レビュー
「なつもん! 20世紀の夏休み」レビュー
プレーヤーの心に響く、ノスタルジックな少年時代の夏休みを体験!
2023年7月27日 00:00
- 【なつもん! 20世紀の夏休み】
- 発売元:スパイク・チュンソフト
- 開発:ミレニアムキッチン、トイボックス
- ジャンル:ほのぼの夏休みアドベンチャー
- プラットフォーム:Nintendo Switch
- 発売日:7月28日
- 価格:6,578円
スパイク・チュンソフトは、Nintendo Switch用タイトル「なつもん! 20世紀の夏休み(以下なつもん)」を7月28日にリリースする。「ぼくのなつやすみ」シリーズの綾部和氏が手掛ける注目のアドベンチャーゲームである。
本作は主人公の少年・サトルとなって、自然がいっぱいの田舎町で夏休みの1カ月間を過ごしていく。大自然で育ったかつて少年だったプレーヤーには懐かしく、そういった生活とは縁のなかった筆者のようなプレーヤーには新鮮な毎日が楽しめるのだ。
今回「なつもん」をプレイして、ゲームの中ではあるが十数年振りに遊びまくりの夏休みを堪能することができたので、ワクワクの夏休みの内容やプレイ感をお届けしたいと思う。
オープンワールドで展開する、自由過ぎる夏休み!
8月1日。サーカスの公演に合わせて、サーカス団一座と主人公が「よもぎ町」にやって来るところからゲームは始まる。民宿「明日葉荘」でサーカス団のメンバーとの共同生活がスタートする。緑に溢れ、大きな山もあり、おまけに海に囲まれているという、夏休みを過ごすには最高のロケーションだ。
本作はオープンワールドのゲームとなっているためフィールドはとにかく広大。主人公と同じく右も左もわからない状態で町を自由気ままに駆け回る感覚はまさに冒険の始まりである。ゲーム中のサウンドは基本的にはセミなどの虫の鳴き声や環境音がBGMとなっているのだが、特定のエリアに入ると特別なサウンドが差し込まれ、プレイを盛り上げてくれる。
自由な夏休みを送れるというゲーム性が本作の魅力な訳だが、これが“狭い枠の中の自由”ではなく本当に何でもできてしまうから驚きである。
まずアクション面の自由度が高く、主人公は木や岩場はもちろん、成長すれば建物の壁や断崖絶壁などどんな場所であってもよじ登ることができる。迂回して回らなければならない道もボルダリングの如く登り、乗り越えて直進することが可能。地形に遮られることなくどこまでも自由に駆け回れる解放感はかなり気持ちが良い。
アクション性が非常に高いものの、ゲームを始めたばかりの時点では「スタミナ」が低いので高い壁などは登っている途中で落ちてしまい登り切ることができない。
スタミナの最大値を上げるには随所で発生するイベントをクリアする必要がある。スタミナの最大値は上がれば上がるほど行ける場所が増えていくという心躍る要素もあり、筆者は遊びそっちのけでイベント消化に没頭してしまった。
オープンワールドといえば、やはり移動の快適さもプレイする上で重要なポイントだろう。基本的には自分の足で移動することになるが、電車やバスといった便利な乗り物も用意されている。
バス停はいわゆるワープポイントとなっており、お金やバスの乗車券を使うことでバス停からバス停へ瞬時にファストトラベルすることができる。新しいエリアに足を踏み入れたら、まず真っ先にバス停を解放しておくとより快適にプレイできる。
本作は、特に目的無く散策しているだけでも遊びになる。フィールド中の至る場所にお金やアイテムが落ちていたり、さらには鉱石や化石が埋まっていたりもするのだ。特定の場所にはレアアイテムなども隠されており、こういったお宝集め的なアイテム収集要素が冒険のワクワク感を引き立たせてくれる。
自由度の高いゲーム性を貫くために“ちょっと悪い遊び”ができるのもこのゲームならでは。他人の家の屋根に登ったり、線路の上を歩いて電車を止めたりなど、現実では絶対にできない(やってはいけない)ことを楽しめるのも筆者的にはすごい挑戦的な作りと感心させられた。
もちろんゲーム内でもこれらのことを推奨している訳ではないので、線路のトンネルの中に入ろうとしたり、動いている重機に近づこうとすると注意喚起のメッセージが表示されて止められる。“ゲームなんだから何でもアリ”ではなく、イタズラで済ませられる部分とアウトな部分はしっかりと線引きがされている。
リアルな夏休みと同様、遊んでいるとあっという間に日が暮れてしまう。夕方5時になるとサーカスメンバーの一人である「トコトコくん」が主人公に晩ご飯の時間を伝えに来てくれる。明日葉荘から結構な距離のある場所でも親切に呼びにきてくれるナイスガイである。
晩御飯は明日葉荘の主人である「今日子さん」の手料理が振舞われる。料理が得意というだけあり、食卓に並ぶ料理がとにかく美味そう。深夜にゲームをプレイしていると食事のシーンでめちゃくちゃ腹が減ってくるので注意。
晩御飯後の寝るまでの少しの時間、明日葉荘の近くであれば外に遊びに行くことができる。町の人との交流したり、夜の時間にしかいない虫や魚をゲットしに行ったりと夜の時間も遊びがいっぱいだ。
1つ気をつけなければならないのが、夜は就寝の時間が決まっており22時になる前に寝なければならない。寝るのが遅れてしまうと次の日が早起きできなくなってしまい自由時間が減ってしまうというデメリットがある。
ゲーム開始時は現在の時刻を知る術が無く、夜は昼間と違って日の落ち具合で測ることもできないので、ある程度のお金が貯まったら時間が確認できるようになるアイテムの「時計」を購入することをおすすめする。
体感的に遊び足りないくらいの時間で一日が終了。寝る前にも絵日記で今日起きた出来事をまとめて書いてくれるので、主人公の味のあるイラストで一日を振り返ることができる。
休みは31日もあるとはいえ、やれることがとにかく膨大なので“時間が無くて行けなかった山に明日は遊びに行こう”というような、次の日の遊びのプランを夜のうちに立てておくのも夏休みをエンジョイするコツだ。
定番の遊びからサーカス公演まで! 夏休みは大忙し!
夏休みの遊びといえばいろいろあるが、やはり昆虫採集は欠かせない。草木のある場所ではいろいろな虫が生息しており、一度虫捕りを始めだすとこれが想像以上に熱が入る。
蝶や蛾などの飛んでいる虫は虫網を振るい、バッタやコオロギなどの地面にいる虫はダッシュで近づいて手で捕まえ、近づくと逃げてしまう警戒心の強いセミなどは遠くからグリ鉄砲(ドングリを発射する銃)で気絶させて捕獲するなど、虫の種類によって捕まえ方の工夫が必要なのも面白いポイントだ。
昆虫採集で一番テンションが上がったのは、昆虫の王者であるカブトムシやクワガタを乱獲する瞬間だ。特定の木にはハチミツを塗ることができ、塗りたくって一定時間放置して戻ると蜜に虫がワラワラと群がっているのだ。ゲームではあるものの、リアルでは味わったことの無い体験で素直に感動した。
虫捕りと双璧をなす田舎の定番の遊びが魚釣りだろう。魚を釣るには当然エサが必要になるのだが、田舎を知らぬ筆者はエサは買うものという揺るぎない認識があった。なけなしのお小遣いをはたいて商店街にある雑貨屋の渋谷商店でカニを買い占めたのだ。
大量のカニを手に意気揚々と海へ向かうとそこで衝撃の事実が。浜辺はなんと“大量のカニで溢れかえっていた”。そう、やられたのだ。田舎では釣りエサなんて現地調達が当たり前だったのだ。恐らく店番のシブヤ博士もカニを大量買いする無知な少年を腹の中で笑っていたことだろう(被害妄想)。
地道にエサを集める時間をお金で買ったと割り切って釣りを始める。水面に映る魚影に向かってウキを投げ、魚が食いついて「Hit!」の文字が表示されたら間髪入れずボタンを押して釣り上げなければならないので集中力が必要。ちなみに海に飛び込んで素手でダイナミックに魚を捕まえることも可能だ。
川や海など、場所によって釣れる魚が異なるので、レアな魚が生息する釣りポイントを探し回るのも夏休みの醍醐味である。
ゲームを進めると「まぼろしサーカス団」のメンバーが揃い、待ちに待ったサーカスがついに解禁される。公演は毎日夜の時間に行なわれ、サーカステントの周りは賑やかにいろいろな屋台が並んでいる。
怪しげなアイテムが売っている「珍品屋」、そして「スマートボール」と「射的」の屋台ではそれぞれミニゲームを楽しむことができる。シンプルなルールのミニゲームながら中毒性があり、スマートボールは完全クリアをするまで何度もリトライするほど夢中になってしまった。
本作の軸ともなるサーカス部分は、主人公が出演する訳ではないのでプレーヤーが直接操作する部分は特に無いのだが、不在の団長に替わってディレクションという立場でサーカスの公演を成功に導くシミュレーション的なゲーム性になっている。
ディレクションは、サーカスの演目や楽曲を決定するのが主な仕事。何故か序盤はプロの仕事とは思えないほどメンバーたちがパフォーマンスをことごとく失敗するので、新しい衣装を購入してパフォーマンスの成功率を上げるなどのフォローが必要になる。
サーカスにはランクがあり、公演を成功させて一定数ポイントが溜まるとランクアップする。ランクが上がると購入できる機材が増えていき、機材を購入することで新たなパフォーマンスが追加されるのだ。新パフォーマンスはお客さんにも好評を得やすいというメリットがある点と、どんな面白いパフォーマンスを演じるのかを純粋に見たいので、新機材はどんどん購入していきたくなる。
とは言ったものの、まぼろしサーカス団の人気を上げるには機材の他にも衣装や楽曲の購入、ポスターや看板で広告を打つなどもしなくてはいけなく、これが“とにかくお金が掛かる”のだ。正直を言って小学生に負担させる金額ではない。1周のプレイだけではすべての機材などを集めるのはかなり難しいので、2周目以降のやり込みとして長く楽しめる要素となっている。
やり込み要素満載! 夏休みは1周では終われない!
かけがえのない夏休みのイベントが充実しているのも、本作のエモーショナルなポイントである。
よもぎ町でできた友達と一緒に町の謎を解いていくという、子供の頃にやるであろうワクワクの探偵ごっこや、年上のお姉さんと一緒に遊びに出かけたりと、かつて夏休みを通り過ぎてきたプレーヤーの心を揺さぶるイベントが満載なのだ。
中でも心に響いたのは、8月後半に行われる花火大会だ。夜空に打ち上げ花火が盛大に上がり、ビジュアルだけを見れば賑やかなことこの上ないのだが、花火の場面で流れる哀愁のあるサウンドが夏休みの終わりを告げているようで、少し寂しさを感じた。
ゲーム本編クリア後は、1周目の一部の要素を引き継いで2周目以降の夏休みを堪能することもできる。31日間を通しでプレイしたら再度プレイすることってある? と思う人もいるかもしれないが、本作は1周で遊び尽くすことはほぼ不可能なボリュームとなっている。
まずイベントの数が膨大で1周目では見逃してしまうイベントも必ず出てくる。収集系の要素では魚が20種類、昆虫は200種類というとんでもない数が用意されているのでコンプリートは一筋縄ではいかない。
1周目のプレイで達成できなかった一番の心残りは「天狗の山」を完登できなかったことだ。名前からある程度イメージできるかもしれないが天狗の山は険しい山岳地帯になっており、そびえ立つ岩山をスタミナをフルで使って登っていかなければならない。
とてつもなく高い天狗の山を発見したゲーム序盤の頃から、筆者の中では天狗の山攻略を大きな目標にしてプレイをしていた。初めはスタミナの最大値も少なく一合も登れず門前払いをされ、それからは少しスタミナが上がっては挑戦、上がっては挑戦を繰り返してきた。少しずつ上まで登れるようになってくる喜びは、まさにリアル登山のそれである。ちなみにリアルで登山の経験は無い。
攻略ラストチャンスの8月30日。初めの頃に比べてかなりのスタミナをつけて最後の登頂に挑む。少しでも岩山の低いルートを狙って少しずつ上に登り、あと1つの山を登れば山頂というポイントまで到達することができた。
後たったの1つの山なのだが、最後の山がラスボス級で、上を見上げた瞬間から絶望感が感じられる高さであった。いざ山に挑むと険しいBGMへと切り替わる。プレーヤーを奮い立たせるニクい演出だ。
結果は、山頂まであと僅かのところで届かず、1周目のプレイでは完登できる程のスタミナを上げ切ることができなかった。山頂では一体何が待っていたのか気になって仕方がない。引き継ぎプレイで次の周回では必ず攻略したいと思う。
今回「なつもん」をプレイして、純粋にゲームとしてプレイしていての面白さと、懐かしくノスタルジーな気持ちにさせてくれる最高の夏休みを味わうことができた。
長期の夏休みが無い大人のプレーヤーのこともしっかり考えられており、ゲーム中の時間経過の流れをいつでも3段階で調整することができる。一番速くするとサクサクと一日が終わるので、時間があまり無いものの最終日まで遊びたいプレーヤーも安心だ。
仕事上、結構な数のゲームをプレイするが、近年でここまで心を動かされるゲーム体験をしたのは正直言って久々である。かつて少年だったゲーマーにはぜひ本作で“忘れられない夏休み”を体験してもらいたい。
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