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★GBAゲームレビュー★

交錯する「過去」と「現在」――
すべてのナゾを解き明かせ!

「逆転裁判 3」
  • ジャンル:法廷バトル
  • 発売元:株式会社カプコン
  • 価格:4,800円
  • プラットフォーム:ゲームボーイアドバンス
  • 発売日:発売中(1月23日)

■ 清々しい読後感のミステリー小説

 ナゾの殺人事件が起こり、それを主人公が調査し、推理して、真実を導き出す……ミステリー小説によくある、お決まりのパターンだ。筆者は読書家とは言わないまでも、暇つぶし程度には小説を読むのだが、ミステリー小説はどちらかというと苦手な部類に入る。最後の謎解きに至るまでのプロセスがどうも退屈で、題材が「犯罪」であるから最後も湿っぽくなりやすく、さらにちょっとしたナゾが残ったりして、どうにも気分がすっきりしないことが多い。

 「逆転裁判」がまず素晴らしいと言えるところは、このような私が抱いているミステリー小説に対する不満点を、概ね解決している点だ。際立った個性を持ったキャラクタたちの様子は眺めているだけで楽しいし、気になるナゾは全て綺麗に解決。さらに扱う題材は殺人が多いのに、必ず最後に心温まるエピソードを入れておいてくれる。遊び終えた後がとにかく清々しい。

 とはいえ、本作のシナリオはミステリーというほどに肩肘を張った内容でもない。特別に難しい表現も出てこないし、ぶっ飛んだ設定のキャラクタも多いので、ライトノベルというほうが型に合う。普段あまり小説を読まないという人も、マンガを読むくらいの軽い気持ちで遊ぶといいだろう。

■ 「つきつける」快感

「逆転裁判」といえば「異議あり!」
 冒頭は本読みの視点から述べさせていただいたが、逆に「いまさらライトノベルなんて」と敬遠する読書家の方もおられるかもしれない。だが本作は小説ではなく、あくまでゲームであり、ストーリーだけで全ては語れない。まずは「逆転裁判」シリーズが、ゲームとしてどう面白いのかを紹介したい。

 ゲームとしての面白さが際立つのは、「つきつける」瞬間だ。「法廷バトル」という聞きなれないジャンルの本作は、プレーヤーが弁護士の成歩堂 龍一となり、無実の罪を着せられた被告人を救うため、やり手の検事たちを相手に、法廷でさまざまな証拠を使って真実を導き出していく。法廷では、事件について語る証人が登場するのだが、「被告人が無実ならば、証言は真実ではない! 必ず“ムジュン”があるはずだ!」と、その矛盾点を暴いていく。

 ここが本作一番の見所と言い切ってもいいだろう。証拠品をつきつけると、BGMが止まり、「異議あり!」という声と大きなフキダシが表示される。そして画面は、したり顔の成歩堂弁護士へと移り、「その証言はおかしいんですよ。なぜならこの証拠品と“ムジュン”しているのです!」と、証人に証拠品をつきつける。

 文章では語りきれないが、とにかくこの瞬間が極めて爽快なのだ。「証人のウソを暴く」というと、刑事物の取調室のような暗鬱なイメージを抱いてしまうかもしれない。しかし、自分の手でその矛盾を論破した瞬間に、映像と音声の巧みな演出を入れることで、プレーヤーに「してやったり!」と感じさせてくれる。この感覚は、作り手の都合で進行する小説や映画では味わえない、ゲームならではの見事なテクニックといえる。

 また本作には、検事と激論を交わす法廷パートだけでなく、証拠品をそろえるために奔走する探偵パートも用意されている。多くの関係者から事件に関する情報を引き出し、現場に残された証拠から推理を進める……ストーリーの展開から考えればなくてはならない部分ではあるのだが、ダイナミックな演出が続く法廷パートに比べると、探偵パートはどうしても地味で退屈な作業になりがちだ。

 そこで「逆転裁判 2」からは、「サイコ・ロック」という特殊なイベントが追加された。関係者たちは何か都合の悪いことがあると、隠しごとをする。ここで法廷パートと同じく、証拠品をつきつけて本音を引き出していくというもの。事件のキーとなる節目ごとに用意されているので、探偵パートでも「つきつける」快感が味わえるわけだ。

証人に証拠品をつきつけて…… 証言の“ムジュン”を暴いていく 探偵パートの「サイコ・ロック」。解除の手順は法廷パートとほぼ同じ

■ 魅力的なキャラクタたち

ひと癖もふた癖もある登場人物たち。見所は彼らの「痛いところを突かれた」瞬間の反応だ
 主人公の成歩堂をはじめ、本作の登場人物たちは実に個性豊かだ。容貌も性格も突き抜けたキャラクタが多く、「こんなヤツって現実にもいるよね」というような発想が全然浮かんでこない。「逆転裁判」シリーズには、このようなキャラクタが既に数十人登場しているのだが、似たようなキャラクタが出てきたと感じたことはない。新しいキャラクタが登場するたびに、新鮮な笑いを提供してくれる。

 キャラクタの性格はクセが強いものの、基本的なスタンスは非常にわかりやすい。いわゆる勧善懲悪なつくりになっていることが多く、こっちは被害者、これが真犯人、と一目でわかることもしばしば。しかしこの犯人たちも単なる悪役ではない。最初は物腰の弱い態度を取っているのに、切羽詰ってくると態度を急変させて別人のように振舞うなど、悪役ならではの見所もある。

 とにかく、どこを切り取っても面白いキャラクタだらけだ。おぼろげに真犯人が見えてきても、トリックを暴いていくこと、それと犯人の慌てぶりを見ることが楽しい。もちろん慌て方もキャラクタごとに異なるが、「いくらなんでも慌てすぎだろう!」といいたくなるほど派手に慌てるので、遊ぶときには見逃さないようにしてほしい。

■ 「逆転裁判 3」は正当進化か? それとも停滞か?

 長々と「逆転裁判」シリーズについて語ってきたが、そろそろ本題の「逆転裁判 3」についてお話ししよう。

 ……といっても、実は「逆転裁判 3」のココが凄い! と力を入れて語ることはそれほどない。法廷パートと探偵パートで事件の真相を暴く、という内容は「逆転裁判」から変わっておらず、「逆転裁判 2」で追加された「サイコ・ロック」のような追加要素も、「逆転裁判 3」では見られない。システム的な目新しさは皆無といっていいだろう。

 厳しく言うと、筆者は「逆転裁判 2」を見たとき、「逆転裁判1.5」くらいでいいと思った。映像や音楽の使いまわしも多いし、システム的にも「サイコ・ロック」以外に目立った変更点はない。ここだけに絞って見ると、「逆転裁判 3」はせいぜい「逆転裁判1.6」程度の違いしか見られない。前作から1年以上の歳月がかかっている割には、この“変わらなさ”は異常と言ってもいい。

 だが、ユーザーのニーズを含めて考えると話は180度変わる。筆者の知る限り、「逆転裁判」シリーズを遊んだファンから一番多く聞かれる声は、「早く新しいシナリオで遊ばせて欲しい」というものだった。「逆転裁判」の時には、探偵パートの退屈さが指摘されることもあったが、それは既に「逆転裁判 2」で不満のない程度に解決されている。つまり「逆転裁判」のシステムは、既に十分な完成度を持っていると評価されているのだろう。

 それ故に、これ以上のシステムの追加や変更は、ファンには期待よりも強い不安を抱かせる。であれば、システムは今のままでいいから、新しいストーリーとキャラクタで、ボリュームを増やして欲しい、というわけだ。筆者もひとりのファンとしては、この意見に賛成だ。そして結果として、「逆転裁判 3」はまさにこの通りに作られている。

 ただ、作り手の姿勢としては、もっと強気に新しいものを盛り込んでいって欲しかった。このレビューを書くにあたっても、「逆転裁判」というシリーズを強くオススメすることはできても、「逆転裁判 3」という単品タイトルでどこが凄い、とは語りにくい。新しいユーザーを開拓するためのタイトルにはなりえず、既に囲い込んだファンのためのゲームになっている気がするのだ。

 もちろん、それが狙いであれば何もいうことはない。「逆転裁判」が既に定番タイトルといえるだけの足場を築いていることや、ストーリーとキャラクタを新しくするだけでも、まだまだ楽しめる作品だということは、この「逆転裁判 3」をプレイすることで証明されるだろう。特にストーリーに関しては、その内容については詳しく語れないものの、出来は過去最高だと感じた。ボリュームも確実に増しているし、これまで以上に遊び応えのある作品に仕上がっている。

「逆転裁判 2」までの登場人物も続々登場。これに安心感を覚えるか、物足りなさを感じるかは、人それぞれとしかいえない

■ 知られざる過去が明かされるストーリー

 では、「逆転裁判 3」の根幹を支えるストーリーを紹介したい。本作は5話構成となっているが、あまり遊ぶ楽しみを削いでしまわないよう、前半の2話の冒頭や舞台背景についてお話ししよう。

【第1話・思い出の逆転】

 主人公の成歩堂 龍一の師匠である綾里 千尋が、まだ新米弁護士だったころに扱った事件で、成歩堂との出会いを描いたストーリー。依頼人は事件の被告人でもある、学生時代の成歩堂。呑田 菊三という学生が大学の構内で感電死し、その場にいた成歩堂に疑いがかけられる。

 今回の主人公は、成歩堂ではなく、綾里 千尋。「逆転裁判」シリーズで成歩堂以外が主人公となって弁護を行なうのはこれが初めてとなる。さらに綾里 千尋は「逆転裁判」の2話で発生した事件で殺害されており、ファンならば「千尋さんが帰ってきた!」と喜ぶところだろう。あるいは逆に、成歩堂が主人公でないことに不安を感じるかもしれないが、遊んでみればそんな杞憂は一瞬で吹き飛ぶはず。成歩堂に負けず劣らずの爽快な裁判が展開される。

 裁判は、この真犯人を見つけるという一本道では進まない。綾里 千尋がこれよりもさらに過去に扱った事件や、さらに別に起こった事件が複雑に絡み合う。「逆転裁判」の過去と現在を結ぶ、「逆転裁判 3」のメインとなるストーリーがここからスタートする。

 相手となるのは、やはり1話に登場する亜内検事。今回の亜内検事は何と髪があるのだが、これがなくなった理由もここで明らかにされるなど、ファンのツボをついた細かな笑いが用意されている。

殺されたのは大学生の呑田 菊三。死因は感電死らしいのだが…… 容疑者となったのは、まだ学生の成歩堂 龍一。殺人犯には見えないが、違う意味で怪しい 第1話の主人公は綾里 千尋。若い千尋さんの「異議あり!」もお見逃しなく
対するは「新人つぶし」の異名を持つ亜内検事……ってずいぶん扱いが格好よくなってます 千尋さんの師匠、星影 宇宙ノ介も登場。相変わらず頼りなさそうな上、なぜか「シリ」を連呼する 当時の成歩堂の彼女、美柳 ちなみ。彼女の魅力に裁判長もメロメロ

【第2話・盗まれた逆転】

 舞台は現在に戻り、主人公は再び成歩堂へ。綾里家の血を引く霊媒師の村「倉院の里」の秘宝が盗まれてしまう。盗んだのは「トノサマン」、「マックス」に続くヒーロー? の「怪人☆仮面マスク」。ところがこの「怪人☆仮面マスク」、なぜか突然、自首してしまう。正体は気の弱そうな青年、天杉 優作……だというのだが、どうも様子がおかしい。本当に彼は「怪人☆仮面マスク」なのか? といぶかしみつつも、彼の弁護を引き受けることになる。

 事件の調査をしていると、「怪人☆仮面マスク」を追い続けてきたという、自称・名探偵の星威岳 哀牙に出会う。彼から事件の情報を引き出し、点在する“ムジュン”から、事件の真相に迫っていく。

 これまた異様な個性を持った星威岳も見所ではあるが、今回一番の注目は、「逆転裁判 3」で成歩堂の宿敵となるゴドー検事。謎のマスクをつけた異様な男だが、コーヒーを片手にハードボイルドなセリフを連発する。「逆転裁判」の歴史に残るような名ゼリフと、これまでになかったムードのBGM、とにかくどれもが必見、必聴といったキャラクタだ。

 今回のストーリーもやはり一筋縄ではいかない。徐々にシリアスに展開していくシナリオと、どう扱ってもシリアスにはなりそうにないキャラクタたちのアンバランスさが実に楽しい、佳作と呼べるストーリーに仕上がっている。

華麗にお宝を盗んでいく「怪人☆仮面マスク」。ブロマイドが売られるほどの人気らしい しかしその正体は天杉 優作という気弱そうな青年。信じようにもギャップがありすぎる 天杉 優作の奥さん、希華。彼女を見ると余計に優作という人間がわからなくなる
名探偵・星威岳 哀牙。1世紀ほど時代を間違えたような、芝居がかったセリフが特徴 間違いなく今作最高のキャラクタ、ゴドー検事。ミステリアスな容貌とハードボイルドなセリフ、そしてメロウなBGMに酔いしれろ!

 「逆転裁判 3」は、過去と現在をつなぐストーリーが主題となっているだけに、「逆転裁判」と「逆転裁判 2」を遊んでいない人には、やや遊びづらいかもしれない。旧作2タイトルは廉価版も発売されているので、まずはそちらからプレイしてみるといいだろう。

 「逆転裁判 2」までを遊んだプレーヤーならば、今回も安心して遊べる内容に仕上がっている。期待通りのボリュームと、期待以上のストーリーと新キャラクタに十分満足できるはず。特にエンディングは今までで一番感動的なので、是非とも期待して遊んでほしい。

(C) CAPCOM CO.,LTD. 2004 ALL RIGHTS RESERVED.

□カプコンのホームページ
http://www.capcom.co.jp/
□「逆転裁判 3」のページ
http://www.capcom.co.jp/saiban3/
□関連記事
【2002年10月30日】GBAゲームレビュー「逆転裁判 2」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20021030/saiban.htm
【2001年11月12日】ゲームボーイアドバンスゲームレビュー
被告人の無罪を勝ち取れ!! 「逆転裁判」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011112/gyaku.htm

(2004年2月19日)

[Reported by 石田賀津男]


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ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

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