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東京都写真美術館、「レベルX テレビゲームの展覧会」にて
宮本氏と岩谷氏のトークショーを開催

12月15日 開催

 東京都写真美術館などは、テレビゲームを文化として捉えた展覧会「レベルX テレビゲームの展覧会」にて、任天堂株式会社の宮本茂氏と株式会社ナムコの岩谷徹氏のトークショーを開催した。

 「レベルX テレビゲームの展覧会」は、ファミコン生誕20周年を機に、テレビゲームを「文化」として位置付け、その社会的意義、著作権などを考察する展覧会。テレビゲームの始まりとしてファミコンを中心に、さまざまなテレビゲームやゲームアーティストの活動を紹介する。会場は、東京都写真美術館・地下1階の映像展示室。観覧料は一般250円、学生200円、中・高生と65歳以上120円、小学生、障害者と介護者、東京都写真美術館友の会会員は無料。2004年2月8日まで開催。


入口に設置された最新ゲーム機とソフト。これらは、いわばTVゲームの“現在”であり、奥に進むごとに来場者は“時を遡る”格好になる
 本展覧会は12月4日から開催されており、12月14日までの総来場者数は計6,597人。平均入場者数は、平日が300人台。祝祭日が1,000人以上で、あまりの混雑ぶりに展示台が動いてしまうこともあったといい、美術館側が入場規制を検討しなければならないほど高い関心を集めている。目録の購入率は、来場者数の1割。その多くは、教科書のように考えて購入する人が多いという。

 入場してすぐのスペースには、協賛メーカーの最新ゲーム機の試遊台がいくつか設置されているが、多くの来場者のお目当ては、その奥にある。まず目に入るのは「ゲームクリエーター・クロニクル」で、宮本茂氏、田尻智氏、杉森建氏、糸井重里氏、堀井雄二氏、中村光一氏、中裕司氏、小島秀夫氏の、それぞれ代表的な著作や関連アイテムが、本人の「履歴書」とともに展示されている。

 展示物はゲームそのものではなく、たとえば中村氏であれば、本人の代表作に加えて、プログラムコンテストに入選したパソコン雑誌「I/O」や「弟切草」の自筆マップなど。ファンにとっては、文字どおりの“お宝”ともいうべきものがショーケース内に陳列されている。

 展示物はファミコンが中心だが、同年代にリリースされたコンシューマ向けビデオゲーム機は、ほぼ網羅されている。30代以上の人であれば「あんなハードあったなぁ」などと懐かしい話に花が咲くことはうけあいだ。

 ファミコン関連の出展物は、まさに“圧巻”の一言。ソフトはもとより、なかには「あんなの売ってるところ、見たことないよ」といったものも数多くあるだろう。周辺機器も、「光線銃」や「専用ロボット&ブロックセット」などのメジャーなものから、証券取引用の専用ネットワークアダプタに至るまで、あますところなく展示されている。

 展示スペースはそれなりの広さがあるが、それでも1,000人以上が詰め掛けるとなれば、ショーケースを眺めるにも窮屈だし、プレイアブル出展されているタイトルにいたってはプレイするのも一苦労といった事態が予想される。もし会期中に訪れる予定があるのなら、なるべく平日を選んだほうが無難だろう。

糸井重里氏。「MOTHER」や「バス釣りNo.1」シリーズのほかにも、氏が執筆した書籍などの著作物が並ぶ 杉森健氏。同人誌のほか、「ポケットモンスター」とオープニングアニメーションの絵コンテが展示されている 堀井雄二氏の履歴書。本当の履歴書だったらスライムの落書きでアウトだろうが、これはあくまでも出展用
展示内容のよさはもちろん、一部とはいえ実際にプレイして体験できるのがいい。プレイアブル出展タイトルは、定期的に入れ替えられる
これは現行機種や近年発売されたゲームハードを集めたコーナー。あまりに高額でユーザーからソッポを向かれた「レーザーアクティブ」の姿も…… 工場で最後に生産されたファミコンjr。宮本氏は「部品が調達できなくなった話が大袈裟になった」というが、それでもファンには感慨深いものがある フライヤー。こうした販促物は捨てられて残っていないのが通例で、これだけ綺麗な状態のものをまとめて閲覧できる機会はそうそうない



 トークショーは、宮本氏と岩谷氏が出席。宮本氏による「あのー、岩谷さんとふたりで並ぶと何やら“漫才コンビ”のような。最近気が付いたんですけど。まぁボクのほうがボケをやらせてもらおうかな、と(笑)」といったつかみでスタートした。

 宮本氏は、会場を見て「ボクらの昔のモン(作品)だけを並べてどうなるのかと心配したんですけど、とてもいい雰囲気で。感動いたしまして。入場料を払ってもいいかなと(笑) 特に制作者を扱っていただけるのは嬉しいし、光栄です。関わってくださった皆さんに感謝したいと思います」とコメント。

 岩谷氏は「非常に素晴らしい展示内容で、感激してます。また、これだけの“文化財”が一同にして見られるということを、我々ゲームを作っている人間として誇りに思います。日本人は、エンターテインメントを発信する優秀な民族ではないかと考えています。古くから歌舞伎、能、落語、最近ではアニメ、漫画、映画、そして我々のゲーム。後ろに並んでいるゲームも、ひょっとすると何十年後かには重要文化財になるのではないかと。関係者の皆さんに感謝しています」とコメント。

 今回のトークショーは、11月27日に発売されたナムコのニンテンドーゲームキューブ用レースゲーム「R:RACING EVOLUTION」に同梱された「パックマン vs.(ブイエス)」がテーマ。「パックマン vs.」は、ナムコと任天堂のコラボレーションから生まれた“つながる対戦”アクションゲーム。開発は任天堂が担当している。

【パックマン対談 ~だけに止まらない深いトークに~】

宮本氏:このところ、ハードが高性能になることでゲームが変わったけど、ハードが変わることで“ゲームは変わるのかな?”というのをずっと課題にしてまして。というのは、初期のビデオゲームは、昔からある遊びをどんどんビデオゲーム化するという流れがあった。最近は先端技術を取り入れることでしか進化していないという傾向があった。この「コネクティビティ」でGBAとGCの画面を両方見て遊んだら、ひょっとしたら、テレビゲームで昔の遊びが蘇ったように、昔のゲームが今のプレーヤーに蘇らないかなと思いまして。それで岩谷さんのほうに相談しまして。

岩谷氏:宮本さんに直接電話をかけることがありまして。そのあとお会いして、「実は今、パックマンを題材にゲームを作ってる」と宮本さんから言われて「えっ!」と思いまして。なんで今さらそんなことをするんだろう? と

宮本氏:というより、任天堂の人がどうしてパックマンを作っているのだろうか(笑)

岩谷氏:で、詳しくお話をうかがったら、非常に楽しそうな話で。コラボレーションといいますか。それはなかなか素晴らしいなと。

 続いて「パックマン vs.」の遊び方が、宮本氏から説明される。宮本氏は「十字ボタンしか使わない」部分を強調。なるべく複雑なゲームにならないよう配慮して作られたという。宮本氏によれば、コントローラのボタンが増えるにつれて「ゲームって難しいんでしょ?」、「難しくて遊べない」といったことがあるため、十字ボタンしか使わず、すごく簡単に誰でも遊べる、10分以内にみんな同じレベルに達せるゲームということで「パックマン」を使わせてもらおうと思い至ったという。

 プレスをまじえたデモンストレーションプレイでは「追いかける者同士で声をかけながらやるといい」といった解説を織り交ぜつつ、熱いバトルが繰り広げられた。捕まえた人が新しいパックマンになるというのは、子供の頃に公園や学校の校庭などで遊んだ、極めてシンプルな遊びがそこかしこに感じられる。

岩谷氏:「パックマン vs.」を作るときに、一番気にしていたことはなんですか?

宮本氏:“ふくらまないように”ですね。それは、今のゲームの流れを否定しているわけじゃなくて。基本的に、ひとつのゲーム開発に30人、50人、5億円、20億円……。それはそれでいいんですけど、ゲームデザイナーが「本当に自分のやりたいことができているのか」わからないと思うんですね。仕事の規模が大きいと、自分が監督として管理する人のケアがあったり、物を考えて作るといっても、大勢の人がいれば自動的に分業化される。そうなると、だんだん誰が作ったものか(わからなくなる)。作者の個性が消えていくなって感じを受けてまして。ボク自身も、自分が作ったかどうかわからないようなものを作るのに抵抗がある。

 宮本氏は、クリエイターの傾向として、ほかが豪華なゲームばかりを輩出すると、自分もそうしないとダメなんじゃないか、と考えてしまいがちな傾向があることを指摘。そういった考えに縛られて、クリエイター自身が本当にやりたいことにエネルギーを投入できない傾向があるという。

宮本氏:「パックマン」自体は完成されたゲーム。といっても、A・Bボタンがあいている。そうなると「Aボタンでパワーアップ」とか「オバケを何匹か食べるとコインが貯まってアイテムを買う。それで足が速くなったり、鎧を買ったり」と、色々な要素を入れたがる。「パックマン」の面白さは何なのかを考えると……。4,800円、5,800円といったパッケージとして「パックマン」だけでは申し訳ないと思っちゃうんですね。で、ドンドン投入していく。そうなると、お客さんにしてみれば「十字ボタンだけで遊べる」というのが幅広いユーザーにとって魅力のはずなのに、だんだん上手な人と下手な人の差がでてきたり、ABボタンを使うことで面白さがわかるまで何日もかかったり。そういうふうにならないよう、現場にはシンプルにしろと指示しています。

岩谷氏:宮本さんは「パックマン」の魅力を見抜いてくれていた。本質といいますか。シンプルなゲームっていうところを壊さずに、なおかつパーティーゲームとして楽しめるものにしていただいたことに感謝しています。

 最近のゲームが難しいことについては、岩谷氏も同じ考えを抱いていたという。岩谷氏は、若いクリエイターに「お客様は何を求めているのか」、「“娯楽”としてゲームを捉えた場合にどういうゲームルールがいいのか」を深く考えてほしいという。

宮本氏:「レベルX」に来る人は、ゲームの熱狂的なユーザーよりは一般的な人が多いそうで。本来、娯楽商品は一般的な人のものだったはずなんですけど(笑) 改めてそういわれると、ここに普通にきている人たちが懐古主義で見るのではなく、素直に「面白いもの」と感じてもらえたら有り難い。最近、こういうファミコン20年で昔のゲームを出してみると「結構遊べますね」っていわれる。

岩谷氏:そう(深く頷く)。

宮本氏:遊びっていうのは、進化したときに演出とか驚かせる要素がどんどん増えてくるけど、本質っていうのはあんまり変わってないですよね。そういうものを作っていけたら、って思うんですけど。

岩谷氏:ファミコンで育った世代が、30~40代。ちょうど子供がいるということで、お父さんが子供にゲームで負けてる。でも、昔のゲームであればお父さんも知ってて子供にも勝てる、ファミリーでゲームが楽しめる。そういう展開を考えていきたい。ってことでどうでしょう?

宮本氏:いやいや、それはナムコさんが「太鼓の達人」で証明されていると思うんですけど(笑)

 ここで話題はGC「ドンキーコンガ」に以降。制作はナムコが担当し、世界戦略として「ドンキーコング=コンガ」で展開していくという。

岩谷氏:まぁ、ゲームのなかでのコラボレーションと、会社と会社としてのコラボレーションもあると思いますんで。これからは「自分の会社だけが儲かればいい」じゃなくて、ゲーム業界をどうリードしていくか、引っ張っていくか(という考え)が必要ではないかと。

宮本氏:(展覧会の)歴史で(ゲームが)並んでるでしょ。そうするとね、ゲームセンターから仕事を始めて、ナムコはライバルだったんですよ。ナムコに追いつけ、負い越そうとしてやってきた。その間、ずーっと現場で戦ってきた人が管理者になったり、マネージャーになったりして、わりと親しくオープンにやれるようになって、業界全体を盛り上げよう、というふうになってきた。ここ3~4年くらい。凄いですね。

岩谷氏:昔は“さん”なんてつけなかったですよ。「任天堂、くそう!」とか。最近はちゃんと「さん」付けです(笑)

宮本氏:ボクらは「ナムコさん」といってましたよ(会場爆笑)。

 ここで話題は、将来的な展開がテーマになる。おふたりは、アメリカで流行しているバイオレンス性を売りにしたゲームが好きではないようだ。黎明期からゲーム開発に携わるだけに、ただゲームを作って売るだけでは社会的な立場ある大人としては不十分、ということになるのだろうか。

岩谷氏:アメリカのソフトメーカーが元気だっていうのもありますけど、そのソフトを見てみると、本当にこれからの時代を引っ張っていくソフトかなぁという疑問があります。健全な娯楽としてのゲームを提供していく使命が、我々にはあると思います。血がドバッと出るとか、そういうのが人気があるみたいなんですけど、私は好きじゃないんで。もうちょっと違う方向に、もっともっと原点に立ち戻って“楽しい”ゲームを作っていきたいですね。……血がドバッと出るのは、ナムコでも一杯出してますけど(苦笑) もっと先に立って、何十年後かに「これはお父さんが作ったゲームだよ」って誇れるようなものを作っていくことが大事なんだと思います。

宮本氏:それはね……ちょっと長くなるけど。昭和のゲームクリエイターにスポットを当てて展示していただいたんですけど、こういう「ゲームデザイナー」とか。で、核になってモノを作る人では、海外に負けちゃうことが多いんですね。海外のほうが強烈な個性の持ち主がいたりして。ところが、ゲーム業界になると、海外にもわりといないんですよ。「SIM CITY」を作ったウィル・ライト氏とか、何人かはいるんですが、ゲーム作家は日本のほうが豊富なんですね。

 あらかじめ“海外のほうが強烈な個性の持ち主がいたり”と前置きしたにも関わらず、この展開は意外といえる。宮本氏によれば、それには理由があるという。

宮本氏:「ゲームデザイン」という言葉を海外では使うんですけど。映画でいうストーリーボードとか、イメージを書く人が多くて、遊び自体の設計をしない人がゲームデザイナーといってる。遊びを設計して、動かして、メモリに収めて動かすのは全部プログラマ。それが無名なんですよ。日本の場合は岩谷さんとかの技術系。堀井さん……は技術系じゃないけどプログラムを組まれる。ボクもプログラマと一緒に仕事をするほうなんです。だから、遊びの仕組みとCPUで動く仕組みそのものを、手がける作家が多いのが日本の特殊なところで。だから、まだまだ楽しみなジャンルだと思っているんですけど。


 年末ということで来年の抱負について質問されると、宮本氏は「“ゲームはみんなのもの”といわれるようなものを作りたいですね。みんなのものというか、誰でも付き合えるようなものにしたい」とコメント。岩谷氏は「50年前の映画でも、今観ても面白いものがある。いい著作物は腐らない、鮮度が保たれるということがある。何十年たっても愛されるゲームを作りたい」とコメントしてくれた。

□東京都写真美術館のホームページ
http://www.syabi.com/
□関連情報
【2003年10月17日】ナムコ、GC版「R:RACING EVOLUTION」に「パックマン vs.(ブイエス)」を同梱販売
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20031017/pac.htm
【2003年10月9日】東京都写真美術館など、テレビゲームを考察する展覧会「レベルX テレビゲームの展覧会」を12月4日から開催
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20031009/syabi.htm

(2003年12月15日)

[Reported by 北村孝和]


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