|
インタビュー後編では、松原氏が推進役となって進められているコーエーの海外事業、そして水面下で準備が進められている次期オンラインタイトルについて伺ってみた。 その中では、次世代オンラインゲームのビジョンについても語られているが、リアルマネートレードに対する考え方や、新しい課金システムの可能性、そしてネットワークテクノロジーに対するチャレンジなど、非常に興味深い見解が披露されている。 個人的に驚いたのは、日本人ゲームメーカー関係者の口から“インド展開”という単語が聞けたことだろう。それ以外にもドラスティックな発言が多く、聞いていて非常に楽しかった。オンラインゲームファン、関係者はぜひ一読頂きたい。
■コーエーのオンラインゲームの海外展開は?
松原氏: 中国、台湾、韓国はお話を進めています。あと、「大航海時代 Online」は欧米にも持っていきたいですね。「信長の野望 Online」にくらべて世界観が欧米への展開にあってるのではないかと。スクウェア・エニックスさんのFF XIは米国、欧州でも人気があると伺っていますし、ビジネスチャンスはあると思います。
やはり「オンラインゲームに関して何でもかんでもアジアが先進地域だ」と言われると、果たしてそうなのかな? という感じがしますよね。ゲーム作りに関してはアメリカや日本の方が経験があって、市場としてはアメリカはパッケージゲームが年間8,000億円売れる国なんですけど、オンラインゲームも数十万のユーザーがいて、「World of Warcraft」があんなに売れる、全然MMORPGオッケーじゃないかと。
一方、アジアでは、すでに仕事の仕組みというか、会社との関係もできているので、今後も引き続き展開していきます。北米に関しては、これから話を始めようとしているところです。 編: 欧米におけるコーエーのMMORPG第1段は「大航海時代 Online」ですか。これはライセンスになるのでしょうか。 松原氏: そうですね、ライセンスに関しては自社運営、パートナーシップどちらの可能性もあります。ローカライズは、カナダかシンガポールの海外開発オフィスで進めたいと考えています。
編: E3では大々的に公開する予定なんですか? 松原氏: 大々的かどうかはわかりませんが、持っていくことは間違いないでしょう。アメリカから日本のサーバーに繋ぐことは問題ありません。ただクライアントは日本語版になるでしょうね。 編: ゲームの題材的にはヨーロッパに一番親和性が高いですよね。ヨーロッパでの展開などは? 松原氏: ヨーロッパは今後インフラが整ってくるでしょうし、ここもE3で期待しているところですね。あそこは世界中の人が集まるじゃないですか。 編: AOGCでは「World of Warcraft」について言及されていたのが印象的だったのですが、「World of Warcraft」のアジアでの成功をどのようにとらえていますか? 松原氏: 韓国での成功はわかりきっていましたよね。「Warcraft」、「Starcraft」があれだけウケていて、Blizzardも北米の次にサーバーを設置するなど、非常に力を入れていた。韓国で成功すれば、台湾、中国でもいけるというのは見えてきますよね。では日本でどう展開していくのか注目しているのですが、まだアナウンスがないというのは残念ですね。日本の市場は魅力ないと判断されたのでしょうか(笑)。 韓国などに比べると、日本ではRTSはそれほど人気が高くありませんね。「Warcraft III」が流行っている地域では、同じ世界観を持ったMMORPGということで人気が出ている。とすると、日本は相対的にはちょっと厳しいのかもしれません。台湾では、「信長の野望 Online」の提携先のソフトワールドさんが展開するようです。世界観がまったく違うのでかぶることはないと思いますけど。 編: たとえばコーエーが日本で「World of Warcraft」を展開するという選択肢はあるのでしょうか? 松原氏: それは何とも言えませんが、Vivendiさんから話が来たら真剣に検討しますよ。 「World of Warcraft」は北米とアジアの両地域で売れた初めてのタイトルなんです。「ファイナルファンタジーXI」は欧米と日本だけの販売で、まだアジアには展開されていませんし、韓国のゲームはアメリカではまだ知名度は低い。「World of Warcraft」の世界的なヒットは、これまでMMORPGに東西の違いがある状況だったことを考えれば、非常に大きなことだったんじゃないかと思いますね。
■ 「リスキーなので最後に説明したのですが『じゃあ、それにしよう』と(笑)」 ~「真・三國無双 BB」 編: 2006年にサービスが予定されている「真・三國無双 BB」ですが、現在の進捗はどうでしょうか。 松原氏: まず「真・三國無双3 ハイパー」(Windows版)が4月1日に発売されるのですが、それをベースにオンラインである程度の規模で戦闘ができるか、テスト検証が始まるのがもうすぐという感じですね。オンラインでアクションがきちんと楽しめるかを検証し、ブラッシュアップをしていくというのがもうじき可能になります。
編: 基本的な仕様もまだ明らかにされていませんが、どのくらいの人数で楽しめるものなのでしょうか? 松原氏: 数百人から千人規模で楽しめるようにしますが、基本的には画面上でプレーヤーが数百人見えるというのは現状では厳しいでしょうね。 編: 昨年の発表時に話題になったのは、Yahoo!BB独占ということですけれども、この基本スタンスは今でも変わらないんでしょうか。 松原氏: 私どもが開発をして、BBサーブさんは販売を独占する、Yahoo!BB会員だけの独占サービスとするこの3つが基本ですね。 編: 要するにレイテンシーを確保するためにISPを固定する必要があるというわけですが、それだけのメリットはあるのでしょうか? 松原氏: 発表会の1年以上前から検討をしていましたが、ネットワークのインフラを持っていないと、あのゲームはできないのです。自社にインフラをお持ちで、この話に賛同して頂けそうと考えて、ソフトバンクグループに企画を持って行ったのです。 編: というと、このプロジェクトは松原さんの発案なのですか? 松原氏: オンラインゲームの新しいアイデアはないかと言われて企画したプランの1つでしたね。リスキーなので最後に説明したのですが「じゃあ、それにしよう」と(笑)。これが2年くらい前の話ですね。あのころは技術的にいけるかなどうかな、というところだったんですが、検証を進めるに従って、現在では何とかいけるだろうと思っています。 少なくとも数十人単位でオンラインでアクションを楽しむとしたら、光ファイバなら十分いけるんですが、それだとターゲットとなるのが300万世帯しかいない。これじゃ厳しいなと、ブロードバンドを備えている人たちならばターゲットになりうる。ソフトバンクさんからも検証のためにいろいろなデータを出していただいて、まあいけるでしょうと。 編: 現在開発は何パーセントくらいですか? 松原氏: まだまだですね、とにかくネットワーク関連などの目に見えない地味な部分の検討をしていまして、目に見える部分や、ゲーム要素の話などはまだまだ先です。
■シンガポールから日本、アジアへ展開していく「三國志 Online」 編: この後のタイトルとして「三國志 Online」がありますが、開発はどのくらい進んでいるでしょうか? 松原氏: シンガポールコーエーで開発を進めているのですが、このオフィスができたのが11月なんですよ。デザインやベーシックなところはそのときからスタートしています。こちらもまだこれからですね。特に今年の私の仕事は「真・三國無双 BB」と「三國志 Online」を立ち上げるということになりそうです。これをやらなくてはならなかったのに、新年早々、屋敷いろいろな問題で時間をとられてしまいまして……。
編: 想定外だった? 松原氏: そうですね(笑)。毎月シンガポールに行っていますし、毎週「真・三國無双 BB」のミーティングはしてますし、もう少しゆっくりしたいかなと。「大航海時代 Online」に関してはもう動いているので、開発中のタイトルを軌道に乗せるのがこれからの私の仕事になると思います。 会田氏: 今は立ち上げなのでシンガポールに行っていますけど、ほぼ新しいスタッフで「三國志 Online」は開発を進めています。 編: コーエーシンガポールの役割は、単に「三國志 Online」の開発だけではなさそうですね? 松原氏: コーエーは開発もグローバルにしていこうという意識があります。ゲームというのは各国ならではのセンスが必要になる部分もありますから。コーエーシンガポールとして、独立したオフィスにより、独立したゲームを作る。プロジェクトとしての「三國志 Online」のオーナーはコーエーシンガポールなんですよ。 もちろん日本で私が責任を負っていますが、日本でプロジェクトがあって、一部を海外の関連会社にとやっていたケースとは違い、日本人のプロデューサーがシンガポールにいます。シンガポールはインドやインドネシアなども含めたアジアのHUBになる地域で、ここに子会社を置くゲームメーカーも多い。コーエーにとっても非常に意味のある場所ですね。シンガポールに拠点を置けば、今後、インドなどに展開したり、中国にも向けることができるかなと。シンガポール政府はこういったインターネットやゲーム産業に対して補助をしてくれるんですね。 編: 社内の共通言語は何なのでしょうか? 松原氏: 日本語と英語がチャンポンですね。最近は英語と中国語を使うスタッフもいて、英語で話すことが多くなりました。 編: それは開発の障害にはならないのでしょうか? 松原氏: コーエーがグローバルになるために乗り越えて行かなくてはいけない壁ですね。確かに、日本人がゲームを作る方が短期間にできます。今すぐにシンガポールにオフィスを作るメリットを感じることはないかもしれない。もちろん、「三國志 Online」は成功させるつもりで作りますが、まずは我々が一緒にゲームを作り、2作目、3作目で効果が出てくるとおもっています。長期的な視点でみています。 編: 「三國志 Online」は多言語対応で作られているということですが、開発のベースは何語で作られているのでしょうか? 松原氏: 日本語です。日本で流行ると台湾や中国でアピールできるんですよ。また、1カ月の単価などを比べても、中間マージンやコスト管理の問題から、日本で売れた方が利益率が高いんですね。中国で100万本と日本で10万本と、どちらを最初に目指すかというと、どっちも目指したいけど、まず日本というところがあります。 編: 「三國志 Online」のプラットフォームはPCなんでしょうか? 次世代機は含まれないのですか? 松原氏: いまのところWindowsですね、それ以外は、うーん、考えます(笑)。いまのアジア展開を考えて、日本のオンラインゲームの普及も考えれば、現状ではWindowsというところでしょう。家庭用の移植は十分考えていますが、これは「大航海時代 Online」でも同じなんですけれども。
■コーエーのオンラインゲーム戦略の主軸となるプラットフォームは!? 編: 最近はアジアでもPS2やXboxが普及し始めていますが、最近のコーエーさんのオンラインゲーム事業の取り組みを見ていると、結果としてコンソールを切り捨てているという形になっていますが、これは松原さんにとしてはどういう判断なのでしょうか。 松原氏: 切り捨ててはいませんよ。私たちはソニーさんにもっとBBユニットを売ってほしいと願ってます。ただ、新型PS2の7万番台は何ですかあれって(笑)、ハードディスクがないじゃないですか。今でも「信長の野望 Online」はPS2ユーザーの方が多いんですよ。「ファイナルファンタジーXI」もそうだと思います。私たちは全然切り捨てる気はありません。 編: たとえばBBユニットが売り続けられれば、「大航海時代 Online」のPS2版の同時発売もあったわけですか? 松原氏: そうです。最初のプラットフォームとしては我々は絞り込んだ方がいいと思うので、PCで始めるならPS2に移植をするということというプランも十分にあり得ました。
編: 今、オンラインゲーム開発の上で話題になっているのが、ハードディスクはオンラインゲームに必須なのかどうか、ということがひとつあると思います。SCEIの戦略として、新しいPS2は、オンラインゲームにハードディスクは必須ではないという選択をした結果という見方もできるわけですが、これに対してはいかがですか? 松原氏: MMOというジャンルで限定して考えると、クライアント側にハードディスクがないのは厳しいですね。ネットワークが100倍早くなって、クライアントに瞬時にデータが届けられて、サーバーにすべてのデータが置けるならばいいのですが、現在のテクノロジでは不可能だと思います。 現在のMMORPGの規模でそれをやるのは非常に厳しい。数GBものデータをオンメモリにおけて、さらに100MB以上のパッチをユーザーにラグを感じさせずに提供できる。このネットワークとそういうプラットフォームの設計にしてくれれば可能だと思いますけど、現時点でネットワーク的なものを考えると現実的ではないと思いますね。ハードディスクを置いて対応する方がベターだと思います。 MMOというゲーム性を否定するのであれば、ハードディスクがなくてもいいと思います。MMOというゲーム、さらに次のオンラインゲームもそうなんですけど、やはりクライアントの方にある程度の量を持っておき、その拡張性がユーザーに面白さを提供する。パッチなどのシステムのアップデートですね。MOタイプのゲームで、ネットワークで遊ぶけれども、成長性がなく毎回同じフィールドでいい自分のスキルのみが成長する、分身であるキャラクタが成長しないのであれば、そのシステムは否定しません。ゲームジャンルによると思います。 編: 先ほど切り捨てるという極端な表現を使ったのは、「真・三國無双BB」をPS2に対応しないのはないだろうと思ったからです。あれだけ人気のあるファンの多いプラットフォームで出さないのですか? 松原氏: コンソールをどこにしようか検討するのはこれからですが、いずれにしても「真・三國無双BB」がリリースされる頃はもうPS2の世代ではないですよね。PS3やXbox次世代機の戦略などある程度情報はいただいています。だけどオンラインゲームと技術的なプラットフォームの状況が見えてからじゃないと難しいですね。現時点で発表するのはPCだけにしておいたほうがいいかなと。 編: 今後のオンラインゲーム事業は、基本戦略としてとりあえずPCを主軸にして、コンソールにユーザーニーズとメーカーサポートがあれば考えるという感じですか。 松原氏: 私の考えではプラットフォームは選んでいません。お客さんが一番使いやすいハードに向けて提供するというだけで、今明確になっているのはPCかなと。お客さんから見て一番使いやすいオンラインゲームのプラットフォームへ提供します。携帯ゲーム機はまだまだMMO的には不便なところがあるのですが。「真・三國無双BB」に関してもお客さんへの便宜を考えています。
■松原氏がチャレンジするさまざまな技術的な課題 編: もともとハードウェア関連のビジネスに関わっていた松原さんが、オンラインゲームに関して今一番待期待している技術的なブレイクスルーは何でしょうか? 松原氏: 昔はソフトウェアで全部やっていたグラフィックスが、今はほとんどハードでやるようになりましたよね。これがゲームの進化を非常に助けていたのですが、これと同じことがネットワークにももたらされてほしいですね。 ネットワーク自身の早さもそうですけど、ネットワークの使い方というか、これは「真・三國無双BB」の場合なのですが、レーテンシーはすごい早さで欲しいけれども、スループットはそんなにいらない。あるいは逆にチャットなどたくさんデータは流れるけれども、スピードは急がないというオンラインゲームの作り方もあってもいいと思うんですよ。しかし、現在こういうものをアプリケーション側で動的に切り替えられないんですね。 ネットワークは本来はもっといろいろな使い方ができるのに、アプリケーションでもっと使えるような技術が発達すればいいな、と思いますね。グラフィックは本当にチップが早くなってきて、2Dが3Dになって、今ならばグローバルイルミネーションやサブサービスモデルで凄い表現ができるとか、もうだいぶ見えてきている。オンラインゲームにおけるネットワークの使い方はまだまだ不十分だと思いますね。 CPUの高性能化、グラフィックチップの高性能化、これらのロードマップはひかれていますよね。ネットワークの高機能化といった面で、光ファイバーなど転送量は増しますけど、レーテンシーやスループットがゲーム側でどんどん切り替えられるという風にならないかなあと。こうするとゲームのアイデアとして新しいシステムや企画が生まれてくると思いますね。 MMOというのが今はコアな部分ですが、そうではない「真・三國無双BB」でレーテンシーを重視したシステムを作ったり、いろいろなネットワークの技術に依存したシステムの開発。そこはまだ世界で誰もやっていないところですね。 編: といった点では「真・三國無双BB」は、松原さんのネットワーク技術へのチャレンジが数多く含まれていると? 松原氏: そうですね、まずなんと言ってもレーテンシーにチャレンジします。無謀といわれるかもしれないですが……。みなさんそうじゃないですか、「楽しみにしてます」という(笑)。 編: どうでしょう、勝算はあるのでしょうか? 松原氏: できると思っていますよ。というよりできるように作るんです。最初はある程度、条件などを設定するかもしれません。例えば「真・三國無双BB」をプレイする際に、絶対無理というお客さんがいるかもしれません。それがあらかじめわかるように専用のベンチマークソフトを提供するつもりです。 今でもADSLは局から一定距離離れてしまうとダメなんですけれども、ひょっとすると無理矢理引いてしまっているかもしれません。そうなると局からの時間でもうアウトになってしまう。ベンチマークの結果如何によっては、あなたはもうしわけないけど、使えませんと、お伝えすることもあるかもしれません。したくないですけどね。ただ、近い将来、そういう人も新しい技術の恩恵にあずかれるようになると思うんですよね。私としてもできるだけレーテンシーを早くしてくださいとYahoo!BBさんに話をしていますし、それは私が動かなくても、いずれやってくるものだと思うんですよ。 日本って世界で一番ネットワーク環境が進んでいるじゃないですか。ゲームビジネスで、そこにトライしているというのは、そうなると世界でもウチだけかもしれないなあと思いますね。
編: ビジネス的なチャレンジよりも、むしろオンラインゲームとしてどこまでできるのかというチャレンジですね。 松原氏: 会社の社風としてそういうのがすごく好きなんですよ、「世界初!」とかね(笑)。 会田氏: いやいや、もちろんビジネスとしても考えていますよ(笑)。 編: まだ姿も形も見えてこないので何とも言い難いんですが、プロジェクトとしては非常に楽しみですね。 松原氏: 開発スタッフはみんな楽しんでますけどね。非常にチャレンジブルですしね。 会田氏: スタッフもかなり精鋭なんですよ。 編: 一方、「三國志 Online」では何にチャレンジするのでしょうか。 松原氏: 「三國志 Online」はですね……もうちょっと待ってくださいよ(笑) 会田氏: まず海外に制作スタジオを作っているのはチャレンジですね。「World of Warcraft」の話でもでてきましたが、その国ならではの価値観があって、ゲームの企画段階から現地のスタッフの声を取り入れていかないと、グローバル化というのは難しいですから。 編: ただ、今回の話だと、開発の主軸となるのは日本の教育を受けたスタッフということですが? 会田氏: 主軸は確かにそうですけど、スタッフの中にたくさん現地の人がいるわけですから、意見やアイデアが直接ゲームの中に入っていくわけですよ。それは大きいと思います。 松原氏: 中心といっても圧倒的に「三國志 Online」を作っている人数はシンガポール人が多いので、一番チャレンジングなのはこの作り方です。お客さんにとって見ればゲームを日本人が作ろうがシンガポール人が作ろうが、面白ければいいわけで、「三國志 Online」の面白さに関してはもう少し後でお伝えできるようになると思いますね。 ビジネス的に言えば、コーエーが海外もふまえたグローバルな開発環境を作っていく中で、非常に大きな意味を持つプロジェクトですね。文化の違いや生活習慣の違いを乗り越えながら作っていってます。 会田氏: 「大航海時代 Online」でも、もともと中国、台湾、韓国の展開は考えていたので、現地の意見を制作中の段階から相当取り入れていますよ。 松原氏: 戦闘システムはだいぶ変わりましたね。去年の今頃とは全然違うものになっています。簡単にいうとエンカウントシステムの全面的な見直しですね。これだけではないですけど。いまのところ「三國志 Online」のチャレンジは組織的な面でもしているということで、ゲーム的な面でももちろんしていますが、それをお伝えするのはまだできません。いずれちゃんとお話しますよ。 編: ゲームの内容に関して雰囲気だけでもお伝えしていただけるとありがたいのですが。たとえば「信長の野望 Online」だと、戦国時代の日本の城下町を3Dグラフィックで描写して、「おっ」とユーザーさんに思わせましたよね。 松原氏: 「三國志 Online」でもちゃんと三国志時代を生きるということを信長とはちょっと違った形でできると思いますよ。あの時代の雰囲気をちゃんと感じさせるものになると思います。「真・三國無双」とも違う、コーエーの歴史シミュレーションとも違う、三国志の世界の中を自分のキャラクタが生きているということを実感できるゲームになると思います。
■松原氏の手がける5本目のオンラインゲームとは!? 編: 現在松原さんは4本ものオンラインゲームを手がけているわけですが、今後例えばオフラインのゲームを見るということはありえないのですか? 松原氏: 今のところはオンラインゲームですね。4本持っていて、さらに携帯も見ていますからね。こちらも新しいビジネスとしてネットワークのくくりです。実はもう1本オンラインゲームを手がけたいなと思っているんですよね。 具体的な形としてはなかなか固まってないんですが、1人でも時間のない人でも楽しめるというカジュアル要素を追求したゲーム。ちょっとヒントだけ言いますね。ひとつは東大の馬場先生とお話をしましたけれども、エデュケーション要素といいますか、エデュケーションだけだとゲームは面白くないんです。でも、ゲームの中で教育的要素はある。 会田氏: コーエーには昔E&E事業部というのがあって、Entertainment & Educationの略でして、コーエーには元々そういう思想があるんですよ。「EMIT」とか「ダークハンター」とかありましたよね。 松原氏: あれをオンラインにするというわけではないんですけど(笑)、そういう要素が入ったゲームを作りたいですね。同じようなMMOを作っても食い合ってしまうので、狙いとしてはオンラインゲームの普及というか、カジュアル性を増して、ユーザーに増えていってもらいたいと思っています。大学の先生も教育への参加要素も研究してくれると言ってくれたし、そういう要素を入れたゲームをやりたいなと。 ゲームバッシングに対応するための、ゲームとしてのスタンスを持ちたいなということですね。それで面白くなかったら売れるわけないので、それでも面白い。面白いゲームの中で、すべてではないけど部分的に教育にも役立てられる。そんな教育的効果があるゲームができたらうれしいじゃないですか。いまはこの程度で勘弁してください(笑)。
■松原氏のRMTへの見解と対応策 編: インタビューでは毎回お聞きしているんですけれども、RMTに関してどういうスタンスで取り組んでいますか? 松原氏: リアルマネートレードというのは利用規約で禁止しています。その趣旨の一番の目的は、純粋にゲームを楽しんでプレイしてほしいということですね。RMTというのはどうしても金儲けに走るので、ハラスメントなど他のプレーヤーを邪魔する方向にいきかねない。ですから禁止しています。その禁止を破ってやっているような人たちも残念ながらいます。それに対応してシステムを変えていきます。 具体的には、「信長の野望 Online」では体験版を通じてお金のやりとりをしている人がいるのですが、来週から体験版では多額のお金がもてないように制限を加えます。ものすごく手間をかければそれでもお金の受け渡しはできるでしょうけど、めんどくさくなったらやらないじゃないですか。 RMTに関しては楽しいプレイができないと判断したら禁止するし、システムを変えます。極端な話をすると法律では完全に禁止できないですが、我々は楽しいゲーム性が犯されるようなことがあった場合には断固として対応していきます。将来的にRMTが法律で認められたら変えなければいけないですけど。 編: 最近ではアイテム課金という新しい課金モデルも生まれ、徐々に浸透して来つつありますが。 松原氏: 我々が定義するRMTというのはユーザー同士がゲーム内で我々が価値を与えていない金品やアイテム、アカウントをやりとりするものです。私たちが将来アイテム課金として販売するというビジネスそのものに関しては否定していません。 編: それは「信長の野望 Online」がアイテム課金になったりするのではなく、最初からアイテム課金のゲームとして設計すると言うことですね。 松原氏: そうですね。ただ、今現在いわれているRMTでは自社のタイトルに限らず、ハラスメントやひいてはナショナリズムに流れちゃうという問題までありますよね。特にナショナリズムに導くような流れは断固として反対します。 編: これは長期運営しているMMORPG全般に言えることですけれども、運営期間が長くなるにつれてインフレという問題が出てくると思うのですが。 松原氏: 基本的にはインフレが起きても仕方ないという風に、インフレが起きても大丈夫なゲームバランスにしています。現実の世界だと税金で吸い上げてお金の量を調整しますが、ゲームの世界ではユーザーがたくさん入ってくると、1人あたりのお金の持つ量を減らすとみんな面白くない訳じゃないですか。だからそれはできない。こうなるとゲームの中の通貨量は明らかに増えるため、絶対インフレになるんですよ。 それならば私たちはどうするかというと、新しいアイテムや技能など追加要素を入れて、お金の使い道を作ってあげる。通貨量は増えたけれども、魅力ある高いものが増えたためにそこでまた新たな経済バランスが形成されるのです。止まったままで経済バランスが保たれるとは決していいません。 それと同時に「信長の野望 Online」も「大航海時代 Online」もお金持ちがすべてじゃない、というゲームバランスにしようとしています。お金があればできることは多いですが、高レベルになってまでお金がすべてかというと、そういうバランスにはなっていないつもりです。 編: 「ファイナルファンタジーXI」や「エバークエスト」などと比べると、相対的にお金の価値は低いということですか? 松原氏: そのつもりで作っています。見ようによってはインフレかなということもあると思うのですが、お金を持ちすぎてて使い道がなくて、レアアイテムをよってたかって買っちゃう人とか、そういうシステムにならないように変化させながらやっていきたいですね。 レベルをカンストしてしまうようなプレーヤーはお金を稼ぐ方法がたくさんありますよね。そのお金を使ってものすごいレアなアイテムを高額で取り引きする、こういう部分はある程度は許容しているんですが、お金があって何でも買えるからゲーム飽きちゃった、というインフレという名の価値観の崩壊を避けるために、アップデートによるレベルキャップ引き上げや新しいアイテムなどを追加していきます。ユーザーが増えればゲーム内のお金が増えるのは当たり前なので、その状況でも楽しめるようにしなくちゃいけないなと。
■コーエーのオンラインゲーム事業の今後の展望 編: コーエーのオンラインゲーム事業は今後どうなるかを教えてください。 松原氏: 現在弊社のゲームの売り上げの10パーセントに満たない事業ですが、ゆくゆくはオンラインゲーム事業が全体の1/3を占めることを目指したいですね。その時には会社の売り上げが500億、600億になっているかもしれませんが。当面は、全体の10パーセントが目標値ですね。 編: その目標はいま目に見える形のビジネスモデルで到達できるのでしょうか? 松原氏: 今4つ仕込んでますからね。今の計画と海外展開でいけますね。もちろんロイヤリティーによる収益を含めてです。 編: ビジネスモデルはやはり月額課金モデルがメインになるのでしょうか? 松原氏: 「信長の野望 Online」、「大航海時代 Online」はそうですけれども、今後はアイテム課金や従量課金なども検討することになるでしょうね。 これからオンラインゲームのユーザーが何十万人にもなって、中にはちょっとしか遊ばないライトユーザーもいるだろうし、コアで1日何時間も遊ぶプレーヤーもいるでしょうし、だったらこれの値段分けをするというのもありかなと。ユーザーの区分けをしてしっかりとビジネスをして、もちろんユーザーに楽しんでいただくことが前提ですが。 編: スクウェア・エニックスの場合は、和田社長の口から改めてパッケージ戦略が必須であるという方針が示されましたが、コーエーでは必須ではないと? 松原氏: 「飛龍の章」のアップグレード販売が立証していると思うんですけど、これが非常にうまくいきましたね。 もっとも、これを受けて「大航海時代 Online」のクライアントをダウンロードにしたら大失敗してしまいました(笑)。予想より遙かに多くの人に来ていただきまして、甘く考えているとどこかに落とし穴がありますね。1.5ギガのデータを1日1万人以上の人がダウンロードしようとすると弊社のネットワークでは足りませんでした、その節は申し訳ございませんでした。 編: 例えば「真・三國無双BB」もダウンロード販売なのでしょうか、その時はちゃんとしたシステムで対応するということですか? 松原氏: 販売形態はまだ確定していませんが、ダウンロードに関してはBBサーブさんが後ろについていますから(笑)。サーバーも線も十分持っている会社ですから、それは心強いですよ。 編: ファンに対して提示するコーエーオンラインゲームの将来像を教えてください。 松原氏: オンラインゲームをより親しみやすいように、しかもいろんなバリエーションで楽しみやすいようにしていきたいと思っています。「信長の野望 Online」はオーソドックスなスタイルのMMORPGですが、「大航海時代 Online」は少し違いますし、「真・三國無双BB」ではさらに違ったタイプのオンラインゲームというものをお見せできると思います。 オンラインゲームというひとくくりでは言えなくなってくる、オンラインゲームというのは単にプラットフォームの名前になって、その中にジャンルが生まれてくると思います。そのジャンルに1つ1つはまるようなゲームを作っていきたいですね。こういったジャンルを作り上げていくというと偉そうですが、明確に差別化してユーザーに選んでもらう。それぞれのジャンルの言葉が定着するようにオンラインゲームを広げていきたいですね。 編: その姿が見えてくるのは来年あたりでしょうか? 松原氏: すでに2つ見せました、さらに現在開発中のタイトル「真・三國無双BB」と「三國志 Online」があります。いまはオンラインゲームとひとくくりにされてしまいますが、ゲームはオンラインが当たり前になって、FPSやRTSのようにMMOやMOという呼び方になるかはわからないですが。 会田氏: 「大航海時代 Online」は「オンライン海洋冒険RPG」というジャンルになっています。開発側がMMOという言葉は使いたくないということで、新しいジャンルだと。 松原氏: 「真・三國無双 BB」はアクションオンラインですね。オンラインが当たり前になれば、オンラインという言葉自体がつかなくなるかもしれませんね。テレビだって昔はカラー番組が珍しかった時はテレビ欄にカラーって表示があったんですよ、現代では逆に白黒に表示がつくようになった。それと同じですよ。今オンラインという表示が入ってるのを、「昔はそうだったんだ」と言うようになると思うんですけどね。 編: その推進役をコーエーが担うと? 松原氏: そうですね、私は今ネットワークゲームとオンラインゲームの担当ですが、コーエーのゲームはすべてオンラインになって「オンライン担当」なんていなくなる、ジャンルでこれは松原というようになっていくんじゃないかと。 編: そうなるとコーエー社内における松原さんが占めるウェイトはますます大きくなりそうですね。 松原氏: 私は講演や研究機関のスタッフとしてお手伝いなどもしていますが、これはオンラインゲームの可能性をできるだけ伝えたいと考えているからです。オンラインゲーム研究会とかなどにも参加しているのは基本的にその立場からなんです。もともと外に出るのは嫌いじゃないですから。今後もいろいろなことをやっていきたいと思っていますよ。 編: ありがとうございました。
□コーエーのホームページ (2005年4月5日) [Reported by 中村聖司 Photo by 勝田哲也]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c)2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|