Game Developers Conferenceレポート

SCEA副社長吉田修平氏、これからのゲーム開発や
グローバルマーケットへの対応について講演

会期:3月19日~3月23日 (現地時間)

開催地:San Jose McEnery Convention Centerなど

 日本版クラッシュバンディクーシリーズやグランツーリスモのプロデューサーである吉田修平氏。現在はSony Computer Entertainment Americaの製品開発担当副社長として活躍しているが、今回のGDCでは、最新世代のゲーム機向けゲームを開発する場合には革新性が重要であるという点や、日本でのクラッシュバンディクーシリーズのプロデュースを例に、グローバルマーケットで成功するプロダクションの方法論などについて講演を行なった。


■ 革新的なゲームを開発することがゲーム市場を拡大する

革新的なゲームが多数登場した32bit/64bitゲーム機は市場の拡大規模が大きい
 吉田氏は、現在までに開発されたプレイステーション2向けのゲームは、その多くが過去のゲームの続編だったり、過去のゲームを焼き直したものがほとんどで、そのことがゲーム市場の拡大を阻害している可能性があると指摘した。

 '80年代後半から'90年代中盤頃を顧みると、16bitマシン向けのゲームは、グラフィック面の進化はあったものの、そのほとんどが8bitゲームの続編や焼き直しものが大半を占めていた。ストリートファイター2のように、格闘ゲームという新たなジャンルを切り開いたタイトルもあったが、それ以外のほとんどのゲームは、基本的に8bit時代のゲームアイデアがほぼそのまま継承されているだけだった。

 それに対し、プレイステーションやセガサターン、ニンテンドー64などの32bit/64bitマシンでは、革新的なゲームが多数登場してきた。例えば、「パラッパラッパー」や「ビートマニア」のような音楽ゲーム、「アクアノートの休日」や「太陽のしっぽ」のような経験ゲーム、シムシリーズのような箱庭ゲームなどがその代表的なものだ。また、続編ものである「スーパーマリオ64」では、操作体系の一新によって、単なる続編ものではないという特徴を持っていた。

 そして、それぞれの時代で、ゲームマシンの販売実績を検証してみると、ゲーム機が8bitマシンから16bitマシンに切り替わった時には、ゲーム機の販売台数は2,100万台の増加だったものが、32bit/64bitゲーム機に切り替わった時には5,300万台の増加となっている。つまり、革新的なゲームの登場が、ゲーム市場を大きく拡大することになるわけだ。

 現在、ゲーム機は128bit時代となっているが、発売されるゲームは過去の続編や焼き直しものがほとんどで、まるでゲーム機が8bitから16bitに変化した時代を見ているようだ。このままでは、多くのゲーマーが「昔と変わっていない」という理由でゲームから離れていく可能性がある。

 吉田氏は、この状況を打開するには、ゲームの規模ではなくゲームの革新に注力する、回転資金を最小限にとどめる、最低限のゲームの製品価値(ネームバリューのようなもの)も不可欠だ、といった点に注意しつつ、革新的なゲームを送り出すことに尽きると語った。開発者は、プレーヤーに「こんなゲームは初めてだ」、「このゲームを遊ぶためにこのゲーム機を買った」といった言葉こそ、ゲーム開発者に対する最大の賛辞であり、そういった言葉を言わせるようなゲームを開発するように努力すべきである。この吉田氏の言葉は、会場のゲーム開発者の心に強く響き渡ったはずだ。

32bit/64bitゲーム機では、様々な革新的ゲームが登場してきたが、現在の主流である128bitマシンでは、機能面は向上したが8bitから16bitに移行した時期同様続編ゲームなどがほとんど

吉田氏は、ゲーム市場が伸びるためには、「こんなゲームは初めて」と言われるような、革新的なゲームを開発するように努力することが不可欠だ、と語った


■ 現在のゲームはグローバルマーケットを視野に入れて開発すべき

革新的なゲームが多数登場した32bit/64bitゲーム機は市場の拡大規模が大きい
 現在のゲーム開発には非常にコストがかかるようになってリスクが増大しており、グローバルマーケットを視野に入れたゲーム開発が不可欠になってきている。グローバルマーケットを視野に入れて開発されたゲームは、1つの地域のみをターゲットに開発されたゲームよりもより多くの利益を生み出すからだ。そこで、グローバルマーケットを視野に入れたゲーム開発に関して、吉田氏が日本でのプロダクションを担当した「クラッシュバンディクー」シリーズを例に解説された。

 クラッシュバンディクーは、アメリカのNaughty Dogによって開発されたゲームで、吉田氏のチームによって日本向けのローカライズが行なわれた。しかし、日本ではアメリカのゲームが成功する例は少ない。つまり、アメリカ版のクラッシュバンディクーをそのまま日本語化するだけではまず成功の見込みは少ない。事実、日本のメジャーなゲーム誌の編集長が「このキャラクターは日本では絶対に成功しないだろう」とコメントしたほどだった。そこで吉田氏は、クラッシュバンディクーを日本向けにローカライズする時に、日本市場にあわせたゲームシステムの変更を行なった。

 まず、ゲームの難易度を下げ、ゲーム中にヒントが表示されるようにした。また、各面クリア時にゲームの達成度を表示させるようにしてプレーヤーのやる気を奮い立たせるようにしたり、クラッシュの音声もいくつかのバージョンが追加された。

 さらに、マーケティング戦略として、「クラッシュバンディクー」というゲームタイトルを連呼するオリジナルソング(タイトル連呼型CMソングを利用するのは日本でおなじみのCMスタイルだ)を作ってCMで流したり、腰を振るコミカルなダンスをCM中に盛り込んで注目を集めた。また、コロコロコミックに漫画として登場させたり、10万本のデモディスクを配るなどすることで、多くのユーザーにゲームを認知させることに成功。

 こういったローカライズ戦略やマーケティング戦略によって、クラッシュバンディクーは当初の予想を大きく上回る90万本という売り上げを日本で記録した。以後のシリーズでは、1で好評だったCMソングやダンスをゲームに取り込んだり、キャラクターデザインを変えるといった、日本市場向けのオリジナル要素を盛り込んだローカライズを施すことで、同様の成果を上げていった。

 この例からもわかるように、グローバルマーケットで成功する秘訣としては、グローバル市場向けの開発チームに任せることが最も重要なことである。たとえば日本市場向けの場合には、日本側の意見が反映されなければ、まず成功はあり得ない。そのプロジェクトの初期段階から市場を調査し、その市場にあったキャラクターデザインやゲームシステムを見極める。また、ゲーム開発期間や各種イベントにあわせたマーケティングなど、最終的な発売日までのスケジュール管理をしっかりと行なうことなどが重要なポイントとなる。

 さらに、市場からのフィードバックを開発チームに伝えて続編に備えることも非常に大切なこと。こういった点が、グローバル市場を見据えたゲーム開発で成功するポイントであり、それによって相応の利益が獲得できるだろう、と吉田氏は締めくくった。

ゲームの規模が大きくなり、ゲーム開発時のリスクが増大している。そのため、グローバル対応が不可欠になっている クラッシュバンディクーでは、日本市場向けにゲーム難易度などのローカライズを行ない、様々なマーケティングを実施した

様々なローカライズやマーケティング戦略の結果、クラッシュバンディクーシリーズは日本市場で大きな成功を収めた グローバル市場で成功するポイント。プロジェクトの初期段階から市場調査を行ない、それぞれの市場に合った開発を行なうことが重要だ

□GDCのホームページ
http://www.gdconf.com/

□関連情報
【3月20日】ゲーム開発者向けのカンファレンス「Game Developers Conference」開幕
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020320/gdc01.htm
【3月22日】「パラッパラッパー」の松浦雅也氏や「Rez」の水口哲也氏がGDCカンファレンスで講演
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020322/gdc04.htm
【3月23日】「グランツーリスモ」シリーズのプロデューサー山内一典氏
ゲームデザインの方法論について講演
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020323/gdc06.htm
【3月23日】ソニックチーム中 裕司氏、「Rez」、「ICO」が各賞受賞
世界の開発者達が選ぶ今年のベストゲーム「Game Developers Choice Awards」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020323/gdc07.htm
【3月25日】アミューズメントヴィジョン、名越稔洋氏
「スーパーモンキーボール」を例にレベルデザインの方法論を講演
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020325/gdc08.htm

(2002年3月27日)

[Reported by 平澤寿康]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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