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ブロードバンド推進協議会、「AOGC2005」開催 |
会場:工学院大学
オンラインゲーム市場におけるスクウェア・エニックスのポジションを説明するために公開されたスライド。「アカウント数や同時接続者数などたくさんあってネットワークゲームにおいて決められた指標はない。しかし株式会社である限り決算は講評される」ということで、決算内容から各社の事業規模を比較した |
「AOGC2005」は、オンラインゲームの市場、技術、「eスポーツの楽しみ方」や「インターネットカフェのオンラインゲームサービス展開について」といった細かい話題から、“オンラインゲームの持つ社会性”などにまで踏み込んだ幅広いテーマについてセッションが行なわれる。また、「AOGC2005」は経済産業省、CESA、IGDA日本、そして韓国の社団法人コンテンツ経営研究所などの後援を得ている。
開幕して最初のプログラムでは、株式会社スクウェア・エニックスの和田洋一代表取締役社長が「スクウェア・エニックスのオンラインゲーム戦略について」と題した基調講演を行なった。
和田氏はまずオンラインゲームの市場規模について解説。これまでゲーム市場は10年ごとに革新を迎えてきた。アーケードゲームが全盛の時代に家庭用ゲーム機が登場し、家でじっくり楽しめるようになり、そういった背景から (それまでパソコンでもリリースされていたが) RPGなどが現われたと説明。「テレビの前でコントロールできるということが衝撃的だった」と語り、「何を出しても注目を集めた」と振り返った。その10年後に登場した「プレイステーション」の発売で、実現可能となったのが精巧なグラフィックスだ。和田氏は「グラフィックスに注力するあまり開発費が高騰したというネガティブな見方をする人もいるが、グラフィックスが精錬されていった時期だ」と説明した。
そして今後10年については「すべてがネットワークゲームになると言うわけではない」と断わりながら、「ネットワークでようやくコミュニケーションを取れるようになった」と説明。オンラインゲームのコミュニティはいまは非常に狭いが、「いまMMORPGをプレイしている人がどれくらい引っ張ってくれるかによって、一般市場にブレイクするかが決まる」とし、その動向には神経をとがらせているという。
一方で自社のオンライン事業の決算内容と韓国、中国のネットワークゲーム企業の決算内容を比較し「日本がネットワークゲーム後進国と言われるとカチンとくる」と語った。決算内容の比較については「ネットワークゲームのデータは、同時接続者数であるとかアカウント数であるとか、ひとつではないので比較することができない。そういった意味では統計が必要だと思う」とし、そのなかで「株式会社の場合決算を公開しなければならないので」ということで、指標のひとつとして決算内容を比較してみせた。和田氏は「ものすごく開きがあるように思っているかもしれないが、それほどではない」と語った。
中国の市場については「中国はこれまでの日本、欧米などとは全く違うマーケット。サービスをはじめるといきなり100万人という規模の人が集まる。これはこれまでの市場ではあり得なかったこと。それに、中国では (ネットワークゲームを) 家でやるよりネットカフェのようなところでプレイすることが多い。つまり、ネットカフェをチェーンで展開するとそれだけで市場を支配できるなど、これまでのマーケットとは違う物」と解説。「どちらかというと日本の全盛期のアーケードゲームに近い。どちらが良いのか悪いのか、ではなく、全く違う物」とマーケットの違いを強調した。
工学院大学で行なわれた基調講演。スピーカーはスクウェア・エニックスの和田洋一社長。朝早くにもかかわらず多くの聴講者が会場に訪れた |
「ファイナルファンタジー XI」はディスク販売“1”に対して定額課金を“2”に設定。ディスク販売を初期開発投資にあて、定額課金においてサーバーの固定費や運営費などに充てるといった収支設定にし、現在順調に推移しているという。「クロスゲート」のプリペイドカードについては「アーケードゲームで100円を投入する感覚に近い」とし、「コンシューマ型とアーケード型のどちらが良いのか? と言ったことではなく、サービスを展開する地域の商習慣などに照らし合わせて変えていくことが重要だろう」と持論を展開した。
さらに「デリバティブ型」としてRMTを取り上げた。こちらの方式について「いいか悪いかではなく、収益モデルとして成立すると思う。ただし、ゲームを作るときにそれを想定してゲームを作らなければシステムが壊れてしまう。キチンと想定してシステムを制作すれば成り立つと思う。『ファイナルファンタジー XI』では禁止しているが、それはRMTを想定していないシステムだから」と語った。「ただし、現在問題になっているのはIPを持っていない人が売買している点であり、それは別問題」と続けた。
和田氏は、ゲームデザインについても話題を広げ、「ゲームのデザインはコミュニティのデザインとも言える」と説明。現在、ネットワークゲームを成功させているのは大手ゲームデベロッパではなく、ネットワークゲーム専業メーカーが多いことの理由として、「オンラインゲームはサービス業。作り方も違うし、経営的に言えばリソースのもっていきかたが全然違う」といい、「これまでパッケージソフトを作ってきたところほど、 (制作するのは) ずっと難しいだろう」と続けた。
和田氏はこれまで、スクウェアとエニックスの合併記者会見や決算発表会について幾度となく産業アーキテクチャの変化について触れてきた。これまでは端末・メディアごとに独立した縦割りの展開だったが、これからは各端末から同じコンテンツにアクセスすることができるようになるという変化だ。
この件について和田氏は「いまはどの端末でもある程度のゲームはできてしまう。ここ2~3年のあいだに問題にならないと言ったことはなくなってしまった。その時、ユーザーは何を求めているのだろうと。価値の源泉はどこなのかを見つめ直さなければならない」とコメント。
和田氏は「ゲームで大切なのはソフトのはいっているディスクではなく、メモリーカードのほう。私は今、あるゲームを28時間ほどプレイしているが、このデータが飛んだら泣いちゃいますよ。ディスクはなくても買えばいい。でもメモリーカードは違う」とコンシューマゲームを引き合いに出し、「つまりユーザーにとって何が大切なのか。ネットワークゲームを考えるときユーザーは何にお金を払うのか。プレーヤーにとってゲームをプレイして何を得たか、他の人と友達になって……といったことが大切。究極を言えばコンテンツが大切なのではなく、コミュニティが大切なのではないか」と語った。そう考えたとき、マルチプラットフォーム、クロスプラットフォームは必須で、「サービスの本質であってリスク分散と言った議論とは違う」と、これまでのリスク分散と言った方法論でプラットフォームを選択してきた状況とは違う次元であることを強調した。
オンラインゲームの持つ課題については、文化的課題として「ネット社会における社会規範」の作成を挙げた。和田氏は「一塊の社長がこんなことをいうのはおかしいかもしれないが」と断わりながら、「21世紀になって人類は2つの初めての体験をしている。ひとつはネットワークでバーチャルな世界を作っていくこと。もうひとつはバイオの世界で生命を作るという点。このふたつは、社会的に本当に真剣に考えていかなければならない」と語った。
和田氏は「現在、ネットの社会には社会規範がない。“顔が見えない”という匿名性や“時間の感覚がない”といったことでいとも簡単にたがが外れる。そのためこの社会規範を、社会全体で最初から作り上げなければならない」という。この時「もし何かネットワークゲームに問題が発生すると、『ゲームが悪い』とゲームのせいにされてしまうけど、ゲームの世界で起こることはネットワークの世界には必ず起こる。『ゲームのせい』ではなく、全体でしっかりと考えていかなければならない」と指摘。もし“ゲームのせい”で規制の嵐となれば「ネットワーク社会全体を制御できなくなり無法地帯となってしまうだろう」と警鐘を鳴らした。その上で、「ネットワークゲーム専業メーカーも使命感を持って取り組まなければならない」と注文を付けた。
(2005年2月28日)
[Reported by 船津稔]
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