★ PCゲームレビュー ★
「また、FPSか」。こうつぶやくゲームファンも多いかもしれない。映画や小説など、物語を進行させていく手法として、一人称、三人称といった定番の切り口があるのと同じように、ゲームにおいても定番の手法が確立しつつある。FPSという手法などはまさにその一つであり、今回紹介する「ノーワン リブス フォーエバー(NOLF)」は、たまたま物語をこの手法を用いて進行させているだけであり、「NOLFというFPSのバリエーションがまた出た」というふうに捉えるのはあまり良い傾向ではない。 ゲームというエンターテインメントは、これまで「手法の独創性」ばかりに評価を集中させてきたが、もっと「プレイしたときの楽しさ」にも重点を置いた評価をしてあげてもいい頃だと思う。「ゲームにおけるエンターテインメント性」とは「手法だけではない」。NOLFはそんなメッセージをプレイヤーに感じさせるタイトルである。 ■ ゲーム界にまた濃いキャラクターが! 女性版007? ケイト・アーチャー登場 世界は西と東に分断され、冷戦時代まっただ中の1960年代、裏世界ではスパイ達による激しい情報戦争が繰り広げられていた。国際秘密諜報機関UNITYも世界支配をたくらむクレイジーな誇大妄想者達から世界平和を維持すべく日夜活動を続けていた。 そんな中、UNITY所属のスパイ達が世界中でほぼ同時に虐殺されるという前代未聞の謎の大事件が勃発。この事件は、東西のパワーバランスに多大な影響を及ぼし、このままでは地球上のあらゆる都市が「テロリスト達の過ごしやすい世界」をもたらすことになってしまうだろう。 この事件の捜査線上に浮かんだ人物は世界的犯罪組織HARMの中心的存在ドミトリ・ヴォルコフ。裏世界で、最も危険なテロリストとしても知られる悪名高い人物だ。事態を重く見たUNITYは調査に乗り出そうとするが、肝心の敏腕エージェントはみな殺されてしまったので誰もいない。さてさて……。 プレイヤー扮する主人公ケイト・アーチャーは、知的で美しく、男性を虜にする魅力を備えている。当初、アーチャーは、その軽い身のこなし、巧みな話術を「泥棒」という職業に役立たせていたが、UNITYのベテランエージェント、ブルーノ・ラウリーの財布に手を伸ばした瞬間からその運命が変わっていく。 ラウリーに、その類い希な鋭い洞察力と情報収集能力を見込まれたアーチャーはUNITY英国本部の訓練生として迎えられ、めでたく泥棒から更正、見習いエージェントとして、UNITY内の雑務を任されていた。お茶くみ、迷い猫の探索など。日々の仕事に嫌気がさしたある日、アーチャーのもとに恩師ラウリーが訪れ、ドミトリ・ヴォルコフ事件の調査チームへの参加話を持ちかけてきた……。
時代設定は今様々な分野で密やかなブームとなっている'60年代。ソビエト崩壊後の現在から見れば、馬鹿くさいとも思える、あの東西冷戦の対立を、NOLFは強烈な風刺を持って描いている。また、この時代は、「男性社会」であり、NOLFは、そこを生き抜く優秀な女性、アーチャーの苦悩(?)の物語として見ることもできるかもしれない。 UNITY内部ではアーチャーは女性ということで、その優秀な才能を実際には認められながらも、その能力を活かす機会を全く与えられず、無能な上司に常に取り囲まれていて身動きできない。ゲーム開始後から独特なシニカルテイストな話術で男達をやりこめていくアーチャーの勇姿が痛快だ。プレイヤーはこのアーチャーの小気味のよい立ち回りに、どんどん共感を覚えて行くに違いない。 また、このゲームは「あえて」「どこかで見たことがある状況」を多用しているところにも魅力がある。これをパロディとかパクリとしてみるかは人それぞれだが、いずれにせよ親しみやすいシチュエーションを作り出しているのは事実。例えばUNITYの秘密基地。イギリスの国旗、ユニオンジャックが所狭しと掲げられた、この雰囲気はまさに007ジェームズ・ボンドに出てくる秘密情報局。新しいミッションに就くたびに手渡される、秘密道具もまさにそんな感じだ。 そして異性を惹き付ける魅力と、独特のユーモアを含んだ毒舌ぶり、このアーチャーというキャラクターの持ち味も、性別こそ違うがまさに007を彷彿とさせる。ただ、あまりにもそのままだと「真似」と思われてしまうので、ちょっとしたアレンジがくわえられている。それが、時折見せる「容赦ない冷血ぶり」と、劇中、一貫して守り抜かれている(!?)「とんでもなく派手(で変な)なファッションセンス」だ。 「冷血ぶり」に関しては「敵を殺すときは殺さなきゃだめ」という、FPSという手法に対する正当性を説明するキャラクター付けだろう。「トゥームレイダー」のララ・クロフトも世界平和を守るために(?)墓を暴いているが、宝物を獲得するためには罪のない野生動物もデザートイーグルでバンバン撃ち殺すという残虐性を兼ね備えている。危険な魅力を持った異性というのは魅力的に見える、というのはちょっと強引過ぎか?
「ファッションセンス」は、これは同じく'60~'70年代をテーマにしたコメディ・スパイ・アクション映画「オースティンパワーズ」シリーズへのオマージュだろうか。アーチャーは隠密行動を余儀なくされているスパイのはずなのだが、このオレンジ基調の出で立ちで、バリバリの共産体制下におかれている東ドイツはベルリンの生物兵器研究所とかに潜入してしまうのだ。この馬鹿っぷりもアーチャーというキャラクターの魅力であることに間違いはない。
■ NOLFはどんなゲーム?
続いてミッション目的達成のために特殊技能や新たな秘密道具の使用が必要であれば、その訓練を受けさせられる。これはまさに007映画そのまんまという感じだ。UNITYの地下施設、開発部門に場面が移り、新たな道具を支給され、その使用法について学ぶチュートリアルシーンが開始される。 その後、ミッション本編が開始、プレイヤーが死ぬか、ミッション達成が不可能な状況に追い込まれるとゲームオーバーとなる。ミッション達成時には、それまでのアーチャーの行動内容が評価される。一般市民への被害状況、誤射率、クリアまでの所要時間等で適当な評価が下されるが、その評価がゲームのストーリー進行を左右することはない。あくまで自己満足的なフィーチャーなのでゲーム中は自分の思うがままに行動して楽しんでかまわない。
NOLFのゲームシステムそのものはオーソドックスなFPSで、移動操作をキーボードで行い、マウスで照準&視点を操作、敵に照準を合わせたら射撃というのが基本スタイルになっている。ただし、「スパイアクション」というテーマが根底にあるために、ただの「撃ち合いだけのゲーム」にはなっていない。独特なゲーム要素として盛り込まれているのは「アドベンチャー性」と「スニーキングアクション性」だ。
■ アドベンチャー性~ゲームフィールドに仕掛けられたトラップを知力を持って解除せよ
また、一見、どうにもならない状況に追いつめられることがあるが、もし、ゲームオーバーにならないのであれば、それは「何らかの生き延びる手段が隠されている」ということだ。それは任務開始前に与えられた秘密道具を活用しなければならないシーンであったり、しゃがんで周りをよく見回すだけで、分かってしまう単純な謎もあるが、NOLFはゲーム進行のために反射神経だけでなく、知力や洞察力も要求されてくるのだ。
■ スニーキングアクション性~時に静かに、そして時には大胆に
主人公はスパイ、だからこそ、この要素は必然とも言えるのだが、ただ、敵を見たら撃ち殺していくだけではだめで、敵に見つからないように進んでいくことも重要になっていくのだ。不用意に敵へ発砲すると瞬く間に援護を呼ばれ敵に取り囲まれてしまう。発砲するということは敵に自分の所在を教えることと同義であることは常に意識する必要がある。 そして、NOLFがユニークなのは、「ただ見つからないように行動する」というだけでは先に進めなくなる状況に陥ることがあるといところ。前述の内容と相反する要素になるが、敵は要所要所で排除していく必要もあるのだ。いってみればNOLFは「他の敵に見つからないように、どう目の前の敵を殺すことが出来るか」というゲーム性を持っているのだ。これは終始隠密行動を強いられる一般的なスニーキングアクションとNOLFの大きな相違点だ。 そして潜入する施設には監視カメラが仕掛けられており、まず、アーチャーはこの視界に入っての派手な行動を取ることは出来ない。即ちカメラの視界範囲で派手な行動は厳禁なのだ。たとえ自分がカメラの視界に映っていなくても、監視カメラが殺傷の現場を抑えられたり、あるいは死体が撮影されてしまってもダメ。ではどうするか。 逆転の発想。わざと物音を立てて、敵を、監視カメラの視界外や、他の仲間から引き離して、殺すのだ。そう、このあたり、まさに007に代表される、スパイアクション映画の定番シーンを生で演じることが出来るのである。おびき出しに使う物音は足音でもいいし、物音アイテムとして使用頻度の高い「10ペンス硬貨」を使ってもいい。
「どうやって敵をおびき出すか」「どこにおびき出すか」「何で殺すか」「死体は監視カメラの視界外におさまっているか」。こうした複数の要因がNOLFというゲームに一種独特なパズルゲーム性を添加しているのだ。ひそやかに跳んで、そして時には大胆に殺す。この静と動のリズミカルなシーケンスがNOLFというゲームのプレイを盛り立ててくれるのである。
■ グラフィックスエンジンはLITHTECH JUPITERエンジンを採用
LITHTECH JUPITARエンジンはDirectX 8に対応すべくモディファイされた新バージョンで、AVP2に採用されたのはDirectX 7ターゲットの「LITHECH TALON」エンジンよりも世代的には新しいものだ。このエンジンでは、手足などの、関節で折れ曲がる物体の接続点における破綻を抑えたり、自然なキャラクターの表情の動き作りに、頂点ブレンディング処理を発展させた頂点アニメーション・システムが効果的に働くという。 NOLFはFPSというスタイルのゲームではあるが、人間キャラクターが大写しになって表情豊かな演技を見せるシーンが多い。こういった場面で積極的に使われているのだろう。人体キャラクターのモーション作りの要となるボーン制御もLITHTECH TALONエンジンよりもパワーアップしている模様だ。エンジンが違うので比較することにあまり意味はないが、人体の動きは、今年夏に発売されたREMEDYの「MAX PAYNE」のキャラクターよりも自然な印象を受ける。 また、地形エンジンも強化されており、最近流行の動的LOD(Level of Detail)の搭載でかなり遠方の風景までを高速に美しく描画できるようになっている。NOLFでは屋内ミッションが中心だが、オープンフィールドのステージも多い。遙か遠方にいる敵キャラはちゃんと小さく見えており、スナイパーライフルの照準スコープを覗いてズームをかければシームレスに敵のアップ映像が得られるようになっている。NOLFではこういったシーンでこの機能が効果的に活用されていると思われる。
さて、NOLFは、DirectX 8ゲームとしてみるとビジュアル的なパンチはやや弱い。特にDirectX8時代のゲームとしては極めて基本要求事項である動的な影生成を省略しているのはちょっと痛い。よく調べてみるとLITHECH JUPITERエンジンはまだ発展途上だそうで、DirectX8の代名詞的機能であるプログラマブルピクセル&頂点シェーダーの対応は2002年第一四半期になるとのこと。また、動的影生成は2002年第二四半期に実装する予定らしい。海外ではすでにNOLFの続編の開発が発表されているが、2ではフォトリアリスティックなビジュアルを期待したい。
また、NOLFにはマルチプレイヤーゲームモードもあり、こちらはUNITYとHARMの2チームに分かれての銃撃戦か楽しめる。よくあるFPSのチーム戦といった感じで、NOLFというゲームにおいてはあくまでおまけ的な存在。とにかくまずはシングルプレイヤーゲームの方をプレイして欲しい。
日本語版は12月14日発売となっている。音声は英語のままだが、全ての台詞に字幕が出るようになっており、一部ゲーム性を左右するテクスチャ看板も日本語化が施されているので、英語能力は要求されない。しかし、NOLFの世界を楽しむには「イギリス流ユーモアを理解できるセンス」、そして「アーチャーの変態的(?)なファッションセンスに対する寛容」のどちらかが要求されるということはお忘れなく!
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□サイバーフロントのホームページ http://www.cyberfront.co.jp/ □「ノーワン リブス フォーエバー」の公式ページ http://www.cyberfront.co.jp/title/pc/nolf/index.htm □関連情報 【11月22日】「ノーワン リブス フォーエバー 完全日本語版」体験版 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011122/demo1122.htm 【10月17日】サイバーフロント、「ノーワン リブス フォーエバー」など海外タイトル3本を日本語版で発売 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011017/cyber.htm (2001年12月21日)
[Reported by トライゼット西川善司] |
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