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IEM Sydney 2018、オーストラリア代表Renegadesが大健闘
「オジオジオジ! オイオイオイ!!」。20歳新鋭Nifty選手の神業にオージー達も大盛り上がり!
2018年5月6日 11:46
インテルが主催するeスポーツトーナメント「Intel Extreme Masters Sydney 2018(IEM Sydney 2018)」が、オーストラリアシドニーのQudos Bank Arenaにて開催されている。IEM Sydney 2018の開催概要と、主催のインテルのeスポーツに対する取り組みについては、先日のレポートでお伝えしたので、本稿からは熱戦の模様の模様をお届けしたい。
SK、Cloud 9が相次いで予選トーナメントで敗退。低調なアメリカ勢
IEM Sydney 2018は、昨年に続いて2度目の開催となるが、先日のレポートでもお伝えしたように、競技種目は「Counter-Strike: Global Offensive」のままだが、開催規模が倍になっている。出場枠は8から16となり、招待枠は6のまま、予選枠が2から10に増え、世界中の「CS」チームにより多くの出場機会が与えられた。
招待枠には、IEM Sydney 2017で優勝したSK Gamingを筆頭に、Cloud 9、FaZe、fnatic、mousesports、Renegadesという、「CS:GO」のメジャー大会で結果を残してきた強豪6チームが選ばれた。10の予選枠は、ヨーロッパ1、北米1、アジア3、オセアニア3、予備2というアジア偏重の構成で、ヨーロッパからは世界ランク1位で、4月にフランスマルセイユで行なわれたDreamHack Masters Marseille 2018でも優勝しているAstralis、北米からは予選を勝ち抜いたNRGが出場。アジアからは、アジア最強の中国Tyloo、韓国の強豪MVP PK、シンガポールの強豪B.O.O.T-d[S]がそれぞれ出場権を獲得。オセアニアからは、オーストラリアからGrayhound、Chiefs、ORDERの3チームが選ばれ、招待枠のRenegadesと、予備枠のLegacyも含めると、実に16チーム中5チームがオーストラリアチームとなった。
ただ、16チーム中、Qudos Bank Arenaの大勢の観衆の前で試合ができるのはわずか6チームだ。出場権を獲得した16チームは5月1日から、シドニー郊外のESLのシドニースタジオでグループ予選を行なっており、3日間掛けて6チームが選出された。
予選ルールは、8チームずつ2つのグループにわけ、ダブルエリミネーション方式でトーナメントを実施。各グループで1位になると一気にIEM Sydney 2018の準決勝まで進め、残る1敗の4チームが本会場で準々決勝を戦うというもの。ダブルエリミネーション方式なので1度負けてもまだチャンスがあるが、2度負けるとゲームオーバーだ。
主催のインテルおよび、運営を担当するESLとしては、1チームでも多くのオーストラリアチームを本戦に出場させてシドニー大会を盛り上げたいという思惑があるのだろうが、IEMはそれほど甘くない。このグループ予選では、“ホスト国優遇”で5チームも選出されていたオーストラリアチームがRenegadesを除いてすべて姿を消し、招待チームを中心に強豪チームが順当に勝ち進んだ。
その招待された6チームもプレイオフの6チームに残ることが“義務”であり、負ければ恥、わずか数千ドルの賞金で、大赤字を出して本国に帰らなければならないため必死だ。しかし、そうはならないのが“スポーツ”の恐ろしさであり、おもしろさだ。
最初に苦杯をなめたのが昨年の覇者であるSK Gaming(ブラジル、世界ランク7位)だ。SKは、弊誌でも繰り返し紹介しているように、「CS:GO」のプロ選手の中でも最高ランクの報酬を得ているとされるレジェンドFalleN選手を擁し、「CS」のプロチームでももっとも長い伝統と、栄光の歴史を持つ名門チームだが、IEM Sydney 2017優勝以降、メンバー内の不和、メンバー入れ替えなどもあり、結果が出せない状況が続いている。
予選トーナメントでは、中国Tylooに続いて、世界ランク37位のオーストラリアGreyhoundにも破れ、0勝2敗で敗退。昨年の覇者が16位という屈辱の結果に終わった。これを受けてSKは、リーダー変更を発表。SK不動のリーダーであるFalleN選手の作戦が読まれているのではないか?ということが昨年あたりから「CS:GO」コミュニティで囁かれていたが、今回の発表では読まれていたことを認め、リーダーをFalleN選手からcoldzera選手に変更し、coldzera選手が指揮を執りつつ、FalleN選手は従来通りエースとして試合に集中する体制に変更される。IEM Sydney 2018では結果の出せなかったSKだが、このリーダー変更によって名門が復活できるのかどうか注目されるところだ。
苦杯をなめたもう1チームが、Cloud 9(米国、世界ランク6位)だ。Logitech(ロジクール)やTwitchなどをメインスポンサーに抱え、鮮やかなライトブルーのユニフォームを身に包み、米国最強チームとして常勝を宿命付けられているチームだ。現在は「PUBG」や「FORTNITE」の人気配信者として知られるshroud選手が2017年8月にスタメンから外れ、2018年3月にはエースのStewie2K選手がSKに移籍するなどメンバーが安定しない状況が続いている。
予選トーナメントでは、オーストラリアのGrayhoundやORDERには勝利したものの、中国Tylooに破れ、同じくRenegadesに敗れて敗者グループに降りていたFaZeとの1戦に敗れ、8位で終戦となった。北米予選を勝ち抜いたNRGも2戦2敗で16位で終戦となり、ブラジルのSKも含め、本大会ではアメリカ勢の低調振りが気になった。欧州一辺倒にならないように、アメリカチームの奮起を期待したいところだ。
オーストラリア代表の役目を果たしたRenegades。エースNifty選手が大活躍
そうした中で、予選リーグから本戦まで台風の目となったのはオーストラリアのRenegadesだ。世界ランクは10台を前後し、世界大会に出場できる実力は備えているが、優勝できる力はまだないというTier2から3に位置するチーム。昨年、米国のSelfless GamingからNifty選手、2018年2月にノルウェーのjkaem選手を獲得し、メキメキ頭角を現わしている。
予選トーナメントでは、同国対決でLegacyに勝利したあと、優勝候補筆頭のFaZeに2:1で勝利し、大物食いを実現。予選トーナメント決勝のTylooに敗れたものの、2勝1敗で、準々決勝にコマを進めた。もしRenegadesがFaZeに負けていれば、オーストラリアチームは本戦出場ゼロという可能性もあっただけに、Renegadesは招待枠としての務めを果たしたことになる。
IEM Sydney 2018初日の5月4日は、Renegadesの活躍を一目見ようと平日にも関わらず多くのeスポーツファンが詰めかけた。この日の1戦目は、FaZe対fnaticという、奇しくもIEM Katowice 2018の決勝と同カードとなったが、FaZeのワンサイドゲームとなり、思いのほか盛り上がらなかった。
オーストラリアのeスポーツファンは、特定のチームを応援するというより、純粋にプロの妙技を堪能するために観戦しにきているという印象が強い。「オジオジオジ!」と誰かが叫ぶと、「オイオイオイ!」と観客全員が応じる定番のかけ声をはじめ、両手を頭上に突き上げて前後にウェーブさせたり、タイミングを合わせて数千人が同時に足踏みしたり、感極まったファンが靴にお酒を入れて一気飲みして喜びを表わす行為「Shoey(シューイ)」など、このオーストラリアでしか見られない独自の応援スタイルがいくつもある。
言うまでもなく“オジ”とは、オーストラリア人を指す“オージー(Aussie)”を意味しており、本来はオーストラリアチーム向けの応援スタイルだが、スーパープレイが生まれるとどのチームかに関わらず、自国を応援するような勢いで全力で応援する。シドニー大会は、ナイスプレイをするチームを全力で応援するというスタイルが、スタンドで観戦していて非常に楽しい。筆者は世界中でeスポーツ大会を取材してきているが、シドニー大会はやはり格別に良い。
満を持してオーストラリアのRenegadesが登場した2戦目は、あたかも1戦目のFaZe対fnaticが前座かのような、オーストラリア開催の素晴らしさを実感させる盛り上がりを見せた。1ゲーム目は格上のmousesports(ヨーロッパ、世界ランク5位)に対して防戦一方で、7:16で簡単に落としてしまったが、Infernoで迎えた2ゲーム目はオージー達の圧倒的な応援を力にファーストラウンドの奪取に成功。ようやく上がった反撃の狼煙に観客も大興奮。ピストルで1キルを決める度に大歓声を挙げていた。
その後、mousesportsに取り返され、一進一退のシーソーゲームが続いた。この2ゲーム目は延長戦が3回繰り返されるほどの長期戦となったが、最終的に25:23でRenegadesが勝利。この熱戦にスタンディングで絶叫するオージー達が相次いだ。
Trainで迎えた3ゲーム目。Renegadesは、有利とされるCT(Counter Terrorists)サイドでスタートしたものの、0:5といきなり引き離され、観客から絶望感が漂うが、そこから逆転し、前半を8:7で折り返した。
正直な所、CT有利のTrainで8:7と、わずか1ラウンドのアドバンテージしか確保できなかった時点でもはやRenegadesが勝つのは難しいと思ったが、オージー達は「そういうクソみたいなセオリーはどうでもいい」とばかりに、いよいよ応援に熱をこめていた。時間は22時を回り、観客の疲労もピークに達していたはずだが、このノリは本当に凄い。
彼らの応援の力が届いたのか、RenegadesはT(Terrorists)サイドを7:8で折り返し、延長戦に持ち込むことに成功。ただ、ここまで持ち込むのが限界といった感じで、延長戦は0:4であっさり落とし、ベスト6で終戦となった。4時間超の大熱戦に観客は総立ちになり、大きな拍手で両チームの健闘をたたえた。
RenegadesでMVP級の活躍を見せたのがスナイパーのNifty選手だ。もともと「Call of Duty」のプレーヤーで、2016年に「CS:GO」に移行。「CS:GO」のキャリアはまだ2年弱、Renegadesでの活動歴も1年足らずの20歳新鋭だが、ピストル、アサルトライフル、そしてスナイパーライフル。獲物に関わらず、信じられない精度でヘッドショットを決めていく。
Nifty選手のスナイピングが凄いのは、スナイプ前後の挙動だ。一瞬しかスコープを覗かず、敵が来る直前にスコープを覗き、撃った瞬間に外す。その挙動が極めて速い。大なり小なりスナイパーは似たような挙動を採るが、彼はその動きが洗練されていて、いかにもプロらしい極めてスマートな動きをする。Nifty選手は、大事な後半のラウンドでスナイプで次々にダブルキル、トリプルキルを決め、まさにゲームの主役といっていい活躍を見せてくれた。本大会の活躍により、Nifty選手のファンは激増しそうで、今後の彼の活躍が非常に楽しみだ。