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インテル主催のeスポーツトーナメント「IEM Sydney 2018」がシドニーで開幕
“eスポーツのインテル”がついに日本にもやってくる! “東京2020”に向けてeスポーツ事業を急加速へ
2018年5月5日 12:19
インテルが主催するeスポーツトーナメント「Intel Extreme Masters Sydney 2018(IEM Sydney 2018)」が、5月4日、オーストラリアシドニーのQudos Bank Arenaにて開幕した。賞金総額は25万ドル(約2,700万円)で、会期は5月6日まで。本稿では、初報としてIEM Sydney 2018の概要と、日本のeスポーツファンやeスポーツ関係者にとってビッグニュースとなるインテル自身の取り組みの変化についてレポートしたい。
13シーズン目となるIEM 2018もシドニーで幕を開けた。シドニー開催は昨年に続いて2年連続2度目となるが、昨シーズンの大成功を受けて開催規模を拡大し、主催のインテル自身もより注力する形で実施された。
具体的には、出場チームが8チームから倍の16チームとなった。昨年は招待枠6に、中国とオセアニアの予選で残り1枠ずつを選出していたが、今年は招待枠は6のまま、グローバルでのリージョン予選を新設。北米1、欧州1、アジア3、オセアニア3、予備2と、シドニー開催ということで、露骨にAPACエリアを優先した格好となっているが、開催規模が倍になるというのは、それだけシドニー開催にかける期待の大きさを表していると言える。
筆者は昨年に続いて2年連続で会場観戦する幸運に恵まれたが、毎シーズン世界中でツアーを行なっているIEMの中でも、シドニー開催は独特だ。競技種目である「Counter-Strike: Global Offensive」は、その前身である「Half-Life: Counter-Strike」が2000年に登場し、eスポーツの代名詞として人気を博して以来、ずっとヨーロッパ一強状態が続いている。それに「CS」発祥の国として米国が追いすがり、プレーヤー人口が多い中国が猛追するという構図がここ数年続いている。
オーストラリアというと、その下に位置づけられる。今回招待されたオーストラリアのプロチームRenegadesは、HLTVの世界ランクは16位と、同国で唯一ワールドクラスの実力を持つが、元FaZeに所属していたノルウェーのjkaem選手や、米国の新鋭Nifty選手などエースをヘッドハントしており、純粋なオーストラリアチームとは言えない。
そうした中でシドニー開催は独特だと思うのは、オーストラリアのeスポーツファンの質の高さだ。オーストラリアチームが出るかどうかに関わらず、ひいきのチームに熱い声援を送り、好プレイには拍手を惜しまない。チームTシャツを着て応援しているファンも多く、サイン会にはチームを問わず、長い長い行列ができる。彼らは純粋にIEMをスポーツとして楽しもうという意思が感じられる。
そう感じているのは筆者だけでなく、主役であるプロチームもそうだ。世界中を転戦しているトッププロ達にとってオーストラリアは物理的にあまりにも遠い。オーストラリアよりはまだ近いアジアの大会ですらスケジュール確保の難しさから、招待されても断るケースも珍しくないが、IEM Sydneyには掛け値無しにトップチームすべてが顔を揃える。これは凄いことだ。
理由は、eスポーツ界のトップスポンサーであるインテルが主催しているということもあるだろうが、やはりオーストラリアのeスポーツファンの応援ぶりが良いからで、参加したいと思わせる魅力がシドニー大会にはあるようだ。試合中、客席に向けて直接アピールすることで知られるFaZeのリーダーkarrigan選手は、今回も試合中に何度かアピールしたが、打てば響く反応に満足げな笑みを浮かべ、試合後繰り返し感謝していた。
こうしたオーストラリアのeスポーツマーケットとしてのポテンシャルの高さは、主催のインテル自身が感じているようで、IEM Sydneyでは、インテル自身がメディアやカスタマー(PCメーカー)、エンスージアスト(熱心なeスポーツファン)、eスポーツ関係者などを主にAPAC地域から招待し、インテルのeスポーツへの取り組みを語り、IEM Sydneyの興行としての成功振りをアピールする。
初日にはメディア向けのブリーフィングが行なわれ、新たな発表は行なわれなかったものの、インテルが、ESLやTwitch、Acerといったグローバルパートナーと共に、今後も“インテルプロダクトのショウケース”としてIEMを推進していく方針と、“eスポーツの真の意味でのスポーツ化”を目指しながら2020年の東京オリンピックに向けて、eスポーツ事業をシフトアップしていく方針が語られた。
こうしたインテル自身の取り組みは、シーズン開幕の恒例行事として昨年も行なわれていたが、今年は招待規模がこちらも倍以上になっており、インテルにとってシドニーがeスポーツにおける特別な場所になりつつあるのを感じた。
筆者自身、長年IEMを取材してきた日本のメディアの1人として、これまでとの決定的な違いを感じたのは、インテルの日本法人のスタッフも多数参加しているところだ。過去にもカスタマーやエンスージアストの引率として法人営業担当者がいたことはあったが、基本的にはIEMはインテル米国本社の仕切りで、日本には担当者がいなかった。今回は日本の広報担当をはじめ、eスポーツを担当するエグゼクティブや技術担当などが参加し、試合を観戦し、インテルや運営を担当するESLの関係者、そしてIEM Sydneyに視察に訪れた日本のeスポーツ関係者とのミーティングを行なうという。これは筆者が知る限り初めてのことだ。
ここまで日本法人が注力する理由は、インテルがオリンピックのメインスポンサーに就任し、2018年の平昌オリンピックでのエキシビションマッチに続いて、2020年の東京オリンピックでも、より規模を拡大した形でeスポーツイベントを行なおうと考えているためだ。韓国と日本では、eスポーツのマーケット規模がまったく異なっており、このまま開催しても平昌のように盛り上がらない可能性がある。そこで日本で、そして東京オリンピックで、eスポーツイベントを成功させるために、残り2年でどういった施策をうっていくべきなのか、それを学ぶためにシドニーを訪れたという。
これは日本のeスポーツ関係者にとって大歓迎すべき事態だ。これまでインテルの日本法人は、eスポーツ大会をスポンサードはしても、自ら動くことはなかった。しかし、世界的には「eスポーツを、プロダクト、大会ホスト、チームスポンサーなど、あらゆるレイヤーでリードするグローバルメーカー」である。その“eスポーツのインテル”がついに日本にもやってくる。
今後の交渉に支障を及ぼす可能性もあるのであえて社名は出さないが、今回、日本から複数のeスポーツ関係者がIEM Sydneyに視察に訪れており、インテルとのパートナーシップについて交渉が行なわれていると見られる。IEMを日本に招致する交渉なのか、まったく別の交渉なのかはわからないが、日本のeスポーツファンにとっては歓迎すべき事態が訪れようとしている。
個人的な見立てとしては、IEMそのものを日本で実施するのはまだ早いと思う。先述したオーストラリアのeスポーツファンのように、純粋にeスポーツを楽しみ、ひいきのチームを応援するカルチャーが、まだ日本には十分に育っていないし、IEMのメインタイトルである「CS:GO」にしても、昨年数回エキシビションマッチを開催した「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」にしても、IOCサイドが、「銃で殺し合いをするゲームは、“平和の祭典”に相応しくない」という判定をするのはわかりきっているからだ。純粋に日本のeスポーツを盛り上げるならこれらの種目でもいいと思うが、オリンピックはこれらとは切り離して考える必要があるだろう。
比較的筋が良いと思えるのは、「ストリートファイターV」や「大乱闘スマッシュブラザーズ」、「ウイニングイレブン」のような日本産のタイトルで、“IEM Tokyo”を立ち上げ、2年掛けて育てていくアプローチだが、IEMは言うまでもなくインテル主催であり、当然PCがメインの種目でなければならず、実際にはこの線も難しいだろう。
現時点では最適解が見当たらないインテルの“東京2020 eスポーツプロジェクト”だが、確実に言えるのは、2年後の東京オリンピックに合わせてeスポーツイベントを実施し、大成功させなければならないということだ。今後、そこに向けた様々な施策が表面化するだろうし、eスポーツ大会が増えるのか、種目はどうなるのかなど気になる部分は多い。日本のeスポーツファンのひとりとして引き続き注目していきたいところだ。
IEM Sydneyは準々決勝が行なわれ、初日から大盛り上がりだった。その模様については次のレポートでお届けしたい。