Game Developers Conferenceレポートアミューズメントヴィジョン、名越稔洋氏 |
開催地:San Jose McEnery Convention Centerなど
東京造形大学造形学部デザイン学科卒業後、セガにデザイナーとして採用され、現在のセガAM2の前身となる部署(第2AM研究開発部)に配属された名越稔洋氏。当初ゲーム開発に関する知識がほとんどなく、背景のデザインを中心に担当していたが、数多くのプロジェクトに携わり、パイオニア的存在のゲームを開発する人と一緒に仕事をすることで、様々な知識を吸収していったそうだ。その経験の中から、今回のGDCでのカンファレンスでゲームのレベルデザインに関する講演を行なった。
■ ゲーム開発時には最初にビジョンを固めることが重要
アミューズメントヴィジョンの名越稔洋氏。「スーパーモンキーボール」の他にも、デイトナUSAやヴァーチャストライカーなどを手がける |
ゲームキューブ向けソフト「スーパーモンキーボール」のレベルデザインは、ゲームルールから始まったそうだ。もともと名越氏は、不安定な地形コンディションでボールをデリケートに扱ってプレイするというシンプルなゲームアイデアは以前から頭の中にあって、チャンスがあればゲーム化したいと考えていたという。
そして「スーパーモンキーボール」の開発を始めた直後に、ステージをイメージしたものをサンプルで書き、次の2つの要素について決めたそうだ。1つは、このゲームの何が面白いのかということ。「スーパーモンキーボール」では、ボールが落ちるか落ちないかという緊張感がおもしろい。また2つめは、どうやってこのゲームを成り立たせるのかということ。この点は、レベルデザインの設計で難易度を調整する。この2つのことを決めた段階で、コントロール関連の構成も次々に思いついて、1~2日で企画が完成したそうだ。これは「スーパーモンキーボール」に限らず、他のゲームにも当てはまることで、この2つの要素を決めることで、ゲームの企画は80%ほどが完成すると言ってもいいそうだ。
ゲーム開発の最初の段階で、ゲームをどう構成するのか、ゲームの面白さがどこにあるのかを見定め、それを実現するためのレベルデザインがどういう手順で行なわれるのかを判断する。あとは、経験したプロジェクトのキャリアによって、あるジャンルではどういったレベルデザインが有効なのか、といったデータベースができあがっていく。もし、何となく面白そうだから、という理由だけでゲームを開発すると、最終的にはとんでもないことになってしまう。名越氏は、この点を何度も強調していた。
ちなみにアミューズメントヴィジョンで新しいゲームの企画を考える場合、まず始めにゲーム画面のメモをホワイトボード上に書き、他のスタッフを呼んでプレゼンテーションを行なうようにしているそうだ。そしてこの段階でスタッフが理解不能だとすると、プレゼンテーションは終了(おそらくその企画もボツになるのだろう)となるそうだ。この段階でおもしろさが伝わらないということは、イメージの設定が甘いか、ゲーム自体がおもしろくない、ということとほぼ同じだからだそうだ。
ところで、「スーパーモンキーボール」はボールの中にサルが入っている点が特徴となっているが、それが決まったのはかなり後の段階だったそうだ。最初は単なるボールだったそうだが、それではボールの転がる向きがわかりづらかったので、ボールに模様を入れてみた。しかし、もう少しインパクトがほしかったので、軽い気持ちでボールの中にキャラクタを入れてみたところ、ボールを操っているのか、キャラクタを操っているのか、どちらとも言えない不思議な感覚が得られて、とても楽しかった。
キャラクタの向きや動きによって、プレーヤーがボールをどういうふうにどこにコントロールしようとしているか、ということが飛躍的にわかりやすくなっただけでなく、キャラクタに喜んだり悲鳴をあげささせることで、緊張感やゴールした時の達成感をプレーヤーに強く印象づけられるようになったそうだ。これも一種のレベルデザインといえるかもしれない。
ゲームを構成する3つの要素。背景、キャラクタ、表示効果の3つだ | 「スーパーモンキーボール」のゲームルール。床が傾けばボールが転がり、床からボールが落ちないように扱うというものだ |
ゲームのビジョンをきちんと確立することがゲーム開発には非常に大事なこととなる | アミューズメントヴィジョンでの方法。開発前の企画を社内でプレゼンし、おもしろさを判断しているそうだ |
■ パズルゲームのレベルデザインのテクニック
次に名越氏は、「スーパーモンキーボール」を例に、パズルゲームやテーブルゲームのレベルデザインのテクニックを紹介した。
「スーパーモンキーボール」では、全ての難易度をレベルデザインによってコントロールしている。ステージの大きさ(広いと簡単で狭いと難しい)、ステージの形状(平坦なら簡単で起伏があると難しい)、ステージ上のトラップ(なければ簡単であれば難しい)、ゴールゲートの動き(止まっていると簡単で動いていると難しい)、という4つの要素が難易度を左右する主な要素で、これをそのままレベルデザインに応用しているそうだ。
たとえば、広く平らで途中に何もなくゴールが止まっている、というフィールドが最も難易度が低いレベルデザインとなり、狭く起伏に富みトラップも配置されゴールも動いている、というフィールドが最も難易度が高いレベルデザインになるわけだ。ただし、ステージが広いとボールが落ちにくくなるので難易度は下がるが、時間制限が設けられているため、広すぎると逆に難易度が上がることになる。
このようなルールの掛け合わせによって、飽きのこない展開をゲーム内で実現できる。また、ゲームの難易度を左右する要素がきちんとまとまっていると、ゲームの設計も非常に楽になる。逆に言えば、この段階での分析が甘いと、後で苦労することになるわけだ。つまり、レベルデザインで最も大切なことは、難易度を左右するファクターをレベルデザインのどこに当てはめるのか、ということを的確に分析することだ、と名越氏は考えているそうだ。
ところで、「スーパーモンキーボール」にはいくつかのミニゲームが用意されているが、ミニゲームの設計の順序や開発の方法は、メインゲームと全く同じで、開発効率という点だけが異なっているそうだ。メインゲームにあるパズルゲームの背景をミニゲームで利用するように設計したことで、開発効率を上げているそうだ。
「スーパーモンキーボール」のレベルデザインの要素。それぞれがゲームの難易度に関わっている | レベルデザインの要素から導き出される、難易度の低いフィールドと難易度の高いフィールドのイメージ | ミニゲームには、メインゲームのパズルゲームの背景をそのまま利用して作業効率を高めたそうだ |
■ 背景だけを見てゲームができるというデザインが理想
記号学とは、符号化されたパターンを利用して人に与える印象を操作するというものだ |
記号学とは、符号化されたパターンを使って、人に与える印象を操作する、というもの。例えばドライブゲームで、ストレートの後に、プレーヤーの多くが曲がりきれないようなコーナーが配置されているとする。この場合、ストレートに等間隔で街路樹を配置し、コーナー手前で街路樹の間隔をストレートの場合の半分以下にして配置するだけで、このコースを初めてプレーする場合でも、コーナーを曲がりきれる確率が大きく上昇するそうだ。また、カーブ前でコース脇に列車が走る、といったようなものでも良い。標識のような、明らかにわかるものを配置しなくても、非常にシンプルな変化を設けるだけで、プレーヤーに感覚的に変化が伝わるようになる。これが記号学の応用というわけだ。
現在のゲーム機では、画質や音質が向上し、コントローラに振動機能も搭載されるようになっているため、より高度な記号学の応用が可能となっている。もちろん、先ほどの例では、コーナー手前に大きな標識を設置すれば、プレーヤーに展開が的確に伝わるが、そういった手法は、映画で先の展開を登場人物自らが口走っているようなもので、露骨すぎると考える。露骨な表現はできるだけ避け、ニュアンスでプレーヤーが行動できるようなもの、それが名越氏にとってのレベルデザインの理想だそうだ。
記号学の応用例。BGMがピアノかウッドベースかという1つの違いだけで、最終的な結果を見る側に無意識に印象づけることが可能 | レースゲームでの例。ストレートに30m間隔で、コーナー前では15m間隔で街路樹を配置するだけで、コーナーを曲がりきれる確率が大きく向上する |
(2002年3月25日)
[Reported by 平澤寿康]
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