★ PCゲームレビュー★
とにかく待たされた。「100万本以上売れないタイトルは発売しない」という凄まじい社是のもと、発売すれば必ず大ヒットを記録し、ユーザーの満足度もすこぶる高い世界でも希有な存在といえるゲームデベロッパーBlizzard Entertainmentの唯一の欠点は、開発中のゲームがいつ発売されるのかさっぱりわからないことだ。喉元過ぎれば熱さを忘れるではないが、発売後はそうした事情もすっかり忘れて同社の5年越しの大作をたっぷり楽しませてもらっている。「Warcraft III: Reign of Chaos」は、リアルタイムストラテジーファンにはもちろんのこと、その入門としても適した珠玉の逸品だ。
■ RTS界に第3の大波到来! 久々の大作RTS「Warcraft III: Reign of Chaos」
しかしRTSだけはそうはなりそうもない。最大のネックはコントローラでは大部隊を指揮しづらいというところで、仮にこの問題を解決しても、広い範囲のフィールドを描画し、整理された情報を見やすく表示するために必要な高い解像度、長時間集中力を維持するのに必要な高いリフレッシュレートといった問題が残る。つまり、アイデアやグラフィック以前にハードウェアが最大の障壁になっている。 個人的には、E3でいくつか見られたストーリー重視のシングルプレイRTSはともかく、マルチプレイを前提としたスポーツタイプのRTSは永遠にPCの独壇場のような気がする。要するに私は、PCでゲームをプレイする環境があるのであれば、RTSはぜひ押さえておくべきゲームジャンルのひとつだということ、転じて「Warcraft III: Reign of Chaos」こそがそのスポーツタイプのRTSの最右翼だということが言いたい。 RTSの素晴らしさは、わずか30分から1時間程度のゲームプレイで、まるで海洋冒険小説やミリタリー小説のラスト直前のような、血湧き肉躍る体験が味わえるところにある。しかもその内容は毎回異なり、飽きるということがない。RTSの魅力を構成する要素には、国家を育成するダイナミズム、軍勢を動かす心地よさ、それを指揮する醍醐味、敵の軍勢を撃ち破る快感などがあるが、そうしたRTSにおける有形無形のゲームテクニックに凄まじい腕前を見せるメーカーがBlizzardだ。 といってもかつてBlizzardがリリースしたRTSはわずか3作に過ぎない。「Warcraft」と「Warcraft II」、そして「Starcraft」の3作だ。「Warcraft」2作はDOSのゲームで、それぞれ'94年、'95年発売と相当古い。「Warcraft II」発売当時は、同社のゲームサーバーBattle.netはまだ存在せず、KaliやDwangoを通じての対戦が一般的だった。これがRTS第一次ブームにあたる。 そして'98年に登場した「Starcraft」。世界で500万本以上を売り上げた化け物RTSで、いまなお「史上最高のRTS」とたたえる人も多く、韓国ではプロリーグも設立されるほどの人気を博した。同じく第2次RTSブームを牽引したライバルの「Age of Empires」や「Total Annihilation」などの存在も大きかったが、「Starcraft」が評価された最大の理由は、繋げばすぐに対戦相手が見つかる専用サーバー「Battle.net」の存在と、シングル、マルチとも濃厚なゲームプレイが楽しめたことによる。 シングルプレイは濃厚なストーリーを3種族すべてに用意し、ドラマチックなシナリオと歯ごたえのある内容とで多くのRTSファンを喜ばせた。マルチプレイに関しては先述のBattle.netの存在と、それぞれ個性的な3種族によるバランスの取れた絶妙なゲーム展開が大いに受けた。また、戦闘機を搭載した大型宇宙空母、クローキング可能な攻撃機、2体を融合して強力なユニットを誕生させるなど、斬新なアイデアをスマートな形で実現していた点も成功した理由のひとつに数えられるだろう。 Blizzardではこの「Starcraft」の世界的大ヒットを受け、同作で得た“受けるRTS”のノウハウをすべてつぎ込み、時代のニーズに合わせてグラフィックにフル3Dを採用し、さらにそれらをBlizzardお気に入りの「オーク対人間」の構図に封じ込めたRTSが「Warcraft III: Reign of Chaos」である。これはもうおもしろくないわけがないのである。
■ 個性的な4種族がリアルタイムで死闘を繰り広げる血湧き肉躍るゲーム世界
というわけで、まずはシングルプレイキャンペーンを紹介しよう。同作のシングルプレイキャンペーンはHuman、Orc、Undead、Night Elfの4種族に1本ずつ用意され、各種族のヒーローを軸に濃厚なストーリーが描かれる。各キャンペーンは、8本程度のシナリオからなり、1つのシナリオはだいたい30分から1時間かかる。 また、シナリオをクリアするたびにシネマティクス(プログラマブルムービーを使ったストーリーシーン)を挟みつつ物語が進んでいくため、1種族を通しでクリアするためには、うまい人でも5時間、RTS初心者なら8~10時間程度は必要になる。これはちょうど「Diablo II」のACTひとつをクリアするぐらいのボリュームに匹敵する。 なお、本作も「Starcraft」同様、最初から好きな種族でプレイすることはできず、Human、Undead、Orc、Night Elfと順番にクリアしていかなければならない。これは各種族のキャンペーンがストーリー上で有機的に結びついているためで、4つのキャンペーンでひとつの大きなグランドキャンペーンになっている。 詳述は避けるが、Humanまではオーソドックスなストーリーが展開するものの、その終盤からいきなり話が予期せぬ方向に急転し、いわゆるBlizzardテイスト全開になっていく。ある人はエグイと評価するかもしれないし、まったく先の見えない展開に興奮を覚える人もいるだろう。いずれにしても同作のシングルプレイキャンペーンは従来のRTSとは次元の異なる完成度の高さを見せている。 Undeadキャンペーンのラストで物語はひとつの節目を迎え、Orc、Night Elfsと続いていくわけだが、それぞれ実に楽しませてくれる。難易度的にもシナリオを経るごとに段々難しくなっており、その内容も敵勢力を撃破するだけでなく、凄まじい防衛ミッションや謎解きを含む物までさまざまで、飽きさせない。
強いて難を言えば、クエスト達成の途中で派生的に発生するオプショナルクエストがいまひとつ単調な仕上がりということぐらいで、このキャンペーンは確かに同社のいうように「Diablo」のように何度もプレイしてしまうこと請け合いだ。ちなみにゲーム難易度はノーマルとハードの2段階が用意され、一度失敗したシナリオについては難易度を下げて再度挑戦することができる。時間さえかければ誰でもクリアすることが可能になっている。
このシングルプレイキャンペーンのおもしろさの秘密は、シナリオ自体はRTSながら、全体としてはRPG風の仕上がりになっていることが上げられる。キャンペーンの主人公となるヒーローはレベル1から始まり、幾多の戦いを経てレベルを上げ、数々のアイテムを獲得し、徐々に強さを増していく。それに合わせ、使用可能なユニットも増え、ヒーローの有効な戦い方やユニットの使用方法が自然と身に付いていく。こうして身に付いた知識と経験を生かすバトルフィールドが対戦サーバーBattle.netだ。
■ シングルプレイを堪能したらBattle.netに突入しよう!
同社のごり押しする一極集中型のマルチプレイシステムにはそうしたデメリットがあるのも事実だが、いつでも対戦相手が見つけられる利便性と、あからさまなチーターを赤バン(アカウント剥奪)してくれる強制力の魅力にはかなわないと個人的には思っている。また、「Warcraft III: Reign of Chaos」では、サーバー側は基本的にデータを持たず、対戦ごとに蓄積されるラダー情報のみをカウントするだけなので、仮にひとつのサーバーがダウンしても、ほかの3つのサーバーを利用して対戦が楽しめるという利点がある。 ちなみに同作のサーバーは北米に2つとヨーロッパと韓国にひとつずつ用意され、デフォルトでは韓国の「Kalimdor」サーバーに接続されるが、ゲートウェイはユーザー側で自由に変更できる。ラダーについても「Diablo II」同様、Battle.netで対戦するたびに自動的にカウントされ、Battle.net上で自分のランキングを確認することができる。 各サーバーのランキングを見ると、上位入賞者は発売からわずか1週間で150試合以上をこなしており、これから上位を目指すのはちょっと大変だが、Battle.netの公式サイトでいつでも自分のランクが確認できるのは嬉しいことだ。同作のラダーシステムのユニークなところは、単純な勝ち負け数ではなく、対戦の内容により蓄積される経験値によってランキングされているところで、一定の数値を得るたびにレベルがあがり、そのレベルがユーザー名の隣に表示される。これにより、ひとめでユーザーのだいたいの力量を推し量ることができるわけだ。 対戦方法は、以前お伝えしたように「Anonymous Matchmaking」システムにより、ユーザーとの事前交渉なしに、ワンクリックで対戦を開始することができる。事前に設定しておくべき事項は、種族、対戦人数、マップの3つ。しかも、対戦相手は前述のユーザーレベルの近い相手に限定されるため、おおむねバランスの取れた対戦が楽しめる。事前に対戦相手やパートナーがわからないのは不安ではあるが、慣れればこの素早いマッチメイクシステムに感心してしまうはずだ。 さてさて、肝心のマルチプレイは、「おもしろい」の一言。最初にヒーローと数名で周囲のNPCを倒し、レベル上げとアイテム収集を行ないつつ、同時に軍備を整えていくという独特のプレイスタイルに慣れさえすれば、すぐのめりこめるようになる。なんといってもヒーローの存在が大きく、ヒーローを軸にしたバリエーション豊富な戦闘が実に楽しい。 また、同作のマルチプレイの最大の特徴である「Upkeep」システムもユニーク。「Warcraft III」では戦力をカウントする指数に人数ではなくFOODを採用しており、大型のユニットほど消費FOODが多くなる。つまり同じFOOD数でも、人によってユニット数がバラバラになる。で、このFOOD数が40を越えると「No Upkeep」から「Low Upkeep」に変わり、それまで100%だった採掘量が70%に減ってしまうのだ。 これにより、プレーヤー間の操作効率の違いから戦力に圧倒的な差が付いてしまうことを防止する一方、そうしたシステム的な歯止めを設けることで、仮に長期戦になっても膨大なユニット数でごり押しするあまりスマートではない戦闘スタイルになることを防いでいる。あまりにトリッキーなシステムなので、慣れるまで若干時間が掛かるが、遊べば遊ぶほど良さがわかってくるよく作り込まれたシステムだ。
最後に指摘しておきたいのは、このゲームの対戦プレイは勝つだけが目的ではなく、その課程に幾万のおもしろさが詰め込まれていることだ。勝っても負けてもある程度の満足感が得られるRTSは多くない。ちなみにRTS初心者は、まんべんなく戦えるもっともオーソドックスな種族Humanから初めて、他人のプレイをよく観察した上で、もしくはキャンペーンをしっかりこなした上で、他の種族を使い始めることをお勧めしておきたい。
(c)2002 Blizzard Entertainment. All rights reserved.
□カプコンのホームページ http://www.capcom.co.jp/ □「Warcraft III: Reign of Chaos」公式ホームページ http://www.capcom.co.jp/wc3/ □関連情報 【2002年2月27日】Electronic Entertainment Expo 2002現地レポート Blizzard Entertainmentビル・ローパー特別インタビュー 「『Warcraft III』のRPG要素を存分に楽しんでほしい」 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020613/bill.htm 【2002年2月27日】Electronic Entertainment Expo 2002現地レポート ついに完成! ユニークなRPG風シングルプレイキャンペーンが魅力「Warcraft III:Reign of Chaos」 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020527/e3bli.htm 【2002年2月27日】西尾ゆきの海外ゲームレポート 「Warcraft III: Reign of Chaos」マルチプレイβテスト http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020227/yuki16.htm 【2002年2月18日】Blizzard、アジア方面でもいよいよβテストスタート! 「Warcraft III: Reign of Chaos」Beta Testレポート http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020218/warcraft.htm 【2001年9月7日】練り尽くされたゲームデザインで独自のファンタジー世界を創造する 3Dリアルタイムストラテジー「Warcraft III:Reign of Chaos」 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011014/warcraft.htm 【2001年9月5日】ECTSレポート 「WarCraft III:Reign of Chaos」 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010905/ects06.htm (2002年7月12日)
[Reported by 中村聖司] |
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