Game Developers Conferenceレポート

「グランツーリスモ」シリーズのプロデューサー山内一典氏
ゲームデザインの方法論について講演

会期:3月22日 (現地時間)

開催地:San Jose McEnery Convention Center

 「グランツーリスモ」シリーズや「モータートゥーン」グランプリシリーズのプロデューサーであるポリフォニー・デジタルの山内一典氏が、カンファレンスに登場、自身が手がけてきたゲームを例に、ゲームデザインの方法論などについて講演を行なった。


■ ゲームデザインには要素のバランスが重要

山内氏が手がけてきたゲームの変遷。「モータートゥーングランプリ2」と「グランツーリスモ」の間に大きな意識改革があったそうだ
 山内氏は、「グランツーリスモ (GT)」シリーズを手がける前に「モータートゥーングランプリ (MTG)」シリーズ2作を制作した。「MTG」は、コミカルな動きが特徴の、プレイステーション初期の作品だ。「MTG」では、基本的には、車はこう操作すればこう動く、という経験や知識をベースに制作したそうだ。それに対し「GT」は、車とはどういうものかということを突き詰めて考えることで、結果的な操作に対する動作の現象を得る、という方式に変更されている。つまり、この2作の間に、ゲーム制作に対する大きな意識の転換があったわけだ。

 そういった意識の元で制作され、'97年に発売された「GT」。この作品は山内氏自身、メジャータイトルを制作しているという意識は全くなかったそうで、こういうものがレースゲームの中にあってもいいだろう、という意識で制作したそうだ。そのため、発売後の評価に対しては正直意外に感じだそうだ。しかし、「GT」が大きな評価を得た要因は、制作時にしっかりとしたゲームデザインの方向性が決まっていたからだろう。

 ゲームには大雑把に「演算モデル」、「データ」、「ユーザーインターフェイス」、「評価ルール」という4つの要素によって成り立っている。演算モデルは、ゲームの性格や自由度の範囲を決める、最も重要な要素。「GT」では、車の挙動に関する物理モデルがこれに相当する。
 データは、キャラクタやフィールドなどの要素で、GTでは車やコースがこれに相当する。ユーザーインターフェイス(UI)は、プレーヤーが感じるゲームの感情や雰囲気を決める要素で、ゲームのジャンルを決める要素にもなる。同じゲームでも、UIが変わるだけでプレーヤーはアクションゲームとしてとらえたりシミュレーションゲームとしてとらえたりするため、こちらも重要な要素となる。
 評価ルールは、数学的なシミュレーションモデルの入力・出力などをエンターテインメントに変えるためのもの。そして、ゲームを制作する場合には、これら4つの要素のバランスをしっかりと考え、今何を拡張しようとしているのか、何を省こうとしているのかを、その都度しっかりと自覚する必要がある、と山内氏は語った。例えば、全体のバランスを考えずに、データ (例えば車のデータ) だけをむやみに増やそうとするようなデザイナーは良いデザイナーとは言えないと、やや自戒も込めて語っていた。


■ ゲーム制作とはエンジニアリングワークだ

ゲームに必要な4つの要素。演算モデル、データ、ユーザーインターフェイス、評価ルール、これらのバランスが重要
 ゲーム機のハードウェアは限られているため、その限られたリソースをどのように配分して制作するのか考える、というのがゲーム制作の醍醐味であると山内氏は語った。例えば「GT」シリーズでは、あらゆる部分に潤沢にリソースを割り振っているわけではなく、ゲーム中に太陽の位置が変化 (視点の変化による位置の変化ではなく、時間の変化による位置の変化のこと) して背景などの様子が変化することはないし、同時に走っている車は6台にすぎないが、これもリソース配分の結果だそうだ。つまり、「GT」シリーズでは、プレーヤーが操作する車の挙動に関するシミュレーション部分に力を入れているため、それに直接関係のない部分についてはリソース配分を減らしている、ということと考えてだろう。

 ゲームを制作する場合、そのゲームを企画した時点から、近い将来に完成するまでの間にどのようなテクノロジーが利用できるようになるか、そして技術革新によって余剰リソースが生まれた場合、そのリソースをどう有効に利用すればよいのか、ということを考えながらゲームでザインする必要がある。

 ゲーム制作で重要なポイントは、何がしたいのかを考えるのではなく、どうやって実現するのか、ということを考えることが大事で、事実ポリフォニー・デジタルでは、どうやって実現するのか、という議論が絶えないそうだ。こういった姿勢でゲーム制作に臨むことで、ゲームのクオリティは格段に向上していくわけだ。

 ただ、制作時にクオリティを保てなくなった場合には、その時点でスケーラビリティが残っている部分があるかどうか考え、その上でリソースの再配分を試み、もしダメならあきらめることも必要だ。このように考えると、ゲーム制作はまさにエンジニアリングワークであると言っていいだろう。

 ところで山内氏は、「GT」シリーズでは、車の個性を表現するためのポリシーとしてふたつの要素を示した。ひとつは、自動車メーカーから与えられた様々なデータを、なるべく作為を加えずにそのまま収録していくというもの。そしてもうひとつは、どのような細かなものでも、車のメカニズムはできるだけモデルに実装しよう、というものだ。

 ただ、収録する車をそれぞれ実際にドライブして挙動を調整していくというのは、車の数が非常に多いだけでなく、それぞれの車に対するチューニングパーツも数多くあるため、ほとんど不可能だ。そのため、「GT」ではそういった調整方法は基本的に行なっていないそうだ。とはいっても、メーカーから与えられたデータをそのまま収録するだけで、挙動は実際の場合とほぼ同じものができあがっているため、大きな問題ではないという。ちなみに、「GT1」では車のモデリングは最短1日でできたそうだが、「GT3」では最低でも20日以上かかったそうである。

ゲームを開発する場合には、何ができるかではなく、何をすべきなのかを考えることが重要で、まさにエンジニアリングワークだ 「GT」シリーズでは、メーカーから与えられたデータをほぼ忠実に収録しながら、車に関するメカニズムは細かな部分まで実装する、ということをポリシーにしていたそうだ 「GT」の開発画面。画面内に様々なデータを表示させており、これら数値を参照しながら細かなレベル調整を行なったそうだ
車の挙動に関する物理モデルは膨大で、非常に細かな部分まで実装されている。これらはほんの一部分であり、これ以外にも様々な要素が盛り込まれている



■ ゲームとは、エンターテインメントという地図を裏から見たようなもの

 最後に山内氏は、個人的な意見と断りつつ、“ゲームとは何か”ということについて語った。

 ゲームと聞いてイメージするものは非常に広い。例えば、任天堂のファミリーコンピュータからゲームを始めた人、PCの世界からゲームを始めた人、プレイステーション 2からゲームを始めた人、それぞれにとってゲーム感は大きく異なるだろう。山内氏自身は、コンピュータでしかできないようなゲームをよりゲームらしいと感じるそうで、ゲーム内で物語が進行する、例えばゲームのキャラクタが泣いたり笑ったりといった感情を演じるようなゲームはゲームらしくないと思っているそうだ。そういったものは、ゲームよりも、映画や小説のほうが合っている。山内氏の考えるゲーム像は、コンピュータを使ったエンターテインメントであり、物語はゲーム内部ではなくゲーム外部に発生するものであり、プレーヤーがプレイするまで完成しないもの、という3つの要素がベースになっているそうだ。

 エンターテインメントという名前の地図があったとして、その中には映画や音楽、小説などといった地域があると仮定する。しかし、その中にはゲームという領域は存在しないと考えている。ゲームには、映像や音楽、物語が含まれており、エンターテインメントの地図を裏側から見た全領域に相当する、これが山内氏が考えるゲームの姿である。  '97年に「GT」を発表した時に、これはゲームなのかシミュレータなのか、といった議論が起こり、「GT」はゲームではないといわれたことも多く、山内氏たちはかなり苦労したそうだ。そのようなことよりも楽しいかどうか、という部分を見てほしかったと今回の講演で語っていたが、それこそ山内氏の考えるゲーム像を如実に表していると言っていいだろう。

山内氏が考えるゲーム像。3つの大きな要素がベースとなっている エンターテインメントの地図を裏から見たもの、これが山内氏のゲーム像の全てだ


□GDCのホームページ
http://www.gdconf.com/
□関連情報
【3月20日】ゲーム開発者向けのカンファレンス「Game Developers Conference」開幕
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020320/gdc01.htm
【3月22日】「パラッパラッパー」の松浦雅也氏や「Rez」の水口哲也氏が GDCカンファレンスで講演
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020322/gdc04.htm

(2002年3月23日)

[Reported by 平澤寿康]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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