★ PCゲームレビュー★

激戦さなかの欧州戦線、密命を帯びた
一人の男が戦場を駆け抜ける……

Medal of Honor: Allied Assault


 FPSゲーム界では、第二次世界大戦をモチーフにしたリアル系タイトルに対する人気が非常に高い。特に今回紹介する「Medal of Honor: Allied Assault」(以降MoHaa)に対するユーザーの期待感は桁違いの大きさだ。ゲームタイトルにもなっている「Medal of Honor=名誉勲章」とは、南北戦争以降アメリカが関わった戦争で危険を顧みず兵役義務以上の任務を遂行し、勇敢に戦った兵士に与えられる勲章のこと。アメリカ国民すべての代表として大統領から直接授与される最高峰の勲章であり、複製はもちろん対象者以外が着用していても罰せられてしまうほど厳格なものだ。アメリカ人にとっては特別な思い入れのある勲章である。アメリカで1月22日に発売された英語版の売り上げがあっという間に40万本を越えたことから考えても、その人気やMedal of Honorに対する特別な思いを見ることができる。


■ スティーブン・スピルバーグも名を連ねる筋金入りのリアル系FPS

スタッフロールにスティーブン・スピルバーグ監督の名前がクレジットされている
 「Medal of Honor」シリーズは今作で3本目。第1作目「Medal of Honor」と、2作目「Medal of Honor: UnderGround」はプレイステーション用としてアメリカ市場で発表された。どちらも'40年の欧州戦線を舞台に、OSS(アメリカ戦略情報局)に属する特殊歩兵をプレーヤーの分身として開発されている。その続編に当たるMohaaも当然流れとしてPS用に開発されていたが、ビジュアルの表現にこだわった結果、テクスチャ容量などの点でPSでの開発を断念。PCにプラットフォームを移して開発されたいわくつきの作品だ。ストーリー自体は前作と変わらず、欧州戦線と北アフリカ戦線の一部が舞台となることに違いはない。現在のところ、シリーズ4作目となる「Medal of Honor: FlontLine」がPS2を対象フォーマットとして開発されている。

 掲載したスクリーンショット、特にノルマンディー上陸作戦のものを見ていただくとわかるが、映画「プライベートライアン」の雰囲気そのままの世界が再現されているように感じると思う。それもそのはずで、MoHシリーズの1、2作目は「プライベートライアン」を撮ったDREAMWORKSスタジオが制作に携わっており、Mohaaの製作に関しても相当なアドバイスを送ったことは想像に難くない。エンディングロールを見ていると、「プライベートライアン」の監督であったスティーブン・スピルバーグの名前がクレジットされていたりするから驚きだ。


■ Quake IIIエンジンによる画像とは思えない美麗な映像

北アフリカ上陸作戦を前に破壊工作任務に携わるパウエル中尉。トラックで検問を突破しようと試みるが……
 MoHaa最大の特徴はこだわり抜いた映像と音だ。まずは映像面から説明しよう。今回PC版として開発するにあたって選ばれたグラフィックエンジンは、FPS用のエンジンとしては定評のある「Quake IIIエンジン」だ。まずはこのQuake IIIエンジンに徹底的に手をいれ、天候の表示、霧の表現、光の変化による陰影の変化に加え、圧縮テクスチャを使ってオブジェクトを表示することも可能にしている。その映像はQuake IIIエンジンで描画しているとは思えないような空気感のある空間を実現している。

 ちなみにスクリーンショットを取るために映像の設定を最高にしたところ、筆者の環境(Pentium III 933Mhz+Geforce3)でもFPSは20程度に落ち込んでしまった。クオリティよりフレームレートを重視するFPSゲーマーの常として、Pentium4への乗換えを真剣に考えてしまった。

 一方のサウンドも実にクオリティの高い内容に仕上がっている。MoHaaのサウンドチームは、ユーザーに音によってゲームの世界をより実感できるようにサウンドを仕上げてきた。この手のゲームでは重要な、登場する武器や各種効果音はハリウッドのサウンドチームの手によって実際の武器の音を録音している。

 この点、どこかのサンプリングCDから持ってきた、画一的な銃声に比べると格段の違いだ。特にM1 Garandライフルは抜群の出来映えで、装填された弾を打ち切ったときの挿弾子(クリップ)放出音がすばらしい。今までにも第2次世界大戦をモチーフにしたFPSはあったが、MoHaa以上の音を再現したモノは今まで無かったといっても過言ではない。

トンプソンの銃をアップにしてみたところ。これだけの質感をもったテクスチャが随所に使われており、QuakeⅢエンジンでよくここまでやったものだと感心させられる 夜霧の中を進むが、濃霧のため10数メートル先を見るのが困難だ。スコープの中の兵士がかすんで見えるのがわかるだろうか 雪が降り積もる林の中を進む。ちなみに画面に表示されている雪をよく見ると、ちゃんと結晶として表現されている


■ 敵味方問わず優秀なAIの行動に驚かされるシングルミッション

 MoHaaのシングルミッションは全部で6つ。欧州戦線にアメリカ軍が展開し始めるきっかけとなった1942年11月8日のトーチ作戦前夜を皮切りに、6ミッション20数ステージの作戦をこなしていくこととなる。以下、簡単に各ミッションの概要を説明しよう。

【Mission1】
北アフリカに展開するドイツ軍の捕虜となった英国SASのエージェントを救出。連合軍初の反抗作戦となるトーチ作戦を成功させるために、沿岸に設置された88mm砲や、スツーカ爆撃機の破壊、パンター戦車などの破壊を行なう潜入ミッション

【Mission2】
ノルウェイのトロンヘイムでひそかに開発中のUボート探知電波妨害装置を搭載したUボートを発見、破壊するのが主任務。強行潜入は無理なので、ドイツ軍将校に変装して進入することになる

【Mission3】
本ゲーム最大の見せ場であるノルマンディー上陸作戦を敢行する。特にオマハビーチ上陸のシーンは映画「プライベートライアン」そっくり。この後第101空挺大隊の隊員と合流して88mm砲や、6連ロケット砲を破壊することになる

【Mission4】
フランス、ノルマンディ地方に潜伏するフランス人ゲリラと協力して列車砲を破壊したり、機密文書の奪取などを行なう。ここで登場するフランス人ゲリラは、ゲームで唯一登場する女性だが、実は前作「Medal of Honor UnderGround」の主人公だ

【Mission5】
爆撃で破壊された町が舞台。敵スナイパーが罠を張っている中、こちらもスプリングフィールド3スナイパーライフルを使って、スナイプ合戦となる。これが終わるとキングタイガー戦車にのって敵陸上部隊を掃討、最後は敵戦車部隊を航空支援無線を使って撃退するという何でもありなミッション

【Mission6】
ドイツ国内にある武器研究所へ潜入、新型アサルトライフルStG44の奪取と毒ガス開発施設の破壊が主任務。最後のミッションだけあって強行突破あり、スナイプ合戦あり、潜入ミッションありとテンコ盛りの内容

 シングルミッションをプレイしていて何が一番驚くかといったら、敵味方関係なくAIが非常に賢いという点に尽きる。こちらを発見すると、味方を呼ぶ、伏せもしくは膝立ちになってこちらを銃で狙う、建物の影などに隠れて撃ってくる、プレーヤーが近づくと横っ飛びして避ける、複数で行動していた場合散開して複数の方角から突入するなどの行動をとる。さらに、手榴弾を固まってるところに投げ込むと、投げ返す、退避する、手榴弾の上に覆いかぶさって自分を犠牲に仲間を救うなど驚くべき行動パターンを見せてくれるのだ。

 おまけに行動のどれもが、戦闘という行為において合理的だったりするから感心してしまう。それもそのはず「プライベートライアン」、「プラトゥーン」、「7月4日に生まれて」といった戦争映画に携わったDale Dye元大尉がMoHaaのアドバイザーとして参加しており、開発者は説得力のあるMoHaaを作るため、Dye大尉についてペイントボール(サバイバルゲームの一種だが、使う弾が色付きの水が入ったものになっている)による模擬戦闘訓練を受け、その経験をMoHaaに反映しているからだ。

 そんな賢いAIが牙をむいて襲い掛かってくるから、シングルは非常にやりがいのあるものになっている。特にAIの視線や音に対する反応は非常に高いものとなっており、Hardにレベルを設定した場合、潜入ミッションにおいて敵を攻撃する際、一瞬でも悲鳴を上げさせたら敵がワラワラ集まってきて速攻で死亡、Mission5では敵スナイパーがどこから撃っているのかさっぱりわからない(実際かなりいやらしい位置に配置されている)と、かなり不条理な……というか実際の戦場らしい戦闘が楽しめる。

 ただ、残念なことに毎回毎回敵の配置が変わったりはしないので、若干覚えゲーになっている感はある。加えてストーリー分岐がまったく無く、ほぼ一本道のゲーム進行というのも寂しいものがあるのは確か。Allied Assaultという副題がついているのだから、全20数ステージ中3人以上で行動するステージが、Misson1、3、5、6の冒頭ちょこっとだけというのは少々さびしくもある。MoHシリーズにおける主人公の所属はOSS(アメリカ戦略情報局)の工作員なので、潜入ミッションがメインのゲームになってしまうのは仕方の無いところではあるし、もともとがコンシューマー機用のゲームなので、そこまで複数の味方をいじれないということもあるのだが、なんともさびしいところだ。


■ 映画「プライベートライアン」の冒頭を完全に再現したMission3冒頭

至近弾が炸裂するたびに画面が振動し、HPを削られていく。吹き上がる砂塵、海岸要塞から降りかかる銃弾の嵐。まさに修羅場が体験できる
 MoHaaを買う動機のひとつであるノルマンディー上陸作戦はMisson3冒頭で再現される。言葉で語るより、画像を見てもらったほうが早いと思うので、まずはスクリーンショットをご覧いただきたい。

 揚陸艇~ビーチを突破するまでは、マジでプライベートライアンそっくり。あの映画をみて「うぉぉぉぉおぉぉぉおおおおお燃えるぜ!」と思ってしまった方は、ここのシーンをやるためだけにMoHaaを買ってしまってもまったく問題なし。

 ただ、ひとつ気をつけたいのは、MoHaaはもともと13歳以上の層をメインとしたレーティングを受けているので、映画のように腕がちぎれる、胴体が真っ二つに吹っ飛ぶ、話していた通信兵の顔を見ると弾がめり込んでる、ということは無いという点。そういうのを期待している人は、現在開発中の「Soldier of FortuneII」を期待して待つように。

映画冒頭のワンシーンが完全再現されたオマハビーチ。ビーチはどこも敵の照準内なのでボーとっ突っ立っていたら殺られること必定である。このオマハビーチもMoHaaの法則に従いほぼ一本道の展開。しかし、きちんと遮蔽物に身を隠し、MG42機関銃のタイミングを読んで飛び出さないとあっという間に浜に打ち上げられる死体と化してしまう。おまけに隊員たちがしゃべるセリフや、字幕の日本語も映画そのまま。少々安直過ぎるかなと思ったりもしたが、雰囲気の維持という点ではそれが一番なのかもしれない


■ オブジェクトマッチに激燃え! のマルチプレイ

独軍側やや有利なオブジェクトマッチ用マップ「狐狩り」
 MoHaaのマルチプレイでシングルプレイともっとも違うのはLean(覗き込み)があるところだ。壁の影から上半身だけ出して敵を確認し、そのまま撃つことが可能だ。立っている状態に比べて被弾面積が格段に小さいため、非常に弾を当てずらい。特にしゃがんだ状態で覗き込みをやったりすると、まさに点状態。これがあるおかげで、MoHaaのマルチプレイは隠れるということが非常に重要になり、射撃能力の重要性もさることながら、敵位置の予測やマップ内における自分のポジショニングが重要視されるバランスとなっている。

 また、「CounterStrike」や「Tribes2」でもおなじみのラジオシステム(あらかじめ設定された声をしゃべることのできるシステム)も搭載され、マルチプレイなどで一斉突入のタイミングを図る際に有効な手段となっている。

 さて、今回特に注目すべきなのはオブジェクトマッチ。各マップに設定された目標物をめぐって攻撃側と守備側に分かれてやりあうゲームタイプ。欧州戦線の歴史背景に準じた以下の4マップが用意されている。

・狐狩り
Multiplayer Demo用の追加マップとしてリリースされたことで知られる「The Hunt」マップ。Axis側が積極的に攻勢にでると、Allies側は防戦一方になってしまうのが辛い。マップ奥の教会に設置された88mm砲をめぐる戦いになる。

・V2ロケット工場
広場に置かれたV2ロケットミサイルとその発射装置をめぐる戦い。ロケット周辺は開けているが、工場内は入り組んでいる。チームの武器配分バランスが勝利への鍵だ。

・オマハビーチ
ノルマンディ上陸作戦を再現したもの。海岸線の防御陣地を破り敵陣地内へ進入、2機の艦載砲に爆弾を仕掛けるのが目的。位置を変えまくるスナイパーが一番うっとおしいマップ。独軍側に腕のいいスナイパーがいると米軍は非常に厳しいことになる。

・橋の架かる町
珍しくAxisが攻撃側というマップ。町の真ん中にかかる橋を巡った攻防となる。目標地点周辺が開けている&周囲に高い建物が多い、ということもあり、腕のいいスナイパーと、動きのいい突撃野郎の勝負になる。それ以外は、マシンガンなどを中心にジリジリ攻めるしかない。


■ 絶対日本語版を買っておかないと損!

ノルマンディ上陸前に送られてきた連合軍最高司令官アイゼンハワー元帥からの通達。この文面を見ても邦訳の質が高いことがわかる
 すでに既報のとおり、今回のMoHaa日本語版は、俗に「アリスインナイトメア方式」(同名のゲームタイトルで始めて行なわれた、取捨選択式の日本語インストールプログラム)と呼ばれている日本語化形態が採用されている。日本語化の詳しい内容や、英語版との互換性に関しては関連記事を参照していただくとして、気になるのは日本語化の質だ。

 今回専門チームを組んで日本語化に当たったこともあり、その訳は非常に質の高いものとなっている。少なくとも英語を直訳したようなチンプンカンプンな日本語が羅列されるような状態にはなっていない。また、収録されている日本語音声も、「アリスインナイトメア」の時のようにドンピシャとまではいかなかったが、主要キャラクタに関しては及第点といえる仕上がりとなった。プライベートライアンの日本語吹き替え版に違和感を感じない方は、完全に日本語音声でインストールしても問題ないだろう。

 また、おざなりになりがちなダイアログ関連の日本語化にも手抜きはない。邦訳の質もさることながら、日本語フォントがうっとおしくないのには驚きだ。「Diablo2」の完全日本語版を例にとるとわかりやすいのだが、見やすい日本語にこだわるあまり、640×480ドット表示画面の半分が日本語フォントで埋まってしまい、とてもじゃないがゲームにならないという大失敗があった。しかし、今回の日本語版では、画面解像度が大きいこともあるが、必要な要素(誰に殺されたとか)を確実に伝えるのに最低限必要な日本語フォントの大きさとなっており、プレイしている間に気になることはまずない。ただ、完全日本語化にこだわるあまり、そのまま英語表記でよさそうなマップ名も日本語化されており、その点では少々締まらない表現になっている。The Huntを狐狩りと訳すより、英単語の使用が日常的となっている現状を考えて、そのまま表示したほうがよかったと思うのは贅沢だろうか。

 日本語化の恩恵がもうひとつある。PCゲームではおなじみの訓練ミッションだが、これまで表示・音声ともに英語だったために、初心者には半分も使い物にならず、本来の目的である初心者へのゲーム説明ができていなかった。しかし、今回の完全日本語化によってトレーニングの内容も確実に理解することができるので、すんなりゲームに入っていくことができるだろう。

 初心者に優しい完全日本語版、もともとPS用として作られていただけあって日本製コンシューマーゲームに近いストーリー展開と演出、リアル系とはいえEasyモードであれば理不尽な敵AIに悩まされることもない手頃な難易度。また、これからメインとなっていくであろうネットワークゲームに本格的に触れてみたいという方にはぴったりな一本といえるだろう。幸いなことに国内のMoHaaコミュニティもDemoの公開以降、徐々に盛り上がりを見せてきているので、遊び相手にも困らないことだろう。2002年イチオシのPCゲームとして強くお勧めする。

トレーニングミッション。0から教えてくれるのではじめての人でもばっちりMoHaaの世界に浸れるだろう。 ミッション中の功績によって、最大8つの勲章が授与される。さぁ君はいくつの勲章を得ることができるだろう? 今回プレーヤーが転戦することになる欧州戦線の地図。どのミッションも初めてPCゲームをやる方には新鮮かつ面白いものだろう

(c)2002 Electronic Arts Inc. Electronic Arts, EA GAMES, the EA GAMES logoand Medal of Honor Allied Assault are trademarks or registered trademarksof Electronic Arts in the U.S. and/or other countries. Medal of Honor is atrademark or registered trademark of Electronic Arts Inc. in the U.S. and/or other countries for computer and video game products. All rightsreserved. EA GAMES(tm) is and Electronic Arts(tm) brand.


□エレクトロニック・アーツ・スクウェアのホームページ
http://www.japan.ea.com/
□「Medal of Honor: Allied Assault」の公式ページ
http://www.japan.ea.com/mohaa/index.html
□関連情報
【1月23日】EAスクウェア、春の新作発表会を開催 「Medal of Honor: Allied Assault 日本語版」など新作続々
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020123/eas.htm
【1月23日】「Medal of Honor: Allied Assault」日本語体験版
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020123/demo0123.htm

(2002年2月8日)

[Reported by Tyokuta]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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