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アジアオンラインゲームカンファレンス2005レポート

ガンホー堀誠一氏、システム運用の側面から見た
オンラインゲーム開発のノウハウを公開

会期:2月28日~3月1日

会場:工学院大学

 「アジアオンラインゲームカンファレンス2005(AOGC2005)」の中でも、飛び切り異例の講演となったのがガンホー・オンライン・エンターテインメント株式会社の技術担当執行役員、堀誠一氏の講演「オンラインゲーム開発に対するガンホーの取り組み」である。明確にターゲットをシステム開発者に絞り、理論上、最強のオンラインゲームを開発するためのノウハウを公開した。それではさっそく、注目の講演内容を紹介していきたい。

ガンホー技術担当執行役員堀誠一氏。この手のオンラインゲーム系のカンファレンスではお馴染みの顔である
鮮烈な幕開けとなったこのボード。日本は後進国なのかそうではないのか、この結論はまたの機会を待つ必要がありそうだ
 堀氏は、まずオンラインゲーム開発の厳しい現状を示すキーワードとして「日本はオンラインゲーム後進国」というフレーズを用い、いきなり参加者の度肝を抜いた。これは言うまでもなく、初日の基調講演におけるスクウェア・エニックス和田社長の「日本がネットワークゲーム後進国と言われるとカチンとくる」という名台詞に対する痛烈な皮肉である。

 後で堀氏に確認したところ「基調講演は聴いておらず、まったくの偶然」ということだったが、いずれにしても日本のオンラインゲーム市場の現状認識、向かうべきベクトルといった部分で両者が正反対の方向を向いているのは揺るぎのない事実。なにより、オンラインゲーム業界を代表する2人のオピニオンリーダーが、AOGCという象徴的な場において、まったく正反対の立脚点から論を展開するというユニークな構図となったのが興味深い。

 堀氏は、常に最効率を目指すシステムインテグレータ出身だけあって、あえてネガティブな要素をあら探しして、将来の開発者(というより主にシステムエンジニア)たちの気を引き締めるという講演スタイルを採ったようだ。講演者が仮にガンホーの森下社長だった場合、同じ題目でもまったく逆の論の展開になっただろうという気がする。

 堀氏が「日本はオンラインゲーム後進国」の理由として取り上げたのは、以下の3項目。

・ブロードバンド後進国であった時代は遠い過去ではない
・恵まれたプラットフォームがあったが故の不幸
・開発コスト増大によるトライアルチャンスの減少

 いずれももっともな指摘で、特に3つ目は開発側ならではの視点によるネガティブ論だ。その上で堀氏は、「しかし悲観すべきではない」として、以下の3つの日本の強みを取り上げた。

・日本市場はコンテンツクオリティの高い市場である
・緻密な品質管理・生産工程のノウハウを保持している
・コンテンツ産業全体としての支援体制が整っている

 3つ目は、オンラインゲーム産業に対する支援ではなく、音楽やアニメーションといった他コンテンツ産業との連携が他国より遙かにやりやすい環境にあるという、要するにメディアミックスのことを差している。

 続いて堀氏は、「オンラインゲーム制作に必要な発想」に話を転じ、オンラインゲームは正確にはジャンルというべき代物ではなく、またMMORPGという用語についても、本来のポテンシャルを制限してしまうという点で、功罪が大きいと指摘。

 さらに、オフラインゲームからオンラインゲームへ進化する過程において、ゲームコンテンツそのものがドラスティックなパラダイムシフトを起こしているという見解を示した。最終的な結論としては、既存のRPGはシミュレータと定義すべきで、その進化形であるオンラインRPGの本質とはとどのつまり、ユーザー主導によるRPGの原点回帰であると断定した。

 どれひとつとってもオンラインゲームを論ずる際の普遍的な一般論からかけ離れたユニークな見解ばかりで、非常に興味深い。これは、実はこのあと提示された堀氏のオンラインゲーム開発論の前振りになっているのだが、それを抜きにしてもちょっと話の展開の仕方に飛躍がありすぎるように思える。

 特にRPGをシミュレータと同化させるという大がかりなゲームジャンルのパラダイムシフトを提案するには、具体例が足りなすぎるし、そもそも堀氏の論を展開させると、RPGのみならずすべてのゲームはシミュレータの範疇に収められてしまう。この時点で、「オンラインRPGはRPGの原点回帰」というRPGくくりの主張そのものが空中分解を起こしてしまっているのではないか。

 この堀氏らしくない突飛な主張には、ひとつの仮説が考えられる。今回、「ガンホーの取り組み」と題しつつ、ガンホーの実際の運用例についてはほとんど言及されなかったのだが、実は、この前振りそのものが同社の自社開発タイトルの大きなヒントになっているのではないか。つまり、現在水面下で進められている自社開発タイトルが、既存のオンラインゲームが採るスタイルとはあまりにかけ離れているため、前振り全体が自社プロジェクトを軟着陸させるための戦略の1手になっているのではないかと思うのだ。

 さらに論を進めれば、講演中に堀氏の口から漏れたいくつかのヒント、たとえばリチャードギャリオットへの賞賛、MMOの消極的否定といった内容を総合して考えれば、大前提として非MMO型であり、RPGという堀氏のいう“ゆりかご”的なフォーマットさえ捨てた、まったく新しいタイプのオンラインゲームを模索していることが伺える。

システム設計の紹介では、実際にシンプルな設計のゲームサーバーを図示して説明
オンラインゲームの企画・開発のアプローチを示した「箱庭発想からの脱却」も、かなり厳しいことが書かれてある
 さて、本題となるオンライン制作の取り組みについては、「オンラインゲームはシステム」をキーワードに、主にシステム運用の面から見たシステムインテグレーションのノウハウを公開した。あまりに専門的な話になるので詳細は避けるが、まさにシステムインテグレータ出身の堀氏の本領発揮といった感じで、氏の持論である「システム先行型のオンラインゲーム開発」に関していくつかの提案を行なった。

 対象となったテーマは、システム、クライアント、レイテンシー(ラグ)、企画・開発、グローバル対応、コミュニティ設計、システム運営、ゲームマスターの重要性と、実に多岐に渡る。が、私は専門家ではないので、堀氏の個々の提案の妥当性に関する指摘、あるいはエンドユーザーの視点から見た客観的な評価が行なえないのが残念である。ただ、「システム先行型のオンラインゲーム開発」を大前提とした堀氏の論において、素人でもわかることは、初期段階でゲームがコケれば被害は途方もなく甚大というところだ。

 要するに考え方としては、飲食店のケースで言えば、料理を考える前から、お店の設計を始めましょうというもので、一見至極当然のようだが、料理人の腕、立地、地域的な嗜好性など、店の設計を決める前にいくらでも考慮すべき要素が挙げられる。こうした諸問題を先延ばしにして、先に受け皿の設計を決めてしまうのは、掘氏の提案は究極的には正しいとはいえ、やや理想がかった提案である印象がぬぐえない。

 おそらく来場者が知りたかったのは、ワークフレーム全体に置けるどの時点でシステム構築の最終判断を下すべきなのが最良なのかといった部分の判断基準や、ガンホーの新規タイトルをモデルケースとした開発事例といった内容だっただろう。さすがに後者は無理としても、個々のケースに対してもう少し具体的な指針を示しても良かったのではないかという気がする。

 ただ、開発者を含む来場者たちは、ゲームの内容以前にも意識すべき、あるいは乗り越えるべきハードルが無数にあることを知らされ、初めてオンラインゲーム開発の現実の一端を認識した人も多かったようだ。業界の先達として、勢い込む新人達に対して、冷静に考えさせる機会を与えるのが目的だったとすれば、それは十分に達せられた講演だったといえる。いずれにしても堀氏の論がビジネス的に正しかったかどうかは、現在開発中の自社開発タイトルによって証明される。サービス開始が二重の意味で待ち遠しい限りだ。

ここでは参考までにエンドユーザーと直に関わる部分のパネルを紹介しておく。「コミュニティ設計」、「運営という仕事」、「ゲームマスターの重要性」。中でもゲームマスターに対する考え方は、ガンホーならではのポリシーが貫かれている

□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bbassociation.org/
□「AOGC 2005」のページ
http://www.bbassociation.org/AOGC2005/
□関連情報
【2月28日】BBA、アジアオンラインゲームカンファレンス2005を開催
RMT論、教育研究、実態報告など注目の講演が目白押し
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050228/aogc.htm
【2月28日】ブロードバンド推進協議会、「AOGC2005」開催
和田洋一スクウェア・エニックス社長が語る「ネットワークゲームビジネス」とは?
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050228/bba.htm

(2005年3月2日)

[Reported by 中村聖司]


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