と回答。 経常利益150億達成の秘策については、和田氏は10秒ほど沈思したあとおもむろに「実は事業の仕組みを換えようと思っている」と爆弾発言。その内容についての明言は避けたが、改革はまだまだ継続していくことを示唆した。「ドラクエIX」に並ぶ、もうひとつのフラッグシップタイトルである「ファイナルファンタジー XIII」に対する質問もあったが、「まだもうちょっとかかる。少なくとも当年度中は絶対無理」と述べるに留まった。 (C) 2007 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
□スクウェア・エニックスのホームページ (2007年5月23日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|