Blizzard Entertainmentビル・ローパー特別インタビュー
「『Warcraft III』のRPG要素を存分に楽しんでほしい」



 Blizzard Entertainmentを一躍世界的なゲームメーカーにのし上げ、リアルタイムストラテジーという新興ジャンルの普及に大きく寄与した「Warcraft」シリーズ。現在は、専用サーバー「Battle.net」をひっさげ、ともに輝かしいデビューを遂げた「Diablo」、「Starcraft」の2大ブランドに押されてすっかり印象が薄くなってしまったが、それも今月中には終わりを迎えそうだ。「私は(Warcraftの)オークが大好きだ」という同シリーズ育ての親にして、Blizzard Entertainment開発チームの総責任者でもあるビル・ローパー副社長に、ついに完成した「Warcraft III: Reign of Chaos」について話をお伺いした。


■ タウンセンターを空に浮かべ火を噴かせることを可能にする「World Editor」とは?

「Warcraft III」はゲーム内からシームレスに繋がる専用サーバー「Battle.net」が最大の強み。画面は新機能「Anonymous Matchmaking」を使って対戦者を捜しているところ。ビホルダーの目がぎろぎろ睨む
編集部中村 それではまず最初に「Warcraft III: Reign of Chaos」の現在の開発状況を教えてください

ビル・ローパー 「最後の数時間」というレベルになっている。そのため実はこのタイミングでオフィスを離れるのは大変辛かった。日本に行けるのは大変嬉しいことだが、こういった状況なので、朝と夜はオフィスと連絡を取り合っている

中村 ということは現在βテストを行なっているマルチプレイは完成したわけでしょうか?

ローパー そのとおり。製品版に実装されるマルチプレイモードは完成した

中村 なるほど。まだ継続中ではありますが、Battle.netで行なわれたβテストの結果を教えてください

ローパー 最終的に約5,000人強のβテスターが参加した。北米を中心に、ヨーロッパ、韓国、日本などから参加してもらった。大規模なアップデートを5回。最後のパッチ配布後に、また新たな修正箇所が出てきてしまったが、これはβテストでは配布しないことにした。だから、製品版はβテスト版よりまたさらに新しい内容になっているよ

中村 βテスト期間中に何か大きなトラブルはありましたか?

ローパー 大きなトラブルは特になかった。一時期ユニットを増やしたり減らしたりしてプレーヤーがとまどったぐらい。βテストユーザーからは今回も多くの有意義な意見を得ることができた

中村 βテストはいつまで続けられるのでしょうか?

ローパー βテストの終了時期は現時点ではまだ決めていないが、もしかしたら発売前日まで続けるかもしれない

中村 エディットツール「World Editor」について詳しく教えてください

ローパー 何でも出来る非常に自由度の高いエディターだ。単にマップを造るだけでなく、ユニットの名前、サイズ、カラーを変更したり、ミッションを作ったり、シネマティックス(プログラム操作するイベントシーン)を作成したりとかね。可能性として極端な話をすると、タウンセンター(Humanの拠点)を空を飛べるようにして、木を集めさせて、炎を吹けるように改良することもできる

中村 おお! それは本当に自由度が高いですね

ローパー ゲーム内に登録されている数多くのマップの中には「Diablo II」のようなRPGテイストに仕上げたものもたくさんある。World Editorは感覚的には「Warcraft III」のゲームエンジンを使ってオリジナルをRPGを作れるような機能にしたつもりだ

中村 ヒーローもエディットできるわけですか?

ローパー そのとおり。既存のヒーローを造り替えることもできるし、まったく新しいヒーローを作成することもできる。新しいヒーローを作成する場合は、あらかじめ用意されているモデルデータを変形させて、基本性能を設定して、アビリティを付けたりできる。容姿については、さすがに1からモデルデータを作れるようにはしていないが、色や大きさを変えたり、透明にしたりするだけでも十分オリジナリティのあるヒーローを作成できるはずだよ

中村 「World Editor」で作成したマップなりデータなりを使用してBattle.netで対戦することもできるんですか?

ローパー Battle.netを通じて遊ぶこともできる。相手がマップを持っていない場合は、自動的に転送されるようになっている。これまでのように各ユーザーがあらかじめマップデータをダウンロードする必要はない。βテストに参加していればわかったはずだが、Battle.netはずいぶん強化され、かなり便利になっているよ

【World Editor】
簡単操作で誰でも簡単にシナリオを作成できる「World Editor」。外部プログラムだが、完全日本語版ではキチンと日本語化した状態で本体に同梱される

■ リアルタイムストラテジー「Warcraft III」とMMORPG「World of Warcraft」の関連性について

発売時期は2004年とも2005年とも言われるMMORPG「World of Warcraft」。カプコンは同作の獲得にも意欲的。正式発表が待ち遠しい限りだ。戦っている種族はTauren(トーレン)だ
中村 「Warcraft III」と「World of Warcraft」はストーリー上の繋がりがあるということですが、それはどのような形で結びついていくわけでしょうか?

ローパー 「Warcraft III」では、“Warcraft Universe”に新しくナイトエルフとアンデッドという新しい種族を追加し、ユニット、エリアなども大きく広がった。これらの要素はすべて「World of Warcraft」に盛り込まれる。「World of Warcraft」は「Warcraft III」の延長線上にある“Warcraft Universe”だ

中村 なるほど。「Warcraft III」の特徴のひとつにヒーローが上げられますが、これはどういう扱いになるのでしょうか

ローパー 残念ながらプレーヤーが「Warcraft III」のヒーローになることはないが、彼らとは「World of Warcraft」世界のどこかで会うことができるだろう。たとえば、オークのヒーローのひとりTauren Chieftainと一般ユニットTauren(トーレン)は、「World of Warcraft」では種族のひとつとして登場する。プレーヤーがトーレンでプレイすれば、その頭目であるTauren Chieftainにはすぐに会うことができるだろう。また、シングルプレイキャンペーンで登場するボスクラスのキャラクターたちも数多く登場させるつもりだ

中村 「Warcraft III」で新しく追加された要素、たとえば新種族アンデッドなどは、「World of Warcraft」でプレーヤーキャラクタとしても選択できないようですし、直接的な関連性が薄いように感じられますが、これらはどういった形で姿を見せてくれるのでしょうか?

ローパー アンデッドに関しては、新しいエリアでNPCが率いる中立種族のひとつとして登場するかもしれないし、登場しないかもしれない。いずれにしても「World of Warcraft」は、MMORPGだから発売してそれで終わりということはない。どんどん内容は新しくなっていくし、たとえばある日突然、アンデッドの軍隊が出現して人間の街を荒らすかもしれない。そういったストーリー展開を導入することも考えているよ

中村 「World of Warcraft」の発売はまだまだ先ということですが、ゲームを楽しむために「Warcraft III」をプレイしておいたほうが良さそうですね

ローパー もちろん「Warcraft III」をプレイしなければ、「World of Warcraft」を遊べないというわけではない。ただ、「World of Warcraft」」は、「Warcraft III」に限らずこれまでの「Warcraft」シリーズが培ってきた“Warcraft Universe”をすべて盛り込んだ作品なので、プレイしていればシームレスにその世界観にとけ込めるだろう。その意味では「Warcraft III」をプレイすることは大いに推奨しておきたいね

【World of Warcraft】
E3では新たな種族「Dwarf」が発表。現在、Humans、Taurens、Orcs、Dwarfの4種族。ゲームの詳しい内容はE3レポートを参照いただきたい

■ 「Warcraft III: Reign of Chaos」の魅力にぐいぐい迫る

Humanキャンペーンのチャプター1「The Defence Strahnbrad」。4種族ともチャプター1はチュートリアル的内容になっているようだ
ビル・ローパーお気に入りのヒーローThrall。キャンペーンのみに登場し、ヒーロータイプはレンジ系のFarseer。オリジナルの黒オオカミに跨り、ロッドではなく特大のハンマーを携えている
中村 ローパーさんが「Warcraft III」で一番気に入っている要素はなんですか?

ローパー RPGの要素だ。プレイを重ねるごとにキャラクタ、特にヒーローに対する思い入れが強くなってくるんだ。中にはシングルプレーヤーキャンペーンで数回しか登場しないようなヒーローもいるが、その特殊能力に惚れ込んでしまったり、バックグラウンドが気になったり、とにかくRPG要素が一番気に入っているよ

中村 一番好きなヒーローユニットは何ですか?

ローパー オークの指導者であるスロール。パッケージにもなっている同種族を代表するキャラクタだ。この名前の由来は「奴隷」(Thrall)から来ていて、オリジナルの設定では彼はかつて人間の奴隷で、戦って自由を得た。自分がかつてどういう身分だったのかを忘れないために名前として刻みつけたんだ。このストーリー設定が気に入っている

中村 シングルプレイキャンペーンは全体でどれぐらいのボリュームになっているのでしょうか

ローパー 各種族ごとにだいたい8本ずつ、合計32本のシナリオが収録されている。プレイ時間は難易度調整にもよるが、ノーマル設定の場合でだいたい30時間から40時間。ちなみにハード設定は社内でもまだ誰もクリアしていないぐらい難しくしてあるよ(笑)

中村 「Diablo」では1周目、2周目、3周目と何度も楽しめる設定になっていますが、「Warcraft III」のシングルプレイキャンペーンも同じような遊び方ができると考えていいのでしょうか?

ローパー そのとおり。ノーマルで一度クリアすると、次はハードに挑戦したくなるだろう

中村 ゲームの難易度が変わると具体的に何が変わるのでしょうか?

ローパー マップによって異なる。NPCの数、強さ、AI。ショップで購入できるアイテムの種類などを細かく設定してある。遊びがいがあると思うよ

中村 昨年、World PC Expoでお会いしたとき、アドオンの話が出てきました。そのときは「エルフなどをアドオンで追加するかもしれない」というお話でしたが、現在はどのような予定になっているのでしょうか?

ローパー 覚えていないな、そんなこと言ったかなぁ(笑) 現状だとアドオンをどうするかという具体的なプランはまだない。まず発売して、ユーザーがどういうアドオンを望んでいるのか、意見をたっぷり聞いてから開発に望みたいと考えている

中村 E3前にBlizzardがゲームムービーのフォーマットに「DivX」を採用したと発表がありましたが、この理由を教えてください

ローパー いい質問だ。ファイル圧縮後のクオリティの高さ、ファイルサイズの小ささなどがおもな理由だ。「Warcraft III」にDivXを採用したことにより、我々が作成したハイクオリティなムービーをCD1枚におさめることができた

中村 今回、プリレンダームービーはどのぐらい入っているのでしょうか?

ローパー 6本のムービーが入っている。全部合わせてだいたい20分ぐらいだ

【プリレンダームービー】
相変わらずクオリティの高いプリレンダームービー。「Warcraft III: Reign of Chaos」ではDivXを採用したことに、さらにノイズの少ないクリアな映像を実現できたという

■ 「Warcraft III: Reign of Chaos」は韓国でも大人気! 最強のライバル「Age of Mythology」はどう見ている?

これはおまけ。オークの総帥スロールとじゃれ合うビル・ローパーをパチリ。この茶目っ気が人気の秘密だ
中村 韓国ではいまだに「Starcraft」の人気が高いですけど、現在βテスト中の「Warcraft」の反応についてはいかがですか?

ローパー 最初の反応は「どうして『Starcraft 2』じゃないんだ!!」だったよ(笑) 「Starcraft」と「Warcraft III」はかなりゲームシステムの異なる作品だが、実際にβテストが始まってみると、韓国のβテスターは好意的な反応を示してくれた。今となっては大きな興味を示してくれている。彼らは完全に「Starcraft」の代わりになる作品とは認識していないようで、どっちも自社タイトルなので妙な話だが「Warcraft III」は、「Starcraft」の最強のライバルになると考えているようだ(笑)

中村 Blizzardは新作の発表をE3ではなく、ECTSで行なうことを通例にしていますが、今年のECTSでは「Starcraft 2」は発表されますか?

ローパー それはない(笑) 現在進行中の企画は山ほどあるが、まだ発表できないレベルのタイトルがほとんどだ。現時点では確約できないが、いずれも今年のECTSには間に合わないだろう

中村 E3のRTSジャンルで「Warcraft III」と並んで大人気だったMicrosoftの「Age of Mythology」はどう評価されていますか?

ローパー 素晴らしい作品だと思う。ただ、どちらが素晴らしいかということは考えてないし、そもそも「Warcraft III」と「Age of Mythology」は別のゲームだと捉えている。同じジャンルのゲームではあるが、「Warcraft III」はRPG要素が強く、ユーザーが味わうゲーム体験は違ったものになるだろう。「Age of Mythology」はリアルタイムストラテジーのひとつとして、このジャンルに多くのユーザーを引き込んでくれることを期待している。我々も、また新しい形のRTSを開発していくつもりだ

中村 最後に日本のRTSファンに一言お願いします

ローパー 日本市場に「Warcraft III」を紹介することができて大変光栄に思っている。「Warcraft III」はRPGの要素を数多く取り入れており、日本のゲーマーに好まれる内容に仕上がっていると思う。数多くのユーザーがプレイしてくれることを期待しています

中村 ありがとうございました

(C) 2002 Blizzard Entertainment. All rights reserved. Reign of Chaos is a trademark and Warcraft, Battle.net and Blizzard Entertainment are trademarks or registered trademarks of Blizzard Entertainment in the U.S. and/or other countries. All other trademarks are the property of their respective owners.

□カプコンのホームページ
http://www.capcom.co.jp/
□「Warcraft III: Reign of Chaos」の公式ページ
http://www.capcom.co.jp/wc3/
□関連情報
【2002年2月27日】Electronic Entertainment Expo 2002現地レポート
ついに完成! ユニークなRPG風シングルプレイキャンペーンが魅力「Warcraft III:Reign of Chaos」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020527/e3bli.htm
【2002年2月27日】西尾ゆきの海外ゲームレポート
「Warcraft III: Reign of Chaos」マルチプレイβテスト
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020227/yuki16.htm
【2002年2月18日】Blizzard、アジア方面でもいよいよβテストスタート!
「Warcraft III: Reign of Chaos」Beta Testレポート
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020218/warcraft.htm
【2001年9月7日】練り尽くされたゲームデザインで独自のファンタジー世界を創造する 3Dリアルタイムストラテジー「Warcraft III:Reign of Chaos」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011014/warcraft.htm
【2001年9月5日】ECTSレポート 「WarCraft III:Reign of Chaos」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010905/ects06.htm

(2002年6月13日)

[Reported by 中村聖司]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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