★ PCゲームレビュー★
フライトシミュレータの定番『マイクロソフト フライトシミュレータ』シリーズの最新版。水陸両用機を含む5機種が新たに追加されたほか、コックピット内部を3Dで再現した「仮想コックピット」機能や、管制官とリアルタイムで更新する「ATC機能」なども盛り込まれた。等高線データを元に地形を忠実に再現している点も見逃せない。 ■ 水陸両用機を含む5機種が追加されて全16機種になった
「ATC(Air Traffic Control)」と呼ばれる、航空機の管制システムも導入された。これは、管制官から飛行する高度や方位をリアルタイムで示されるというもので、プレーヤーは原則としてこの指示に従って飛ばなければならない(オプションでオフにすることも可能)。そのぶん勝手気ままな飛行はできないが、航空業務という巨大な交通システムの一部に組み込まれたという臨場感をたっぷりと味わうことができる。臨場感といえば、今回からコクピット内部を3Dで再現した「仮想コックピット」が採用されたのも見逃せない点だ。いままでは平面的だったパネルやレバーを実物大のサイズで配置。機体の内部と外部がシームレスに描かれることによって、映像に統一感が生まれた。
等高線をベースにした原寸そのままの地形データが採用された点も、大きな改良点のひとつ。『マイクロソフト フライトシミュレータ 2002』には、富士山やグランドキャニオン、アルプス、ヒマラヤなど世界の主な地形がそっくりそのままの高さと大きさで登場する。これによって、いままで以上に自然な風景が再現できるようになっている。
■ 教習方式で行われる「フライトレッスン」モード
ガイダンスが終わると、そのまま「フライトレッスン」モードへ入る。教官と2人でセスナ 172SPに乗って教習を受けるという設定で、「水平飛行」「離陸」「着陸」など5カテゴリ、全27項目が用意されている。教官の会話がとても自然であること、飛行状況にあわせてインタラクティブなアドバイスを受けられること、また教官が先に手本を見せてくれたあとに同じ動作を行えばよいので、教習はとてもわかりやすい。フライトシミュレータは離着陸できるようになるまでが一苦労なのだが、このやり方なら比較的短時間で基本的な操作をマスターできると思う。ちなみにレッスンは各5~20分程度と短く、必要な項目、苦手な項目だけを繰り返して練習することも容易だ。 もっとも、すべてを完璧にマスターするとなるとそれなりの時間が必要だし、肝心のフライトを楽しむことができない。カテゴリ「訓練操縦士」の7項目、および「自家用操縦士」の6項目を消化できればプレイに支障はないだろう。
■ 2つのフライトモードで世界の空を舞う
もうひとつは、予め用意されているシーナリー(シナリオ)を楽しむ「フライトの選択」だ。こちらは、世界各地の名所や観光地を遊覧飛行感覚で楽しめるモード。機種や離陸する空港、天候を選ぶことはできないが(着陸する空港は選ぶことができる)、そのぶん空からの絶景を眺められる。搭乗時間は30分から4時間弱までまちまち。難易度もシーナリーによって異なるが、比較的易しく、操縦の難しさよりも風景を楽しむほうに重きが置かれているようだ。今回新たに追加されたシーナリーの目玉は、フロート付きセスナ 208 キャラバンで楽しむ「アラスカ水上機パイロット」だろう。アラスカの雄大な景色を背景に、湖への着水やマッキンリー観光など6本が用意されている。 新たに追加されたATCは、英語の音声と日本語字幕で表示される。オプションで設定した交通量にあわせて、交信周波数と高度、方位、着陸する滑走路などが指示される仕組みだ。字幕は箇条書きで表示されるのでとても見やすく、必要なら反復を求めることもできる。指定に従って操縦すれば目的地まで楽に移動することができるので、飛行の自由度は失われるが、これによりフライトシミュレータとしての完成度は確実に上がった印象だ。
もっとも、ATCの指示を無視してもペナルティが課せられるわけでもないので、その意味では管制官とのやりとりはあくまでも「ATCごっこ」に過ぎない。ATCを楽しめるかどうかはプレーヤーの思い込み次第だと思う。頻繁にポップアップするウィンドウが鬱陶しく感じる感じることも少なくなく、かといって表示を止めてしまうと英語の音声だけになってしまうわけで、ATCを利用するかどうかはちょっと悩むところだ。商業飛行を目的としたシーナリーならATCの利用は必須だが、フリーフライトや観光系のシーナリーなら、無理に使うまでもないかもしれない。それよりは、景観や操縦の楽しさを優先したほうがよいとも思う。
■ 映像の緻密さと美しさにため息
以前、E3の取材で出かけたロサンゼルス。なんとなく気になるニューヨークマンハッタン島。ニュースでよく見かけるカブール近郊。そして、筆者が住む霞ヶ浦周辺。実際に(というか、仮想的になのだが)操縦桿を握って飛んでみると、現地の様子が手に取るようによくわかる。街の広さや位置関係、大まかな距離などを体感することができて、これが実に楽しい。 映像の緻密さにも感動した。たとえば東京の場合、レインボーブリッジや東京タワー、新宿の高層ビルといったランドマークはもちろん、大手町のオフィスビルや聖路加、皇居なども正確に描かれ、その周辺を囲む低層のビル群までもがひとつひとつきちんと“存在”している。いったいどれほどの手間を費やしたのか、考えるだけでも気が遠くなってしまいそうだ。 また高度線をベースに地形を再現しただけあって、高高度から見下ろした映像も、ため息が漏れるほど美しい。このソフトを手に入れたら、B747-400に乗って羽田空港を離陸し、関西空港に向かうルートをぜひ一度試していただきたい。快晴の日の午後、14時前後がいいだろう。離陸直後に見える都心部、遥か彼方に連なる奥多摩と丹沢の峰々、眼下に見下ろす富士山の雄姿、駿河湾の優雅な曲線、海上に浮かぶ関空。『マイクロソフト フライトシミュレータ 2002』がいかに凄まじいソフトであるか、思いっきり納得できるはずだ。 ただし、劇的に向上した美しさの代償として、「マイクロソフト フライトシミュレータ 2002」はいままで以上に高いマシンスペックを必要とする作品になっている。今回もっとも顕著に感じたのが、フロート付きセスナ208キャラバンで着水したときだった。飛行中はスムーズに描きかえられていた画面が、着水して水しぶきが舞った瞬間に、突然カクカクとコマ落としになってしまう。想像以上のCPUパワーが、水しぶきの描写に費やされているのだろう。
また湾岸から都市部上空へと進入するシーン、たとえばハドソン川方面からマンハッタンに接近する場合や、東京湾から東京都心部へ接近する場合なども、パフォーマンスの低下が起こる場合がある。霞の向こうに無数の高層ビル群が現れた瞬間にハードディスクへのアクセスが発生し、そのまま5~6秒画面が止まってしまったことがあった。いずれもたいしたことではないのだが、こうした現象を最小限に抑えるために、そしてクオリティの高い風景を自然に楽しむためには、やはりそれなりのマシンパワーが必要だろう。
■ フライトシミュレータの次に来るもの 推定小売価格11,800円(オープンプライス)はやや高く感じるかもしれないが、しかし手に入れる価値は十分どころか、たっぷりあると思う。というか、フライトシミュレータ系のソフトが好きな人なら、この作品を絶対に見逃してはいけない。現時点では紛れもなく最高のフライトシミュレータであり、おそらく当分の間、これを超える作品は登場しないだろう。ひたすら絶賛し続けている自分がなんだか滑稽に感じるが、諸手を上げておススメできるシミュレーションゲームにそうそう巡り合えない昨今、レビュアーとして大変シアワセなことだ。 幸い旧版(「Flight Simulator 2000」「Flight Simulator 2000 Professional Edition」「Flight Simulator 98」「Flight Simulator for Windows 95」の4製品)を持っているユーザーなら、2002年6月30日の消印有効で3,000円のキャッシュバックが行なわれるとのことなので、このチャンスを有効に利用しよう。 あと直接関係ない話なのだが、余談ということで最後にちょっとだけ。今回『マイクロソフト フライトシミュレータ 2002』をプレイして、強く確信したことがある。それは「マイクロソフトは、地球を丸ごとデータ化するつもりだ」ということだ。 現在マイクロソフトは『フライトシミュレータ』シリーズ以外にも、鉄道をテーマにした『トレインシミュレータ』、そしてロンドンやサンフランシスコ市街を気ままにドライブできる『 ミッドタウンマッドネス』シリーズを販売している。しかし地球の地形や各都市の街並みをそっくりそのままデータ化することができれば、飛行機や鉄道をそれぞれ分けて扱う必然性が失われてしまう。ならば、いずれこれらのソフトは一本化され、飛行機も鉄道もクルマもなんでもありの「グローバルトラフィックシミュレーション」のようなものに統合されていくのではないだろうか。
はたしてそれが10年後なのか、あるいはもっと遠い未来なのかはわからないが、「ニューヨークから成田まで飛行機で飛んで、成田から都内へは鉄道で移動。その後、首都高をクルマで走る」といった作品が登場するかもしれない。これはエンターテイメントであると同時に、地球規模のナビゲーションシステムとしても利用可能であり、新しいビジネスになるだろう。マイクロソフトが乗り物系シミュレーションにこだわる理由は、おそらく、このあたりにあるのではないかと筆者は思う。
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□マイクロソフトのホームページ (2002年1月30日)
[Reported by 駒沢 丈治] |
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