【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

Game Developers Conference 2007現地レポート

モバイルゲームの明日を語ったGDC Mobile 2007
最大シェアを誇るゲームプラットフォームの課題と展望

3月5~9日開催

会場:Moscone Convention Center

 GDC2日目の3月6日は、前日同様チュートリアルが開催された。チュートリアルの中でも最大規模を誇るのが、モバイルゲームをテーマにしたGDC Mobile 2007だ。2日間だけで50セッション以上あり、とてもひとりでは網羅しきれないのだが、聴講できた枠内で、モバイルゲームの現状を紹介したい。


■ そもそも“Mobile Game”とは何か。定義が肥大化する急成長市場

GDC Mobileのキーノートを務めたのは、Digital Chocolate CEOのTrip Hawkins氏。Electronic Artsや3DOの設立者というとピンと来る人も多いだろう。モバイルゲームの分野にも徐々にユニークな人材が集まりつつある
立ち見が続出した人気セッション「Mobile 3D Hardware: They're not little PC」
結論を見る限りではハードウェアはまだまだ厳しい状況にあることがわかる。NVIDIAやNOKIAの最新ハードウェアセッションがあるなかで、こういった結論が導き出されるところが、北米モバイル市場の複雑さを物語っている
 GDC Mobileのユニークなところは、毎年メインテーマである「Mobile Game」が示す言葉の再定義が毎年のように行なわれていることだ。もともとモバイルゲームの関係者が集うカンファレンスなのに、再定義が必要なのものなのかと思ってしまうが、逆に言うとそれだけ定義がころころと変わるほどのホットな市場ということでもある。

 一般的にモバイルゲームとは、携帯電話向けゲーム、Microsoftが提唱するポケットPC向けゲームのことを指す。しかし、ここ数年で、PC/ゲームコンソール向けのカジュアルゲーム(ダウンロード型を含む)や携帯型ゲーム機までを含めるようになり、最新の定義としては「フルプライスのメインストリーム系ゲームコンテンツ以外は全部」というような状況になっている。

 この背景には、任天堂とSCEIを除く、あらゆるゲームプラットフォームに開発用ミドルウェアを提供するMicrosoftの影響もあるが、いずれにしてもGDC Mobileは、MicrosoftやNOKIAといったプラットフォーマーがスポンサーセッションを行ない、ある程度実績のあるモバイルゲームパブリッシャーや新進気鋭の独立系パブリッシャーが一般セッションを担当するといった具合で、業界素人が参加してもひととおりビジネスの仕組みがわかるようになっている。これは、ビジネスが多様化しすぎた結果、木を見て森を見ずの印象も強いGDC本体とは明らかに性質を異にする。

 こうしたことからセッション内容も非常に幅広く、携帯電話のメモリ管理といった序論から、ユーザークリエイトコンテンツの模索、そしてWiiリモコンのようなジェスチャーを新たなユーザーインターフェイスとして取り入れるアイディアまで、あらゆる可能性が提案されている。その底辺には「1つのアイディアでミリオネア」的な夢も感じられ、講演者、参加者共々活気が感じられるチュートリアルだ。

 GDC Mobileに対する個人的な興味としては、日本市場に対する興味、あるいはレポートだった。昨年はスクウェア・エニックスの米国子会社Square Enix Inc代表取締役社長の岡田大士郎氏が、スクウェア・エニックスのモバイルゲーム事業を通じて、日本のモバイルゲーム市場を紹介したが、今年はまったく紹介されなかったのが残念だった。そればかりか今年は、もはや日本を通り越して、中国、インドなどのアジア圏がターゲットになってしまっており、二重の意味で残念だった。

 よく知られているように、日本ではキャリアがプラットフォーマーとして機能し、ハードウェア、ソフトウェアの両面で圧倒的な強制力を有している。これにより、ゲーム機のような形で半ば強制的にハードウェアとソフトウェアの代替えが促進され、結果として世界で突出して水準の高い“携帯ゲーム機”が消費者に提供されている。しかし、これは逆にいうと、キャリア側のレギュレーションに従わないとビジネスができないということであり、海外ベンダーの大きな参入障壁にもなっている。

 だから、「GDCでセッションがないのだ」と決めつけるのは早計かもしれないが、アジアを視野に入れたセッションがありながら、日本が語られないのは事実だ。日本の非常に高い水準にあるモバイルコンテンツが世界に紹介されないのは、どこかに歪みがあるからではないのか。日本の携帯ゲーム業界全体として、市場を拡大していくために今後どうしていくべきなのか、真剣に考える時期が来ているのではないだろうか。

Microsoftのスポンサーセッション「Windows Mobile Game Development」。昨年に比べるとモバイルゲームの開発環境は格段に整備されてきているが、実際のゲームのクオリティはかなり厳しい

パブリッシングとマーケティングの障害とその克服をレクチャーしたセッション「Publishing and Marketing Blockbuster Content on Mobile」。データをふんだんに利用し、ワールドワイド(日本を除く)のモバイルゲーマーの実態を浮き彫りにしてみせた


■ ハードの制限はアイディアでカバー。北米らしい新しい動きも

独立系デベロッパーの作品を全員で品評するという異色のセッション「Mobile Game Innovation Hunt」。アルコール有りのセッションだったため、異様なほど盛り上がった
「Evolution of Casual Game」のセッションを担当したRealのHarold Zeitz氏。RealのPCカジュアルゲームの携帯への移植やアジア展開など、具体的なビジネスが報告された
Zeitz氏が報告したアドバゲーミング事業。2006年8月にビジネスモデルを有料モデルから、ゲーム内広告を使った無料モデルに切り替えたところ、半年で売り上げが300%に増加したという
 その一方で、GDC Mobileの話題の中心となったのが北米市場である。北米市場は、比較的規制がゆるやかで参入障壁が低い反面、キャリア側がエンドユーザーに対して日本ほど明快なモチベーションを提示していないため、ハードウェアの代替えが発生しにくい状況が生まれている。結果として、ハードウェアが進化しないため、いつまで経ってもハイクオリティのゲームが開発できないという明快にして深刻なジレンマが生じている。

 このためレクチャー系のセッションの内容も、次世代機のセッションでCellやマルチコアの活用事例が語られるように、AMDやARMの最新モバイルプロセッサをいかに活用するかというレベルの話は語られず、遅いCPU、性能の低いGPU、帯域が狭くて許容量が少ないメモリ領域といった課題をいかに克服し、クオリティの高いモバイルゲームを提供するかという現状の課題の克服に重きが置かれている。

 実際、Microsoftのスポンサードセッション「Windows Mobile Game Development」の中で、Windows Mobileゲームのサンプルとして公開されたWindows Mobile版「Project Gotham Racing」のあまりのクオリティの低さにびっくりした。日本で2003年にリリースされたナムコの「リッジレーサー」の水準にすら達していない。開発環境、開発力共に持ち合わせていることはXbox版で証明済みのMicrosoftにして厳しい状況なのだから、海外の3Dモバイルゲームの幕開けはまだまだ遠いという印象を持った。

 正確には、もともと携帯端末用のプロセッサは北米で開発されていることもあり、日本の携帯端末に勝るとも劣らない性能の端末が店頭で並んでいるのは事実だが、そうした最新ハードウェアをテーマにしたセッションが少なく、その一方で「Mobile 3D Hardware: They're not little PC」、「Super J2ME games - Size and Performance」など、低スペックハードウェアに向けたゲームプログラミングをテーマにしたセッションが超満員だったのを見る限りでは、店頭とエンドユーザーの風景にはかなりのギャップがあることが伺える。

 ただ、今年のGDC Mobileではいくつか収穫もあった。まず、Microsoftがモバイルゲーム向けに提供している「Windows Mobile 6」に代表されるゲーム開発環境が整ってきていること。次に、女性やゲームビギナーなど、これまで獲得が難しいと言われていた層に対してすでに世界規模でリーチできており、きわめて高い潜在需要を持つこと。そして日本でも最近話題になってきたアドバゲーミング(ゲーム内広告)が、新たなビジネスモデルとして成立していることが報告されたことなどである。

 そして最後に挙げられるものとしてはやはり“アイディア”である。初日の最後のセッション「Mobile Game Innovation Hunt」では、独立系デベロッパーが制限時間5分の枠内で次々にデモを行ない、それを参加者が入場時に配られたNVIDIAロゴ入りの手形カスタネットを打ち鳴らして、その音のやかましさで採点し、最終的にGDC Mobileの講演者たちが採点するという公開品評会が開催された。ここでは多くのゲームがデモされ、その中には光るアイディアを備えたタイトルがいくつも見られた。最終的にはアイディアで勝負する。オリジナリティを何より好む北米らしい回答と言える。

 2日目に聴講できた最後のセッションとなった「Evolution of Casual Game」の中で、Realのカジュアルゲーム事業を担当するHarold Zeitz氏は、モバイルゲームが目指す最終的なゴールとして「Anywhere Anytime(どこでも、いつでも)」を挙げた。Zeitz氏は、モバイルゲーム=カジュアルゲームであり、カジュアル(モバイル)ゲームの存在が、ゲームを普遍的なエンターテインメントに成長させたとする拡大解釈論の急先鋒だが、この非常にわかりやすいゴールは、すとんと胸に落ちた。縛りがあるなかでのゲーム制作は時として素晴らしいゲームを生み出すことは、日本のゲーム史が証明している。今後、日本の外で素晴らしいモバイルゲームが生まれることを期待したい。

GDC Mobile 2007の中でもっとも楽しませてもらったセッション「Mobile Game Innovation Hunt」。来場者全員にアルコールがふるまわれ、来場者がデモを行なうたびに手形のカスタネットを打ち鳴らして大いに盛り上がった。個人的には「Sil」(最下段右下)が一番よかった。動物や植物などの3Dモデルオブジェクトをぐりぐりまわして、背景の切り抜かれた部分にはめ込むというゲーム。シンプルだが奥が深く、携帯端末の限られた3D性能を的確に用いているところが二重丸だ

□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□関連情報
【3月7日】サンフランシスコにてGame Developers Conference 2007が開催
史上最大規模での開催。任天堂とSCEのキーノートに期待
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070306/gdc2007.htm
【2006年3月22日】Game Developers Conference 2006がサンノゼにて開催
任天堂、SCEの基調講演と日本人セッションに注目
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060322/gdc2006.htm
【2006年3月】Game Developers Conference 2006 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060324/gdclink.htm

(2006年3月7日)

[Reported by 中村聖司]



Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.