【特別企画】
IEM Sydney 2019、伝統の“欧米決戦”は米国最強のTeam Liquidが初の栄冠
IEM、そしてシドニー開催は何が“スペシャル”なのか。最高の3日間を振り返る
2019年5月6日 12:42
- 5月3日~5日開催
- 会場:Qudos Bank Arena
APAC最大規模のeスポーツイベント「IEM Sydney 2019」の決勝戦が5月5日、オーストラリアシドニーのQudos Bank Arenaで開催され、米国代表で世界ランク2位のTeam Liquidが、3:2(BO5)でスウェーデン代表のfnaticを破り、初の栄冠を獲得した。賞金は10万ドルで、大会MVPもTeam LiquidのTwistzz選手が獲得した。
IME Sydneyがスペシャルな理由は、オーストラリア開催にあり!
筆者は、オーストラリアシドニーをホストシティとした「IEM Sydney」を、スタートした2017年から3年連続で参加しているが、世界中の数あるeスポーツイベントの中でもIEM Sydneyはスペシャルなイベントだと感じている。今年も会期を終えて、改めて特別なイベントであることを実感した。開催規模で言えば「League of Legends」の世界大会「Worlds」のほうが大きいし、IEMの中でもシーズンファイナルが開かれるKatowiceを別格にしても、他のIEMやESL ONEと比較して取り立てて大きいわけでもない。
しかし、会場で受ける楽しさ、興奮度合い、盛り上がりぶりは、上記のイベントに勝るとも劣らないものがある。
他のeスポーツイベントと比較して何が違うかと考えると、1つはオーストラリア開催であることだ。オーストラリアは、物理的に世界から隔絶した位置にあることもあって、異文化に対する受容度が非常に高いと感じる。もちろん、愛国心も人一倍強いが、だからといって、異文化を排斥するのではなく、積極的に受け入れる。とりわけeスポーツの分野ではそれが顕著だ。
オーストラリアは、まぎれもないeスポーツ先進国だ。ESLのAPACオフィスがあり、
Renegadesを筆頭とした「CS:GO」のプロチームがいくつも存在し、「Overwatch」のアマチュアリーグ「Overwatch Contenders」を自国で開催できるほど、eスポーツ選手層が厚い。ただ、欧米と比較すると絶対数が少なく、かつ物理的な距離の遠さからレイテンシーの問題があり、そこまで強くない。だから、今年のIEM Sydneyがまさにそうだったが、予選ラウンドでオーストラリア代表は姿を消し、プレイオフにはオーストラリア代表はゼロということもままある。
しかし、それにもかかわらず、シドニーのeスポーツファンは、土日にスタンドを埋め尽くし、昼から晩までぶっ通しで大歓声を上げて応援する。ここがオーストラリアの凄いところだ。仮に日本で何らかの大会の世界大会が行なわれ、決勝戦に日本が進出していなかった場合、日本人はそこまで盛り上がれるだろうか。たとえば、アメリカ人の、米国チームに対する定番のかけ声「USA! USA!」を、オーストラリアのeスポーツファンは、Team Liquidに対してそれをするのだ。
それはあたかも、最高の応援で返すことが、世界の僻地までやってきてくれた世界を代表するトップチームへの礼儀であるかのような雰囲気もあり、だからこそ、IEM Sydneyで幸運の女神が微笑んだチームのリーダーは、予期せぬ熱い応援に感謝の言葉を重ね、またこの地に行こうと思うわけだ。スタンドを埋めたファン達も、あこがれの選手に感謝を述べられれば嬉しいから、もっとパワフルに応援してあげようと思う。この正のスパイラルが、IEM Sydneyをスペシャルなものにしている原動力だと思う。
筆者は、その魅力にすっかり見せられた1人であり、95%ぐらい仕事ではなく純粋に観戦を楽しむために来ている。ただ、主催のESLとメインスポンサーのIntelは、IEMをIEMそのものやIntelの最新プロダクトを紹介する絶好の機会として捉えており、参加メディアに対してメディアパスや食事の便宜を払う一方で、時間刻みでギッシリスケジュールを入れている。これまでに記事で取り上げてきたショウケースイベント(参考記事その1)やエグゼクティブインタビュー(参考記事その2、参考記事その3などがまさにそれだが、この結果、会場近くにいるのに、試合がほとんど見られないというフラストレーションがたまる状況になる。
本音を言うと、すべてをかなぐり捨てて観戦したいのだが、大人の事情でそういうわけにもいかず、Twitchで試合の状況を見守りながら、原稿を書くという、我ながら器用なことをしながらギリギリのところでIEMを楽しむわけである。
その全てのスケジュールから解放されるのが最終日の決勝戦だ。このときばかりは完全にフリーになり、試合にかじりつくことができる。IEMは決勝戦のみBO5(5戦3勝)、「CS:GO」は今も昔も1ゲームが長いため、インターバルも含めると、5ゲームやってしまうと5時間でも終わらない。果たして今年は、5ゲーム目まで突入し、15時からスタートして、終わったのは21時過ぎ。トータルで6時間超という歴史的に長い試合となった。6時間はさすがにくたびれてしまったが、大満足の最終日となった。
「CS」ファン待望の欧米対決。互いに一歩も譲らぬ戦いに
さて、前置きが長くなりすぎたが、本大会は、2018年5月以来、ずっと世界ランク1位を維持している目下“地球最強軍団”のAstralis(デンマーク)が招待を辞退したため、多くのチームにIEM優勝のチャンスが与えられる大会となった。大本命は世界ランク2位のTeam Liquid。Astralisの圧倒的な成績の影に隠れて、今ひとつ目立たない存在だが、Cloud9の全盛期を支えた米国の至宝Stewie2K選手や、若干23歳ながらIGLを務めるnitr0選手らを擁し、平均年齢22歳という驚異的な若さをウリとしたチームだ。
対抗馬は、IEM Sydney 2018の覇者であるFaZe(ヨーロッパ代表、世界ランク4位)、IEM Sydney 2017の覇者であるMIBR(当時SK Gaming、ブラジル代表、世界ランク7位)、IEM Katowice 2018で優勝したfnatic(スウェーデン代表、世界ランク10位)、そしてホームのRenegades(オーストラリア代表、世界ランク6位)あたりだったが、今大会のダークホースとなったのはfnaticだった。
筆者は、「CS 1.6」の時代から「CS」の世界大会を取材という名目で観戦を楽しんできた“「CS」観戦おじさん”であるため、決勝が欧州対米国だとアドレナリンが沸き立つ感じがある。「CS 1.6」の当時、スウェーデンのSK Gamingが最強で、その対抗馬として「CS」の誕生国として米国のTeam 3Dが対抗馬だった。残念ながら両チームともなくなってしまったが、その遺伝子を受け継いだ若い世代の決戦は、何年経っても楽しみなカードの1つであることには変わりない。
fnaticの注目選手はズバリXizt選手だ。とにかくIEMと相性の良い選手で、NiP時代にIEM Oakland 2017で優勝、FaZeにレンタル移籍していた時代はIEM Sydney 2018で優勝。fnaticに移籍後も、「CS:GO」のメジャー大会のひとつPLG Grand Slam 2018で優勝するなど、所属するすべてのチームで結果を残してきた“優勝請負人”だ。
Team Liquidが予選ラウンドから準決勝まですべてワンサイドゲームで勝利してきたのに対して、fnaticは、予選ラウンドでMIBRに0:2で敗れ、そのほかのゲームもすべて2:1という混戦を抜け出してきている。プレイオフでは、予選リーグを苦しんだチームの方が力を発揮したりするものだが、その一方ですべてストレート勝利というTeam Liquidの優等生ぶりも見事なもので、勝敗の読めない決勝戦となった。
決勝戦は、予想通りハイレベルな戦いとなった。それにしてもハイレベルな戦いは見ていて気持ちがいい。エイミングや投げものの正確さ、リコイルコントロールの妙技、隙を見せない立ち回り、といったあたりは当然のこととして、1対1になったときのフェイントを交えた横移動や、スモーク内での動きなど、1つ1つが打てば響くような心地よさがある。Xizt選手やStewie2K選手など、チームを牽引するトップ選手は、さらに独自の嗅覚、あるいは第六感のようなものを備えており、決定的な局面でしっかり結果を出し、ラウンドMVPをどんどん取っていく。
「これは長くなるぞ」と思ったのは1ゲーム目の「Cache」。Team Liquidが10:16で落としたのだ。本大会でゲームを落としたのはこれが初めてで、3:0でTeam Liquidの圧勝という予想が脆くも崩れた。これはfnaticの優勝もゼロではないのではないか。
と思ったのもつかの間、Team Liquidは続く「Overpass」、「Mirage」をまさに横綱相撲で2ゲーム連取。優勝に王手を掛けた。Liquidの試合運びを見ていて感じたのは“プロ”だということだ。プロの試合では、カウンターテロリスト(CT)サイドでは状況に応じて、戦力を維持したままテロリスト(T)側の爆弾の起爆を許すことがある。Tサイドに爆弾を設置された時点で基本的にCT側は不利な状況で、さらに無理攻めして全滅してしまえば、全員が武器を失い、ますます次のラウンドが不利になってしまう。負けは負けとして認め、次のラウンドに備えるために起爆を許すというのは定石のひとつだ。
Team Liquidはそれがとにかく徹底しているのだ。凄いなと思ったのはCT5人対T3人で、数的優位を確保しているにもかかわらず、起爆を許したシーンだ。短期的に考えれば、多少損失があっても1ラウンドを取った方がいいように思うが、ラウンドを与えてでも武器を守る方を取ったのだ。考え方としては、ラウンドを取る取らないはどうでもよくて、流れを相手に渡したくないという印象だ。ただ、見た目としては甚だ消極的に見えるために、場内からは容赦のないブーイングも巻き起こっていたが、だからといって戦術を変えることはしなかった。プロフェッショナルだなと感じた。
これに対してfnaticは、長年に渡ってトップランクを維持しているチームらしく戦術の引き出しが多い。スモークからの一糸乱れぬセットプレイで、一気に中まで侵入し、爆弾設置まで持っていく。この押しの強さ、強引さはオーストラリアファンが望むものだ。徐々に声援がfnaticに流れていくのを感じる。
象徴的だったのが第4ゲームの「Dust2」。「CS:GO」の代名詞的な存在であるマップであり、「Half-life: Counter-Strike 1.1」の時代からお馴染みのマップだが、fnaticは様々な侵攻ルートを駆使して侵入し、見事に爆弾を設置していく。最終的に爆弾を設置するのは北東のAサイトだが、そこに至るプロセスが多種多様で見ていて飽きさせない。fnaticがTサイドでスタートした前半を9:6で折り返した。
後半巻き返したかったTeam Liquidだったが、AショートからのAサイトへの侵入にこだわりすぎて、Aサイトを1人で守るスナイパーのTwist選手につるべ打ちされるなど、まったく良いところがなく、まさかの7ラウンド連続で侵入に失敗し、16:6で敗れた。これでTeam Liquidは追い詰められた。
最後の最後に地力の差を見せたTeam Liquid。米国最強時代の到来か?
ついにやってきたBO5の5ゲーム目、最終マップはこちらもまた「CS 1.1」から長い歴史と伝統の持つInferno。本大会でTeam Liquidはインターバルも常にリラックスムードだったが、今回ばかりは初の円陣を組み、全員が真剣な表情で話し合っている。「絶対負けるわけにはいかないぞ!」といったところだろうか。
ところで「CS:GO」では、マップごとに有利不利が存在する。基本的には守りのCTサイドが有利だが、侵入路が多い場合は、Tサイドはそこを逆手に取って一点突破で侵入し、一気に爆弾を設置まで持っていくことで、攻守を入れ替えることができる。このサッカーのように激しく攻守が入れ替わるスピード感、ダイナミズムが「CS:GO」の魅力といって良い。
ただ、このレベルの戦いになると、「Train」のような極端なマップを除いて、どちらが有利というのは完全に吹き飛んで、セオリーの先にある意外性、「この時間こいつは絶対ここにいるはずだ」という確率統計的な判断、そして先述した第6感のようなものが勝敗を分けることが多い。
チームベースeスポーツの原点としての「CS 1.6」と、現在eスポーツ界の頂点に君臨するその最新バージョン「CS:GO」。5対5でTサイドは爆弾を爆発させるかCTサイドを全滅させる。CTサイドはそれを食い止めれば勝ちという爆破モードで対戦するという基本構造はこの20年まったく変わっていない。
そうした中で、もうまったく違うと言い切れるのがグレネードの重要さと精度だ。最重要なのはスモーク系のグレネードだが、それと並んで重要なのが焼夷系のグレネード。着弾と共に燃え広がり、一定時間一帯を火の海にする。この対処法は、一般的には「下がる」のがセオリーだが、プロシーンでは、ここが最大の駆け引きになっている。
パターンとしては、スモーク系のグレネードで素早く消化してそのポイントをおさえる、あるいは少し待って炎が残っているタイミングで前進する、あるいはダメージ覚悟でそのまま前進するというケースもある。いずれにしても相手の意図を読み切り、その裏をかく、さらに裏の裏をかく。プロシーンはこの投げ物による駆け引きが最大の醍醐味だ。
fnaticがTサイドでスタートした前半戦は、最初のピストルラウンドを取ったTeam Liquidが試合を優位に進める展開となった。fnaticのスモークを置いてからのセットプレイで積極的に攻め立てるが、なかなかテンポを掴めず9:2まで追い詰められる。今度はfnaticが爆弾設置を急ぎすぎていて、その上から降り注ぐグレネードにやられるというケースが目立った。プロシーンでは、横への射撃に加えて、上からの爆撃もあり、見ていて極めてスリリングだ。結局前半戦は11:4のTeam Liquid優勢で折り返した。
後半もピストルラウンドをTeam Liquidが取った。ピストルラウンドが取れれば、購入した武器を頼りに次も取れる可能性が高い。その意味では1ラウンド目はウェイトが重いラウンドと言えるが、こういうところを取れるかどうかが試合を決定づける。ゲームは試合開始からすでに5時間を超え、多くの客はすでに完全に出来上がっており、栄冠の瞬間を今か今かと待ちわびている。
後半は一気に14:4までラウンドを進めたTeam Liquidがそのままたたみかけるかと思われたが、ここからfnaticが見せ場を作り、TサイドのTeam Liquidの侵攻を完全にシャットアウトして5ラウンドを連取し、14:9とした。先ほどまで「USA!」コールをしていたオーストラリアのファン達は今度はfnaticを全力で応援するという具合で、応援すること自体を楽しんでいる。気づけばオンラインの視聴者は25万人を超えており、会場の盛り上がりも最高潮だ。「やっぱり『CS』はおもしろいし、シドニーのお客さんは最高だな」と実感した。
試合は、タイムを挟んで冷静になったTeam Liquidがfnaticを16:9で振り切り、IEMシリーズで初の栄冠を獲得した。Astralisが不在の中、優勝は必達目標という重圧の中で、しっかり結果を出したTeam Liquidは、「CS:GO」界における新たな潮流といえる。長らくヨーロッパ最強が続いている「CS:GO」において、再び米国最強時代が戻ってくるのかどうか、「CS」ファンの1人として楽しみにしている。GAME Watchの読者の皆さんも、これを機に、eスポーツとしての「CS:GO」に興味関心を持っていただければ幸いだ。