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IEM Sydney 2018、「CS:GO」の女性大会「ESL Women's Sydney Open」が開催
女性eスポーツは成立するのか!? インテル/ESLによる貴重なトライアルイベント
2018年5月7日 09:51
今世界のeスポーツ界でホットな話題のひとつが女性部門の創設だ。
eスポーツは、“スポーツ”としてまだ過渡期の段階であることから、通常のスポーツがそうであったように、実質的に男性が支配する世界になっている。女性部門の話題を持ち出すと、「ゲームに男女差なんてあるの?」、「男性の劣化版なんて誰が見るの?」といった前時代的なトンデモ理論が飛び出してくる。男女差があるかどうか、劣化版かどうかは本質的ではなく、eスポーツもまた立派なフィジカルスポーツであり、eスポーツをスポーツの一部とし、オリンピックの正式種目を目指すのであれば、性差を認めた上で、女性にも平等な参加機会を提供するのが当たり前である。
インテルが主催するIEMでは、そうしたトライアルが少しずつ行なわれ始めている。2018年3月にポーランドで開催されたIEM Katowiceでは、IEM ExpoのHyperXブースにて女性チームによる「Counter-Strike: Global Offensive」のエキシビションマッチが開かれ、人気を集めていた。今回のIEM Sydneyでは、eスポーツファンのコミュニティ活動を支援する目的のエリア「Community Hall」にて、初の試みとなる女性大会「ESL Women's Sydney Open」が開かれた。ESLではオンラインによる女性の大会は何度か開催しているが、オフライン大会で行なうのは初めてのことだ。
出場したのはオーストラリアとニュージーランドで活動する女性のみで構成された4つの「CS:GO」チームで、1日限定イベントとしてIEM Sydney 2018の最終日に3位決定戦と決勝戦の2試合が行なわれた。スポンサーはVodafone。残念ながらIEM Sydney 2018の決勝戦と時間が被っていたため、じっくり観戦することはできなかったのだが、筆者が見ることができたTrainの戦いでは、基本的な動きやエイムはかなりの実力で、通常のマッチングであれば十分活躍できる水準にあると感じた。その一方で、チームベースのeスポーツとしてはまだまだで、TrainでCT(Counter Terrorists)サイドが、T(Terrorists)サイドに易々車庫エリアへの侵入を許すレベルで、リーダーの指揮のもと、チームタクティクスに添って機能として動く、という基本的な部分がまだできていないように思えた。
初の「ESL Women's Sydney Open」は、Sydney SaintsとControl Esportsが決勝を行ない、Sydney Saintsの初優勝となった。Sydney Saintsは、こちらもeスポーツが盛んな中国からエースRaizy選手を招致した本格的なチームで、Raizy選手はキルデス58/23という圧倒的なスコアで優勝に貢献。彼女のスキルは別格で、「CS:GO」のようなハードコアなシューターに、トップレベルに近い実力を持つ女性プレーヤーが現われつつあることを頼もしく感じた。
観戦していて女性eスポーツについて個人的に感じた課題は3点だ。1つは、現実問題として(男性の)プロチームの対戦の劣化版になっていて、観戦コンテンツとして魅力に欠けるということだ。今回はエキシビションマッチということで、IEMのように、選手個人に対するカメラなどもなかったため、女性がプレイしているということに対してピンとこないということもあったと思うが、スポーツにおいて、たとえば野球をソフトボールに変えたり、体操ではそもそも競技内容を変えるなど、まったく別のアプローチも必要なのかもしれない。
2つ目として、出場している女性選手達が無表情すぎる。このような機会そのものがまだ少ないため、どう自己表現して良いのかはかりかねているという側面もありそうだが、意地悪な言い方をすれば、あまりに無表情だとつまらなそうにプレイしているように見えてしまうし、声援を送ろうという気がしない。スーパープレイを繰り出した後は男性選手のように感情を剥き出しにして欲しいし、その剥き出しの感情表現に、観客も呼応して応援に力が入るというものだ。
最後に、女性部門は“まだ始まっていない”ということもあるためか、視聴者数が絶望的に少ないということだ。IEMは、Twitchのゲーム配信の中でももっとも人気の高いコンテンツのひとつで、決勝戦や人気カードでは視聴者数が20万、30万という単位になる。IEM Sydneyは、オーストラリア開催ということもあり、欧米での開催に比べると視聴者数は少なくなる傾向があるが、それでも決勝戦で15万人近くは集めていた。それに対してESL Women's Sydney Openは、筆者が確認できただけでも500人弱しかいなかった。累計視聴者数が2億9,000万に達する「ESL_CS」(ESLの「Counter-Strike」公式チャンネル)のブランドを駆使してもこの数字というのは結構ショッキングで、女性eスポーツ部門の創設は、想像以上に前途多難と言える。
その一方で、日本でゴールデンウィークに行なわれた「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)」の女性限定大会「PUBG GIRL'S BATTLE」では、本戦である「PUBG JAPAN SERIES(PJS)」の視聴者数をいきなり超えてしまうという珍事が起きた(関連記事)。理由としては、PJSがまだαリーグの段階で十分な認知がないためそもそもの視聴者数が少ないということや、「PUBG GIRL'S BATTLE」に参戦していた女性ストリーマーのファンが大挙して押し寄せたといったことが挙げられそうだが、要はアプローチ次第で女性大会も十分成立しうるということだと思う。世界中で続く、女性eスポーツの取り組みに引き続き注目していきたいところだ。