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アジア オンラインゲームカンファレンス2005レポート |
ビー・ビー・サーブ代表取締役副社長の国枝 信吾氏 |
同社が現在配信している主なコンテンツは「オンラインゲームポータル(BB Games)」、「オンラインゲーム情報(4Gamer.net)」、「ネットカフェ流通事業」、「投資開発事業(Team『#8』)」の4種類。これらは特に目新しい内容ではないが、最後のTeam『#8』だけは、初めて耳にするという読者も多いのではないだろうか。
Team『#8』(ナンバーエイト、と読む)とは、従来のようにメーカーからライセンスをそっくり購入するのではなく、投資をした上で開発側へ積極的にアプローチを行なうためのプロジェクトチームである。製品完成後は、「Yahoo! BB」や「BBサーブ」会員向けの特典を付随させることで(またはプレイ条件として会員であることが必要)、最終的にソフトバンクグループ全体としての利益に結びつけるのが主な狙いだ。
現在具体的に進行しているTeam『#8』のプロジェクトは、株式会社ハドソンとの「Master of Epic」、株式会社コーエーとの「真・三國無双BB(仮題)」、そして株式会社ヘッドロック及びオーアールジーとの「ベルアイル」の3タイトル。いずれも現在は開発中であるため、課金条件等については未だ仕様が決まっていないものの、例えば「Yahoo! BB」に加入していないとこれらをプレイできない、という可能性はゼロとは言い切れない。
これは、仮にソフトの訴求力が極めて高ければ「Yahoo! BB」の会員数増大に繋がるが、しかしその一方で、一歩間違えれば本来獲得できたはずの顧客をも失うことになりかねない。果たしてこのようなビジネスモデルが成立するのか、一介の記者である私には想像もつかないが、Team『#8』が今後どのような展開を見せていくのかは大いに注目されるところだ。
と、ここまでならば単なる同社の事業説明会だが、本講演ではPCゲーマーの動向調査と絡めていたのが印象深かった。これは同社が行なったアンケート結果に基づくもので、票数が3,200以上とそれなりの規模がある。調査結果の一例を挙げると、「オンラインゲームを辞める理由」のトップが、「飽きた」からではなく「他のゲームを始めた」であったりと、なるほどと思わせるデータはいくつか見受けられた。メディア主導型によるアンケートのため、これをそのまま鵜呑みにするのは別の面で問題があるものの、現在の国内市場はこのような形で調査データが表に出ることが少ないだけに参考になった。
東京大学大学院情報学環助教授 馬場 章氏 |
その一例として氏は、「ゲーム脳」に代表される根拠の希薄な決めつけが、社会的に大きな影響を与えていると指摘する。例えば2月14日に大阪府で発生した17歳少年による教師刺殺事件についても、家庭内暴力やいじめ等といった他の理由がある可能性には見向きもせず、短絡的にゲーム脳だと決めつけるかのような記事が、週刊誌等に既に掲載されている。これがもし本当の理由が別の部分にあるのならば、安易な「ゲーム脳」報道は問題の本質を隠蔽することに荷担している、というわけだ。
国内のマスコミが「ゲーム=悪」だと決めつけたがるのは今に始まったことではないが、それによって事件の解決を妨げ、誤った認知が現在進行形で広まっているのが国内の現状である。そもそも冷静に考えればこの程度は誰もが理解できると思うのだが、実際はそうでもない辺り、マスコミの影響力がそれほどまでに高いということも改めて感じさせられた。このような誤った認識を丁寧に正してゆくことも、我々の仕事の1つだと再認識した次第である。
さて、本題となるオンラインゲーム研究についてだが、ネット中毒やRMT関連といったマイナス面のみならず、プラス面にも大いに期待できると氏は力説する。その理由として、日本国内のブロードバンド環境の伸び率が高いにもかかわらず、オンラインゲームの未経験者が未だ82%に達する点を挙げた(CESA2004年報告より引用)。この2要素を照らし合わせると、近い内に大市場へと発展する可能性は高いというわけだ。
とはいえ、日本市場ではコンソールのパッケージタイトルが依然として全体中の多くを占めており、ブロードバンドの普及がオンラインゲームの規模拡大に直結するとは限らない。つまり、いかにしてブロードバンド環境の整ったオンラインゲーム潜在層に火を付けるかが課題となってくるだろう。
その可能性について幾つか触れた中で、MMORPG「信長の野望 Online」に絡めた話がユニークであった。つまりゲームをプレイすることで戦国時代に対する興味が強まり、ゆくゆくは歴史の勉強に対するモチベーション上昇に期待できるというのだ。これは最初からエデュテインメントのために開発されたゲームではなく、市販のエンタテインメント・ソフトから入る方が望ましい、すなわちゲームとして面白いことが大前提だいう所がポイントである。ちなみに余談となるが、この方向性で考えると最も優れたタイトルは、歴史百科事典ストラテジーの「Civilization」シリーズではないかと個人的には思っている。
それにしても、オンラインゲームを用い実験や検証段階にまで発展させようとしているのが面白いではないか。冒頭部でも触れた「新地平を切り拓く」という表現も、まったくその通りである。馬場氏は実際のオンラインゲームプレーヤーであるだけに考察も説得力があり、机上の空論という印象はまったく受けない。その上でゲームのプラス面・マイナス面の両方に対し、真正面から取り組む姿勢には大いに共感できた。本研究会はこれから数年単位でオンラインゲームの検証作業を進めるとのことで、今後の動向はたとえ仕事を抜きにしても追い続けたいと強く思った講演である。
IGDA日本代表 新 清士氏 |
まず氏は、現在の北米におけるMMORPG市場について言及。近年では「EverQuest」や「Final Fantasy XI」を除く大半のタイトルが20万本未満のセールスで伸び悩み、お互いに限られていたパイを食い合っていると言われていた。そのような中、旋風の如く登場した「World of Warcraft(WoW)」がいきなり120万本を越す大ヒットで、既存概念を打ち壊しているという。「WoW」はその完成度の高さもさることながら、ソロプレイを重視したゲームシステムによって、新たなMMORPGユーザー層を大きく開拓しているのではないか、とのことだ。
アカウント数といったデータ面は、現在は基本的にメーカー側からの公式発表に委ねられている |
続いては「北米のオンラインゲームトラブルの歴史」と題し、'78年に北米で発祥した「MUD(Multi-User Dungeonの略)」期にまで遡って数多くの事例を紹介。このMUDというゲームジャンルが流行した'90年代前半当時は、日本においては3D系コンソールが爆発的にヒットしていたため、私達にとって馴染みは薄い。しかし例えば、「Ultima Online」や「EverQuest」の開発時には、ベースとなるプログラムをMUDのオープンソースから多数流用したという事実もある。つまり世界中がMUD等の技術を共有することでMMORPGを急速に発展させている中、日本だけはコンソールの範囲内のみで成長していたということだ。筆者は決して日本がオンラインゲーム後進国だとは思っていないが、当時の独特な国内環境が現在にまで長い尾を引いていることは想像に難くない。
氏はゲームトラブルに関連して、オンラインゲーム中毒(依存症)にも言及。実は現在北米において、中毒そのものはあまり問題視されていないというのは意外であった。というのも2000年代に入ってからの、北米における社会情勢の変化、具体的には「MMORPGの市場拡大期待の後退」、「イラク戦争への流れの中で中毒そのもののニュース性の低下」によってニュース性が薄れてきているのでは、ということだ。むしろ現在はオンラインゲーム中毒症状よりも、子供への悪影響が強いという面において暴力表現の規制を求める声が高まっているという。
□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bbassociation.org/
□「AOGC 2005」のページ
http://www.bbassociation.org/AOGC2005/
□関連情報
【2005年2月28日】BBA、アジアオンラインゲームカンファレンス2005を開催
RMT論、教育研究、実態報告など注目の講演が目白押し
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050228/aogc.htm
【2005年2月28日】ブロードバンド推進協議会、「AOGC2005」開催
和田洋一スクウェア・エニックス社長が語る「ネットワークゲームビジネス」とは?
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050228/bba.htm
(2005年3月1日)
[Reported by 川崎政一郎]
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