インタビュー

日本eスポーツ界のレジェンド“KINTA”こと長縄実氏インタビュー

成からサードウェーブ傘下のE5 esportsWorksへ

――現在、KINTAさんはサードウェーブ傘下のE5 esports Worksの社長として活動されているわけですが、成とサードウェーブとの一番最初の出会いというのはどこだったのでしょうか?

長縄氏: 一番最初はPCゲームフェスタです。PCゲームフェスタにネクソンが出展したんですが、その時に、ネクソン側として一緒に行ったんです。

【SAOMT シーズン 3】
成がPCゲームフェスタで担当した「サドンアタック オフィシャルマスタートーナメント(SAOMT) シーズン3」(参考記事

――もう10年近く前の話ですね。

長縄氏: そうです。そのときに「サードウェーブさんておもしろいことやるな」と思って、その後、そこで名刺交換した方のところに営業をしに行ったんです。それで、営業に行ったときに「これではできないね」と断られたんです。

――どういう提案をされたんでしょうか。

長縄氏: そこはちょっとお話できないです。実にならなかった話なので。そこは突っ込まないでくださいよ、ズルいなあ。(笑)

――いやいや、それが今に結びつく話に繋がってくるのかなと。たとえば、「GALLERIA GAMEMASTER」のようなものの提案だったり、だとすればすごいおもしろい話だなと。

長縄氏: 正確に覚えていないんですが、多分、LANパーティの話です。

――なるほど、そのために「GALLERIA」を貸してくださいと。

長縄氏: いえ、「協賛してください」と。でも、箸にも棒にもひっかからなかったみたいで、お話が1回途切れたあとに、一昨年、「GALLERIA GAMEMASTER CUP(GGC)」で、ある会社さん経由でイベントをやってほしいというところから、また繋がったんです。それで、東京タワーの下で第1回GGCをやらせてもらって、さらにその後に、全国4都市をまわるキャラバンもやらせてさせていただいたりして、そこからつながったんです。

【GALLERIA GAMEMASTER CUP】
KINTAさんにとって大きな転機となったGALLERIA GAMEMASTER CUP。

――ああ、地方キャラバンをやってましたよね。あれを担当したのは成だったんですね。

長縄氏: そうです。

――その仕事ぶりを見て、サードウェーブさんから声がかかったんですね。

長縄氏: まあ、そうですね。評価をいただいて。ちょっとびっくりしました。

――サードウェーブさんとの話はどのように進んだんですか?

長縄氏: 担当だった方から急に「尾崎社長が会いたい」と、私に連絡がありました。それで会ったんです。それで尾崎社長から「長縄さん、一緒にやらない?」って言われたので、即答で「やります」と。

――その時には、尾崎さんとどういうお話をされたのですか?

長縄氏: 「eスポーツを私と一緒に広げよう」と。尾崎社長は言葉の数は少ないのですが、その中に含まれている思いが、言葉の重みを感じられたんです。私も20年間eスポーツに携わってきた人間なので、“にわか”で表面的に言う人と、本当にeスポーツを理解しているかしていないかは、2言、3言、言葉を交わしただけでわかりますよね。だから、そういう意味でいうと尾崎社長は全然違うビジョン、重さを持っていた人だったので、この人とだったら一緒にやれるなという思いでしたね。

――ただ、eスポーツは簡単には儲かりません。そのあたりは話に上がらなかったんですか?

長縄氏: それは尾崎社長にも言いました。「赤字覚悟でも良いですか、マイナスかもしれませんよ」と。

――それを尾崎さんに言うのは勇気がありますね。「ビジネスをなんだと思っているんだ!」と怒られかねない話ですもんね。

長縄氏: そうです。尾崎社長はそこもわかっていて「でも一緒に頑張ろう」と言ってくれました。

――E5の設立からあっという間に1年経ちましたが、どのような感想をお持ちですか? 手応えはありますか? それともちょっと後悔していらっしゃたりしていますか。

長縄氏: いやいや、後悔はないですよ。これからさらに進歩していく、その1歩さえまだできていない気がします。将来が見えていて“うずうず”しています。その先に見えているものがあるので、ちょっとでも進みたいなと、いうところにいます。

――外からはE5が何をやろうとしているのか、まだあまり見えていませんが、尾崎さんはE5に対する期待がすごく大きいですね。

長縄氏: そうなんですか?

――尾崎さんにインタビューさせて頂いた際、スタッフが200~300人必要だと言っていました(参考記事)。

長縄氏: ああ、言ってましたね。ただ、それはちょっと待ってください(笑)。将来そうなってもいいのですが、私は地道に行く派なので、自分のビジョンの中での数字では、具体的に2倍、3倍と言っています。そこは少し差異があるかもしれないです。

――今、全部ひっくるめて20人程度ということなんですが、この人数で回している事業というのは、「LFS池袋」の運営、「GALLERIA GAMEMASTER CUP(GGC)」等のイベント運営と、それ以外に何かありますか?

長縄氏: あとは「PRIMAL」等のイベント運営もありますし、IPホルダーさんのゲームイベントを外でやったりということも当然しています。

【PRIMAL】
RIZeSTが主催している「ロケットリーグ」の国内リーグ「PRIMAL - Rocket League Japan Series(以下、PRIMAL)」

――E5はまだその一歩を踏み出したばかりということですが、今後のビジョンを聞かせていただけますか?

長縄氏: eスポーツは、若い人たちをターゲットにしているのですが、そこの部分はある程度成熟しつつあると思っています。市場拡大するために何が必要かと言えば、リアルスポーツと比較したくはないのですが、ハンディを持った人たちでもある程度イコールコンディションで遊べる環境があるのがeスポーツだと思っているんですね。なので、そこの部分で、シナジーを効かせていって、幅広い年齢層を巻き込むことによって市場を拡大させていくことを考えていたりします。

 例えば、年配の人たちが遊べるようなeスポーツ大会とか、逆にもっと若年層の人たちが遊べるようなeスポーツであるとか。それがドリームマッチというような形で対戦したりできても良いと思いますし、そういう風なもっと年齢層を広げていくというようなことをしていきたいなとは思います。

――会場はLFSですか?

長縄氏: そうです。当然ここ(LFS池袋)がありますので、ここを拠点にやっていきたいとは思っています。あとeスポーツ施設が地方にも比較的多くできてきていますので、そういう所と足並みを揃えていくということも考えています。

――それはLFSと他のeスポーツカフェとの業務提携ということでしょうか?

長縄氏: そういうことがやれたらいいなという話です。まだビジョンの段階で、誰にも声はかけていないので。

――eスポーツ層の拡大という視点で言うと、そもそも若い層以外の層にどう広げるかという課題があると思います。この点についてはどのように考えていますか? さらに若い層はそもそもWebを見ませんし、高年齢層はゲームを遊んでいないからそもそも興味がない。どうリーチしていくつもりですか?

長縄氏: 一番答えだと思ったのは「第1回 全国高校eスポーツ選手権」です。新しいプレーヤーを開拓したことと、学校を巻き込んだこと、これは学校というたてつけがあるがゆえに、親が認める。そして、親が認めると言うことは新たな視聴者が増えるということで、いいきっかけになったなと思っている所です。学校というキーがあったから、広がったということがあるので、これは地方自治体とか、というところと連携を取っていって、町内会などでの大会をやっていくことがいいなと思いました。

【全国高校eスポーツ選手権】
幕張メッセ1ホール丸々使って開催された「第1回 全国高校eスポーツ選手権」(参考記事

 例えば、池袋だったら、「東池袋町内対抗eスポーツ選手権」とかも全然ありだと思います。何百人という方たちがここに来て、私と話をしていて、「eスポーツって何をしたら良いのかわからないよ」と言う人たちがたくさんいるんです。でもどうにかして地元を盛り上げたい。だったら、そういう形で地方自治体の人たちと協力して、それこそ手弁当でもいいから、そういう人たちとともに広げていくことが大事だと思います。

 高年齢層に対するアピールは、「ゲームが共通言語になる」という所だと思います。おじいちゃんと孫がゲームをきっかけにつながりを持てる。「おじいちゃん、このゲームの大会に出るの? スゲーかっこいい」となったら、おじいちゃんも出ますし、お孫さんからも尊敬される、これ、一石二鳥じゃないかと。こういうことをやっていくことが大事だと思います。

――去年、うちも参加しましたが、サードウェーブさんも参加された「アキバトーナメント」がありましたが、ああいうイベントを、じゃんじゃん増やしていこうと?

長縄氏: そうですね。どんな形でも良いと思うんですよ。公式でも非公式でも全然かまわないと思うんです。私がeスポーツの市場として、一番シンボル的な大会はゲームメーカーの大会だと思っています。それにどこかの企業さんが協賛して、優勝した人に栄誉を与えられるような大会が構築されることがきれいな形だと思っています。そういう形にするためには、自治体をひっくるめて、いろんな一般の人たちが認知度を高めていく、それに対して一般企業が賛同するという形を作らないと、ちゃんとしたビジネスモデルはできないと考えています。

――今、地方などからE5に対して、どのような相談が寄せられていますか。

長縄氏: 「どうやったらeスポーツができるの?」という、そういう漠然としたお話ですね。それに対して、今お話したような話を返しています。

 どのタイトルを選ぶかは、我々は提案できますと。もし直接運営できないのであれば、我々に発注していただければ、我々がお手伝いしますと。何回かやっていれば、ご自分でできるようになりますので、そうしたら自分たちでやればいいじゃないですかということは提案しています。

――E5の代表的なお仕事として、「全国高校eスポーツ選手権」と「GALLERIA GAMEMASTER CUP(GGC)」というのがあるわけですけれども、「全国高校eスポーツ選手権」の方はまだ1回、「GALLERIA GAMEMASTER CUP(GGC)」は2回やったわけですが、それぞれの感想をお聞かせください。

長縄氏: 私は絶対にイベントで100点はつけないんです。絶対に70~80点にして何がいけなかったかを絶対に探すんですね。それをずーっとやり続けているので、そういう意味では100点ではないのですが、満点に近い、満足のいく状態で「全国高校eスポーツ選手権」はできたかなとは思っています。裏方でいろいろな問題は出てきていますが、最終的に見たお客様とか、我々を使っていただいたサードウェーブの方々も評価は高かったです。そういう意味では、自分の中でも「全国高校eスポーツ選手権」は満足しています。

――私もKINTAさんのお仕事をたくさん見てきましたが、あれはひとつの集大成だなと思いました。

長縄氏: 結構本気でやりましたから。

――KINTAさんが「俺、もうやり尽くしたから引退する」と言いかねないぐらいの完成度でしたね。

長縄氏: そう(笑)。イベンターの悪い癖は、「燃え尽き症候群」があって。私も一時期燃え尽きかけたんです。でも違う、これじゃないと思い込むように自分を奮い立たせるようにしました。

――第2回もすでに発表されていますけれども、イベンターとしてはどういう大会にしようと思われていますか。

長縄氏: 我々はあくまで裏方なので、プロデューサーの人達が思うようなものを、ちゃんと表現できるかがすべてです。我々がどうこうと言うことはないです。

――では第1回の裏方として残念だった点はどういったことでしょうか。私はLEDがまぶしすぎたとかそういう細かい事はいくつか指摘できそうですが(笑)

長縄氏: それはありましたよね。私は「ロケットリーグ」の時に「ナミタチヌ」が歌えなかったという悔しさですかね。

――ああ、そうだ!

長縄氏: 「League of Legends(LoL)」の時には、「ナミタチヌ」のライブが入ったじゃないですか。でも「ロケットリーグ」ときはなかった。それだと「League of Legends」と「ロケットリーグ」との間に扱いの差が生まれちゃうじゃないですか。

――確かにそうですね。「ロケリ」の選手はちょっと可哀想でしたね。

長縄氏: そうなんですよ。出演者のスケジュール調整が付かず仕方なかったんですが、本来でしたら同じライブをやりたかったですよね。あれは関係者全員が思っていました。

――私が見ていて「あれ?」と思ったのは、「LoL」の時にみんなで観た大会の総集編映像、あれを「ロケリ」は観てないんですよね。それで後から、実はあるんですよという話を聞いて、もったいないなと。

長縄氏: エンディングの所ですね。あれは台本上の落とし込みがミスりましたね。

――あれはKINTAさんのミスですか。

長縄氏: まあ、そうです。E5としてのミスですね。

――なるほど。また誰かをどやしたんですね。

長縄氏: まあ、そうですね(笑)。台本を私も見ていて、最後の所を見落としました。MCが「さよなら」って言った後に、みんなが帰っている途中に流れてしまったんです。だから、あれはさよならを言う前に「じゃあ、みんなで見ましょう」と言ってやらないとダメでしたね。そこが大きな反省点ですね。

――eスポーツファンとしては第3回「GGC」も期待したいところですが、E5としてこうしていこうというビジョンは何かありますか?

長縄氏: 内容の提案で言うと、1回目、2回目も踏まえて、「GGC」は世界につながることコンセプトにしていますので当然世界の大会を見た時に、見劣りしないような物にしていこうということですね。

――LFSについてはどのような運営、運用を考えていますか? 尾崎さんからは平日の稼働率が低いのでここを変えたいということでしたが。

長縄氏: 先ほど話に出た、年配の方に遊んでいただくとか、いろんな人に遊んでいただきたいと思っています。

【LFS池袋】
様々なゲーム関連イベントが行なわれているLFS。BIGLANを手がけたKINTAさんならではのこだわりが詰まった施設だ

――普通の大学生や若いサラリーマンだけではなく、もっと広い年齢層に遊んで貰うと言うことですよね。

長縄氏: そういった人達だけではない方たちにも宣伝をしていこうかなと思っています。

――話は変わりますが、このLFSは、よく取材で伺いますが、ここはサードウェーブの施設でありながら「GALLERIA」が全然目立っていないですよね。これはKINTAさんのポリシーなんでしょうか。

長縄氏: 尾崎社長の方針です。「そうしてください」と。ここはあくまでもeスポーツ施設ですから別に「GALLERIA」を出す必要はないですよ、ということは言われました。

――では、今後そのポリシーは変えないと。

長縄氏: 絶対に変えないです。

――むしろBenQやDXRACERのほうが目立っていますよね。

長縄氏: そうなんですよ(笑)。だから、榎本さんにも「もうちょっと目立たせようぜ」と言われたり。

――デスクの下に置いていることもあって、下手すると、PCの存在すらわからないですもんね。

長縄氏: そうなんですけど、そのポリシーは変えるつもりはないですね。

――KINTAさんにとって、eスポーツマシンである「GALLERIA GAMEMASTER」の魅力とは何だと思いますか?

長縄氏: ここに100台ありますが、丸1年間つかって、毎日8時間ずっと稼働しているので結構酷使していますが、壊れないんですよ、おもしろいことに。PCってこんなに壊れないものなんだと思うくらい。

【GALLERIA GAMEMASTER】
ソフマップで展示されているGALLERIA GAMEMASTER。LFSは足元に置かれ見えないようになっている

――元PC屋としての過去の経験から言っても耐久性が高い?

長縄氏: 高いですね、ちょっとびっくりしています。本当にこれはお世辞ではなく。心配していたんです。「もしPCが壊れて1台減ったらメーカーに戻さないといけないし」と思っていたのですが、全然壊れない(笑)。一応、壊れたときの為のマニュアルは作ったんですが、全然役に立たない。きっと壊れたときのフローを従業員も忘れているんじゃないでしょうか。マニュアルを持ってこないと、多分修理処理はできないと思います。

――1台も壊れてないのですか?

長縄氏: 本当に1台も壊れていないです。デバイスがいくつか壊れていました。

――さすがにゲーミングデバイスは消耗品ですもんね。

長縄氏: でも、105個あったのが103個になったくらいです。ただ、マウスパッドは消耗品なので、もう酷い状態になってきました。こすれてしまっていて、そろそろ変えないといけないなと思っています。

――なるほど。PCやゲーミングデバイスは、どれぐらいの頻度でリプレイスを考えていますか?

長縄氏: スタートアップの時には、全部いったんこれで揃えましたが、今後はちょっとおもしろいことをやっていこうかと。

――ほほー、おもしろいこととはなんですか?

長縄氏: まだそれはちょっと(笑)。

――ちょっとだけ教えていただけませんか。LFS池袋ユーザーへのファンサービスとして。

長縄氏: えーと、いろいろなデバイスを揃えたいと思っています。

――今だとGALLERIA、BenQロジクールのゲーミングデバイス、などですが、それがもっと多様なものになると。

長縄氏: 全部崩そうかと思っています。

――ゾーンを区切って様々なゲーミングデバイスが試せるようなイメージですか?

長縄氏: そういうのもありますし、期間を決めてその期間は1つのメーカーを使っていただくとかいうことも考えています。

――ほー、ひょっとするとPCも「GALLERIA」ではなくなる可能性もありますか。

長縄氏: それは怒られなければやります(笑)。

――それはおもしろいですね。ゲーミングPCとゲーミングデバイスのショウルームにすることを考えている?

長縄氏: 問題はLFSはeスポーツ施設なので、全てをイコールコンディションにしないといけないというのはありますよね。

――確かに、大会をやるなら、同じものを揃えないといけないですよね。

長縄氏: そうなんです。なので、会場としてはイコールコンディションは確保します。ただ、普通に一般のお客様としてはいろいろなデバイスを使ってもらいたいので、そのために通常営業中だけはそれを変えようかなと。

――実際、秋葉原にある「GALLERIA esports Lounge」ではいろいろなデバイスを取っ替え引っ返えできますよね。あれはちょっと楽しいところですよね。

【GALLERIA esports Lounge】

長縄氏: そうですね。ああいうイメージに近いですね。

――それはいつから始められるんですか。

長縄氏: 近々ですね。夏を越えたくらいには……もう少し前かな(笑)

――マッサージチェアのドクターエアは来場者に使われていますか?

長縄氏: みんな使っていますよ。大変好評です。

【ドクターエア】
LFSの後方に置かれていて、来場者は誰でも利用することができる

――今年、LFS池袋で新たなスタートする施策があれば教えてください。

長縄氏: 先ほど出た話の中にあったeスポーツ施設と連携を取っていきたいというのがありましたが、そういう催し物をやっていきたいなと。

――地方のeスポーツカフェやネットカフェのユーザーと対戦ができるようなイメージですか?

長縄氏: そうですね、そういう感じです。我々が発信の拠点としてやっていこうかと思っています。