|
ガンホーCOO森下一喜氏インタビュー |
ガンホー・オンライン・エンタテインメントが「ラグナロクオンライン」の正式サービスを開始してから3カ月が経過。2月末を機に月額900円の「ガンホーサンキュープライス」期間が終了し、3月1日からは月額1,500円の通常料金に完全に移行した。
正式サービスが開始された12月から2月末までは、βテストのキャラを引き継いだプレーヤーが、良心的な価格設定に呼応して、いわばβテストの延長線的な感覚でプレイしていた側面もある。すなわち、日本での本番はこれからであり、同社でも料金通常化に先立ち「Episode 2.0」を含む将来的なアップデート構想を発表し、1,500円を「高い」と感じるユーザーに対して引き留め策に乗り出している。今後の「ラグナロクオンライン」がどう展開していくのかについてはユーザーならずとも気になるところだろう。
その一方で、βテストの頃から多数報告されていたプログラム上のバグやツールを使ったチート行為、サーバートラブルによるアクセス不良といった問題は、正式サービスが3カ月経過した現在でも解消されておらず、公式サイト上にも全ユーザーを安堵させる明快な解決プランは提示されていない。「Episode 2.0」実装の前にトラブルの解決が先という声も強い。なぜこうしたトラブルはなくならないのか、今後どうするつもりなのか。
今回はそうしたもろもろの事柄を、現場のトップである森下一喜氏にまとめてお伺いしてみた。2時間長のロングインタビューになったため、「各種トラブルの解決プラン」と「今後のサービス展開」の2部構成でお届けする。
■ これからは既存ユーザーに対する顧客満足度を上げていく
編集部(以下、編) 「ラグナロクオンライン」の正式サービス開始から3カ月が経過しました。現場のトップとして、この3カ月を振り返ってどのような感想をお持ちですか?
ガンホー森下氏(以下、森下) サービス開始前は社内でも賛否両論ありました。というのは、12月まで無料でβサービスを行なってきたわけですが、有料化すると韓国市場のようにユーザー数が1/10以下になってしまってビジネスとして成立しないのではないかという声が強かったわけですね。「10万人という数字は到底無理だ」という風に見られていたわけです。が、実際にスタートしてみると、12月で11万人、1月末時点で13万人のユーザーを集めています。我々としても確実な手応えを感じています。
この3カ月間で勉強になったことはたくさんあります。ひとつはオンラインゲームにおけるユーザー側のマナーに対する考え方が十分ではないという点、そして思ったよりもファシリティコストが掛かるということですね。特に後者については、仮に今後もユーザー数が増え続け、20万、30万ということになったら、運営者側としてどのようにして運営を進めていくべきなのか、そういう点での危機感は絶えず持つようになりました。
編 マナーですか。先週、私は台湾に行って同地でラグナロクのサービスを行なってるSoftworldの担当者とお話しする機会があったのですが、雑談時に台湾ユーザーは、βテスト前に日本サーバーでプレイしていたユーザーが多いため、同社で運営している他のMMORPGよりもマナーのいいユーザーが多いと喜んでました。つまり、担当者は、日本のMMORPGユーザーのマナーを評価し、一方で台湾ユーザーはマナーが悪いというわけです。この点についてどのようにお考えですか?
森下 台湾は、大ブームになったゲームがオンラインゲームだったという事情がありますから、いわゆるネチケット(ネット世界でのエチケット)をまったく意識せずにゲームに参加しているユーザーが多いのではないかと思います。もともとそうしたガイドラインが存在しないですから。その証拠にトラブルの元凶は台湾から流れてくることが多いです(笑)
編 なるほど。マナーに関しては、日本でも他のメーカーさんも重要視する発言をしています。森下さんは、今後ラグナロクのマナー問題に関して、具体的にどういう風にしていきたいと考えていますか?
森下 これは現段階では詳しいことはお話できませんが、日本でオンラインゲームを展開しているメーカー数社さんと月に1度、意見交換を行なっています。そこで各社が抱える問題点を披瀝検討しています。これは「ラグナロク」だけの問題ではなくて、オンラインゲーム全体の問題として捉え、共通したガイドラインを作ろうと考えています。
そこではまずオンラインゲームとは何か、そして仕組みを理解した上で、何をやってはいけないかということが明快にわかるようにしたいと考えています。現状では各社ともバラバラで、同じような項目でも実質的な裁定が違っていたりします。これではユーザーさんはマナーを理解しようがありません。
編 確かにそのとおりですね。そのガイドラインはいつぐらいに策定されるのですか?
森下 早ければ春までに公表したいと考えています。我々としてはマナー問題をかなり切迫したものと捉えており、また我々だけでどうなる問題でもありませんから、じっくり時間をかけて業界全体でこの問題に取り組んでいきたいと考えています。
たとえば、マナー問題によって被害を被るのは我々運営者側だけでなく、まわりのユーザーさんにも迷惑がかかるわけです。13万人というような規模にもなってくると、まさにバーチャルな世界が存在しているといえるわけですが、しかし、ルールもマナーも十分ではない状態です。
編 これも台湾で聞いた話ですが、ゲームサーバー上で人をチャットでだましてアイテムを奪ったりすると、現実世界で刑事罰に課せられるということでした。こうした法整備は日本にはない要素ですよね。
森下 そうですね。警視庁とも相談していますが、法整備が足らないので手の出しようがなく、ハイテク部門のスタッフもそうしたオンラインゲーム上のトラブルを正確に把握できる人材が育っていません。現状はまだ「オンラインゲーム? 何それ?」という状況です。将来的には日本でも台湾と同等の罰を科せられるような仕組みになっていくとは思っています。
編 なるほど、重大な提言ですね。それは森下さんもそうすべきだと考えているわけですか?
森下 いや、ガンホーとしてはあくまでユーザーさんのモラルを信頼していくことを第一に考えています。ただ、何事もそうですが、大きなムーブメントになるまえに、根底のルール造りをしっかりしていかないと、トラブルが起こったときに対応しきれません。そのためのガイドライン作成です。
編 11月のプレスカンファレンスで目標設定を20万人としました。この設定に変わりはありませんか?
森下 年度内に20万人が目標というのは変わっていません。ただ、これはあくまで目標であって、いま我々が取り組むべきなのは、新規ユーザーの獲得ではなく、既存ユーザーに対する顧客満足度を上げることだと考えています。高い満足度のユーザーは、友人たちにも勧めてくれますから、まずこれを第一に考えています。
■ トールとオーディンサーバーはいつ追加される?
編 なるほど。ところで、11月に有料化に際してサーバー10台化を発表しましたが、現時点でもサクライサーバーを含めて8台に止まっていますね?
森下 まずひとつはサーバーの台数が多いため、必然的にサーバー障害が多いことが原因です。ハードウェアトラブルが多く、本来、新サーバーに当てるはずだったストック在庫を既存サーバーに回しているような状態です。ただ、新しい2つのサーバーに関しては、導入スケジュールは決まっています。今春を予定しています。
もうひとつは、新サーバーのトールとオーディンには、サーバー負荷を軽減するためケイオスをはじめ人口の多いサーバーからユーザーに移住してもらう必要があるのですが、このために必要な移住ツールの開発に時間が掛かってしまったことです。
当初の予定ではサーバーデータをまるごとコピーして好きなサーバーを選択してもらうということを検討していましたが、これをやってしまうと激しいインフレが起きてしまうんですね。これは韓国では実際に起きてしまっているトラブルです。たとえば50%のユーザーに移住してもらうとして、それらのユーザーがサーバーを去るにあたって行なう行動が、サーバーの貨幣価値に絶大な影響を及ぼしてしまうんです。このため、我々も新サーバーの導入には慎重にならざるを得なかったわけです。
編 2月26日に「Episode 2」をはじめとしたアップデート構想が発表されました。しかし最初の構想では、これらは有料化直後の12月に実装される予定になっていました。このすべてが順延された理由というのは何でしょうか?
森下 ひとつには開発の遅れと日本側へのデータ提供の遅れがあります。しかし、最大の理由は、Gravityから提出されたそれらのシステムがPoorだったため、日本側で問題点を厳しく指摘して再開発してもらったという事情がもっとも大きいといえます。
たとえば、韓国や台湾ではすでに実装されているペットシステムは、日本ではようやく3月に実装されますが、これは我々が仕様変更を要求した結果です。
編 とすると、同じペットシステムでも、日本語版のそれは他国とは内容が異なると?
森下 いや、見た目は同じですが、プログラム上のバグやバランスなどをきっちりとした内容になっているということです。クオリティとしてはもっとも高いです。
編 それでは順延した理由を一言で言うと「クオリティが低かった」からと?
森下 そうですね。特にGravityは勢いで実装してしまうところがありますから、注意しなければならないと思っています。我々としては確かに楽しいことをいっぱい入れることには賛成ですが、そのためにゲームが不安定になってしまうようでは話にならないわけです。
ただ、Gravityを擁護しておきますと、有料サービスが開始されてから、Gravity側の我々に対するサポート体制はかなり改善されました。いまでは韓国、台湾、日本のスタッフが集まって会議を行なうシステムも確立しました。各国の運営状況、問題点を確認しつつ、どう動いていくべきなのかを話し合う会議です。
編 話は変わりますが、有料化が始まってから、ギルドやパーティーシステムがうまく機能していないという声があがっています。一方で、根本的な解決策が出されていません。こうしたシステムの根幹に関わるトラブルがなぜ発生するのでしょうか?
森下 いろんな要素があります。ひとつはプログラム的なバグです。もうひとつはアップデートによる不安定化。はっきり断言しておきますが、これは日本だけではなく、韓国そして台湾でも同じように発生しているトラブルです。現在Gravity側で調査が進められています。
編 単純に負荷の高いサーバーで起こりやすいようですが?
森下 一番重傷なのがケイオスなのは事実です。ただ、これはサーバーの増設を行なえばいいという問題ではなく、先ほどの移住プランやプログラムの修正なども同時に行なっていく必要があると見ています。
編 なるほど。しかし、お金を払っているユーザーからすればギルドメンバーとチャットができない状況というのは耐えられないと思います。率直にお伺いしますが、完治するのはいつぐらいになるのでしょうか。
森下 具体的な目処はたっていません。先ほどもお話したようにGravityが動いていることですので、我々のほうで勝手にスケジュールを立てることもできません。彼らはそれだけではなく、新しい要素の開発も行なっているので、調査が遅れているということはいえると思います。できるときになったらきちっとした対応は取らせていただきます。決して野放しにしているわけではないということをご理解いただければと思います。
■ なぜチートはなくならないのか?
編 なるほど、これも11月でのお話ですが、有料化がスタートしたらチート行為は撲滅すると、根本的な対策を取ると仰ったと思いますが、3カ月経過した現在でも変わった印象を受けません。このあたりについてはいかがですか?
森下 BOTの使用者に関しては即アカウント取り消し等厳しい処分をしていますが、いたちごっこ的な印象は我々としても否定できません。2アカウントを取得して、1アカウントを処分覚悟でチート行為を行ない、2アカウント目で普通にプレイするということをやられると、現状では撲滅のしようがありません。また、チートツールがいくつでも開発されている現状もあります。
編 「ウルティマオンライン」の初期の頃はそれはひどかったですが、EAが本格的な対処に乗り出してからはそういうユーザーは目に見えて激減しました。なぜ「ラグナロク」ではなくならないんでしょうか?
森下 我々の処罰の観念は、あくまで抑止力です。これをやったらアカウントを取り消されるからやめようという。しかし、その抑止力が効いていないユーザーさんもいるんですね。ここではっきり申し上げておきますが、基本的にはキチンとした対応を取っていますので、数的には減ってきています。
編 βテストを100とすると、現在はどれぐらいなんでしょう?
森下 正直に言って3歩進んで2歩下がるような状態です。これはユーザーさんのモラルの問題もありますが、我々の責任でもあります。現時点では撲滅の努力は続けていきますとしかいいようがありません。
編 私は「ラグナロク」に関して、日本だけでなく、韓国や台湾でお話を聞いてきました。どこでも似たようなトラブルが発生してますが、私が情報を総合して得た率直な感想としては、サーバープログラムとクライアントのコアエンジンに致命的な欠陥があるのではないかと感じてます。つまり、トラブルを一掃させるにはコアエンジンの取り替えしかないと。そうしたプランはまったくないのでしょうか?
森下 基本的にプログラムのバグは、我々の連絡を受けてGravityが修正プログラムを組むという方法で行なわれています。しかし、現状ではこの修正プログラムの開発がスムーズではないため、我々のほうで修正ツールを開発したり、具体的な開発プランを立てたりしています。
中村さんが仰った根本的な修正に関しては、我々としてもGravityさんにお願いしていることではあります。現状では、当初は予期しなかったプログラムをつぎはぎしているわけですから、システム的な不安定さは我々やGravityも十分認識しています。時間がかかっているのは事実ですが、もう少しお待ちいただければと思います。
編 ユーザーに対して何かコメントをお願いします。
森下 私が年頭の挨拶でスタッフに伝えたのは、ユーザーさんに対するおもてなしということと、ユーザーさんから学ぶということを大事にしたいということです。
2月にお披露目が行なわれたGM公開イベント |
森下 いや、あれとは別です。あのGM公開イベントは、GMの服装をユーザーさんに認知させるためのお披露目会です。それまではGMは一般ユーザーと同じ格好をしていたのです。そのため姿を現しても一般ユーザーと間違われてしまいました。GMの服装は、ガンホーがGravityに「つくってくれ」とβテスト開始前からお願いしていたことなのです。これは主にGM詐称を防ぐことが理由です。
編 といってもGMキャラは名前にGMと書いてますし、チャットカラーも異なりますよね
森下 そのとおりですが、しかしそれですべてのユーザーさんが詐称を防げると思うのは間違いです。もっともっとわかりやすくする必要があるんです。このまえの朝、たまたまGMルームを覗いたら、GMが街で囲まれてて「ピースしてくれ」って頼まれてるんですよ。しかも何度も撮り直し(笑) しかし、これでいいと思うんですよ。
編 それがおもてなしですか。
森下 もありますし、誰が見てもGMとわかる。それが重要です。パトロールがパトロールの意味合いを持ってくる。GMといっても日本では新しい職業ですから、しっかりしたマニュアルがあるわけでもないんです。「ラグナロク」のGMは、少なくともユーザーに楽しみも与える存在でもあるという点で、今回のイベントは成功したと考えています。これがガンホー流のおもてなしの精神でしょうか
(C) 2002.GungHo Online Entertainment,Inc. All Rights Reserved.
□ガンホーのホームページ
http://www.gungho.jp/
□「ラグナロクオンライン」のホームページ
http://www.ragnarokonline.jp/
□関連情報
【2月27日】ガンホー、「ラグナロクオンライン」アップデート構想を発表
「Episode 2.0 Under the Illusion」は4月 まずはペットシステムから
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030226/gungho.htm
【2月17日】ガンホー、「1DAYチケット@ネットカフェ」を販売
100円で2日間プレイできるRO公認カフェ専売チケット
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030217/ragna.htm
【12月14日】ユーザーサービス満点のGravityブースレポート
「ラグナロクオンライン」2003年以降の予定を発表
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20021214/gravity.htm
【9月30日】Gravity、「ラグナロクオンライン 1.5」を正式発表
クルセイダー、モンク、ダンサーなど新二次職を公開
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020930/ragfes2.htm
【11月6日】ガンホー、「ラグナロクオンライン Episode1.5 -Attack of the Ancient」を正式発表 “ポリン”が飼えるペットシステムの導入などなど
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20021106/ragna.htm
(2003年3月13日)
[Reported by 中村聖司]
GAME Watchホームページ |
|